昨日のブログでご紹介した「へろへろ」の版元ナナロク社は、小さな出版社ですが、どれも個性的な本を出しています。何点か入荷しているのですが、今日ご紹介する本の迫力は一見に値します。

渡辺雄吉写真集「張り込み日記」(2916円)です。このタイトルで思いだすのは、1955年に出た松本清張の「張込み」であり、その数年後に映画化された同名映画です。映画は、あの当時の日本を見事に捉えた作品でした。

この本は映画とは全く別のものですが、捜査の最前線に立つホンモノの刑事達の姿を密着取材した驚異のドキュメントです。

昭和33年、水戸市でバラバラ事件が発生し、事件を担当する二人の刑事の地道な捜査の日々を写真に収めています。事件発生から解決まで半年がかかりましたが、その間の20日程を密着して、なんと1000枚程残された写真を再構成して出来上がりました。

張り込みの現場、捜査会議、聞き込みと、第一線の刑事の現場がドキュメントされています。日本の敗戦から十数年経ているとはいえ、町のあちこちに戦争の残り火みたいなものが漂っています。当時の日本の市民社会を収めた貴重な写真集でもあります。

雑踏を歩く二人の刑事の面構え。今ではあまり見られなくなったような、無骨な、深みのある男の顔です。黒澤明の映画「野良犬」をそのまま写真にしたような世界ですが、あちらは虚構、こちらに嘘はありません。右下の写真も、映画のワンカットみたいですが、本物の捜査の現場です。

トレンチコートに、帽子姿で、聞き込みに回る二人の刑事姿なんて、いまどきの刑事物ドラマよりかっこいい!

この本の構成をしたのは、乙一。若い方ならよくご存知ですよね、ライトノベル界で注目され、2005年発表の「ZOO」でブレイクした若手作家です。彼は後書きでこうコメントしています。

「ページをめくるうちに建物が高くなり、背景となる都市の暗闇は増す。二人の刑事がその深奥へと入っていくような構造にしたかった。人探しをする刑事の姿に、都市に埋没しそうな自分を探す現代人の姿を重ねた。」

今まで、浴びるほどに刑事小説を読み、デカもの映画も欠かさず観てきましたが、それらを吹っ飛ばすぐらいの力に満ちた写真集です。今や、総禁煙時代。この本に出てくる刑事たちみたいに煙草吸いながらの捜査の日々、なんてシーンもお目にかからなくなりました。

イケメンでもなければ、おしゃれでもないのですが、いや、もう痺れる程カッコいい男たちを見せてくれる希有な写真集です。

一冊は手元に置いておくべし。きっと、何かの役に立つ?かな。

 


 

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今年、「SAPEURS/サプール」(青幻舎2484円)という本がよく売れました。アフリカの下層階級の人達が、生活費をけずっても買い込んだ高級ブランドに身を包んで、街を闊歩する姿を撮影した写真集です。エレガンスの極みみたいな一冊ですが、本を買われた方からは、なんか元気でるよね、という感想をいただいたりしました。

黒い肌の美しさに魅せられるという意味では、「Skin」(扶桑社1500円)もお薦めです。アーティストひびきこづえのコスチュームを身に纏った男たち、女たちを写真家、高木由利子が捉えた作品です。二人は、ケニア、トルコ、タイへと旅を続け、その地で暮らす人達とのコラボを収録しています。

それぞれに物語性があり、神話的世界、幻想的世界、祝祭的世界を表現しています。肌の色にしても、すべてがブラックという訳ではありません。でも、それぞれに美しいのです。彼らが着ている極めて装飾的なコスチュームがなかったとしても、彼らの佇まいはきっと素敵なものであるのは間違いないでしょうが、非現実的な服を身につけることで、演劇性の高い人物へと変身して、ページを捲るごとに、私たちを天空の想像世界へと誘ってくれます。

写真集といえば、久しぶりにアラーキー(荒木経惟)のデビュー作品集「さっちん」(新潮社700円)が入ってきました。昭和30年代の、どこにでもいる少年少女の日常を捉えたものですが、なんて幸せそうな表情でしょう!毎日が楽しくて仕方ないという感じが、伝わってきます。まさに天真爛漫。思いきり笑った瞬間の大きな口、面白いことは絶対見逃すまいとする目の動き。世界は僕たちのためにあるということを抱きしめて遊べるなんて、最高じゃないですか。

アラーキーは、こう語っています。

「少年性っつうのはね、一番の魅力のことなんだ。そんなものはね、十歳とかそんな頃に、いくらまわりの環境がどうだったって、奪い取れるものじゃない。それをね、いまの時代がだめにしたなんていったりしちゃあだめだよ。チャンスがあればいつだって呼び戻すかもしんないよ。もって生まれた少年の野生っつうのをさ、そういうものを」

