草木勝さんの写真展は、2018年のお正月以来で今回が2度目になります。日本写真協会・京都写真協会に所属するプロの写真家で、レティシア書房を開くずっと前からの知り合いでしたが、前回初めて「作品」を並べていただいてすっかり草木ワールドのファンになりました。

今回のテーマは「花」。花の写真はそこら中にあふれているので、草木さんがどう料理するのか楽しみにしていました。真っ黒な背景に美しい花がくっきり。これらは、いわゆる写真機を使わず、花を直接コピー機の上に置き、パソコンに繋いだスキャナーから直接データを読み込むという手法をとったのだそう。スキャナーは光源が極端に被写体に近いので、原稿台から数センチ離れると全て露出不足で暗闇に沈み、花を囲む背景は美しい黒になるというのです。草木さんは「これはこれで『写真』だといってもいいと考えている。」と、個展の挨拶文に書いています。

レティシア書房の店のサイズに合った、硬質な花の写真をスッキリと展示。迷いのない作品が、まっすぐこちらに向かってきます。これが妙に心地いいのです。

前回の個展は、川底に沈むカラフルな空き缶でした。それぞれの空き缶がゴミとは思えないほど美しかったのを覚えています。空き缶をそのまま撮り、後で加工を施さずに美しく仕上げるのは、川の流れのように自然体にしたい、という草木さん流のこだわりでした。写真を知り尽くして遊び、そして仕上がりは美しい。魅力的な写真家です。

京都国際写真祭(KYOTO GRAPHIE)が、今年も京都市内各所で9月18日から10月17日まで開催されます。「草木勝写真展」も一枚噛みたかったところですが、ちょっと日程が早すぎました。写真祭に先駆けて今日から始まりました。ぜひお運びくださいませ(女房)

 

✳️ 「FLOWERS」草木勝写真展は9月8日(水)〜19日(日) 13:00〜19:00

13日・14日は定休。

⭐️本の紹介をZOOMにてさせたいただく「フライデーブックナイト」。次回は9月17日(金)です。

⭐️北海道のネイチャーガイド安藤誠さんのトークショーを今年も開催します。

10月24日(日)19時スタート(2000円)要予約

 

 

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中堅の、あるいは新人写真家に贈られる土門拳賞を本年度受賞したのは、ネイチャーフォトグラファー大竹英洋の「The North Woods」( Crevis/新刊2750円)でした。以前、彼の「そして、ぼくは旅に出た」を紹介しました。(売切れ)

ノースウッズは、北米大陸北緯45度から60度にかけて広がる世界最大級の森林地帯です。一年の約半分が冬で、気温がマイナス30度になることもあります。厳しい自然環境とそこに生きる動物たちのありのままの姿が捉えられています。

こういった動植物を撮影した第一人者といえば、星野道夫だと思います。どの写真家にも、星野的な雰囲気があって、彼を超えるのは相当困難な課題だろうと思っていました。

しかし、大竹の作品には、明らかに星野道夫にはないものが生じていると感じます。最初にそう思ったのは、「ハシグロアビ親子」の写真(本書10ページ)でした。親鳥の羽の白い毛先を見つめる子の視線。親鳥の威厳と、あどけない子の親への眼差し。ハシグロアビは、47〜49ページにも再登場します。

「ノースウッズの水辺を象徴する鳥。カナダの1ドルコインにも刻印され、ルーンという英語名の方が馴染みがあるかもしれない。営巣中の婚姻色はオス・メスともに鮮やかで、ひときわ目を引く。また、その鳴き声も特徴的で、一度聞いたら忘れることはできない。アメリカを代表するナチュラリスト、ジョン・ミューアは、北米に移民して間もない頃にウィンスコシン州で過ごし、アビの歌声について『ウィルダネスで聞こえる全ての音の中で、最も野生的で、かつ胸を打つ』と讃えている。」と丁寧な解説を付けています。

161pに冬の到来とともに、南へと帰ってゆくナキハクチョウのつがいを捉えた作品が載っています。「トランペッタースワン」と言う英語名を持つナキハクチョウの美しいフォルムが見事です。絵画のような作品です。

