おおよそ50号サイズの、正面を向いた牛(写真上)は、冨田美穂さんの木版画です。優しい瞳でこちらをみつめ、しっかりした足で立っている。揺るぎない確かなフォルム。力強く繊細な作品を見ていると、何というか、自分が今生きていることへの感謝というか、素直な気持ちになります。作家が、日々目の前にある仕事をこなし、大好きな牛を描き、生きている実感をもって出来上がった作品だからなのでしょうか。

この牛が搾乳された後のオッパイの作品も、横に並んでいます。我々が頂くお乳をしぼった後、ショボンとぶら下がっているオッパイの、体温を感じる肌色が美しい。京都の街などに住んでいると、牛を身近に感じる事はありません。小さな木版画の作品には、それぞれチャーミングな牛の表情がとらえられていて、驚きました。一頭ずつの肖像画のようで、牛への並々ならぬ愛情が感じられます。対象と真面目に向き合い、確かな技術力で、人の心に真っ直ぐに届く作品を作り続ける強さに、感動します。

冨田さんは武蔵野美術大学を卒業後、北海道へ渡り、酪農の仕事をしながら、牛の版画や絵画の制作をしています。レティシア書房で扱っていたミニプレス「シリエトクノート」の特集で、牛の等身大の木版画を見たときから、ぜひ実物を見たい!と思っていました。昨年1月個展をして頂いた、斜里町の絵本作家あかしのぶこさんのご紹介で、今回の運びとなりました。ひとのご縁が遠くから牛たちを届けてくれました。

冨田さんは、今年第20回岡本太郎現代芸術賞に入賞されました。4月に東京で作品展があったのですが、5月7日最終日には在廊してくださいます。木版画は、一部販売しています。

牛は、人間が肉を食べ乳を飲むために育てられます。冨田さんの木版画には、牛の耳についている「耳標」が描かれていますが、それは我々が頂く命の対する思いのようなものかな、とも思いました。そんな牛のことを書いた絵本「おかあさん牛からのおくりもの」(北海道新聞社1836円)も販売しています。ぜひ手に取ってご覧下さい。

優しい牛の顔を間近で、しかも本屋のギャラリーで毎日見られることができて、幸せ!です。(女房)

★冨田美穂「牛の木版画」展  4月25日(火)〜5月7日(日) 5月1日(月)定休日  最終日は19時まで

 

松岩達(文)、冨田美穂(絵)による「おかあさん牛からのおくりもの」(新刊・北海道新聞社1836円)が届きました。

当然ですが、日々口にしている牛乳、チーズ、バター等々は牛からの贈り物です。そんな牛たちを飼っている酪農家の毎日を追いかけた絵本です。牛をよく観察して描き込まれています。

この絵を担当した冨田美穂さんの個展が、来週火曜日から当店で始まります。東京生まれ、武蔵野美術大学卒業後、北海道に渡り酪農業に従事しながら、牛の木版画、絵画を制作されています。知床発のミニプレス「シリエトクノート」に掲載されていた作品に出会ったのをきっかけに、京都初の個展をしていただくことになりました。

リアルな牛の作品を制作されていて、右の作品展のような大きなものが特徴的です。こんな大きな作品、小さな本屋のギャラリーに飾れるの?と思いましたが、今回は、中サイズと小サイズの牛が並びます。

絵本では、反芻する牛とか、牛舎のお食事タイムとかに描かれている牛はリアルであり、また愛嬌たっぷりです。生まれてから、最後に屠殺場に送られるまでの牛と農場との生活が解りやすい文章で書かれています。小学校中学年以上に向けられて書かれた本ですが、大人にも読んでもらいたい内容です。

子牛は、生まれて14ヶ月程で、オッパイが大きくなり、発情期を迎えます。そうすると酪農場に人口授精師が来て、人工授精を行い、赤ちゃんを生ませます。そしてお乳が出ます。そのお乳を分けてもらっているのが私たちです。因みに酪農場にオス牛はいません。彼らは生まれた後、肉牛牧場に引越して、牛肉になるために育てられます。何度かの妊娠後、雌牛は、「おつかれさま」という言葉と共に解体牧場に運ばれていき、加工用の肉にされます。我々は、牛乳から、お肉まで牛にお世話になっているということです。

 

 

