大プロデユーサー永田雅一が指揮していた大映映画(1940年代〜60年代)。市川雷蔵、田宮二郎、勝新太郎、宇津井健等々、ひと癖もふた癖もある男前がずらりと並び、女優陣も京マチ子、山本富士子、若尾文子等々、錚々たる美人が並んでいて、彼らの演じるドラマの世界は、大人の香りに満ちていました。

「いま見ているのが夢なら止めろ、止めて写真に撮れ」(DU BOOKS/古書1900円)は、大映映画のスチール写真を集めた写真集です。写真の監修・構成をしているのは小西康陽。音楽ファンなら「ピチカートファイブ」の小西か、とすぐにお気づきでしょう。

1984年、 「ピチカートファイブ」がデビューした時の盛り上がりは凄いものでした。いわゆる”渋谷系”カルチャーのイノベーターでした。膨大な量の音楽を聞き込んだマニアの小西が、それぞれの曲の持っている良いところを抜き出して、抱き合わせて作る本歌取の手法で、リミックスカルチャーを作り出したのです。その頃私はレコード店の店長だったのですが、彼のセンスの良さに脱帽した記憶があります。上の世代からは、オリジナリティーがないという反発もありましたが、ナンセンスな意見だと当時も今も思っています。

小西は、その一方で部類の映画好きで、名画座を駆け回り、膨大な作品を観て、日活の助監督試験まで受ける映画マニアでした。そんな人物が監修した本だけに、やはりセンスの良さが随所に発揮されています。全240ページにわたる本編部分には、文章は全くありません。スチール写真がズラリと並んでいるのみ。ポイントは、最初にも書いた「大人な大映映画」。田宮二郎って男前で、スタイリッシュな役者だ!と改めて思いました。田宮も市川も、他の役者も白のワイシャツに細いタイとスーツが決まっています。そして、かなり妖艶な映画も連発していたのも本書でわかりました。子供だった私には近寄りがたい存在でした。右の写真は、実家の近くにあった大映映画館でやっていた「不信の時」です。中学生だった私は、通学の度にこのポスターを見たいような、見てはいけないような複雑な気分でいたことを覚えています。

91作品、347点もの写真を卓抜なデザインワークで編集されたこの写真集は、小西のリミックスマインド溢れる手法によって一つの映画作品にまでなっていて、見飽きることがありません。

お知らせ 

コロナウィルス感染拡大の緊急事態下、営業日・時間を下記のようにさせていただきます。

営業日:毎週 火曜日、木曜日、土曜日 営業時間:13時〜18時

通販、メールでの在庫確認は常時できますので、ご利用ください。通常営業再開はHPにて告知いたします。(info@book-laetitia.mond.jp)


面白いミニプレスの写真集が入荷しました。題して「OSAKAN SOCIALISMー大阪的社会主義風景」(1300円)。大阪のあちこちを面白い切り口で撮影した島田春菊さんは、この写真集についてこう語っています。

「思わず『社会主義的』と形容したくなるような幻視の瞬間がたしかに存在する。そうした瞬間の積み重ねによって、この写真集は生まれた。」

「社会主義的」とは、なかなか想像しにくい言葉です。戦後、社会主義国家として世界をリードしたソビエト連邦が国家の威信をかけて建設した地下鉄と団地。島田さんは、大阪の地下鉄や団地には、ソビエト社会主義的匂いがあると指摘しています。大阪地下鉄の御堂筋線は、日本初の公営地下鉄でした。東京の地下鉄の人工美満載のホームに比べると、なんだか場末感のある駅が多い大阪地下鉄ですが、どちらが好きかと問われれば、私は大阪の地下鉄駅舎です。生活感のある街の匂いが、薄汚れた壁から立ち上ってきそうで、寂れた公共施設という言葉にぴったりの風景です。この本でも地下鉄中央線の駅構内がシャープに撮影されています。

もう一つのポイントが、25年に開催される大阪万博で活気付く大阪湾岸風景です。「近代日本における未来イメージの総決算が1970年の大阪万博にあるとすれば、大阪の沿岸部には、万博のパロディのような未来の廃墟が転がっている。そうした風景を、社会主義的な『ロストフューチャー」と相通ずる」ものとして、島田さんは本書に取り込んでいます。