未知の自然が連なる奥地を旅して、その先に見つけた生き物たちの生をフィルムに焼き付けた写真家の情熱がどのページにも見出せる傑作だと思います。この惑星にある素敵な世界を楽しんでください。

 

1931年、大牟田に生まれた奈良原は、早稲田大学大学院で美術史を専攻し、池田満寿夫らが結成した「実存者」に参加します。その後、長崎の軍艦島に生きる人々の生活に強い興味を持ち、取材した結果を初個展「人間の土地」で披露。写真家としての道を進みはじめます。

私は、2014年、東京写真美術館の佐藤時啓の写真展に行った時、同美術館の所蔵展で初めて奈良原の写真を見ました。その時の印象をブログで書いていました。

「同館では所蔵品の企画展「スピリチュアル・ワールド」を同時開催中で、そちらにも回りましたが、その中に禅寺を撮影した奈良原一高という写真家の作品と出会いました。凛とした僧の姿にぐっときました。」

そこから奈良原の写真集や展覧会をチェックし始めました。15年には「王国 沈黙の嵐・壁の中」を、16年にはエッセイ&写真集「太陽の肖像」を入手しました。このたび、クレヴィス社から「奈良原一高のスペイン約束の旅」(新刊/2750円)が発売されました。これは、世田谷美術館で開催された「奈良原一高のスペイン約束の旅」の公式図録として発売されたものです。

奈良原は1962年から65年までヨーロッパを回る旅に出ます。特に楽しみにしていたのがスペイン各地への旅でした。本を開けると、1964年スペインマラガで恵子夫人が撮った奈良原のポートレイトが飛び込んできます。スタイリッシュに決めたファッション、野心満々の目の輝き。憧れの土地でやったるでぇ〜と気合十分な表情です。

熱気と暑さに、写真家自身も沸点に達したかと思えるほど強い印象を残すものがあるかと思えば、その暑さと喧騒の中、街角をふらふらと彷徨い歩き、白昼の幻想的な街角や人物を捉えた作品もあります。モノクロの力強さ。熱狂と静寂。私に写真の持つ力を教えてくれた作家の写真集です。

本書後半には、彼が森英恵(衣装)、藤井三雄(デザイン)と組んだファッショナブルな「富士紡績」のカレンダー作品、69〜70年にかけて写真を担当した「婦人公論」の表紙も収録されています。特に66年のカレンダーは、クールでスタイリッシュ!欲しいなぁ〜。

 

 

イラストレーターのユカワアツコは、主に鳥を描く作家です。それも、古い箪笥の引き出しに鳥の絵を描きます。着物をしまう引き出しに、飛び立っていくかもしれない鳥の姿があるのはなんとも神秘的。

描かれているのは特に珍しいというのではない馴染みの鳥(例えばカケスやハシブトカラスやメジロなど)で、そこに梨木香歩が文章を寄せ、写真家長島有里枝が撮影するという「草木鳥鳥文様(くさきとりどりもんよう)」(福音館/新刊3100円)は、どこまでも心落ち着く一冊です。作品は室内のテーブルの上、洗面台や本棚、小さな納戸の奥などに置かれ、「鳥の潜む風景」になりました。

バードウォッチャーとしても有名な梨木は、鳥の生態を簡潔に紹介しながら、その鳥とともに描かれている草木のことも的確に解説しています。「アオバズク」では「深夜になりベッドに入ると、コウコウ、コウコウ、というアオバズクの声が聞こえてくる。ああ、もう渡ってきたのか、と夢うつつで思う。それは毎年繰り返される、初夏の始まりの知らせ」という、物語の始まりを予想させるような文章に続いて、

「京都にももちろん、御池通に見事なケヤキの並木があって、その景観が大好きだったが、ケヤキにはやはり、坂東武者というような素朴でまっすぐなイメージが、いつの季節にもある。昏く燃えるような紅葉の秋、骨組み(?)だけになる凛とした姿の冬、誰も気づかない質素な花とともに芽吹く春、そして初夏、、瑞々しい新緑に身を隠すようにして、アオバズクがこちらを覗くのだ。」

