これ、北海道東の標茶町から根室海峡に向かって流れるポー川のカヌー体験中に、川の様子を表現した子供の声です。詩人ですね。

平均年齢60歳を過ぎたガイドが、この川でのカヌーの指南役です。「京都や大阪はオーバーツーリズムと言われるほど、観光客が多い。その分失われてしまった自然環境もある。環境と観光は共存しなきゃ。標茶湿原の自然を守りながら、魅力を伝えるのが私の使命」とはガイドの井南さんの言葉です。

北海道発の雑誌「スロウ」最新号の特集は、カヌーで辿る川のはなし」(990円)です。登場するのは、士別市の天塩川、中頓別町の頓別川、根室市のオンネベツ川、釧路市の釧路川、苫小牧市の美々川そしてポー川です。それぞれの川で、カヌー体験の楽しさを教えています。鬱陶しい梅雨時に、川とその流域に広がる自然を捉えた写真など眺めるのはいいですよ。

私も何度か釧路周辺でカヌーに乗せてもらいましたが、船が進んでいるというよりは、川が運んでくれる感じでした。この特集は、そんなカヌーの魅力が満載です。

ところで、松浦武四郎という人をご存知ですか。それまで蝦夷地としてしか認知されていなかったこの土地を北海道と命名した人物です。幕末から明治にかけて、アイヌの人たちと交流し、この地を探検しました。1857年、松浦はアイヌ人が提供してくれた丸太船に乗って天塩川流域を調査しています。その中でアイヌの人々の暮らしを見つめ、和人とアイヌとの共存を図ろうとしますが、時の政府と対立し、スポイルされてしまいました。本書には天塩川と松浦の関係を追いかけた小特集も載っています。

また、現在店内で実施している「LIXIL出版BOOKLET最終フェアー」の中に「幕末の探検家松浦武四郎と一畳敷」(1650円)という傑作があります。魅力的な松浦の人間像がわかります。

★HP内で紹介している本は全て通販可能です。まずは、メールinfo@book-laetitia.mond.jpまでご連絡ください。

神田日勝は、1937年東京に生まれました。4歳の時、日本は太平洋戦争に突入します。そして、45年3月東京大空襲、この年の8月戦災者集団帰農計画に基づく拓北農兵隊に応募して、北海道へと入植します。ここから、一農業従事者としての苦難の道が始まります。趣味として絵を描いていたものの、青年期の彼は農業こそ自分の生きる道だと思っていました。が、19歳の時に描いた「痩馬」という作品が注目を浴び、画家への道が開いていきます。

私が彼の作品を知ったのは、TVの「日曜美術館」でした。その時に見た馬の作品は力強さに満ちていて、記憶に残りました。

北海道新聞社発行の「神田日勝 北辺のリアリスト」(古書1100円)を入荷しましたのでご紹介します。彼が生涯描き続けた馬が何点か収録されています。道産子らしい太い足と優しそうな目の馬の作品と共に、1965年に発表した「死馬」という、個人的に傑作だと思っている作品も収録されています。体を丸めて永遠の眠りについた一頭の馬。人間の過酷な労働の手助けをしてきたのでしょうか、足元には太い鎖が見えます。共に生きた馬への哀悼が感じられる作品です。

一方で、厳しい自然に抗うように生きる人たちの姿を静謐に描いた「飯場の風景」のような作品も見逃せません。そんな彼が、魅入られたように色をふんだんに使い鮮やかに描いた「画室」(1966年)なんて作品のポップな感覚は、重く沈み込む馬の作品群とは全く正反対です。

 

 

しかし、1970年の夏、神田は32歳の短い生涯を終えました。死の少し前、彼はこんな言葉を残しています。

「結局、どう云う作品が生まれるのかは、どういう生き方をするかにかかっている」

生きることと描くことが同次元にある、リアリストならではの力が作品の隅々にまで行き届いているからこそ、私たちは感動するのだと思いました。

余談ですが、昨年末個展をしていただいた北海道在住のあかしのぶこさんにもらった、お土産のクッキーは、神田日勝の絶筆である「半分欠けた馬」のデザインでした。北海道の人々に愛されているんですね。

 