 

ここに収録された作品が、写真家が言うように社会主義的かどうかは、観る人の判断ですが、どれもユニークな作品ばかりです。後半に登場する「南港ポートタウン」「住吉団地」は、無機質な姿が迫ってきます。また、表紙にもなっている「大阪府咲州庁舎」の極めてSF的な建物も、そのまま映画に使えそうな建物なのですが、よく見ると、二階部分に「手打ちうどん」というのぼりが立っているのです。まぁ、この建物に最もふさわしくないものなのですが、大阪的といえば、大阪的です。

中山陽「断層」(創思社出版/古書2000円)は、筑豊の炭鉱を生きた人たちを捉えた(発行は昭和五十三年)写真集です。写真家の筑豊への深い愛情、過酷な炭鉱労働に生きる男たちへの実直なリスペクト、そして彼らを支える女たち、子供達への暖かい眼差しが、ぎっしりと詰まっています。軽い気持ちでふ〜ん筑豊の写真集かぁ〜とヘラヘラしながら、函から出して本を開けた瞬間、脳天に蹴りを入れられました。

この写真家は、実はプロカメラマンではありません。昭和二年生まれ、本職は福岡の開業医さん。昭和三十年ぐらいから、写真を撮り始め、様々な作品展で入賞されました。

「黒なのか。白なのか、それとも灰色なのか、それはわからない。私の網膜には、ただそれらが混沌として入りまじり筑豊独特のずしりとした、そしてすこし澱んだ褐色のような乾いた色となって私の心にやきついている。 しかし、それは、決して、暗いものではなく、陰惨なものでもない。よく考えると、やはり懐かしいふるさとの匂いと、色なのだ。」

という、写真家の筑豊への思いの言葉通りの作品が並んでいます。最初に、炭鉱内で褌一丁でツルハシを打ちおろす男たちを捉えた作品がありました。不謹慎を承知で言わせてもらえば、「かっこいい」のです。まるで前衛的なダンスの舞台のワンカットみたいなのです。悲惨で危険な職場なのに、湧き上がるエネルギッシュで、ストイックなかっこよさは何だ!気合を入れなけらばならない時に、ご覧ください。

地底深い炭鉱を捉えたカメラは、地上に出てこの町に暮らす人々の日常の表情を優しく見つめていきます。楽な暮らしではないはずですが、子供たちは元気です。面白い作品がありました。町の一角にある映画ポスター。そこには、勝新太郎のアクション映画と西部劇、コメディー映画、そして何と「イージーライダー」の4作品を見つめる、上半身裸のおっちゃんと、遠巻きに見ている子供達が捉えられています。ハリウッドに反旗を翻した「イージーライダー」のポスターを何じゃこれは?という感じで見つめています。

石炭から石油へとエネルギー政策が大きく変わっていった頃から、炭鉱はその役目を終えていきます。後半は、廃坑となった炭鉱が撮影されています。人の暮らしの匂いのなくなった炭鉱の荒廃した雰囲気が切り取られています。

この写真に賛辞の文章を寄せている五木寛之は、「筑豊は日本の悲劇のシンボルではなく、近代日本の歴史の出発点なのである。中国やアジアの革命から東大安田講堂まで、全てにかかわり合いのある中心点なのだ。日本の百年史は、東京からでなく筑豊から書き出されなくてはならない。」と書いています。

今日の豊かな生活を可能にしたのは、暗い坑道で、劣悪な環境にもめげずに、石炭を掘り出してきた男たち、女たちの労働にあったことを忘れてはいけない、と再確認させてくれる写真集でした。

と言っても、人間ではありません。名古屋東山動物園に暮らすオスゴリラ、シャバーニのことです。彼のオフィシャル写真集「シャバーニ!」(扶桑社/古書750円)の表紙を見た途端、こういうガッチリした侠気あふれる顔を見たのは、ほんと久しぶりだと思いました。

1996年10月オランダのアペンヒュール動物園生まれ。人間の歳に換算すると40台後半というところだそうです。2007年、東山動物園に来園。5頭からなる群れのリーダーです。彼の様々な表情に、作家、哲学者の言葉が添えられています。ただ、このチョイスにセンスがなくて、ダサい!シャバーニの威厳と奥深さを全く理解していないように思えますので、無視してください。

