第八回の「夏の古本市」も、いよいよ明日が最終日(18時まで)。というわけで「『夏の古本市』こんな本あんな本」も本日が最終回となりました。紹介した本が次々と旅立ちました。読んでいただきありがとうございました。

小島信夫著「こよなく愛した」(らむだ書店出品/講談社2200円)。個人的読書体験ですが、小島の本は最初に全3巻にもなる「別れる理由」にチャレンジして、途中で挫折して以来、読んでいませんでした。老夫婦の暮らしに流れる孤独、不安、そして愛すべき人生を綴ったエッセイのような短編集ですが、一筋縄でいかない所が、小島の世界です。この人の小説って、スルスルとは読めません。会話のズレや、食い違いを楽しみましょう。最晩年に書かれた「養老」は、かなりユニークな小品です。

文芸評論家の饗庭 孝男が、京都の古寺を歩いて、その風景を綴った「中世を歩く 京都の古寺」(本は人生のおやつです出品/小沢書店1000円*著者献呈署名本)は浄瑠璃寺、神護寺、仁和寺などの古寺を歩きながら中世文学と思想への思いを込めながら、思索したアカデミックな一冊です。

「灰色の空から雪が舞い落ちてくる。その白さに咲きはじめた梅の紅色が入りまじり、黒ずんだ北野の御社の堀がその背後の幻想のようにうかんでいる。これは二月も半ばの、昔からの北野の風景であるが、本殿に続く石畳の道をわが子の合格を祈る母たちが足しげく通ってゆくのは今日の風景であろう。」

で始まるのは北野神社の風景です。観光客でごった返す昨今の古寺の風情と違う、静謐で、ゆっくりとした時間の流れる古寺を著者と共に散策するような名著です。

誰これ?という興味津津の本がありました。若林純著「謎の探検家菅野力夫」(徒然舎出品/青弓社800円)。明治末から昭和初期にかけて世界中を探検した男です。表紙(写真左)のように、探検家ルックでポーズを取り、手には骸骨を持っている姿を写真に撮り、それを絵葉書にして売っていた男。経歴不明、どんな探検を行ったのかも明らかになっていない菅野に興味を持った著者が、彼の足跡を丹念に追いかけるノンフィクションです。彼の撮ったフィルム5700枚、探検旅行を集めたアルバム20冊、膨大なスクラップに旅の記録。膨大な資料の山に挌闘しながら、この怪人の姿をあぶり出していきます。

絵葉書コレクターの間では、菅野の絵葉書は有名なのだそうです。

★「夏の古本市」は明日18日(日)の18時まで開催しています。

勝手ながら、19日(月)〜23日(金)まで休業いたします。

 

 

 

 

 

 

 

台風が近畿地方に近づきつつある不安定な天気ですが、古本市は今日も開いております。

京都市左京区にある書店「ホホホ座」は、本好きなら知らない人はいないほどの有名店です。絵本「やましたくんはしゃべらない」(葉月と友だち文庫出品/岩崎書店1000円)は、「ホホホ座」店主の山下賢二さんがユニークな自らの少年時代を描いた素敵な絵本です。彼は小学校に入学してから、卒業するまで学校内で一言も喋らなかったのです。別に病気だったわけではありません。絵を描いた中田いくみが、俺は喋らないと決めた山下くんの表情を生き生きと見せてくれます。固い決意で最後まで押し通す山下くんですが、卒業式の微笑ましく、ちょっと切ないエピソードが素敵です。著者のサイン入りです!

食に関する本は、今回参加しているどの店からも出品されているのですが、最もユニークだっだのがこれです。熊田忠雄「拙者は食えん!サムライ洋食事情」(榊翠廉堂出品/新潮社600円)。この本は、日本が開国し新しい時代を迎えた明治初期、海を渡った幕府の各使節団や、諸藩が海外に送った留学生たちが、初めて目にする洋食といかに向き合ったかを調べ、未知の食文化をどのようにして受け入れていったのかを描いたノン・フィクションです。

米と魚と野菜を食べて育ってきた彼らが、いきなりパン、肉、乳製品に出会った時には、とんでもないカルチャーショックを受けたと思います。著者は、そんな彼らの心情を丹念に拾い出していきます。拒否感の多かった西洋料理ですが、当時日本にはなかったアイスクリームだけは、「たちまち解けて誠に美味なり」と絶賛だったそうです。ユニークな視線で開国当時の歴史を見つめた一冊。