★連休のお知らせ 1/20(月) 1/21(火)連休いたします

★1/22(水)〜2/2(日) レティシア書房冬の古本市プレ企画「こんな本が揃いました」展

★2/3(月)2/4(火)古本市準備のため連休いたします

★2/5(水)〜2/16(日) 恒例となりました女性店主による『冬の古本市』を開催します。今年も神戸・大阪・岐阜・東京・御殿場・京都などの女性店主の選書です。ぜひお立ち寄りください。


 

 

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あかしのぶこさんは京都生まれ京都育ち。二十年以上前に北海道に渡り、現在は知床の斜里町在住で、福音館書店「こどものとも」「ちいさなかがくのとも」などの絵本を描いていらっしゃいます。レティシア書房では2回目の個展になりました。

新作「ふぶきがやんだら」を見せていただいた時、これは北海道の厳しい寒さを知っている人だからこそ出来上がった絵本だと思いました。吹雪の間、人も動物も動き回らずに風雪をしのぎます。あかしさんは絵本の折り込みで、「この吹雪をどうにかやり過ごそうとしている森の動物たちも、私も、吹雪の前では同じ一匹の生き物なのだ」と書かれています。京都に住む私には想像しても追いつかないような自然の厳しさを、あかしさんの絵から感じます。そして嵐が止むと、みんなほっとして大喜びで出てくるのですが、その幸せが、また絵本から溢れます。

「じーっとじっと」という絵本は、お母さんウサギが出かけている間、じっと待っているウサギのきょうだいのお話。その草むらの生き生きとした植物や動物や子供達の表情などが、優しく暖かなタッチで描かれています。

原画は他に「もりのみんなのやまぶどう」「ねむたいねむたいももんがたち」が並んでいます。どれもあかしさんの身近な世界が、素朴で、可愛く力強い絵で表現されています。絵本もいくつか販売していますので手にとってみてください。他にポストカード(100円)エコバッグ(550円)などもあります。初日は知床のパン屋さん「メーメーベーカリー」からパンとシュトーレンが届きました。

あかしさんは、絵本の原画展としては北海道の図書館などで行われていたようですが、京都で彼女の原画を見る機会はあまりないと思いますので、ぜひこの機会にご覧いただきたいと思います。レティシア書房の今年最後のギャラリー企画展になります。(女房)

あかしのぶこ「えほんのえ展」は、12月11日(水)〜28日(土)12:00〜20:00月曜定休日

レティシア書房は、28日が今年最後の営業日です。

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北海道発の雑誌「スロウ」の最新号は特集「パンは語る」です。北海道のパン屋さんの記事読んでも、買えない…..。その通りですが、登場するパン屋さんの話がとても面白いのです。

「自家製酵母」でパンを焼いているパン屋さんが、数件登場します。道東の清里町、Luna Liena/ルナ・ジェナの藤原世利子さんは岡山県出身。彼女が北海道でパン屋をやるまでのプロセスは、映画みたいに波乱万丈なので本誌をお読みいただきたいと思うのですが、彼女がパン作りに目覚めたのは、2008年。偶然手にした「秘伝 自然発酵のパン作り」という本との出会いでした。ここから発酵の魅力に取り憑かれた彼女は、2007年地元岡山でパン屋を開業。そして2015年、「広いところに行きたかったから」という理由で北海道に移住し、開業しました。

酒蔵のように、その家ごとに異なる菌がいて、作る側にもそれぞれ異なる菌がいます。だからこそ自然発酵のパン種で仕込むパンは、その家の味へとなっていきます。

「目には見えないけれど、菌はあちこちに存在しています。彼らと助け合いながら、共に生きているんです。それを忘れないでいたいと思います」と彼女は言います。周囲の環境、そこに生きる動植物、そして菌たちと繋がっている。そんな中から、ほっこりとさせてくれるパンが出来上がっているのです。

北海道西南の伊達市にある「てんねんや」の林れいかさんは、埼玉県出身。自家培養の天然酵母を幾度か代替わりさせながら、天然酵母でパンを焼き続けて15年。使用される小麦はほぼ100%北海道産、全粒粉やライ麦は、無農薬無化学肥料で育った地場産ものをメインにして、ナチュラルでシンプルな味わいのパンを作り続けています。