彼の魅力は、何と言ってもその目にあると思います。洞察力があり、決断力十分の視線。高倉健が仁義をきっているような渡世人風の視線もあったり、そうかと思えば、いやぁ〜失敗してしもぉた、というようなシャイな表情が捉えられていて楽しいです。

前述したように、文のセレクトがなんかダサいのですが、古代ローマの詩人マルティアリスの「すべての日が それぞれの贈り物を持っている」という言葉とシャバーニの横顔は秀逸でした。この意味、わかるかね、君に。とでも問いかけている深い目つきに惚れます。

 

 

ゴリラと言えば山極先生の本を紹介してきましたが、ここでは三谷雅純の「ゴリラの森の歩き方」(地人書館/古書1600円)をオススメします。アフリカの中央に位置するコンゴ。その北東部に広がる熱帯雨林にある<ンドキの森>のゴリラの調査をベースにした、コンゴの人たちとその自然を紹介する本です。

京都に本拠地を置くアート系出版社、青幻舎の傑作を集めてみました。

人の踊る姿って、なんでこんなに楽しいの!と思わせてくれるのが奥山由の写真集「ポカリスエット」(2484円)です。

2017年に話題となったポカリスエットの春・夏キャンペーン広告に参加した300人の高校生。その彼らの踊る姿をさまざまな角度から捉えた写真集です。ダンスレッスンに打ち込む姿に肉迫し、シャッターを押します。そこに現れる踊ることへの無条件な喜びが満ち溢れています。登場する高校生たちの数人が、側にでもいたら、ちょっとうっとおしいな!などと、もしかしたらおじさんは思ってしまうかもしれませんが、髪をなびかせ、手を大空に突き上げ、足を振り上げる姿は素敵です。踊ることに命を燃やしている無垢の魂がここにはあります。波打ち際で踊っている姿は、羨ましいほどかっこいい!

彼らも、最初は戸惑い不安に思い、踊れるかなぁ〜と思っていたかもしれません。でも、レッスンを重ねるうちに、俺ってできるじゃん、私っていいかも……..と感じだしたのでしょう。その胸の高まりや、興奮が伝わってくるのです。本の帯に「自分は、きっと想像以上だ」と書かれていますが、その実感100%の写真集です。今の所、今年観た写真集で、最も気に入りました。

さて、もう一点、写真集をご紹介します。

マーリア・シュヴァルボヴァーの「Swimming Pool」(4104円)です。スロヴァキアで活躍するマーリアは、自国の公共の水泳施設の空間に惹きつけられていきます。撮影された水泳施設の殆どが、スロヴァキアの社会主義の時代に建造されています。その無機質で、幾何学的な構造が放つ美しさと、人形のように配置された水着姿の人間が作り出すクールな作品が、ズラリと並んでいます。泳ぐことを楽しんでいるという雰囲気は全くなく、シーンとしていて冷たく、体温が全く感じられません。独特の色使いの建造物に佇む人間の姿は、まるで夢の中のような不思議さです。眩しいはずの青空さえ、クールです。だからと言って、観る者が寒々しくなることはなく、どこかでこんな風景見たよなぁ〜という懐かしさに誘い込みます。水の中に入りたいと思わせる不思議な写真集です。誰もいない、プールの魅惑。

今回10点程アートブックを入荷しました。追加でさらに揃えていきます。その中には、ぜひブログで紹介したいものも沢山あります。乞うご期待!!

トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再びやってきます。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。 朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。

 

ベットサイドにでも置いて、毎日眺めていたい素敵な写真集を2冊入荷しました。

一冊は、先日ブログで「極北のひかり」を紹介した松本紀生の「原野行」(Crevus/古書1700円)です。アラスカを訪ねて20年。この極北の大地で巡り合った、本人曰く「一番きれいな写真を撮りたかった」写真を集めたものです。アラスカの写真といえば、ご承知のように、先駆者として星野道夫がいます。彼が撮ったアラスカの大地、そこに生きる動物たちを捉えた写真を超えてゆくのは、中々困難です。

 

