一箱古本市の発起人として有名な南陀楼綾繁さんが、日本全国の本に関わる人達や、イベントを取材した「ほんほん本の旅あるき」(SHC/古書1000円)が、面白いです。

岩手県盛岡、秋田、宮城県の石巻・仙台、新潟、富山県高岡、三重県津、鳥取県松崎、島根県松江・隠岐、広島県呉・江田島、高知、徳島県阿波池田、北九州、大分県別府、鹿児島、そして、都電荒川線沿線の東京と、ほぼ日本全国が網羅されています。

盛岡編では、当店でも開店以来販売を続けているミニプレス「てくり」が登場します。

「『てくり』がブックイベントを始めるというので、参加するのを楽しみにしていた。この年は仙台、盛岡、秋田、会津でブックイベントがあり、その四か所に『東北ブックコンテナ』という地域の本と物産を販売するイベントが巡回するという。なんだか、東北の本の動きが盛り上がっているのを感じた。」

しかしその矢先、あの大地震が起こり、状況が変わりました。無理かもしれないと著者は思いますが、予定通り実施されます。どんな思いでスタッフは開催にゴーサインを出したのか。けれどこのブックイベントがスタートしたことが、東北だけでなく各地の本好きを勇気づけたと著者は確信しています。

そして、やはりミニプレス「Kalas」でお世話になっている三重県津編。「Kalas」を発行する西屋さんが企画したブックイベント「ホンツヅキ」で、著者は、古書店「徒然舎」オーナー深谷さん(当店の古本市でも毎度お世話になっています)と、西屋さんでブックトークをしています。

そして、「津にはカラス=西屋さんがやるなら一緒にやろうという人がたくさんいるんだなと判る。雑誌や店という『場所』を持ち、それを続けていくうちに出来ていく人間関係。それは『ネットワーク』という言葉が軽々しく響くほどの、貴重なつながりなのだ。」と考えます。

「続けていくうちに出来ていく人間関係」とは大事な言葉です。我々も、同業の書店さん、ギャラリーを利用していただいた作家さん達、当店を面白いと思って通っていただいているお客様とのゆるやかな関係に支えられています。顔の見えるお付き合いを重ね、好きな本で一緒に盛り上がる。そういうところにこそ、書店業界の未来はあるのではないかと思います。

この本は、本に関わる人達と彼らのイベントを追いかけたものですが、その土地土地で見たもの、食べたものなどが随所に散りばめられ、一度は行ってみたくなるように仕上がっています。昨年の夏休み、女房と行った別府編は興味深く読みました。また、「ガケ書房」店主の山下さんが登場して、オカマバーに行って、ふっくらした体系が好きなママに惚れられたと書いてありにやりとしました。

同業の方、ミニプレスの方たちが各地でがんばってることが心に残る本でした。

 

 

★町田尚子さんのCharity Calendar2019入荷しました。540円

(売上の一部は動物愛護活動の一貫として寄付されます)昨年も早々に完売しました。お早めにどうぞ!

 

 

 

 

 

★釧路ヒッコリーハウスオーナー安藤誠氏の「ネイチャートーク」が決定しました。

10月27日(土)19時スタートです。参加費は2000円です(要予約)

 

レティシア書房の夏の古本市も、後数時間で終了です。ご来店いただいたお客様、出品していただいた方々、本当にありがとうございました。最終日、最後の本のご紹介です。

インドの人々が、ガンジス河に骨を流し、その同じ河で平気で沐浴するのが、日本人には理解しがたい部分があります。しかし、古代から、この河には不思議な神話が存在していました。それを絵本化したのが「天からおりてきた河」(1000円/出品 居留守文庫)です。ネイティブアメリカンの文化を絵本にした「父は空 母は大地」の作者、寮美千子が文章を書き、イラストレーターの山田博之が絵を担当しました。とんでもないスケールの物語が展開するのですが、なるほど、この河はインドの人々にとっては特別の存在なのですね。

 

昨今のコーヒーブームで、色々な本が出版されています。しかし、「缶コーヒー」のみを対象にした山崎幹夫「缶コーヒー風景論」(1000円/出品 榊翠簾堂)は珍しいかもしれません。1969年の発売以降、各メーカーが手を変え品を変え生き残りの営業バトルを繰り広げてきた、缶コーヒー業界の変遷を20年にわたって集めた缶コーヒーの空き缶をもとに検証したユニークな本です。缶コーヒーのパッケージの移り変わりから、自動販売機だらけの現代社会の日常まで見据えています。でも、この表紙はなんだかね……..。

 