アオバズクの引き出しは、漱石や藤村の古めかしい本が詰まっている本棚に置かれていて、今にもこちらに向かって飛び出しそうです。

年数を経た引き出しに描かれた鳥たちは、美しく輝いていて、梨木は「長島有里枝さんは、気配の滲み出てくるような独特の世界の捉え方で『鳥の潜む風景』を撮られました。」と、あとがきに書いています。風が流れ込んでくるような家のあちこちから、鳥たちのさえずりが聞こえてきそうです。三人の才能ある女性が、見事にコラボした美しい本です。

長島有里枝さんの著書「『僕ら」の『女の子写真』からわたしたちのガーリーフォトへ」(大福書林/新刊3630円)も取り扱っています。

 

 

先日、新聞に写真家鬼海弘雄の死亡記事が載っていました。

鬼海は山形県生まれ。高校を卒業後、山形県職員となりますが、一年で退職し上京。法政大に入り哲学を専攻します。大学卒業後、トラックの運転手や遠洋マグロ漁船などさまざまな職場で働きながら写真を撮り始めます。

浅草寺を舞台に、無名の人々を数十年間撮ってきました。カメラ片手に朝から日没まで境内に立ち、写真家の感性に何かをを感じさせる人物が通るのを待ち、シャッターを切り続けてきました。その数ざっと1000人。そこから166人をピックアップして「PERSON A」というタイトルで2003年に写真集が発行されました。

性別も職業もバラバラの人々のポートレイトが並んでいます。たった一枚の写真から、その人生や暮らしの匂いが感じられる作品集でした。初めてこの写真集を見たときは、おっ!凄いものが出たと驚きました。その後も、彼は市井の人々の内面を浮き彫りにするようなモノクロ写真を撮り続けました。

この人は、文章も素敵です。今、店には「誰をも少し好きになる日」(文藝春秋/古書1500円)、「靴底の減り方」(筑摩書房/古書1300円)、「目と風の記憶」(岩波書店/古書1800円)の3冊のフォト&エッセイ集があります。

写真家らしい観察眼で一人の男性を描いた「スティーブ・マックィーンの佇む路地裏」(「靴底の減り方」に収録)。完全に少女趣味溢れる服装で帽子を被っているので判別できないが、年配の男性らしい人を電車内で見つけ、興味を惹かれたエッセイです。(マックィーンは最後にちょっと登場)

「すべてが『少女趣味』で横溢している。それなのに、深く被った毛糸の帽子からはみ出した髪には白髪が混じっていた。リズムを刻む手の甲には幾つかのシミがあり、年配の人だと教えていた。

あまりにも完全な少女趣味に準じているので、まったく顔を見ていないのだが、きっと女の人ではなく年配の男の人に違いないと確信した。」

車内でなければ、きっとカメラを向けていたはずです。「ますます均一化が進む世の中で、謂れのない不当な扱いを受けていなければいいのだが、と人ごとながら思った。」と書いています。

人を見つめるのが大好きで、それを自分の芸術にした写真家だったと思います。10月19日リンパ腫のため死去、75歳でした。

 

★町田尚子さんのおなじみ猫のチャリティーカレンダーを、販売しています。価格は550円(税込)。今年のテーマは日本映画です。なお、カレンダーの売り上げの一部は動物愛護活動の寄付になります。

★ARKの犬猫カレンダーも販売中!(大・1000円 小・800円 税込)こちらは売り上げをARKに寄付いたします。

 

 

 

 

京都の出版社エディションエフより発行された、清水哲男写真集「揺れて歩く ある夫婦の一六六日」(2420円)刊行を記念して、写真展が本日より始まりました。

エディションエフさんとは、2015年くらいからのお付き合いになります。確か、山川三多著「昼のビール」を持ってこられたのが最初だと思います。(ブログにも掲載しました)

清水哲男さんは、京都出身、現在は鹿児島県に住んでおられます。世界を放浪し、本もたくさん書いて来られました。今回の写真集「揺れて歩く ある夫婦の一六六日」は、京都の年老いたご両親の姿を、一番身近な人であるがこそ、ある距離を保ちつつ、しかしまた息子であるが故に捉えられたショットの数々が鮮やかで胸を打ちます。