「この先、どんな時代になったとしても、子どもたちには何があっても生き抜いていける強い身心を持って欲しいから、生命力に満ちた『本物の食べ物』を残してあげたいと思うんです」と、二人の子供を育てるお母さんらしいメッセージです。

特集は、こんな風にそれぞれの人生の中でパンに出会い、パン屋を営む人々の姿を紹介しています。パンの消費量日本一を誇る京都人なら、この特集を見逃すことはできません。写真もとても素敵で、あれも、これも買いたくなってきますよ。ちょっと遠いけど…..。

10月26日の土曜日、カメラマンでネイチャーガイド、釧路湿原のペンション「ヒッコリーウインド」のオーナー安藤誠さんのネイチャートークを開催しました。レティシア書房では毎年秋の恒例のイベントになりましたが、徐々に参加者が増えて、店内ではゆっくりしていただくことができずに、昨年と同じく南隣のM商店様の店先をお借りしました。この時期にしては暖かく、開けっぱなしでまるで野外の上映会のようで、和やかな雰囲気でした。

例年なら安藤さんのワンマンショーなのですが、今回は、ヒッコリーのスタッフでガイドの山田佳奈さんと、映像スタッフの小川浩司さんが参加され、今回のツアーへの思いなどを話されました。そして安藤さんが、自身の最新の写真や映像を中心にして北海道の自然について講演しました。その中に、一匹のキタキツネが登場します。精悍な面構えで、撮影者にふと向けた視線に感動しました。北の大地の厳しい自然にたくましく静かに生きる姿が捉えられていました。また、スローモーションで映し出された雪の中の丹頂鶴のダンスシーンは、息を飲むような美しさでした。

彼の撮影した動物たちの表情、特にその視線は「あなたたちは何ができるのか」と訴えているように感じることがあります。動物たちは愛嬌があり、可愛らしさ、美しさに満ち溢れています。しかし、彼らの住む環境は破壊され、住処を追われ、クマなどは害獣として駆除されてしまうのが現状です。そんな世界であなたたちはどう生きるのか?と問いかけられているように思うのです。

野生動物のことを考えることは、環境問題だけでなく、社会のあり方、一人一人の生き方などを、今一度考えることになってきます。当店でも、本をお渡しする際のビニール袋の使用を少しでも減らすために、お客様には、袋が必要かどうかお聞きしています。また個人的には、ペットボトルの飲料をなるべく買わないように心がけています。たったそれぐらいですが、彼らの視線にほんの少しは答えられているかと、気休めですが思っています。

安藤さんは、面と向かって自然保護や環境問題のことを口に出しませんが、撮影した写真の背後にはそんな思いもあるのではないかと思います。夢は、ネイチャーガイドのことをきちんと(そして格好良く)紹介できるドキュメンタリー映画の製作とか。今回の映像から、その夢の実現は近いと思いました。ぜひ見せてください!

これ、北海道苫小牧で古本と雑貨を扱う「じゃんまめ書房」とブックカフェ「豆太」の店主黒谷真澄さんが宝物にしている言葉です。

彼女は大学時代に福祉を専攻して、人形劇などを通じて子供達に物語を伝えてきました。そして、語りを中心に絵で補足する”絵話"という手法を思いつきます。試しに、知り合いの小学4年生の男に子に語った時に言われたのが、冒頭の言葉でした。「小手先で何かしようとしたりウケを狙ったり、子どもだましじゃダメ」ということを痛感させられたと言います。真剣に物語を伝えてゆくことを通して「人間にとって一番大切なものが、ここ(物語)にあると思う。そして、(この店が)物語を共有できる場所であれたらいいな」と語っています。

退職したら二人で本の仕事をしようと夢を語り合っていた夫が、2014年突然の病でこの世を去ります。その三年後、彼女は書店をオープンします。ドアを開けると、古い机に椅子、本棚が迎えてくれます。幅広いジャンルの本を眺めながらコーヒーを飲めるという、本好きにはたまらない空間です。

北国のこの素敵な書店を紹介しているのは、雑誌「スロウ」の最新号(905円)です。掲載されたお店の写真を見ていると、何時間も居たくなる空間です。

 

