西村ツチカの「北極百貨店のコンシェルジュさん ①」(小学館/古書500円)は、来場するお客様がすべて動物という奇妙な百貨店で、個性的なお客の相手にする、新人コンシェルジュ秋乃さんの毎日を描いたコミックです。

問題を抱えたお客たちと秋乃さんの交流の物語で、優しいタッチで多くの動物たちが登場します。少女マンガらしい世界なのですが、オチが見事なのです。全5話収録されていますが、その主人公たちはすべて絶滅してしまった動物達です。

第一話「笑うお客様」に登場するフライフクロウは、こう書かれています。「フライフクロウ ニュージーランドに生息。体長40cm。高笑いのような鳴き声が特徴。1914年、サウスカンタベリーでの目撃記録を最後に絶滅。」

この百貨店にはVIPならぬVIAというランクのお客様がいます。VIA=Very Important Animal,即ち絶滅種の動物達なのです。

第二話は、1880年代に棲息地だった北米から姿を消したウミベミンク。第三話には日本オオカミが登場します。これ、オスのオオカミが慕うメスオオカミとの恋物語になっています。

「ニホンオオカミは古代から社に祀られる信仰の対象であり、多くの民話が残されている。くわしい生態は不明のまま1905年に絶滅。」

百貨店スタッフの協力で、VIA待遇の二匹、いやお二人はゴールインとなります。しかし、そんな情景をここに勤務する外商マンが吐き捨てるように、「ふん、よってたかって絶滅種の恋路に介入して、人工繁殖もかくやとばかりの造物主きどりですか。」と言い放ちます。

可愛らしいキャラが登場するコミックでありながら、人間が滅ぼしてしまった動物たちへのレクイエムを随所に散りばめた作品です。なお、このマンガは現在「ビッグコミック」に連載中です。

西村ツチカは、短篇集「西村ツチカ作品集 なかよし団の冒険」で文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞後、着実にファンを獲得している作家で、この本の帯には、松本大洋、恩田陸の人気作家が賛辞を書いています。

ニホンオオカミといえば、古代から社に祀られる信仰の対象であったニホンオオカミの、護符をめぐるノンフィクション「オオカミの護符」(小倉美恵子著 新潮社/古書900円)は、映画「オオカミの護符ー里びとと山びととのあわいに」のプロデューサーである本人が書いた、オオカミ信仰にまつわる傑作です。こちらもぜひどうぞ。

 

  ★お知らせ★

  レティシア書房 第5回「女子の古本市」2/21(水)〜3/4(日)

京都・大阪・兵庫・滋賀・岐阜・東京などから、出展者が女性という古本市です。お買い得の面白い本を見つけて下さい。

 

 

 

数年前、川端御池近くのギャラリー「nowaki」で、不思議な作品展に出会いました。

身の回りにある紙(新聞紙や広告紙など)を使って、動物、虫、絶滅した恐竜などをかたち作り、セロテープでグルグル巻いて、完成させるというもの。制作していたのは、植田楽(うえだ・ひらく)さんでした。あまりの面白さにその時「トナカイ」を購入して、店に飾っています。

今回、彼の作品を一同に集めた作品集「ずかんをひらく」(1080円)が入荷しました。タイトル通りに図鑑風に作られています。ページを開けると、恐竜編がスタートします。”暴君トカゲ”ティラノサウルスが登場。映画でもよく見かけるいかにも悪役づらしたあいつですが、すっくと立って、なかなかの男前。植田さんのコメントで「強そうな歯が特徴なので、一本一本、強度や曲がり具合もリアルに表現しました」というコメントが書かれています。

恐竜達に続いて、古代に絶滅した動物達が登場します。ダチョウのような「ジャイアントモア」。ユーモラスなスタイルが特徴的です。どの作品にも、図鑑のような解説が付いているところがミソですね。

そして、現代の動物。「忠誠心が強く、古くからチベットの牧畜民が牧羊犬や番犬として飼育してきた」チベタンマスティフという大型犬は、実物そっくりです。作者曰く「タテガミのフサフサ感を黒色で出すのに、苦労しました。ティッシュを丸めてふわふわ感を出しました」とコメントされています

植田さんが、紙とセロテープで作品を作り始めたのが6、7歳ごろ。最初に作ったのがボールとバット。私もボールなら作った経験がありますが、ここから先がアーティストとの違いです。10歳のころから動物の制作を開始し、市販されているフィギュアにないような無名の動物達の作品作りへと向かいます。彼は、新しい作品を制作する時、図案を描かずに、いきなり作り始めるというのが驚きです。設計図なんてなくても、きちんと立っています。

本の出版に合わせて、何点か作品を販売しています。お気に入りがあれば、ぜひ。(写真の作品はすべて販売中。7000円〜)

 

古書店では、現役の作家が隅に追いやられていることがあります。でも、先人の作家達に負けない素敵な小説はもちろん沢山あります。

小川洋子もそんな一人。大ヒットした「博士の愛した数式」は、ラスト、マウンドに立った江夏で幕を閉じますが、何度読んでも泣けてきます。近年の幕切れベスト10に入れたい作品です。

さて、彼女が様々な動物を登場させた「いつも彼らはどこかに」(新潮社900円)は、上手い!!としか表現できない短篇集です。動物が出るからって、大切なペットとの涙の別離などという設定のお話はありません。

例えば、「愛犬ベネディクト」。犬は犬でもブロンズでできたミニチュアの犬です。殆ど外出しない少女と、ベネディクト、そして少女の兄を巡る物語です。ギャンターグラスの「ブリキの太鼓」を小道具として使ったラストは、まるでベネディクトに、命が宿っているみたいでした。