でも、この写真集は、星野的世界を踏襲しつつも独自の世界観を出そうとしています。特に、ザトウグジラのブリーチング(海面に飛び出す動作)を捉えた作品は美しく、何者にも負けない強さを見せてくれます。また、川を遡上してきた紅鮭をがっちり銜えたヒグマの目。死に物狂いで、この地を生き抜こうとする生命の強靭さが伝わってきます。就寝前にパラパラめくれば、いい夢が見れそう。私のお気に入りは、ジャコウウシを正面から捉えた作品。こんな澄んだ目線をしてたんですね。機会?があれば、お会いしたいものです。

もう一冊は、荒木経惟の「東京人生」(basilico/古書1300円)です。こちらは、1962年から2006年まで、彼が撮りためた東京を一冊にまとめたものです。

愛妻陽子さんや、愛猫チロちゃんも登場しますが、なんといっても大都市東京の移ろいゆく姿が見所です。街角で遊ぶ子供たちの生き生きとした姿、東京の下町、高層ビル群、地下鉄、銀座等々を行き交う人々の多様な表情を見ていると、この人たちの人生に思いを馳せます。なにげない日常という意味では、お風呂に入ってホッとしている王貞治とか、やんちゃ少年丸出しで、自分のヨットに乗る石原慎太郎、ちょっと大人っぽくキメタ19歳の赤塚不二夫なども、街並みの写真の間に同じような重さでレイアウトされています。来日した女優シャーロット・ランプリングのくつろいだ微笑みが印象に残りました。

ところで、この写真集の最後は、久世光彦の葬儀に参加した樹木希林の合掌する手先を捉えた一枚です。この人も天国へ旅立ちましたね……..。

 

 

 

★イベントのお知らせ

6月5日(水)より「世界ひとめぐり旅路録」展をされる小幡明さんが、14日(金)19時半より、FMひらかたパーソナリティー久保有美さんと一緒に「小幡明の旅の話アレコレ」と題したトークショーを当店にて開催します。(参加費1000円/要予約)


「世界の美しい女性たち」(PIE/新刊3240円)という300数十ページのボリュームある写真集が入りました写真家ミハエラ・ノロックが、50以上もの国々を訪れ、そこに生きる女性たちを撮影した、女性の美しさと多様性を紹介するというプロジェクト「The Atlas of Beauty」(美の地図)を一冊にしたものです。

様々な社会的、文化的、政治的環境のもとに生きる女性たちの日常の一瞬をスナップし、その一瞬の中に、前進する彼女たちのエネルギーを見事に写し取っています。どのページをめくっても、登場する女性たちの視線に圧倒されます。いたわりの目、思いやりの目、柔らかな目、微笑んでいる目、決意に満ちた目、等々。さらに彼女たちが来ている衣服が、その表情を美しく演出しています。

ブラジル、サルヴァドールで撮影された二人には、こんなキャプションが付いています。

「黒人でありレズビアンであることが、とてもつらい時がある、と語るラファエロとオバックスでしたが、ふたりの関係は、彼女たちが直面している偏見を乗り越えられるほど強靭なものに見えました。」(P154)

いいなぁ〜、このおばあちゃんと思ったのは、ミャンマー、イレネー湖畔でタバコを吸うおばあちゃん(P174)です。タバコの葉を手作業で巻きタバコにしている場所らしいのですが、出来上がったばかりのタバコを美味そうに吸っている姿が微笑ましい。キャプションは「ここでは健康へのアドバイスが付きまとうことはありません。」とユーモアたっぷりです。

この写真集は2017年にアメリカで発売され、新たに日本で撮影されたポートレートが加わりました。京都からは二人の女性が登場します。一人は英語教師退職後、茶道の先生になったエミコさん。(P145)、もう一人は芸妓の世界からバリスタに転身したユカさん。どこかで出会うかもしれませんね。

この写真家は、女性たちの持っている物語を見事に掬い上げています。彼女たちの人生の物語がどんなものなのか想像しながら、次々ページを捲ってしまいます。物語皆無ノッペラボウの政治家の顔ばかり毎日見せられるている昨今、一服の清涼剤として常備していただきたいと思いました。

 

 

長倉洋海の写真集「ともだち」(偕成社/古書700円)は、紛争地で、貧困が蔓延する町で、或は繁栄から取り残された都市で生きる子どもたちの、魅力的な表情をまとめた作品集です。厳しい現実に直面しながらも、生きることに積極的な子どもたち。真っ直ぐにこちらを見つめる彼らの視線が眩しいばかりです。

