「世界の美しい女性たち」(PIE/新刊3240円)という300数十ページのボリュームある写真集が入りました写真家ミハエラ・ノロックが、50以上もの国々を訪れ、そこに生きる女性たちを撮影した、女性の美しさと多様性を紹介するというプロジェクト「The Atlas of Beauty」(美の地図)を一冊にしたものです。

様々な社会的、文化的、政治的環境のもとに生きる女性たちの日常の一瞬をスナップし、その一瞬の中に、前進する彼女たちのエネルギーを見事に写し取っています。どのページをめくっても、登場する女性たちの視線に圧倒されます。いたわりの目、思いやりの目、柔らかな目、微笑んでいる目、決意に満ちた目、等々。さらに彼女たちが来ている衣服が、その表情を美しく演出しています。

ブラジル、サルヴァドールで撮影された二人には、こんなキャプションが付いています。

「黒人でありレズビアンであることが、とてもつらい時がある、と語るラファエロとオバックスでしたが、ふたりの関係は、彼女たちが直面している偏見を乗り越えられるほど強靭なものに見えました。」(P154)

いいなぁ〜、このおばあちゃんと思ったのは、ミャンマー、イレネー湖畔でタバコを吸うおばあちゃん(P174)です。タバコの葉を手作業で巻きタバコにしている場所らしいのですが、出来上がったばかりのタバコを美味そうに吸っている姿が微笑ましい。キャプションは「ここでは健康へのアドバイスが付きまとうことはありません。」とユーモアたっぷりです。

この写真集は2017年にアメリカで発売され、新たに日本で撮影されたポートレートが加わりました。京都からは二人の女性が登場します。一人は英語教師退職後、茶道の先生になったエミコさん。(P145)、もう一人は芸妓の世界からバリスタに転身したユカさん。どこかで出会うかもしれませんね。

この写真家は、女性たちの持っている物語を見事に掬い上げています。彼女たちの人生の物語がどんなものなのか想像しながら、次々ページを捲ってしまいます。物語皆無ノッペラボウの政治家の顔ばかり毎日見せられるている昨今、一服の清涼剤として常備していただきたいと思いました。

 

 

長倉洋海の写真集「ともだち」(偕成社/古書700円)は、紛争地で、貧困が蔓延する町で、或は繁栄から取り残された都市で生きる子どもたちの、魅力的な表情をまとめた作品集です。厳しい現実に直面しながらも、生きることに積極的な子どもたち。真っ直ぐにこちらを見つめる彼らの視線が眩しいばかりです。

最初に登場する少女に釘付けになりました(写真右)。場所はエル・サルバドル。長倉はこう説明しています。

「中央市場の通路で、母親を待つ少女。足もとに売れ残った野菜を入れた大きなかご。物売りの仕事につかれたのか、少しぼんやりりと遠くを見るような表情に魅かれた。」

明日も今日と同じかもしれない、けれども…..。何か新しい喜びがあるかもしれないと願わずにはいられません。

ドキリとさせる作品もあります。エル・サルバドルのテナンシンゴで、ぐっと前方を見つめる少年が被写体です。少年はクリスマスの日、解体される牛を見ていると解説にありました。クリスマス休戦中は、普段は食べられない肉にありつくことができるので、美味しい肉が食べられる!その時を静かに待っているのです。しかし、この少年の手には機関銃が握られています。戦乱の地では、楽しみにしている食事の間に銃弾が飛んでくるかもしれない。闘いの恐怖を自覚しつつ、ここで生き残る覚悟が漂います。本来なら、子供らしい微笑みがあるべき姿なのでしょうが、厳しい状況は、こんな強い顔つきを生み出すのかもしれません。

子どもたちは、おそらく自分たちの生きている環境を知っているのでしょう。しかし、一方でその現状を跳ね返す強さも持っているようにもみえます。アフガニスタンで、旅人にお茶をふるまうショートカットの少女、あでやかな民族衣裳に身を包んだ涼しげな視線が美しい。