そんな牛について、冨田さんは、「初めて間近に見た牛は、とても大きくて。あたたかくて、ふわふわしていてとてもかわいいものでした」と語っています。そして、酪農家が大切に育て、獣医さん、授精師さん、工場の人達など多くの人が誇りを持って働いている姿をしってほしい。食卓に並ぶ肉や、牛乳のことを知ってほしい、とこの本ができました。

個展最終日の5月7日(日)には、知床から作家が来廊予定です。動物好き、北海道好きの方、彼女とお話してみてはいかかでしょうか。東京から北海道に住まいを移し、牛を見つめて暮らしている彼女のハートウォーミングな眼差し溢れる作品展に、ぜひお越しくださいませ。

★冨田美穂「牛の木版画展」 4月25日(火)〜5月7日(日) 月曜定休日

「ぼくらは知床(ココ)に暮らしている。あかしのぶこ 動物たちの肖像画展」(17日まで)には、関西出身のあかしさんの京都での初個展ということで、連日お知り合いの方々が、見に来て下さっています。

京都在住Yさんは、1年半前に南から北まで日本縦断旅をして、網走で出会った「はぜや珈琲」さんの所から、あかしさんのDMを送ってもらったのだそうです。親切にしてもらった北海道の人達との思い出、旅はとても楽しくて、そこで仲良くなったお店からの紹介なんて、それこそご縁ですね〜、と色々お話してしまいました。京都だから行ってみてあげて、ということだったのでしょうが、15日、在廊していたあかしさんと初めて会われて、北海道のことや制作についての話で盛り上がっていました。北海道はぜや珈琲さんのコーヒーはどうも絶品らしい。ぜひお訪ねしたいです。

そしてもうお一人は、今回の個展に一緒に出店してくれた「メーメーベーカリー」さんのパンを買いに来られたNさん。メーメーさんのパンは初日に完売してしまい、もう一度送ってもらったのですが、13日に着くや否や予約でまた完売してしましました。Nさんからは「なんでもいいから取っておいてください!!」と前日にお電話頂きました。「お知り合いですか?」と聞いたら、なんと昨年、旅先の斜里町のメーメーさんまでパンを買いに行ったのに売切で涙をのんだというのです。そうしたら、メーメーさんのTwitterで、今回京都で買えるのがわかり来ました、ということ。やっと会えた!!って感じで、なんかこちらまで嬉しくなりました。

昨日の夜、店内であかしのぶこさんのトークショーを開催しました。京都で生まれ、育った彼女が何故、知床に魅了されたのかというお話から始まって、絵本を書き出した時のこと、知床で知り合った自然財団にお勤めのご主人との生活、絵本への思いなどを参加された十数名の方に向かって、i-padを左手に、絵本を右手に1時間程お話いただきました。

中でも知床の流氷にまつわるお話は、興味深いものでした。シャチの一団が流氷に囲まれて身動きが取れなくなって、死んでいった後、解剖のため陸上げした写真で、その大きさに圧倒されました。海の王者の貫禄です。或は、流氷の上にいたオットセイが、どういう訳か、海に向かわず、山の方へ向かって動きだし、そのままでは死んでしまうので捕獲して、海に戻した話とか、北の大地で繰り広げられる自然の営みの不思議さに引込まれた楽しい時間でした。

この地方では、昔、アザラシが山を越えていったという伝説があるそうです。何を思って1700メートルの険しい山を越えたのでしょうか?ヘミングウェイの「キリマンジャロの雪」に、その頂き近くで、力尽きて死んだ豹の亡骸があるというストーリーだ登場します。豹が何を求めて頂上を目指したのか、誰も知りません。同じように、知床山系の険しい山の頂上に、アザラシの亡骸があったという空想の世界を楽しんでみたいものです。

北海道知床、って京都から随分遠いと思うのですが、つながっているな、と感じます。あかしさんの個展のきっかけは「シリエトクノート」というミニプレスだということは、前にも書きましたが、面白い出会いをたくさん頂き改めて感謝です。

そして、今度はあかしさんの紹介で、版画家、冨田美穂さんから、レティシアで個展をしていただけそうなメールが届きました。彼女は等身大の牛を木版で制作されていて、「シリエトクノート」に載っていた時、一度見てみたい!と思っていました。大きな牛が果たして本屋の壁を飾ってくれるのかどうか、定かではありませんが、念ずれば通ず。というわけで、まだまだ、北国とのお付き合いは広がりそうです。(店長&女房)