最初に登場する少女に釘付けになりました(写真右)。場所はエル・サルバドル。長倉はこう説明しています。

「中央市場の通路で、母親を待つ少女。足もとに売れ残った野菜を入れた大きなかご。物売りの仕事につかれたのか、少しぼんやりりと遠くを見るような表情に魅かれた。」

明日も今日と同じかもしれない、けれども…..。何か新しい喜びがあるかもしれないと願わずにはいられません。

ドキリとさせる作品もあります。エル・サルバドルのテナンシンゴで、ぐっと前方を見つめる少年が被写体です。少年はクリスマスの日、解体される牛を見ていると解説にありました。クリスマス休戦中は、普段は食べられない肉にありつくことができるので、美味しい肉が食べられる!その時を静かに待っているのです。しかし、この少年の手には機関銃が握られています。戦乱の地では、楽しみにしている食事の間に銃弾が飛んでくるかもしれない。闘いの恐怖を自覚しつつ、ここで生き残る覚悟が漂います。本来なら、子供らしい微笑みがあるべき姿なのでしょうが、厳しい状況は、こんな強い顔つきを生み出すのかもしれません。

子どもたちは、おそらく自分たちの生きている環境を知っているのでしょう。しかし、一方でその現状を跳ね返す強さも持っているようにもみえます。アフガニスタンで、旅人にお茶をふるまうショートカットの少女、あでやかな民族衣裳に身を包んだ涼しげな視線が美しい。

「威風堂々」とした少年(写真左)。「マレーシアの農村。稲穂がたわわに実る田園を、通勤カバンを背に、イスラムの日曜学校に行く男の子がいた。背すじをしゃきりとのばし、ものおじすることなく、堂々とこちらを見据える彼の視線にドキドキし。うれしくなった。」こんな姿勢の良い少年には、いや大人にも滅多にお目にかかれません。

グアテマラの町で撮られたインディオの二人の姉妹も印象的です。小雨のなか、土産物店に民芸品を届けて帰る所で、振り返ってカメラの方を見て少し微笑んでいるところが可愛い。こっちに元気がない時には、「おっちゃん、元気だしや〜」というような声が飛んできそうです。

南アフリカの少年は、学校から戻り、野良着に着換えて、タップを踏んでいます(写真右下)。これから羊の放牧するのが仕事です。名前はロアンディーレ9歳。踊る喜びが躰全体から弾けて、強烈なリズムまで聞こえてきそうです。アパルトヘイト政策で家族が引き裂かれる過酷な体験を、こんなステップで跳ね返してきたのかもしれません。

ここに登場する子供たちは、先進国の、それなりに生活環境がしっかりした社会で育っているのではありません。彼らの24時間は厳しく辛いものに違いないけれど、生きて行くという曇りのない表情が捉えられています。世界がどうあっても、前を向いていてほしいという写真家の思いにちがいありません。

 

★年内は12月30日(日)まで営業いたします。年始は1月8日(火)より通常営業いたします。

 

 

★イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

 

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。ご予約受付中(1500円)

 

 

 

 

 

写真家百々俊二(ドドシュンジ)が、生まれ育った街大阪を撮った写真集「大阪」(青幻舎/古書2000円)は面白い写真集です。

半生紀を生きた大阪を、きちんと作品として残しておこうと思ったのが切っ掛けで、撮影に着手しました。あとがきで「自分の記憶がある場所から撮っていこうと。記憶の大阪です。記憶といっても、もちろん写真では『いま』を撮ることしかできません。こういう場所もあったなぁ、と思い出しながら、場所の磁力に呼び寄せられように歩きました。最初に訪ねたのは自分が生まれた場所なんですが、1947年当時の四軒長屋がまだあったんです。驚くと同時に、小学生のころの記憶がダッ〜と甦ってきた。背中を押されるように撮影に入り込むことができました。」と書いています。