村山槐多と共に大正画壇で活躍し、20歳で亡くなった画家関根正二の生涯を追った「青嵐の関根正二」(徒然舎出品/春秋社600円)は、とてつもなく面白い本です。著者が村山槐多の作品を見に美術館に出かけた時、こんな経験をします。

「『俺を見よ!』 おかしい。ぼくの他には誰もいなかったはずである。横を向くと、黒っぽい服を着た三人の男女が描かれている一枚の肖像画があった。

『?』空耳だろう、絵がしゃべるはずがない、と思い直し、また槐多の絵の世界にひたっていると、今度ははっきりと聞こえてきた。 『俺を書け!』」

まるで小説の滑り出しみたいですが、これが著者と関根正二の出会いでした。「新宿鮫」でお馴染みの大沢在昌が、「この本にあるのは、純粋に、己が目で確かめようとする作家の姿勢だ。問いかけ、答を胸で喰み、さらに素朴に次の問いへの答を探してゆく。美術にはまったくの門外漢である私にも、目がはなせない。」と、帯に推薦の言葉を書いていますが、本当に目が離せない伝記です。

 

 

★「夏の古本市」は18日(日)まで開催しています。(最終日は18時まで)

勝手ながら、19日(月)〜23日(金)まで休業いたします。

 

 

「夏の古本市」も後半に入りました。暑い中、遠方からもお越しいただきありがとうございます。多くの本が旅立っていきましたが、まだまだ面白い本があります。

天本英世という役者をご存知ですか。東宝の映画に数多く出演していた怪優です。戦争映画、怪奇映画、SFものなどジャンルを問わず、ワンカットでも強烈な存在感がありました。彼は、またスペインの詩人ロルカを深く愛する人で、「スペイン巡礼」というエッセイを出していますが、それから2年後に出された「スペイン回想」(テルミネス出品/500円)は、彼のスペイン文化、人々への愛情が込められた一冊です。私は天本のファンだったので、彼が登場する映画があれば熱心に見ていました。「スペイン巡礼」も以前に読んでいましたが、この国への深い思い、フラメンコへの限りない情熱等が蘇ります。ロルカの詩をスペイン語、日本語両方で朗読できる稀有な役者です。

当店でも人気の作家山尾悠子は、シュールレアリスム芸術に強い影響を受け、詩的な文体で幻想的な異次元ワールドを作り出し、最後にはその世界を崩壊させるという作品を送り出してきました。「夢の棲む街/遠近法」(古書柳出品/三一書房2500円)は、あんまり目にしない一冊です。私は文庫版で読みましたが、表題作の「夢の棲む街」は難解な作品でした。「<腸詰宇宙>(とその世界の住人は呼んでいる)は、基底と頂上の存在しない円筒型の塔の内部に存在している。」で始まる「遠近法」のイメージが、無限大に拡散してゆく世界に頭の中がクラクラしつつ、山尾的なSF世界を楽みました。長野まゆみファンは必読です。 

集英社創業85年企画として出された全20巻「戦争と文学」。第9巻「さまざまなな8・15」(半月舎出品/集英社2000円)は、このお盆休みに読んでおきたいアンソロジーです。敗戦が確定した8月15日を境に日本は大きく変わっていきます。敗戦の衝撃、今まで信じていたものが崩壊してゆく様を様々な作家が描いています。中野重治、島尾敏雄、林芙美子、井伏鱒二、太宰治、茨木のり子など、多彩な作家の作品が選ばれています。同封されている月報では、安野光雅の「絵という旗印のために」というインタビューが収録。太平洋戦争開戦時、15歳だった著者の戦争体験を読むことができます。敗戦記念日には、この本ですよ。

できることなら全20巻読破していきたいと思える程に魅力的ラインナップです。

★「夏の古本市」は18日(日)まで開催しています。(最終日は18時まで)

勝手ながら、19日(月)〜23日(金)まで休業いたします。

 

 

絵本もたくさん出ています。

まずは、姫路の絵本専門店「おひさまゆうびん舎」の箱から、二点ご紹介。福音館が発行している「月間たくさんのふしぎ」は、こんな作家が、へぇ〜、こんな画家が参加しているんだと、驚かされる号がよくあります。1982年10月号「宇宙のつくりかた」(おひさまゆうびん舎出品/400円)は、文は池澤夏樹、絵は佐々木マキ担当という豪華布陣です。これは、ほんとに面白い!