最近、「本屋な日々青春編」(トランスビュー1944円)という力作を刊行した石橋毅史が、数年前に発表した「『本屋』は死なない」(500円出品/ ヒトノホン)は、新刊書店業界の厳しい環境の中で、真っ当な書店を持続させようとしている全国の書店員、店主たちへのインタビューを通じて、本屋の未来を探ったルポルタージュです。新刊書店にいた私には、この業界の明るくない未来は熟知していますが、それでもなお、それに抗おうとする書店員たちの言葉は重くつき刺さってきます。この業界のため、お前は何かやったのかと。レティシア書房で、新刊業界で出来なかったことをやっているつもりですが……..。

古本、新刊本とその流通形態は違えども、本好きならば、この業界でがんばっている人達の姿を見ておいて損はないと思います。

★夏休みのお知らせ  8月20日(月)〜24日(金)休業いたします。

★ 「気になる京都」4号ついに発売!8月28日から販売開始いたします。4号の特集は「カフェのモーニング」です。

 

 

 

古本市も明日までになりました。連日猛暑にも関わらず、多くのお客様にお越しいただきありがとうございます。まだまだ、いい本が眠っていますよ!

安西水丸「メランコリーララバイ」(1500円/出品 とほん)。著者が亡くなってから大半が絶版になって、価格が上がったまま下がる気配のない安西の、60年代の青春の光と影を描いた自伝的小説です。この価格はお買い得!

アラン・シリトーの原作を映画化した「長距離ランナーの孤独』を観た後、新宿の老舗ジャズ喫茶DIGに入る主人公。「店内は暗く、くすんだ壁はコーヒー色に近い。壁にパネル貼りされているジャズ・プレイヤーの写真も煙草の脂にくすんでいる」という場面など、著者の青春時代の体験だったのでしょう。個人的には「朝陽のさし込む部屋で、ぼくはベン・シャーンを開いていた。草原に寝そべる失業者や、レンガの壁に向かってハンドボールに興じる男たちがいる。ベン・シャーンの描く風景はどこかもの哀しい」というフレーズにグッときた覚えがあります。

 

 

「雨の動物園」等でお馴染みの船崎克彦が文章と絵を描いた「いぬねこはかせ」(900円/出品 徒然舎)は、京都市内にあったサンリード社から出た絵本です。もちろん絶版。奇妙な味わいがあります。具合の悪くなった飼い犬イザを病院に連れていった少年は、病院に置いて来たイザを取りにいきます。すると、驚いたことにイザは、顔だけは犬で白衣を着た医者になっていて、ここから奇妙な物語が始まります。シュールな展開ですが、なんとも言いがたい魅力にあふれた一冊です。

 

20世紀のアメリカ美術界を代表する画家ジョージア・オキーフが、晩年を過ごした二つの、自然で虚飾の一切ない家を撮影した写真集「オキーフの家」(2500円/出品 葉月と友だち文庫)。写真集の依頼を断り続けたオキーフでしたが、ニューメキシコにある二つの家の撮影をマイロン・ウッドに許可します。ウッドは数年かけて膨大な写真を撮ります。厳選された写真には、物質的栄華を拒み、シンプルに生きたオキーフの魂が宿っています。写真と共に、クリスティン・テイラー・ハッチンのエッセイが添えられています。彼女は、身体が衰えてきた

最晩年のオキーフと共に暮らし、身の回りの世話をした女性で、絵描きでもあります。翻訳を担当した江國香織は、ハッチンの文章を「独特のとっつきにくさに怯まず読み進むうちに、はっとするほど美しい瞬間があちこちに立ち現れる」と書いています。がっつりした文章も、お楽しみください。

 

★古書市は19日(日)まで。月曜定休。最終日は18時で閉店します。

★夏休みのお知らせ  8月20日(月)〜24日(金)休業いたします。

いよいよ、真夏の古本市も残り三日ですが、まだまだ面白い本があります。

今回は、文庫のご紹介です。

「ちくま文庫解説傑作集2」(400円/出品 ヒトノホン)は、タイトル通りちくま文庫についている解説で傑作とされているものを、ちくま文庫編集部が集めたものです。今村夏子「こちらあみ子」に町田康、高橋輝「誤植読本」」に堀江敏幸、高田渡「バーボン・ストリート。ブルース」にスズキコージ、鴨居羊子「わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい」に近代ナリコ、と、一癖も二癖もある人物が書いています。

その中でも、音楽家大槻ケンジが、やはり音楽家だった早川義夫が自分の経営していた本屋の顛末記を綴った「ぼくは本屋のおやじさん」に書いた解説は、特に面白いと思いました。「どんな仕事も楽じゃありません、でもね、どんな仕事にも良さがあるんです。だから、がんばりましょうよと教えてくれる本」だと書いて、最後をこう締めています。「二十四歳の時、僕がバンドをやめなかった理由の一つに、早川義夫著『ぼくは本屋のおやじさん』を読んで、『こりゃ大変だぁ、バンドの方がいいかも』と思ったから、ということがあったことを記しておきたい。」