「本の中に物語があると同様に、一人ひとりの中にも物語がある」

来店するお客様と話をしていると、その人の物語に一瞬触れるときがあり、それを実感すると話されています。小さな店が存続するには、いろんな物語が集まって、心地よい雰囲気がなければならないのです。「魂が入っていない」と、いい物語も紡ぐことはできないのかもしれません。 「本が、ここの雰囲気を作ってくれている」という彼女の言葉は、よくわかります。うちの店も私が作っているのでなく、本たちが作っているのです。苫小牧まで飛んでいきたい気分になりました。

今回の「スロウ」には、以前ギャラリーで展示をした「茶路めん羊牧場」も取り上げられています。ここの牧場産のフレッシュなラム肉が紹介されています。

 

 

昨日(10月27日土曜日)は、北海道のネイチャーガイド安藤誠さんのトークショーの日。毎年この時期に釧路から、いつものように大きなバンに一杯荷物を積んでご来店…..と、思っていたら、午後4時頃、爆音を響かせた派手なバイクが店の前に止まるではありませんか。バイクで北海道を発って、各地で講演しているという噂は聞いていましたが、オイオイ、ホンマに来た!バイクにはてんで興味がない私には、性能とかスゴさなど全くわかりませんが、さあこの写真をご覧下さい。

午後7時ちょうど。トークショーの安藤節は、いつもにもまして快調に始まりました。

「アラスカには二種類の人間しかいないと言われています。一つはチーチャコ、もう一つはサワドゥ。前者の意味は、アラスカ生活1、2年でギブアップして逃げる、いわば根性なし。後者は、アラスカ在住10年以上の、ホンモノ」。毎年オーロラツアーを率いて訪れるアラスカの話から、30年ぶりに買ったバイクのこと、そして北海道、アラスカの自然の話へと移っていきました。

可愛らしいキタキツネや、円満夫婦のエゾフクロウ、そして、昨年のトークに登場した知床の兄妹クマが独立し、妹クマがお母さんになった写真などが映し出され、大自然に生きる彼らの豊かな表情に、参加者から、歓声やら溜め息が上がりました。どの動物達も素敵でしたが、アラスカで撮影されたエリマキ雷鳥の求愛の姿が、特に印象に残りました。

欲望に取りつかれた奴、権力の溺れた奴など腐敗した輩がインチキ政治を行っている今の時代の危うさを憂い、しかし、私たちはそんな輩に騙されないようにするために、インチキもヤラセもない自然をしっかり見つめることが大事なことだと力説されました。

後半は、ミャンマーに行った時に撮影した写真をもとに、この国の人々の姿や、市場の風景、漁師さんの日常などの話へ。生活水準は日本の100年前かもしれないが、スマホのおかげで最新情報は獲得しています。生活も日常もすべてネット社会に組み込まれてしまった我が国とは違い、自然は保たれ、昔ながらのゆっくりとしたペースの生活で、最新情報にアクセスして、新しい知識を吸収しているミャンマーが、これからどんな人間を輩出してゆくのか興味あるところです。

そして、アメリカスミソニアン博物館主宰のネイチャーズベストフォトグラファー動画部門グランプリを受賞した、安藤さんの動画を鑑賞して、今年の会は終了。ぜひ冬の北海道へ行きたい!!と、参加者全員が思った事でしょう。(特に私)ごく内輪で遅い晩ごはんを食べ、クマ男は爆音を響かせ次の地へと向かいました。

 

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1962年5月15日、文学者串田孫一は旅に出ます。

「北海道へ、雨の中の出発だった。 昨夜荷造りをすっかりすませてから、山靴に油を塗った。尾をピンと立てた鷦鷯の印のついているイギリス製の油をたっぷり塗ったその靴をはいて、荷を担ぎあげると、気分はここで笑いたくなるほど明るくなった。音のない細かい雨が降っている。」

上野から夜汽車に乗り、北海道へ。この旅の全貌を、その日その日の日記と、友人に宛てた手紙形式で描き綴ったのが「北海道の旅」(筑摩書房/古書1900円)です。二百数十ページに渡って詳細に旅で出会った風景、人々のことが書き込まれています。串田は写真撮影が苦手と断った上で、知人の三宅修が撮影した北海道の写真が、何カ所かに渡って挿入されていて、当時の北海道の姿を見ることができます。