続いて、長谷川集平の「あなに」(おひさまゆうびん舎出品/解放出版社/600円)。1976年、長谷川が「はせがわくんきらいや」を発表した時に、出版された谷川俊太郎(作)・和田誠(絵)のコンビで発表された絵本「あな」。この本へのオマージュとして2015年に出されたのが、「あなに」です。「集平さん、素敵な返球ありがとう!穴に埋められた40年の年月が、絵本の中で今日の青空に溶けていきます」と、帯に谷川が書いています。素敵なラストに、込められた思いを知るためにも、谷川の本も読みたくなります。

なんとゲーテ作「ファウスト」(徒然舎出品/西村書店800円)も絵本になっていた!戯曲「ファウスト」は、ご存時の通り、悪魔と契約し自分の魂と引き換えに、やりたい事を好き勝手にやった男の物語です。ファウスト博士、悪魔メフィストが繰り広げる人生の悲喜劇を、細密なウラウス・エンジカートが描いた、大人が楽しめる絵本です。
これを絵本と呼んでいいのかわかりませんが、ジャン・コクトーの「おかしな家族」(古書ダンデライオン出品/講談社800円)は、コクトー唯一のファンタジー作品として有名な作品です。彼が59歳の時に書いたこの本には、太陽と月の夫婦、悪ガキ達、ユーモアいっぱいの犬の家庭教師が登場して、ナンセンスで、不思議な物語を展開していきます。コクトーの卓越したセンスで描かれたデッサンが洒落ています。

エリック・カールの「カンガルーの子どもにも、かあさんいるの」(にゃん湖堂 出品/偕成社500円)は、さすがに魅力的な色彩が素敵。デフォルメされて描かれた動物たちが独特の躍動感を与えていて、楽しくなります。翻訳は佐野洋子です。

★「夏の古本市」は18日(日)まで開催しています。(12日(月)は定休日。)

その後19日(月)〜23日(金)まで休業いたします

 

 

本日、ご紹介するのは池澤夏樹「異国の客」(マヤルカ古書店出品/集英社350円)です。池澤が、フランス在住時代に書き留めた文章を単行本にしたもので、その時代の彼の思索の跡を辿る一冊です。元々、雑誌「すばる」に連載されていて、当時から少し読んでいました。フランスに暮らしながら、日々感じたこと、発見したことが理知的に表現されていて、小説とはまた違う顔を見せてくれます。

「形ばかりの仲良しごっこや、歯止めのない妥協に実効的な意味はない。次々に生じる意見の相違、利害の対立、感情的反発を一定の範囲内に収める。そのために普段から行き来して互いを知る。ある意見が相手方から出てきた時に、その背景まで理解するよう努める。どんな場合にも突き放さない。敵対しかねない相手を理解しようとする努力も姿勢そのものが一つのアピールである。平和というのはそういう手間の成果だ。」

言いたい事だけ言い放ってしまう首相に聴かせたいものです。

このタイトル、なかなか人前では言えません、という衝撃的な小説こだま著「夫のちんぽが入らない」(古書星晴堂出品/扶桑社600円)は、タイトルと中身のギャップがすごい小説です。知合いの新刊書店の方に感想を聞いた時、これはいい本ですというお答えでした。20年に及ぶ夫婦の傷だらけの人生を丸ごと描き出した物語で、強靭な精神に感動します。

「ちんぽが入らない人と交際して二十年が経つ。もうセックスしなくていい。ちんぽが入るか入らないか、こだわらなくていい。子供を産もうとしなくていい。誰とも比べなくてもいい。張り合わなくていい。自分の好きなように生きていい。私たちには私たちの夫婦のかたちがある。少しづつだけれども、まだ迷うこともあるけれど、長いあいだとらわれていた考えから解放されるようになった。」

自分の好きなやり方で生きて何が悪いねん、という社会の常識への批判がこの過激なタイトルに現れています。出産が女性の仕事と言い放つおバカな政治家の鼻先にぶら下げたい本ですね。

 

もう一点、女性が、自分の身体について書いた本を。内澤旬子「身体のいいなり」(林海寺社出品/朝日新聞社300円)です。38歳で乳癌と診断された著者は、癌治療の副作用を和らげるつもりで始めたヨガで、全く予想もしていなかった体質の変化を経験し元気になります。乳腺全摘出を決断し、その後の乳房再建手術で、彼女が見つめたものとは……..。癌の診断以降、何故か健やかになってゆく自分を見つめたエッセイです。