「威風堂々」とした少年(写真左)。「マレーシアの農村。稲穂がたわわに実る田園を、通勤カバンを背に、イスラムの日曜学校に行く男の子がいた。背すじをしゃきりとのばし、ものおじすることなく、堂々とこちらを見据える彼の視線にドキドキし。うれしくなった。」こんな姿勢の良い少年には、いや大人にも滅多にお目にかかれません。

グアテマラの町で撮られたインディオの二人の姉妹も印象的です。小雨のなか、土産物店に民芸品を届けて帰る所で、振り返ってカメラの方を見て少し微笑んでいるところが可愛い。こっちに元気がない時には、「おっちゃん、元気だしや〜」というような声が飛んできそうです。

南アフリカの少年は、学校から戻り、野良着に着換えて、タップを踏んでいます(写真右下)。これから羊の放牧するのが仕事です。名前はロアンディーレ9歳。踊る喜びが躰全体から弾けて、強烈なリズムまで聞こえてきそうです。アパルトヘイト政策で家族が引き裂かれる過酷な体験を、こんなステップで跳ね返してきたのかもしれません。

ここに登場する子供たちは、先進国の、それなりに生活環境がしっかりした社会で育っているのではありません。彼らの24時間は厳しく辛いものに違いないけれど、生きて行くという曇りのない表情が捉えられています。世界がどうあっても、前を向いていてほしいという写真家の思いにちがいありません。

 

★年内は12月30日(日)まで営業いたします。年始は1月8日(火)より通常営業いたします。

 

 

★イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

 

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。ご予約受付中(1500円)

 

 

 

 

 

写真家百々俊二(ドドシュンジ)が、生まれ育った街大阪を撮った写真集「大阪」(青幻舎/古書2000円)は面白い写真集です。

半生紀を生きた大阪を、きちんと作品として残しておこうと思ったのが切っ掛けで、撮影に着手しました。あとがきで「自分の記憶がある場所から撮っていこうと。記憶の大阪です。記憶といっても、もちろん写真では『いま』を撮ることしかできません。こういう場所もあったなぁ、と思い出しながら、場所の磁力に呼び寄せられように歩きました。最初に訪ねたのは自分が生まれた場所なんですが、1947年当時の四軒長屋がまだあったんです。驚くと同時に、小学生のころの記憶がダッ〜と甦ってきた。背中を押されるように撮影に入り込むことができました。」と書いています。

「大阪やん、これ」って思わず言ってしまいたくなる程、大阪です。高層ビルの立ち並ぶ街の風景、別府行きのサンフラワー号が出る大阪南港の夕暮、JR吹田駅付近を疾走する列車を捉えたスピード感など、多分、東京を舞台にして、同じ様な作品を撮った時、そこには全く違う空気感があるように思います。関西人なので、大阪の街並みや空気を多少は知っているがゆえに、よけいにそう感じている部分があるかもしれませんが…….。

写真集には、これこそ大阪という風情の下町が数多く収録されています。例えば生野区鶴橋。近鉄・JR鶴橋駅そばの商店街は、この街に古くから住む韓国、朝鮮の人達が営むお店が並んでいます。街のざわめきが聞こえてきそうです。鶴橋卸売市場に働く人達を捉えた写真にも、同じ様な匂いがあります。市場にあるらしい一杯飲み屋の椅子に、ポツンと座る女性。常連客か、それとも店の人間か。仕事帰りにやってくるおっちゃんに「お疲れやなぁ〜、一杯飲んでいき」という甲高い声が聞こえてくるような、いい写真です。

ひなびた商店街、古い工場、河岸のホームレスのテント、淀川に上がる花火、工事中の街角、どこにフレームを合わせても、そこに息づく人達の生活が浮かび上がり、そしてそれは、観る者に、失くしてしまった街の哀愁を思い起こさせます。

心理学者の鷲田清一が「高架路線の下、高層ビルの下にも、お城の下、樹の下にも、河川敷や堤防にも、解体現場の隙間、墓場の傍らにも、ひとびとはいつく。ひとは空間を生きるというよりは、場所にいつく。」と後書きに書いています。

もう閉店した美容院と、やはりシャッターの降りた店舗を捉えた作品を眺めていると、ここでどんな暮らし、どんな人生をおくってきたのか、今も幸せなのだろうかと様々な思いが過ります。

 

 

 