父親の良一さんは、代々続く指物師の六代目。その道を著者は継ぐことはありませんでした。母親の千鶴さんは、大正13年京都生まれの歌人です。旧制女学校時代、石川啄木の歌に触れ、短歌を詠み始めた、と書かれています。「うちの歌なんか誰も読まんやろ」と、歌集の出版を拒み続けてきました。千鶴さんは、どの社中にも与せず一人で歌を詠んでこられましたが、八十九歳になった2012年、お父さんがどうしも出してくれと、ということで、2014年に歌集「日々訥々 清水千鶴の一日一首」を出されました。今回、その素敵な歌集も販売しています。(2200円)

「父と母は、朝起きて夜寝るまでの一日の大半を食卓を置いた二畳の間で過ごす。ここが二人の世界だ。手をのばせば必要なものはなんでもある。」お年寄りの居間というのは、あまり動かなくても手が届くように、たいていこんな風にゴチャゴチャと物が詰まっています。私の父が座っていた周りもそうだったと思い出しました。夫婦は、機嫌よくそんな住み慣れた空間に暮らして来られました。

「この時、母九十一歳、父八十六歳。間違いなく夫婦は『死にゆく自分』と『生きていく自分』の間を揺れながら歩いていた。」その一年後2015年、父親が末期ガンとわかり、そこからまた、夫婦、息子と父親、母親と息子、様々に揺れる様子がカメラに収められ、正直な言葉で丁寧に綴られていきます。この写真集は、老夫婦の最期の日々を綴った記録であり、死にゆく父親に寄り添う著者の深い思いが綴られ、そして長年の道連れを亡くした母親の生死観が書かれた本です。

私は「あとがきにかえて」で書かれた著者の文章に泣きそうになりました。家業を継がなかったご本人の思いや、その時のご両親の気持ちが、歳を重ねると心に沁みます。

「桐箱をつくり継ぐ子もなき幸せとひかる刃物を灯にかざす夫」これは家を手放すにあたり、200年の歴史を刻んだ仕事場を父子で片付けたあと、息子を見送った時に、お母さんが詠んだ歌です。

清水さんのこの写真展を、一人でも多くの方に見ていただければと思います。(女房)

 

 

「揺れて歩く ある夫婦の一六六日」清水哲夫出版記念写真展は、9月2日(水)〜13日(日)  13時〜19時 月火定休

 

 

 

 

 

 

 

 

山尾三省、1938年東京生まれの詩人。60年代の後半に社会変革を志すコミューン活動「部族」を開始。73年には家族と、インド、ネパールへ1年間の巡礼の旅に出かけます。帰国後、77年に屋久島の廃村に一家で移住し、田畑を耕し、詩の創作を中心とする執筆活動の日々を屋久島で送りました。2001年63歳で亡くなりました。

私が、山尾の作品を最初に読んだのは、琉球大学で五日間に渡って行われた講演を収録した「アニミズムという希望」(新泉社/新刊2750円)でした。そこから、彼の島での暮らしをテーマにした詩集を読んだのです。

今回、1987年に発表された詩集「びろう葉帽子の下で」(新泉社/新刊2860円)新装版発売記念企画として、直筆原稿、アメリカの詩人ゲーリー・スナイダー氏との対談時に写真家高野建三氏が撮影した写真などを展示します。出版社からはかつて発行された珍しい本お借りできました。(こちらは展示のみです)

また詩人の生誕90年記念出版として刊行された詩文集『火を焚きなさい』『五月の風』、そして詩集『新版 びろう葉帽子の下で』の装画を担当した画家nakabanさんの作品原画をしていますので、ぜひご覧ください。(一部販売もしています。)

「びろう葉帽子の下で」の中に「ことばー斎藤正子さんに」という詩があります。その後半をご紹介します。

「あなたはあなたで わたくしはわたくしで もろともに 本当に心から好きなことばを見つけて

そのことばを大切にし そのことばを生きてゆくのが人間であり 人間社会であると わたしは思います。

あなたはどんなことばが好きですか。」

ことばを大切に扱うことが、人間の基本だという詩人の考えが伝わる作品だと思いました。 

 