 

★「夏の古本市」は18日(日)まで開催しています。(12日(月)は定休日。)

その後19日(月)〜23日(金)まで休業いたします

 

 

 

 

 

 

はしだのりひこという名前を聞いて、「帰ってきたヨッパライ」を歌っていたフォークシンガーと即答できる方は、50代より上の世代ですね。1945年京都生まれ、北山修、加藤和彦らとフォーククルセイダーズを組み、一世を風靡したバンドのシンガーソングライターです。彼が、主夫業に奮戦した日々を描いた「お父さんゴハンまーだ」(半月舎出品/教育史料出版会500円)は、まだ「主夫」なんて言葉のなかった時代のお父さんの姿がユーモアたっぷりに描かれています。

「子どもの成長によって親が成長する”育ちあい”  いまからでも遅くない。お父さんたちよ、家に帰ろう! そして、家庭にあっても、父親としての企業努力にめざめよう!」

という言葉は、時代を先取りしていましたが、残念ながら2017年にこの世を去りました。

オモロイ個展の図録やなぁ、と思ったのが「ザ・タワー都市と塔のものがたり」(古書柳出品/大阪歴史博物館2500円)です。この展覧会は、2012年2月〜5月に東京都江戸東京博物館で、同年5月〜7月に大阪歴史博物館で開催されました。19世紀から20世紀にかけて、三つの都市パリ、東京、大阪に誕生した塔を中心に、各地の塔と都市がどう結びつき、発展していったのかを考察するものです。パリのエッフェル塔、東京の凌雲閣そして、大阪が誇る通天閣が、写真、絵画、図面等の資料を駆使して丹念に論じられてます。昭和18年に近隣の火災のために、通天閣も延焼し鉄骨が歪み、解体されて300トンの鉄の塊になった通天閣は、軍に鉄骨として供出されますが、利用されることなく明石の浜で風雨に晒されていたそうです。

東京タワーの特集で「たそがれの東京タワー」というタイトルの映画ポスターが登場します。大映のメロドラマ。主題歌はフランク永井「たそがれのテレビ塔」って知ってる人いらっしゃいますか?

萩尾望都が、「残酷な神が支配する」「あぶない丘の家」を雑誌連載していた超忙しい90年代前半に、角川書店の雑誌「The Sneaker Special」に書いたSF小説4作品を単行本にした「ピアリス」(本は人生のおやつです出品/河出書房新社700円)はファンなら見逃せません。発表当時は、「木下司」というペンネームで発表していました。残念ながら、この雑誌は4号で廃刊になり、小説もそこでストップしてしまいました。この単行本には、40点のイラストが収録されています。

 

 

 

 

★「夏の古本市」は18日(日)まで開催しています。(12日(月)は定休日。)

その後19日(月)〜23日(金)まで休業いたします

 

 

岩波書店が、1985年に発売を開始した全8巻「講座日本映画」の、第1巻「日本映画の誕生」、第2巻「無声映画の完成」、第3巻「トーキーの時代」(思いの外出品/岩波書店各800円)。今村昌平、佐藤忠男、新藤兼人、鶴見俊輔、山田洋次を編集委員に迎えたこのシリーズは、日本映画の歴史を研究するのには、最適のシリーズです。特にこの三巻は、日本映画の始まりの頃をテーマにしていて、見たこともない作品や、当時の映画ポスター、役者の写真などが数多く使われていたり、興味深い内容になっています。

「日本の映画事業が、その出発の早々から、やくざと交渉を持たなければならなかったということは、日本映画のあり方に大きく影響していることである」という第1巻に収録されている佐藤忠男の「日本映画の成立した土台」という論考など面白いです。(本シリーズは現在絶版)

映画本の次にご紹介するのは、写真についての本です。小久保彰著「アメリカの現代写真」(空き瓶 Books出品/筑摩書房2000円)は、現代写真の元祖ロバート・フランク、ウィリアム・クラインに始まり、60年代、70年代、多様に変化し続けてきたアメリカ写真界から、70年代後半のニューウェーブ派の活躍を経て、80年代の姿までをパースペクティブに見つめた一冊です。ロック、ジャズのレコードを集めているうちに、そこに使われた写真家の作品に惹かれてアメリカの現代写真に興味を持った私には、刺激的な一冊でした。個人的には、今も強烈な印象を残すのは、黎明期に活躍したウィリアム・クレインでしょう。彼の「ニューヨーク」は、まるで映画のワンカットを見ているみたいです。