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山田宏一と言えば、フランス映画を中心にしたヨーロッパ映画の批評で著名な評論家です。著書も多く、当店にある「山田宏一のフランス映画誌」(ワイズ出版/古書1800円)は、600ページにも及ぶ、監督別のフランス映画紹介の傑作です。

そんな山田が「NOUVELLE VAGUE/ヌーヴェル・ヴァーグ」(平凡社/古書2100円)という写真集を2013年に出していました。なかなか面白い写真集です。

「私はもちろんプロの写真家ではなく、ましてやアマチュアの写真家ですらありません。1960年代、フランス滞在中にヌーヴェル・ヴァーグの映画人と知り合い、活気にみちた映画的環境に誘われ魅せられて、初めて写真を撮ったのです」と序文で書いていますが、ジャン・ルック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、ジャック・ドゥミーら、新しい感覚の映画人たちが製作する、現場の熱い雰囲気が伝わってきます。山田がプロのカメラマンではなく、熱心な映画青年だったために、あ、これ映画的!というセンスでシャッターを押しています。ゴダール映画に出ていたアンナ・カリーナを控え目に撮った写真には、山田の彼女への愛情が感じられます。

おお〜、これは!!と感激したのが、ドゥミーが「ロシュフォールの恋人たち」を製作している現場の写真の数々です。出番のなかった主演のフランソワーズ・ドルレアック&カトリーヌ・ドヌーブ姉妹が、普段着で撮影現場に来ているところ(写真右)なんてレアです。普段着でもやっぱり美人姉妹です。当時24歳だったフランソワーズ・ドルレアックが現場に現れた写真(写真左)は、若いのに大人の風格を漂わせた彼女を見事に掴まえています。残念ながら、その1年後事故で亡くなってしまうのですが……..。

その次に登場するのは、「トリュフォーの思春期」の現場です。子供が大好きだった監督のトリュフォーが素人の子供たちを大勢使って、ほぼ即興で取り上げた映画です。子供たちに囲まれたトリュフォーの幸せそうな表情が素敵です。映画の撮影現場にはとても見えないくらい、生き生きとした表情の子供のキラキラした一瞬を捉えていて、素人カメラマンとは言えない出来映えですね。フランス映画ファンには見逃せない写真集です。

 

★レティシア書房「夏の一箱古本市」は、8月8日(水)〜19日(日)開催

★★ネイチャーガイド安藤誠氏の「安藤塾」は10月27日(土)に決まりました。参加ご希望の方は電話、メールにてご連  絡下さい

 

 

写真家、富士元寿彦の「原野の鷲鷹 北海道・サロベツに舞う」(北海道新聞社/絶版2900円)が入荷しました。表紙から、勇壮な姿で飛ぶオジロワシの写真です。堂々たる風格ですが、若いオジロワシが、「われ、こんなとこで何しとんのや」(関西弁?)とタンチョウに攻撃されて逃げてゆく写真もあります。

この写真集は、「原野の勇者たち1」として、オジロワシ、オオワシ、シロハヤブサなど6種類が、「原野の勇者たち2」で、オオタカ、クマタカ、ハヤブサなど10種類がそれぞれ紹介されています。北海道内の猛禽類の生息地としては、知床などの道北地方が有名ですが、日本海に面したサロベツ原野でも、多種類のワシタカを見ることができるのです。

勇猛果敢という点では、オジロワシが最たる存在でしょう。猛吹雪の中、餌を巡る小競り合いを捉えた写真は、その特徴を良く捉えています。しかし、歩く姿は、なんとも滑稽です。ステテコはいたおっさんが、いばり顔で町内を歩いているみたいで、笑えます。このオジロワシより、さらに大きなオオワシは王者という言葉がピッタリです。でも、流木の上で、10羽ほどのオオワシが、おしくらまんじゅうをするように並んでいる姿は、なんとも微笑ましいです。

威風堂々たるオジロワシが、湖上をぐるりと旋回したところを見た経験がありますが、もうかっこいい!としか言いようがありませんでした。オオワシは冬にやってきて、夏には日本を離れます。しかし、オジロワシの方は、留鳥として、夏も見ることができます。夏休み、北海道に行かれる方は、ぜひ大空を舞うオジロワシの姿を探してみてはいかがでしょうか。