詩人・山尾三省 展は、8月5日(水)〜16日(日)13:00〜19:00 (10日・11日は定休日)


									

アラスカをメインのフィールドにしていた星野道夫が、一冊だけアフリカに出向いた時の体験を本にしたものが、「アフリカ旅日記」(メディアファクトリー/古書1100円)です。何故、アフリカタンザニアに出向いたのか。それは、チンパンジー研究の世界的権威のジェーン・グドールに会うためでした。彼女はタンザニアのゴンベ国立公園で、チンパンジーの研究・保護活動をしていました。

アフリカへ向かう機内で、星野はこう書いています。

「どれだけ多くの国に出かけても、地球を何周しようと、それだけでは私たちは世界の広さを感じることはできない。いやそれどころか、さまざまな土地を訪れ、速く動けば動くほど、かつて無限の広がりを持っていた世界が有限なものになってゆく。誰かと出会い、その人間を好きになった時、風景は初めて広がりと深さを持つのかもしれない。」

アフリカとアラスカの違いがあるとはいえ、生まれた場所を離れ、新しい土地で生きてゆくことの思いは同じだったはず。彼女を通してアフリカを知る、というのが旅のテーマです。

離陸に失敗した時のことを想定して、乗客全員を後部座席に移動させてから、なんとか離陸するという、とんでもない空の旅を経験して、彼はゴンベに到着します。ゲストハウスに案内された時、必ずドアを閉めること。そうしないとヒヒの襲撃、ヘビの侵入を許してしまう、などと都会人なら逃げ出したくなるような状況なのですが、星野は意に介していません。こうして、彼のゴンベの森紀行が始まります。

グドールと共に森に入り、ここで暮らすチンパンジーを観察し、アフリカの大自然を楽しみながら、自分がアラスカに魅了されていったことを語っています。彼が撮った写真も沢山収録されていて、そちらも楽しめます。

一方で、星野は、農耕・漁業で暮らすゴンベの人々の慎ましい日々にも視線を向けます。そして、道無き道の果てに広がる原野に生きるアラスカ先住民のことを思い出します。

「村の暮らしは急速に変わっていても、彼らを包み込む自然は太古の昔と何も変わっていない。つまり、もし明日から遠い昔に暮らしに戻ろうとすれば、何もかもが用意されているのだ。彼らはピラミッドも神殿も建てはしなかったが、自然を変えなかった。狩猟民が持つ自然観は、私たちが失ってきたひとつの力である。」

「狩猟民の自然観の喪失」は、星野がしばしば書いていたことです。

お知らせ コロナウィルス感染拡大の緊急事態下、これ以上感染者を出さないために、4月23日(木)より当面休業中です。予定しておりましたギャラリーの個展もしばらくの間お休みいたします。この「店長日誌」は毎日更新していきますので、読んでいただけたら嬉しいです。ご希望の本があれば、お取り置き、または通販も対応させていただきます。(メールにてご連絡ください。)

★★ 9日(土)午後1時より5時ぐらいまで開けています。ご用があれば声をかけてください。(次週からは、開店する日を増やす予定です)

東京で活躍中の写真家原田京子さんの『Spanish Sentiment & Ireland』が本日から始まりました。

2016年と2018年に、「Spanish Sentiment」と題して、スペインを旅した時に撮りためたという素敵な写真を飾っていただきました。この度3回目の個展では、スペインの明るい日差しの下、休日を楽しむ人々の姿を撮した八つ切大の写真に加え、アイルランドの広大な風景をセレクトしていただきました。

一日のうちに、晴・雨・虹・嵐と天気が変わるというアイルランド。ダブリンから船で渡ったイニシモア島で、写真家が夢中でシャッターを切った、その時の澄んだ空気を感じます。断崖の上空を飛ぶ鳥、波と風の音。中でも私が好きなのは、まっすぐに伸びた道と、その上に広がる大きな空の写真です。生きていくには厳しいに違いない荒涼とした大地、けれどそこにある明るい光は太古の昔から変わっていない恵みのようです。人の営みが愛おしくなる大自然の風景。