ちくま文庫で何か面白い本をお探しなら、先ずこの解説本を読まれるのが近道です。

1943年29歳の若さでこの世を去った児童文学者、新美南吉の最晩年の作品「牛をつないだ椿の森」(400円/出品 とほん)の角川文庫本は、「ごんぎつね」「てぶくろを買いに」など代表作14編を収録しています。代表作「ごんぎつね」では、初版本に使用されていた谷中安規の版画が収録されています。このブログを書くために新美の事を調べていたら、彼は早くから宮沢賢治の作品を読み、高く評価していたそうです。賢治没後の昭和9年に開かれた「宮沢賢治友の会」にも出席していることもわかりました。まだ彼が学生だったころに、賢治は死亡しているので、二人が会ってはいないのが残念です。

一時、恐ろしい高値を付けていたサンリオ文庫から一冊出ています。ロジェ・カイヨワ「妖精物語からSFへ」(1000円/出品 はやね堂)です。シュルレアリズム運動から独自の思考を構築し、神秘的な存在への明晰な解析を行ってきたカイヨワは、SFの起源を、中世の妖精物語に求めます。そこから、怪奇小説を経由して、近代のSFヘとつながる系譜を論じていきます。解説を荒俣宏が書いています。こちらから読まれて、本編に進んでもいいと思います。

 

 

 

 

★古書市は19日(日)まで。月曜定休。なお最終日は18時で閉店します。

★夏休みのお知らせ  8月20日(月)〜24日(金)休業いたします。

 

 

 

 

昨日は、そう言えば敗戦記念日でした。TVの報道を見ていたら、戦没者への天皇の言葉には、先の大戦への加害者としての反省が通低音として存在するのに、この国の首相には、加害者としての意識まるでないノーテンキさでした。

今回の古本市にも、戦争を考えるユニークな本が出品されています。五十嵐太郎著「戦争と建築」(800円/出品 古書柳)です。ルネサンス時代の要塞都市のデザインに始まり、震災と空襲を受けて変貌した東京、昨今の街頭監視カメラに象徴される防犯システム、そして9・11以降、大都市を標的にされるテロと戦争の中で、建築がどう変貌してゆくかを論じた一冊です。

震災と戦災にあった東京では、バラックで作られた小屋、住宅が数多く見られました。これらは建築家の評価は低くても、経済的で機能的な建物で、1990年代増加した段ボールハウスはそんなバラック同様、廃棄されたものをリサイクルして作られたものとして興味深い。「サバイバルのための東京リサイクル」論の最後では、メディアのゴミ屋敷報道を、病理現象としてのゴミ屋敷論として反社会性を糾弾していることについて、こう警告しています。

「現代の繁栄に酔いしれ、廃墟の記憶や醜い現実から目をそらすために、『健全な』市民社会はバラック的なるものに敵意を抱くのだろうか。メディアはゴミ屋敷の浄化をエンターテイメント番組に仕立てあげる」

さて話変わって、天本英世という人をご存知でしょうか。SF、戦争、犯罪等々東宝映画に片っ端から出演し、その怪演ぶりで観客を驚かせた俳優です。私は、岡本喜八監督「日本の一番長い日」で、天皇の玉音放送阻止を叫ぶ軍人の狂信的行動や、映画「マタンゴ」の、顔がぐちゃぐちゃになった化け物が特に印象に残っています。しかし一方で、彼はロルカの詩を日本語とスペイン語で朗読できる唯一の俳優であり、スペイン文化、とりわけフラメンコに造詣の深い人でした。また、スペインの民族音楽のレコードのコレクターでもありました。

1980年「スペイン巡礼」が話の特集社から発売され、これが大ヒットになります。その後、この本を補遺する目的で書かれたのが「スペイン回想」(500円/出品 テルミヌス)です。「『スペイン巡礼』では書ききれない事どもも又多過ぎた。従って『スペイン巡礼』を補うという意味での、今度はエッセイとも言うべき二冊目の本」という位置づけで執筆した、と書いています。スペイン中を歩き回った彼の、この国への愛情あふれる旅の本です。

 

もう一点、角川文庫版の小林信彦「冬の神話」(1800円/出品 楽無駄書店)をご紹介します。これ、表紙の絵が金子國義なんですね。なので値段が高い!昭和12年集団疎開をさせられた60人程の小学生。疎開先で彼らが経験する飢え、暴力、背信、リンチといった暴力の連鎖。生存することにのみあけくれる壮絶な日々。疎開派世代の小林だからこそ、悪夢のような体験を描ける傑作です。戦争を郷愁なんかで描けるか、という作家の思いがこもっています。

 

 

 

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吉野朔実のコミック「本を読む兄、読まぬ兄」(1800円著者サイン入/出品 葉月と友だち文庫)は、本好きにはたまらん一冊です。各章、毎回テーマが決まっています。「他人の本棚」では、主人公の青年が、雑誌などに載っている「他人の本棚」は、結局「他人に見せたい本棚」なのだと、つぶやきます。