精悍で美しいのは、極北の地から北海道に渡来するシロハヤブサ。猛スピードで狙った獲物に襲いかかる姿を、写真家は「白くて太い矢が飛んでゆくようだ。」と形容しています。海上で、急降下してカモメを捕まえることもあるようです。ただ、渡ってくる量が少ないので、なかなか見ることの出来ない珍鳥だそうです。

「ワシタカ撮影日記」というコラムの中で、写真家は写りのいいオオワシよりも、地味なオジロワシが好きだと言ってこう結びます。

「いくら見ていても飽きない何かがある。私が作った格言めいたセリフで言うならば『桜とオジロワシは日本人の心だ』ということになるのだが、残念なことに未だ誰にも理解してもらったことがない。」

桜とオジロワシか………。 

★連休のお知らせ 7月2日(月)、3日(火)

★夏の一箱古本市8月8日(水)〜19日(日)まで店内にて開催

山田悠人の新刊写真集「SILENT WORLD消えゆく世界の美しい廃墟」(PIEインターナショナル2700円)は、この上なく美しい写真集です。

ベルリンを中心にして活動する山田悠人は、ベルリンの各地に点在する廃墟に興味を持ち、撮影を始めます。

先ずは、病院から始まります。数多くの生と死の物語が染み込んだ病院の壁。ひたすら静寂が支配する空間。ベルリン自由大学解剖学研究所の解剖教室。中央に解剖台があって、その周囲を学生が取り囲んでいたのでしょう。落書きだらけの壁が哀れではあります。

次に登場するは軍事施設です。壮大で、威厳ある講堂や、大広間を持っていた施設。いずれもかつて国の最重要機関施設だったものが、放置されていました。ナチスドイツが使用した後、ソビエト連邦が引き継いだものなどあり、大戦を経て、冷戦時代の遺物となっています。外観が面白いので、内部も上手くリノベーションすれば、もしかしたら新しく生まれ変わりそうですが、電波傍受するレーダーサイト、トイフェルスベルグ傍受基地なんていう建物は、それ自体もうすでに現代アート化しています。

この写真集で私が最も面白かったのが、娯楽施設を撮影したものです。例えば、奈良のドリームランド。剥き出しの吸水管が複雑に絡み合う広場に立つビーナス像の不気味さ。回転するレールが幾重にも続くジェットコースター。まるで大蛇が見えない何かに巻き付いているみたいです。ドイツのシュプレーパークを撮った写真には、朽ち果てた森に倒れた作り物の怪獣の頭部が恨めしそうに空を見上げています。使い捨てられたアミューズメントパークは、どこか禍々しさがあります。

廃棄された工場がテーマの作品群は、無惨な姿がさらけ出されています。石炭火力発電所で使用されていた冷却塔の内部を捉えたものなどは、映画に使えそうなSFの世界です。男ばかりの重犯罪人が収容されている惑星を舞台にした映画「エイリアン3」に、そっくりの場面があったことを思い出しました。ブランデンブルグに残るナチスドイツ強制収容所パン工場には、陰惨な過去が染み付いているようです。

使われなくなった交通機関の中に、奇妙で、深い印象が残るものがありました。ベルリンのテンペルホーフ空港です。ピカピカに磨き上げられた到着ロビー、誰もいない飛行場にぽつんと駐機しているプロペラ機。冷えきった空間に置き去られた飛行機が、孤独感を増幅させます。

因みに、この空港の滑走路は、近年市民にために解放され、イベントも行われているとの事です。

なお同社からは「美しい土木・建設中」(写真/西山芳一2052円)も出されています。土木マニアなら、もうお持ちですね。

版型のでかい(37cm×27cm)150ページ程、定価9990円という「京都市今昔写真集」(樹林舎/古本4500円中身美本)が入りました。

おっ〜おお〜と表紙を見て驚きました。京都駅側から、真っ直ぐ北に伸びる烏丸通りを捉えた写真。現在は、ヨドバシカメラが建つ烏丸通りの西側に、丸物百貨店が写っています。この百貨店には、遊園地があり、館内には映画館まであり、地下の食品売場では、鯨の揚物を売っていました、なぜ、そんなに詳しいかと言えば、このデパートの向い側に、私の実家がありました。昭和20年代ぐらいの写真でしょうか、一気に幼少時代にタイムスリップです。