 

 

 

3冊目は、佐々涼子の「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている」(とほん出品/早川書房500円)です。これは、感動しました!2011年3月、宮城県石巻市の日本製紙石巻工場は津波に呑み込まれ、機能停止し、出版社への紙に供給が止まってしまう。その危機の中、半年後には復活するという工場長の宣言のもと、とんでもない闘いの日々が始まります。食べ物も十分ない、電気、水道、ガスの供給もままならない状態での手探りでの作業、さらには本社との葛藤と、もうデッドエンド直前の状態です。紙の本を待っている読者のためという目的のためにだけ悪戦苦闘した現場の人間の挫折と希望を描いたノンフィクションです。本に関わる人、本を読む人には、ぜひ読んでほしい一冊です。

★「夏の古本市」は18日(日)まで開催しています。(12日(月)は定休日。)

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本日よりレティシア書房「夏の古本市」がスタートしました。本日先ず紹介するのは、らむだ書店さんが出品している武井武雄の画集三点です。

童話の挿絵として軽視されていた子供向けの絵を「童画」と命名し、芸術の域にまで高めた武井武雄は、今も大人気の作家です。今回出ている本は全て限定出版で、ネットではかなりの高値で取引されています。

昭和39年に発行された豪華版「武井武雄童画集」(らむだ書店出品/盛光社/7000円)は、35cm×30cmの大型の版型の画集で、1000部限定の452番目のシリアルナンバーがついています。50年代から60年代にかけて描かれた絵が、16枚。一枚ずつ貼り付けてあります。2点目は「廃園の草」(らむだ書店出品/中央公論社/5000円)で、著者サイン入りです。こちらも限定680部の販売です。最後の一点は、「昼の王と夜の王」(らむだ書店出品/筑摩書房/7000円)。二重函入り、起毛クロス装、「昼の王」と「夜の王」の紙、印刷方法が使い分けられ限定1000部発行で693番目のシリアルナンバーが記載されています。どれも、決して安い本ではありませんが、武井ファンは是非、この機会にお買い求めください。

京都新聞を読んでいる方は沢山おられると思いますが、新聞の夕刊に「現代のことば」というコーナーがあります。京都在住の文化人に、テーマを設けずに、自由にエッセイを書いてもらうコーナーで、田中美知太郎、貝塚茂樹らの人文学者、末永博、猪木正道らの社会学者、志村ふくみ、八木一夫らの芸術家、瀬戸内寂聴、邦光史郎らの小説家、さらには片岡仁左衛門、桂米朝らの芸能人までが書いています。1966年からスタートし、95年までの30年間に掲載されたものの中から、180篇を選んだのが「現代のことば1966-1995」(古書ダンデライオン出品/700円)です。知の巨人たちの時代へ投げかけた言葉を一気に読めるアンソロジーです。(もちろん絶版です)

 

京都在住のエッセイストといえば、人気のあるのが山田稔です。彼の作品も二点出ています。「幸福へのパスポート」(古書柳出品/1000円)、「影とささやき」(古書柳出品/500円)とリーズナブルな価格設定です。前者は、特に彼のフランス留学時代に出会った様々なふれあい、情景を見事に描きこんだ散文の傑作。オススメです。

★「夏の古本市」は18日(日)まで開催しています。(12日(月)は定休日。)

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次週8/7(水)よりレティシア書房恒例夏の古本市が始まります。猛暑の中、続々と本が送られてきております。そこで本日より順次ご紹介していきます。なお()内の書店名は出品者です。

いかにも、古本市!に相応しい小説です。マルコ・ペイジ著「古書殺人事件」(トラベリングブックス出品/400円)。早川書房の「ハヤカワミステリ」は、私は殆ど読んでいないのですが、これは面白かった!何かといかがわしい噂の多い、 NY の古書商が殺されます。疑われたのは、店の稀少本を盗んで逮捕され服役して、最近出所した従業員モーガン。しかし、稀少本を見つけ出すことを仕事にしてきた主人公グラスは、数万ドルもする「ドンキホーテ」の初版本を、モーガンが盗んだことに疑問を持っていました。失くなった本の行方を追って、グラスは殺人事件の渦中に飛び込んでいきます。アメリカ探偵小説の王道をゆく作品です。