「その冷たい、紫の山から吹いて来る風をいっぱいに吸い込んで、昨夜の朝からの汽車と船との旅で、体の中に重たくよごれて留まっている感じの空気と交換する。」青函連絡船が函館に近づいた夜明けに、旅への期待を美しい文章で表現しています。

串田孫一は哲学者であり、思索者であり、随筆家で、詩人で、登山家でもありました。代表作「山のパンセ」に見られるように、山を歩きながら思索をめぐらせ、味わいのある随筆を書いていました。旅の記録に徹しながらも、瑞々しい感性の文章は、読みやすく、この「北海道の旅」も彼が見た北海道の自然が目に浮かびます。当時、空の旅なんて論外で、鉄道網もまだまだの時代です。ゆっくりと進んでゆく汽車や船のテンポが心地良くなってきます。

「出帆の時刻が来ても船は少しもそんな用意をする気配はなく、切符売場に行ってみると、お客が少ないので、一番小さい船が湖の向こうから戻って来るのを待ち、それに乗ってくれと言われました。その一番小さい船が湖上の霧の中からぽつんと見えてきました。そしてそれが船だと分かるまでに十分、この桟橋に着くまでにまた二十分かかりました。」

このゆったりした感覚は、今の旅にはありませんね。また、とある宿屋で珈琲を出してもらったところ、珈琲色に煮出された紅茶でした。「この煎じ茶のような紅茶を飲みほすのには、勇気だけではだめだった」とユーモアで括っています。

万事この調子で、「こういう旅ではあまり強い、烈しい感動をいちいち期待してはいけないので、むしろ旅心淡々、ねむくなれば車窓に凭れ、風に吹かれてうとうとしたって構わないし、そんなに緊張を続けていたら疲れてしまうでしょう」と旅の極意をサラリと書いています。

こんな感じで旅は続くのですが、一カ所だけ怒りを爆発させています。それは十勝岳に登った時の事です。そこに「第十普通科連隊重迫中隊登山記念、三六、九。四」と自衛隊登山記念の碑が立ってあるのを見て、その無粋な感覚、みっともなさに怒りをあらわにしています。山を愛する者として、軍隊の暴挙は許せなかったのでしょうね。

慌ただしい今を生きる私たちは、このように長い時間をかけてゆっくりと旅なんてなかなか出来ないですから、この本で旅心を少し味わってみて下さい。

 

昨夜、北海道のネイチャーガイド&ペンション「ヒッコリーウインド」のオーナー安藤誠さんをお迎えしました。毎年、秋には釧路を出発して、札幌、東京、大阪など依頼のある所で、北海道の自然や魅力について、伝道師のように講演されています。当店でのネイチャートークは、今回で6回目。つまりレティシア書房開店以来、毎年開いています。お会いする度、私とは大好きな音楽談義で盛り上がります。安藤さんは写真家としても活躍されているので、美しい写真を見ながら、クマとの超接近遭遇の驚きの話など、14人のお客様(小さな店は満杯です)とともに時間を経つのを忘れて聴き入りました。

彼の来店に合わせてというわけではないのですが、北海道関連の、特にアイヌ民族関連の本で面白そうなものが入荷しました。岡和田昇&マーク・ウインチエスター編集による「アイヌ民族否定論に抗する」(河出書房新社1500円)、杉山四郎「武四郎碑に刻まれたアイヌ民族」(中西出版1200円)です。

前者は、2014年、札幌市議会議員、金子やすゆきの「アイヌ民族なんて、いまはもういないですよね。せいぜいアイヌ系日本人が良いところですが、利権を行使しまくっている」というネット上での発言が引き金になって、アイヌ差別発言の嵐が吹いていることへの異議申し立てを、香山リカ、池澤夏樹、寮美千子、当店でも個展をしていただいた版画家、結城幸司さんなどが、それぞれの立場で意見を述べたものを編集したものです。