この写真集の構成の面白いところは、同一場所のかつて(昭和時代)と今(平成)が写真で対比されていることです。観光客で年中ごった返す「四条通、八坂神社前」。昭和47年当時、神社前には市電が通っていました。とても、とても京都の有名スポットとは思えません。或は、昭和30年代の京阪三条駅の写真には、旧タイプの京阪電車が木造駅舎を出るところが写っています。現在は地下にもぐってしまって、この風景はありません。

いつまで営業していたのかは分かりませんが、現在の高島屋デパートのすぐ側に映画館がありました。この写真集によると、映画館は龍池山大雲院境内に設営されました。三館あった映画館は、パレス大劇場、パレス劇場、パレス名画座と言って、「イージーライダー」も「卒業」も「アラビアのロレンス」もここで見た青春時代の思い出一杯の劇場でした。

見所は、もう山のようにあるのですが、鉄ちゃんのアナタには、必見ですぞ。旧京都駅(ここで祖母と食べたパンケーキの味は忘れられません)、旧国鉄バス、京阪電車、京福電鉄、市電そして梅小路機関区の蒸気機関車等々珍しい写真のオンパレードです。今では、左京区文化ゾーンの入り口みたいな京福電鉄出町柳駅舎の昭和30年代の建物も見逃せません。

 

●レティシア書房のお知らせ●

 年始年末 12月29日(金)〜1月4日(木)休業いたします。


北海道に行けば、かつては必ずと言っていいほどお土産になった、鮭をくわえた木彫りの熊。どこの家にも飾ってあって、でもその内にどこかにしまい込んでしまった、というお宅も多いと思います。

しかし、一刀彫の木彫り熊を作る藤戸竹喜(1934年〜)の作品は全く世界が異なります。

数年前、釧路湿原で「ヒッコリーウインド」を経営している安藤誠さんのロッジに宿泊した時、偶然にも藤戸さんのトークショーと作品に出逢いました。当時は、スミソニアン博物館で展示されているような人とも知らず、初めて作品を観せてもらったのですが、神が宿ると言っても過言ではないような輝きがありました。小さな熊の顔にとても魅かれたのですが、我々には高価で手が出ませんでした。無理をしても手に入れるべきだったと、後悔しています。

さて、新刊で入荷した「熊を彫る人」(村岡俊也・文/在本彌生・写真 小学館2484円)は、個人的にも持っていたい一冊です。藤戸さんの作品も沢山収録されています。森の中に置かれた熊たちの動きと表情をご覧いただきたいと思います。

「熊や狼という動物は、アイヌの人々にとって神なのだ。自身を取り巻くあらゆる自然、山であり、川であり、動物が神であるという考え方。いや、考え方というよりも、生き方と言った方が近いだろう。それは阿寒湖畔に暮す” 熊彫り”である藤戸竹喜の中にも息づいていて、その発露として木彫り熊はある」

写真ではわかりにくいかもしれませんが、つややかな熊の毛並み、大地を踏みしめる足先の力強さは、熊を神とあがめるアイヌの豊かな世界観が見事に結実しています。本の中程に、河原をぐっと睨み、鮭を探す一頭の熊の作品が載っています。全体にみなぎる緊張感が伝わってきます。

藤戸さんは17歳の時、札幌の植物園でエゾ狼の剥製に出会います。その剥製から何かが伝わったのでしょうか、40年ぐらい前から試作を初めて、20年ぐらい経過した頃から、いい埋め木があれば、狼の連作を作り始めています。雪の中に立つ狼。森の孤高の王者の尊厳が伝わります。藤戸さんはこう言います

「土に埋もれて灰色に変色した埋れ木で狼を彫って、なんとか狼を甦らせたかったのかもしれない。熊もとても大事な動物だけど、俺にとって狼はやっぱり特別な動物だ。」

作業場で一心に作品を彫り続けている彼の顔が、とてもいいんです。

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真左・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 

 