「もって生まれた少年の野生」って、いい言葉だと思います。

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奈良原一高の写真集「王国ー沈黙の薗・壁の中ー」(朝日ソノラマ写真選書・初版・著者サイン入り)を、入手しました。

奈良原は1931年、福岡生まれの写真家です。67年発表の『ヨーロッパ・静止した時間』で、日本写真批評家協会作家賞他を受賞して以来、数々の賞を受賞しています。

その中でも、この「王国」は撮影対象の特異さで注目された作品です。作品の前半は北海道のカソリック修道院で修行する僧を撮影した「沈黙の薗」、後半は和歌山の婦人刑務所の受刑者を集めた「壁の中」です。

いわば、日常世界から遠く離れた世界の中に生きる人びとの一瞬を捉えた作品集です。不思議な静寂に満ちた作品が並んでいます。「黙々と生きる」とは、こういうことなのかもしれません。厳格に定められた通りの日々を捉えた写真の一方で、野良仕事に向かう僧侶の前で、草を食べている羊を収めた作品には、温もりも溢れています。

後半の女子刑務所の中を撮影した作品群は、受刑者の悲しみとか、怒り、憎しみといった複雑に絡み合う感情を排して、やはり不思議な静謐感に溢れています。刑務所内でパーマをかけている受刑者の作品には、どこかユーモアさえ漂っています。撮影はどちらも1958年に行われていますので、古びた世界ではありますが、強靭な力を保持しています。作者は、こう書いています

「事実は観念をとびこえる肉体を持っている。そのような僕にとって、うつし出された写真の世界そのものは、遂には外にある現実と内にある心の領域とが出会ってひとつとなった光景のようにさえ思えたのだ。」

カメラという現実を映し出すものが、見事に作者の心象風景を描いた傑作です。この本は、1971年に中央公論社から出た「王国」を再編集した改訂版ですが、貴重です。お値段は8000円です。

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一昨年、今年と二度にわたってカナダ、ユーコンに棲息するドール・シープの写真展をしてもらった上村知弘さんの写真集「Dall Sheep」(1620円)が地元京都の出版社青菁社から発売されました。本日、京都市北区にある出版社まで出向き、早速店頭に並べました。

「ドールシープという初めは聞き慣れない動物でしたが、その真っ白な姿を見てから彼らの虜になりました。山々に住む白い野生の羊、ドールシープが住む山頂に立つと、極北の自然の広大さと美しさを感じます。」

その思いから、上村さんは2004年カナダ、ユーコンに移住してドールシープを追いかけます。小さな子どもを見つめる母親が印象的と書かれている通り、過酷な自然環境で生きる母親と子どもの姿が、四季を通じて撮影されています。

降り続ける雪の中、斜面にじっとしている一匹、爽やかな夏の香り一杯のなかで、佇む親子、太陽の光を背中に浴びて、ワ〜イ、ワ〜イと飛び跳ねるのが楽しくて仕方ない子ども、山の彼方に虹のかかった大地で餌を探す彼らを捉えた作品など、魅き込まれるものばかり。

最終ページ、満天の星空の下で眠る一匹を、ロングショットで捉えた作品があります。孤独な空間ですが、その寝顔の幸せそうなこと。一体、どんな夢を見ているのだろうと聞いてみたくなります。

上村さんは、最後にこう語っています。

「美しい極北の大地あってこそのドールシープ。氷河期から生きてきたこの動物が、将来もずっと極北で暮らし続けていくことを願っています」

誰にも邪魔されずに、彼らだけの楽園が続いて欲しいものです。

彼の作品はネット上で公開されています。また、カナダでの日々の暮らしを綴った「Life in the North」も一度ご覧下さい。(下の写真は一昨年の写真展の時の上村夫妻。一緒に写っているのはうちの駄犬マロンです。)

イベントご案内

来週22日(火)〜27(日)まで、アイヌ民族運動家で、木版作家の結城幸司さんの「纏うべき風」展を開きます。一週間の個展ですが、ご本人も北海道から来られます。そこで、期間中の25日(金)夜、店内にて、結城さんのお話を聴く会を開催いたします。彼の作品をバックに、「アイヌモシリの神話と心話の世界」と題して、興味深い世界のことを聴ける会です。

4月25日金曜日、19時30分より(約1時間) 参加費1500円。先着13名です。参加ご希望の方はレティシア書房まで(075−212−1772)

 

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