「大阪やん、これ」って思わず言ってしまいたくなる程、大阪です。高層ビルの立ち並ぶ街の風景、別府行きのサンフラワー号が出る大阪南港の夕暮、JR吹田駅付近を疾走する列車を捉えたスピード感など、多分、東京を舞台にして、同じ様な作品を撮った時、そこには全く違う空気感があるように思います。関西人なので、大阪の街並みや空気を多少は知っているがゆえに、よけいにそう感じている部分があるかもしれませんが…….。

写真集には、これこそ大阪という風情の下町が数多く収録されています。例えば生野区鶴橋。近鉄・JR鶴橋駅そばの商店街は、この街に古くから住む韓国、朝鮮の人達が営むお店が並んでいます。街のざわめきが聞こえてきそうです。鶴橋卸売市場に働く人達を捉えた写真にも、同じ様な匂いがあります。市場にあるらしい一杯飲み屋の椅子に、ポツンと座る女性。常連客か、それとも店の人間か。仕事帰りにやってくるおっちゃんに「お疲れやなぁ〜、一杯飲んでいき」という甲高い声が聞こえてくるような、いい写真です。

ひなびた商店街、古い工場、河岸のホームレスのテント、淀川に上がる花火、工事中の街角、どこにフレームを合わせても、そこに息づく人達の生活が浮かび上がり、そしてそれは、観る者に、失くしてしまった街の哀愁を思い起こさせます。

心理学者の鷲田清一が「高架路線の下、高層ビルの下にも、お城の下、樹の下にも、河川敷や堤防にも、解体現場の隙間、墓場の傍らにも、ひとびとはいつく。ひとは空間を生きるというよりは、場所にいつく。」と後書きに書いています。

もう閉店した美容院と、やはりシャッターの降りた店舗を捉えた作品を眺めていると、ここでどんな暮らし、どんな人生をおくってきたのか、今も幸せなのだろうかと様々な思いが過ります。

 

 

 

Tagged with:
 

山田宏一と言えば、フランス映画を中心にしたヨーロッパ映画の批評で著名な評論家です。著書も多く、当店にある「山田宏一のフランス映画誌」(ワイズ出版/古書1800円)は、600ページにも及ぶ、監督別のフランス映画紹介の傑作です。

そんな山田が「NOUVELLE VAGUE/ヌーヴェル・ヴァーグ」(平凡社/古書2100円)という写真集を2013年に出していました。なかなか面白い写真集です。

「私はもちろんプロの写真家ではなく、ましてやアマチュアの写真家ですらありません。1960年代、フランス滞在中にヌーヴェル・ヴァーグの映画人と知り合い、活気にみちた映画的環境に誘われ魅せられて、初めて写真を撮ったのです」と序文で書いていますが、ジャン・ルック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、ジャック・ドゥミーら、新しい感覚の映画人たちが製作する、現場の熱い雰囲気が伝わってきます。山田がプロのカメラマンではなく、熱心な映画青年だったために、あ、これ映画的!というセンスでシャッターを押しています。ゴダール映画に出ていたアンナ・カリーナを控え目に撮った写真には、山田の彼女への愛情が感じられます。

おお〜、これは!!と感激したのが、ドゥミーが「ロシュフォールの恋人たち」を製作している現場の写真の数々です。出番のなかった主演のフランソワーズ・ドルレアック&カトリーヌ・ドヌーブ姉妹が、普段着で撮影現場に来ているところ(写真右)なんてレアです。普段着でもやっぱり美人姉妹です。当時24歳だったフランソワーズ・ドルレアックが現場に現れた写真(写真左)は、若いのに大人の風格を漂わせた彼女を見事に掴まえています。残念ながら、その1年後事故で亡くなってしまうのですが……..。

その次に登場するのは、「トリュフォーの思春期」の現場です。子供が大好きだった監督のトリュフォーが素人の子供たちを大勢使って、ほぼ即興で取り上げた映画です。子供たちに囲まれたトリュフォーの幸せそうな表情が素敵です。映画の撮影現場にはとても見えないくらい、生き生きとした表情の子供のキラキラした一瞬を捉えていて、素人カメラマンとは言えない出来映えですね。フランス映画ファンには見逃せない写真集です。

 

★レティシア書房「夏の一箱古本市」は、8月8日(水)〜19日(日)開催

★★ネイチャーガイド安藤誠氏の「安藤塾」は10月27日(土)に決まりました。参加ご希望の方は電話、メールにてご連  絡下さい