一方、スペインの街角の人々の生き生きとした表情にも心が動きます。老夫婦が一つの買い物袋を二人で持っている後ろ姿、車中ののんびりした時間、もの思う若い女性の横顔。どれも彼らにとって大切な一コマ。原田さんがこの写真展のために書かれた文章に「スペインとアイルランド。陽と陰のように違うこの二つの世界も、この地球の時間を同時に刻み続けている風景なのだ」とあります。

そして、「今、私達は世界規模で蔓延する目に見えないものの存在に翻弄されています。街から人の姿は減っても、この島は変わることなく風に吹かれ、潮の満ち引きや、太陽や月は世情に関係なく機能し続けている。撮影の地に思いを馳せて、この世界を遠くから眺めてみることも、心のバランスのために必要かもしれません。」と括っています。

世界中の街角に再び豊かなで幸せな風景が戻るように願ってやみません。この時期にも関わらず、写真展を開いてくださった原田さんに改めて感謝いたします。京都の街中の桜は満開です。お散歩がてらお立ち寄りいただければ幸いです。

写真は、すべて販売しておりますが、展覧会終了後に作家からお送りすることになります。(八つ切サイズ18000円・大衣サイズ25000円) 他にポストカードセット(2000円)があります。(女房)

原田京子写真展『Spanish Sentiment & Ireland』は3/31(火)〜4/12(日)

月曜定休日12:00〜20:00(最終日は18:00)

 

 

写真家ホンマタカシが、写真の歴史を楽しく解説した「たのしい写真-よい子のための写真教室」(平凡社/古書1100円)は、とても読みやすく、写真の奥深い世界を教えてくれる一冊です。

「よい子のための写真教室」とサブタイトルが付いていますが、子供向けの本ではありません。先ず、「写真」=「リアルな真実」というイメージに疑いを向けます。

「そもそもphotographという単語の語源に『真実』という意味は含まれていません。photo=光 graph=描く、あるいは画ですから、普通に言えば『光画』ぐらいの訳語が妥当でしょう。」

では、写真とは何か?ここからが、写真の歴史の始まりです。アンリ・カルティエ・ブレッソンの写真集のタイトルにもなった「決定的瞬間」。写真はその決定的瞬間を捉えてこそ芸術だ、という考えで、これが長い間、写真界の進むべき方向でした。しかし、70年代になると、小型カメラ片手に決定的瞬間とは違うやり方をする写真家がアメリカに現れます。ウィリアム・エグルストンはアメリカ南部の何の変哲も無い風景を写真に収めました。

ホンマ曰く「そこには決定的な瞬間がないのです。ただただ繰り返される凡庸な日常の光景があるだけです。」写真家が世界をどう捉えるかを巡って、様々なスタイルの写真家が登場してきます。

でも、評論家的解説にならずに写真を楽しみましょう、という態度で、面白く読めます。例えば、「ワークショップ篇」では、「今日の写真を読むためのワークショップ」という章があります。ここでは、

「あなたの好きな写真集の中から1枚の写真を選んで、それがどのように成立しているかを言葉で説明し、次いでその1枚と同じ構造の写真を撮影してください。」というトレーニングが用意されています。写真を見たときの何となく口にしがちな印象的感想ではなく、「1枚の写真を要素に還元して構造的に読み解いてみる」のです。具体的な言葉で1枚の写真の説明をする。その上で、写真を撮ってみることで1枚の写真の見方が違ってくる試みは面白いです。

また「<写真は真実だけではない>ということを意識するために、最初からウソを取り込んだ写真を撮ってみよう。」というトレーニングでは、何人かが、挑戦して撮った写真が掲載され、著者のコメントが付いています。これも読み応えあります。

最後の補習編では、作家の堀江敏幸との対談が掲載されていますので、堀江ファン必読です。面白く写真の歴史がわかり、もっと写真を楽しみたいと思わせてくれる素敵な一冊です。