北海道出身の精神科医、香山リカは、この発言の後、エキサイトするヘイトスピーチには、アイヌと申告する人へのDNA鑑定の義務付けを主張した輩がいることに愕然としました。これって、かつてナチスドイツがやったような民族の選別へと繋がる危険があると指摘しています。在日韓国人、沖縄、そしてアイヌと、私たちは知らず知らずのうちに、恐ろしい立場に立っていることを示唆する一冊です。

後者の「武四郎碑に刻まれたアイヌ民族」は、江戸末期から明治にかけて、当時蝦夷地と呼ばれていた北海道をアイヌの道案内人と共に何度も探検し、地図を作成し、北海道という名称を付けた松浦武四郎と、アイヌの歴史を克明に調査した報告書です。この地には、30もの武四郎碑がありますが、一人にこれ程多くの碑があることは驚くべきものです。筆者は丹念にこれらの碑を調査していきます。その中から浮かび上がる武四郎とアイヌの関係は……。因みに、彼はアイヌ民族への搾取を温存する政府の開拓使を批判して、官僚の職を辞めています。

さて、昨日入荷した帯広発の雑誌「スロウ」最新号(税込905円)では「ちいさな絵本のお店」と題して、「絵本屋カフェ南風」を営む出町南さんと、札幌の絵本専門店「花さき山」の道端友子さんが紹介されています。道端さんは、京都旅行で、当店に立ち寄っていただいたというご縁があります。道端さんがその時持っておられた絵本「ぼく、生きたかったよ」を初めて見て原画展の運びになったことを、改めて思いだしました。

松岩達(文)、冨田美穂(絵)による「おかあさん牛からのおくりもの」(新刊・北海道新聞社1836円)が届きました。

当然ですが、日々口にしている牛乳、チーズ、バター等々は牛からの贈り物です。そんな牛たちを飼っている酪農家の毎日を追いかけた絵本です。牛をよく観察して描き込まれています。

この絵を担当した冨田美穂さんの個展が、来週火曜日から当店で始まります。東京生まれ、武蔵野美術大学卒業後、北海道に渡り酪農業に従事しながら、牛の木版画、絵画を制作されています。知床発のミニプレス「シリエトクノート」に掲載されていた作品に出会ったのをきっかけに、京都初の個展をしていただくことになりました。

リアルな牛の作品を制作されていて、右の作品展のような大きなものが特徴的です。こんな大きな作品、小さな本屋のギャラリーに飾れるの?と思いましたが、今回は、中サイズと小サイズの牛が並びます。

絵本では、反芻する牛とか、牛舎のお食事タイムとかに描かれている牛はリアルであり、また愛嬌たっぷりです。生まれてから、最後に屠殺場に送られるまでの牛と農場との生活が解りやすい文章で書かれています。小学校中学年以上に向けられて書かれた本ですが、大人にも読んでもらいたい内容です。

子牛は、生まれて14ヶ月程で、オッパイが大きくなり、発情期を迎えます。そうすると酪農場に人口授精師が来て、人工授精を行い、赤ちゃんを生ませます。そしてお乳が出ます。そのお乳を分けてもらっているのが私たちです。因みに酪農場にオス牛はいません。彼らは生まれた後、肉牛牧場に引越して、牛肉になるために育てられます。何度かの妊娠後、雌牛は、「おつかれさま」という言葉と共に解体牧場に運ばれていき、加工用の肉にされます。我々は、牛乳から、お肉まで牛にお世話になっているということです。

 

 

そんな牛について、冨田さんは、「初めて間近に見た牛は、とても大きくて。あたたかくて、ふわふわしていてとてもかわいいものでした」と語っています。そして、酪農家が大切に育て、獣医さん、授精師さん、工場の人達など多くの人が誇りを持って働いている姿をしってほしい。食卓に並ぶ肉や、牛乳のことを知ってほしい、とこの本ができました。

個展最終日の5月7日(日)には、知床から作家が来廊予定です。動物好き、北海道好きの方、彼女とお話してみてはいかかでしょうか。東京から北海道に住まいを移し、牛を見つめて暮らしている彼女のハートウォーミングな眼差し溢れる作品展に、ぜひお越しくださいませ。

★冨田美穂「牛の木版画展」 4月25日(火)〜5月7日(日) 月曜定休日