また、「帯同馬」に登場するのは、名馬ディープインパクトですが、これも、ちらっとTVに出るだけ。それ以外では、主人公の女性が通勤に使うモノレールから見える競馬場の遠景のみが馬に関連する場面です。

あるいは、「ビーバーの小枝」では、ビーバーの頭蓋骨がでてきます。小説家の女性が、自分の本を翻訳してくれた男性の死を知り、彼の家を訪ねた数日間の出来事を描いていきます。頭蓋骨はその翻訳家からのプレゼントでした。何故、そんなものを贈ったのかを、小説家は理解していきます。そして、森の何処かに住むビ−バーを想い、こう綴ります

「森のどこかでビーバーが自分の棲みかをこしらえるために、太い木と格闘している。自分に与えられたささやかな歯で、諦めることも知らないまま幹を削ってゆく。不意に、その瞬間はやって来る。一本の木が倒れる。地面の揺れる音が森の奥に響き渡る。しかし誰も褒めてくれるものはいない。ビーバーは黙々と労働を続ける。」

そして、自分の仕事に向かう・・・・鮮やかなエンディングです。

装画は、様々なジャンルで活動するD[di:]。素敵な表紙です。(右写真は彼女の作品)

レティシアの書架を見ると、文庫、ハードカバー共、小川洋子の作品が少なくなってきました。最近、読んでいないのも多くあるので、充実させていくことにします。

棚からうさもちさんの作品展「うさぎがたり」で展示販売されている、うさぎ達が、どんどんと新しいご主人の元へ旅立っています。(3月15日まで 当書房にて)

「うさぎの旅立ち」と言えば、一冊の本と、その原作を映画にしたアニメと、音楽を思いだします。

リチャード・アダムス原作「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち上・下」(評論社800円)です。

野うさぎを主人公に描いた児童文学作品で、タイトルは英国ハンプシャー州にある丘の名前にちなんだもので、著者自身が育った場所です。この物語に登場するうさぎ達は、高度な知性を持っています。彼等の生存のための闘争が展開される、壮大な英雄物語と言っていいでしょう。スリリングな展開にワクワクさせられます。それが、アニメ化され、確かアート・ガーファンクルが、メインテーマを歌っていましたっけ。一時、部屋のこのオリジナルポスターを貼って、サントラを聴いていました。

 

もう一冊、素敵な動物が登場する小説が出てきました。シーラ・バーンフォード作「信じられぬ旅」(集英社200円)です。このタイトルでは、お分かりならない方でも、「三匹荒野を行く」といえば、「あ〜!あのディズニーの映画か!」と思いだされるかもしれません。これ、二匹の犬と一匹の猫が、危機また危機を突破して、飼い主の元に戻ってくる物語ですが、犬と猫が一緒に旅をする、まさに「信じられぬ旅」です。

著者は後書きでこう書いています。

「動物達の本来の行動をあるがままに記し、犬や猫に余計な人間的感情を持たせず、つまり人間臭くない動物達の姿を描く」

人間寄りの物語を構成していないからこそ、いつの時代の人が読んでも感動するのでしょう。

人間寄りの思い上がりや、過剰な愛情を排して、捨てられた犬たちの現状とレスキューを描いた、第一線の児童文学作家、森絵都の「君と一緒に生きよう」(毎日新聞社700円)の本の扉には、こんな文章があります。

「愛がなくては始まらない 愛だけでは守れない」

この冷静な立ち位置が大事なことではないでしょうか。

 

講談社が昭和53年から発行を開始した「世界動物文学全集」が、ある市でミカン箱に入って売られていました。今西錦司、戸川幸夫、中西悟堂という動物学の権威三人による監修で全30巻を刊行!第一巻は、「ボーンフリー♫」の名曲で映画化されたジェイ・アダムソンの「野生のエルザ」とパウル・アイバーノ「いとしのゼンタ」という犬の話と、ロバート・マーフィー「雁よ愛に羽ばたけ」です。後者はアメリカの大自然の驚異と畏敬の念が色濃く出た文学で、ずっーと雁を見守り続けて来た孤独な少年が、旅立つ雁と別れるラストは、動物文学の典型です。

中に入っているチラシを見ていると、よくもまぁ集めたものだと編集者の努力に頭が下がります。

キプリング「ジャングルブック」、ジャック・ロンドン「野生の叫び声」、バイコフ「偉大なる王」等の、傑作をはじめとして、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」に影響を受けたと評価されたロバート・マーフィーの「滅びゆく川の物語」という、自然保護へ市民が参加することを後押しする作品も収録(4巻)されています。

第4巻の巻頭を飾るのは、ウォルト・モーレーの「熊と少年」です。少年と熊の友情を描いた小説で、60年代後半、アメリカでTVドラマ化された「クマとマーク少年」が放映されて、日本でも話題になりました。舞台は開発前のアラスカ。著者のモーレーはアラスカの荒涼たる大自然を心から愛しており、「そこでは何日旅を続けようと、誰一人、人間に会うことがない。静寂は計り知れぬほど深く」と書いていて、なんだか、星野道夫の文章を読んでいるみたいです。

さて、この手の動物文学ものは海外がお得意なのかもしれませんが、河合雅雄の「少年動物誌」(福音館・初版800円)はお薦めです。京都大学霊長類研究所教授の著者が、少年時代に丹波篠山の山間で体験した動物とのふれあいを、簡潔な文章で描いた一冊です。宮沢賢治の優れた小説がそうであったように、雑木林物語とでも言うのでしょうか、人間の生活するすぐ傍で続く動物の生の営みという視点が、海外の大自然を舞台にした動物文学とは全く違います。

 

「世界動物文学全集」は取りあえず、1巻と4巻のみ持ち帰ってきました。各巻700円です。

 

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