梨木香歩のエッセイ「炉辺の風おと」(毎日新聞社/古書1300円)は、毎日新聞日曜版「日曜くらぶ」に2018年から連載されているエッセイを一冊にしたものです。楽しみにしていた映画評のそばにあったので、ついでに読んでいました。今回、一冊になって読み直して、彼女の文章の豊かな魅力を再認識しました。

梨木が八ヶ岳山麓に小さな山小屋を持ち、ここに通いながら見た八ヶ岳の自然、特に植物や訪れる野鳥のことがエッセイの中心になっています。読む時にはパソコンや図鑑を置いて、その都度チェックして読み進めていました。

「渡り鳥がきちんとその季節にやってきてくれて、ひさしぶりに声を聞いたり姿を見たりすると、何か、人間の小さな思惑を超えた大きな流れの存在が確実にあることが感じられる。」

鴨川まで犬の散歩に行くと、冬に渡ってくる鳥を見ることができます。その時、同じようなことを感じたことがあります。

豊かで様々な表情を見せる自然の姿に、驚き、喜び、共に生きていることを深く感謝する一方で、海岸にうちあげられたプラスチック製品の残骸の写真に心を痛ませる。これは、「この時代に生きる人間の多くが、皆、何らかの形で『加担してきた』ことの結果だ。」と断じ、「『長く使われることを考えて作られていない』ものが、大量に作られるようになった。」この時代、そしてこれからをどのようにして生きてゆくのかを彼女は静かに考え続けます。

「長く使われるもの」には「言葉」も含まれると思います。自分で獲得し、それを駆使してきた言葉にも、その人らしさが宿ります。他者に何かを伝えようとしたり、自分の内面に深く降りてゆくときの大切なツールです。廃刊に追い込まれた雑誌「新潮45」について、言葉そのものが乱れ、安易に軽々しく使われたと批判しています。そして、こう言います。

「一つの言葉と真摯に向き合う。そうでなければ伝えたいことは何も伝わらない。」

ブログを書いている私にも突き刺さります。

「生活の道具でも、言葉でも、そして住まいでも、長く使われるものには、愛情を注ぐための目に見えない受け皿が備わっているように思う。使い手は、日々の生活のなかでその受け皿を見つけ、また作り出してもいく。」

それが本来の暮らしというものかもしれません。八ヶ岳の自然は、いつも穏やかなわけではありません。冬は違う顔を見せます。でもそんな厳しい季節でも、「孤独であることは、一人を満たし、豊かであること。そしてその豊かさは、寂しさに裏付けされていなければ。それでこその豊穣、冬ごもりの醍醐味。」と考えます。彼女が見つけた自然の変わりゆく姿を読みながら、自分の生を見つめていくことになります。

あっ!やはりこの本を手に取っていたんだと嬉しくなったのは、写真家水越武の「日本アルプスのライチョウ」(新潮社)のこと。北海道在住の写真家の最新作で、鳥を撮った写真集ではベスト1の力作です。この本については、近々ご紹介いたします。

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