2冊目は、森まゆみ著「『五足の靴』をゆく 明治の修学旅行」(トラベリングブックス出品/1200円)。明治40年、与謝野鉄幹主催の雑誌「明星」に集う若き詩人、北原白秋、平野萬里、太田正雄、古井勇は、与謝野と連れ立って、九州を旅し、各自交代で匿名執筆した紀行文を新聞に発表します。旅の足跡を追いかけて、この旅を通して花開いた文学が書き綴られています。

「五足の靴が五個の人間を運んで東京を出た。五個の人間は皆ふわふわとして落着かぬ仲間だ。」という文章で始まる明治の文学青年たちの旅の姿が描かれています。なお、この本と一緒に岩波文庫版の「五足の靴」がセットになっていますので、お買い得。著者名が「五人づれ」になっているのが笑えます。

 

おや、これは珍しい!と思ったのは、高橋悠治+坂本龍一の対話本「長電話」(古書星晴堂出品/1500円)です。各章の始まりは、電話をかけた日付になっています。第1章は「15 DECEMBER 1983 PM9:13」です。プーッ・プーッ・プーッと当時のダイアル式電話発信音から、スタートするなど芸の細かい対話本です。片や現代音楽の巨匠、片やロック&ポップス界の天才の、30年前の音楽よもやま話は知的で刺激的です。本当に電話で話したのかどうかは、わかりませんが、真面目な顔して対話するよりも、こんなリラックスした雰囲気の話の方が、面白いものかもしれません。

 

★連休のご案内  8月5日(月))6日(火)は「レティシア書房 夏の古本市」(8/7〜8/18 参加27店舗)の準備のためにお休みさせていただきます。

 

 

 

ミニプレスに目を通していて楽しいのは、この地方には、こんな作家がいたのかという事実を知る時です。

三重県津市から発行されている「Kalas」最新36号を読んでいると、今井貞吉という作家のことが書かれていました。この雑誌の発行責任者西屋真司さんが、伊勢市にある「古本屋ぽらん」の店主から「津を舞台にした小説みたいだから、あなたにと思って取っておいたんです。」と手渡された今井貞吉の「鄙歌」という小説を読み著者のことを調べ始めたのだそうです。

「それは一組の男女の逢瀬を主軸にした物語だった。昭和初期という舞台設定に即した穏当な内容で、この後も派手な事件など起こりそうにない。三分の一程度まで読み進んだ印象はそんなところだ。それで退屈な話かと言えばそんなことはなく、丁寧に記述された戦前の津の風景にいつしかひきこまれている。」

どんな人物なのか、調べてみたものの手がかりが無かったみたいです。しかし、この地方の文化に詳しい市職員の中村光司さんを紹介され、早速会うことになります。中村さんは、伊勢出身の詩人竹内浩三の研究者であり、三重文学協会会長という肩書きの人物です。

氏との会談で今井貞吉のことが明らかになってきました。今井は、明治37年津市で砂糖商を営む家に生まれます。兄の俊三も、昭和12年「饗宴」という長編小説を発表していました。その兄の影響もあって、貞吉は文学に傾倒していきます。兄と共に上京し、小林秀雄、中原中也、中島健蔵らの文人たちと交流していきます。しかし、昭和20年津市への空襲で家財全てを失い、戦後は兄弟の面倒を見ながら、困窮の生活を送ります。こつこつと作品を発表しますが、話題にもならず、昭和60年八十一歳でこの世を去ります。

こうして詳しいことが判明するなんて、地方の文化研究者や、郷土史家の人たちの知識は半端じゃないですね。好きなことをコツコツと、地道にやるって本当に大事なことです。

西尾さんは、最後にこう書いています。

「三十幾つか過ぎた定職もない男の心理描写には、借り物とは思えない追憶と寂蓼がある。津に暮らす読み手としては、全編を通して流れる街への心情に共感するところも多く、確かにこれは同じ土地で生きた人の手による物語だとの印象を強くする。」

一地方都市で、ひっそりと人生を終わらした作家の本。機会があったら読んでみたいものです。

 

★ただ今開催中の「福井さとこ絵本原画展」に伴い、2月3日(日)18時から、福井さんによるスロバキアのお話会を行います。参加ご希望の方はレティシア書房までお申し込み下さい。(075−212−1772)

★レティシア書房 恒例「女子の古本市」は2/6(水)~2/17(日)です。出店者は女子ですが、もちろんどなたでもご来店くださいませ!今回も27店程にご参加いただきます。お楽しみに!