第162回芥川賞受賞作品「背高泡立草」(古書700円)を読みました。舞台は、九州にある小さな島です。

大村美穂は、娘の奈美や兄と姉たちと共に、実家のある島に向かいます。目的は実家の納屋の回りに生えている草を刈ることでした。実家には母がひとりいるだけで、納屋は誰も使っていません。なぜそんなところの草刈りをするの?と奈美は疑問を持つのですが、家族行事として付き合います。

物語は、どこの家庭でも見受けられるようなやりとりを描いていきます。この小説のユニークなところは、昔この島で起こった出来事を、美穂たちの現在進行中の仕事の合間にひょいと差し込むのです。それも誰かの回想とかではなく、何の前触れもなしに話が始まります。最初は違和感を感じましたが、慣れてくると、文章のリズムの心地よさにどんどんと読んでいくことができました。

主人公たちには直接関係がないのだけれど、島の歴史を緩やかにつなげてゆくことで、もう誰もいなくなった家の記憶を描き出します。まるでフランスとか北欧の静かな映画を見ているみたいでした。たった一日だけの草刈りの背景に流れる積み重ねられた長い時間が浮き彫りにされるのです。

ところで、著者の母親が長崎県平戸市の的山大島(あづちおおしま)出身ということで、この地方で話される大島弁を小説の中でも多用しています。

「綺麗かろが?あそこんにきは日の当たるもんね、それけん、ちゃんと咲くとよ」あるいは

「最初に餃子から焼きよると?お肉からの方が良いっちゃない?」といった感じです。温かな方言が、作品に一味付け加えています。