森岡書店店主が推薦する写真集をまとめた「写真集 誰かに贈りたくなる108冊」(河出書房コロナブックス1500円)は、ユニークな本です。

森岡さんが気になる人、平松洋子、大竹昭子、坂口恭平、辛酸なめこ、ピーコ、しまおまほ、など様々なジャンルで表現活動をしている人に、貴方にはこんな写真集がお薦めという切り口で、本と推薦した理由を書いた文章を添えています。

例えば、坂口恭平には、こんな文章でスタートします。

「海には『海の幸』があり、山には『山の幸』がありるように、都会には『都市の幸』があるという坂口さん。『都会の幸』という観点からすれば、路肩にすてられているゴミや、川面に漂う廃材は、一転して実り豊かな生活資源として立ち現れます。」

そんな都市の幸を巧みに生活に取り込み、小さなダンボールハウスに住まいする人達の豊かな想像力に共感する作家へ送る写真集はフィリップ・モリソン他による「POWERS OF TEN」です。その推薦理由は

「本書は、宇宙の果てから、物質の最小単位までを旅するように構成されていて、目には見えない世界の広がりを見るという意味で、やはり想像力が要になっているといえます」

また、ピーコに贈りたいという写真集は、資生堂初代社長にして、写真家だった福原信三が、1922年ヨーロッパ滞在中に撮影した「巴里とセイヌ」。

ガンを告知され、片目を摘出し、数年間死と向き合ったピーコの著書「片目を失って見えてきたもの」を読んだ森岡さんは

「作者の『人格・個性』が『写真芸術』の『内容』を作る、と強調していた福原信三の観点からすると『巴里とセイヌ』に写しこまれた写真の美しさと、『片目を失って見えてきたもの』でピーコさんの伝えたい人間の美しさは、同じ意味といってもよいと思うのです。」と書いています。

写真集を贈る側と贈られた側の思想、美意識をみることのできる一冊です。

筆者が自ら経営する書店のことを書いた「森岡書店のこと」も収録されています。オープンから今日までの、長いようで短い道程を読むことができます。ぜひ行きたい書店です。

 

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「本を読むというのは元来のんびりした趣味であって、それこそ川辺に椅子を出してそよ風の中で読みすすみ、時に柳の葉が頬をなでるというようなエレガントなものであるべきだ」

と池澤夏樹は書評集「風がページを」(文藝春秋1100円)で書いています。

静かに時の流れる中で、本を読む事の至福を撮影したアンドレ・ケルテスの写真集「読む時間」(創元社2376円)は、とてもステキな本です。様々な場所で、様々なポーズで読書する人たちを捉えたこの写真集の、お気に入りのページをぐっと開いて、机の上、或は食卓に置き、そして、今度は自分の読みかけの本を開いて読み出す。ちょっと疲れたら、先程開いた写真集を眺める。すると池澤が述べたようなエレガントな時間が流れてきます。次の日には、違うページを開いて立てかけておく。本は傷むかもしれませんが、それがこの本の正しい使用法です。(と、思います)

「読む時間」の巻頭に谷川俊太郎が「読むこと」という詩を寄せています。その後半を引用します

「いまこの瞬間この地球という星の上で いったい何人の女や男が子どもや老人が 紙の上の文字を読んでいるのだろう 右から左へ左から右へ上から下へ下へ(ときに斜めに) 似ても似つかないさまざまな形の文字を 窓辺で木陰で病床でカフェで図書室で なんて不思議・・・・あなたは思わず微笑みます 違う文字が違う言葉が違う声が違う意味でさえ 私たちの魂で同じひとつの生きる力になっていく しばらく目を木々の緑に遊ばせて あなたはふたたび次のページへと旅立ちます」

本なんて読まなくても生きていける、でも本を読む幸せを知っている人なら、この写真集を捲るたびに微笑むことでしょう。41ページには、おそらく阪急電車だと思われる車内で、頭を剃った和服姿の女性が、手元の本に目を落としている作品が載っています。車外から射し込んでくる日光が彼女の手元をやさしく照らしています。タイトル通り「読む時間」が流れていきます。

★レティシア書房臨時休業のお知らせ 4月17日(月)18日(火)連休いたします。