「自分が人に見せるなら見栄を張ってミルハウザーとかオースターとか堀江さんとか並べちゃうかな でもそれじゃ芸が無いよな、きれいすぎる」と。で、堀江敏幸の「雪沼とその周辺」、ポール・オースターの「トゥルー・ストーリーズ」、S・ミルハウザーの「マーティン・ドレスラーの夢」が紹介されています。成る程ね〜こんな本を並べておくと、いかにも趣味のいい読書家に見えるのかもしれません。こんな風に、毎回そのテーマに沿った本が並ぶのですが、書評集ではありません。あくまで、ノホホンとした主人公の日々の暮らしの中にある本のお話です。限定本の老舗出版社、京都の湯川書房のことも、マニアックにならずにサラリと紹介しています。

 

心がつらい時、ポジティブな言葉は、ほんとうに人を励ますのでしょうか。その気持ちに寄り添うネガティブな言葉にこそ、反応するのではないでしょうか。「絶望名人カフカの人生論」(800円/出品 夜の遊歩者」は、あまりにもネガティブすぎて笑えてくる貴重な一冊です。カフカは、生前は作家として認められず、サラリーマンでした。しかも、その仕事が嫌で嫌でたまりませんでした。結婚もしたかったのに、生涯独身、身体虚弱、不眠症。家族との関係も最悪。書いた長編小説はすべて途中で行き詰まり、満足したことがなく、もう全部燃やして、と恨み言一杯の遺書を残してこの世を去りました。そういう大作家がこんな言葉を残しています。

「将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」

ここまでくると、いやぁ〜オレはまだここまでじゃないなと笑ってしまいます。誰よりも落ち込み、弱音を吐き続けた作家カフカには、妙に力があります。生きるのに疲れた時、疲労回復にお使いください。

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本日、最初にご紹介するのは、柳原良平「船キチの航跡」(2000円/出品 1003)です。平成元年、海事プレス社が一般向けの雑誌「クルーズ」を創刊しました。柳原は創刊号から、ずっとエッセイを連載。船旅の魅力や、立ち寄る港のこと、船のことなどを語ってきました。もちろんイラストも。釧路港に入港する「おりえんとびいなす」号、横浜港大桟橋に佇む「クィーンエリザベス2」など、旅愁を誘うイラストを楽しみながら、柳原の船旅エッセイを楽しむ贅沢!「揺れている時には甲板で風に吹かれながらホロ酔い気分でいるのが一番である」と、彼は船旅でお酒を大いに楽しみます。横浜港ベイブリッジを通過するクリスタル・ハーモニー号を描いた作品の背後に広がる青空を見ていると、きっと酒も上手いことでしょう。

圧倒的パワーで、いやぁ~カッコいいなぁ〜と感動させてくれる写真集が出ています。アリ・セス・コーエン著「Advanced Style」(1200円/出品 榊翠簾堂)がそれです。登場するのは、60〜100歳代のアメリカNYに生きる女性たちです。「ここに出てくる女性たちは、社会が描く『年をとった女性』というイメージにひるまない。彼女たちは皆、若々しい心とスピリットを持っており、個々のスタイルと創造力で自己表現している」と著者が書いているとおり、世間の常識などどこ吹く風、自分の好きな服を堂々と着て街を闊歩しています。ど派手な色彩の服も、歳を重ねた女性が自信をもって着ると、ゴージャスで美しい。「ファッションはその人を物語るもの」と井川遥が推薦文を書いていますが、着るもの、身につけるものは、その人を丸ごと表現しています。元気の出る一冊です。

世界は広い!と思わせた一冊が、中村吉広「チベット語になった『坊ちゃん』」(900円/出品 マヤルカ書房)です。中国、青海省の小さな町にある学校で、偶然にチベットの学生に日本語を教えることになった日本人教師が経験した物語です。チベット語と日本語の文法が似ていることに着目した教師は、なんと夏目漱石の「坊ちゃん」を翻訳の授業で取上げます。その過程で巻き起こる様々な事件を通して、この教師と学生との交流が綴られていきます。

著者は「チベット人に日本語を教えるという行為は、上から施す援助活動などではなく、正に、『教えることは学ぶこと』を実感する体験となって、教える側の日本人に日本と日本語の再考と反省を迫るものとなる」とこの体験を振り返っています。チベット語の事を語りながら、日本語の本質を見つめた本なのです。

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先日、国の押しつけ政策に必死で抗ってこられた、沖縄の翁長知事が亡くなりました。残念です。

さて、沖縄のことを語る本というのは星の数ほど出版されていますが、この地に暮す人々の、様々な表情を白黒写真で捉えた「やさしいオキナワ」(700円/出品 ヒトノホン)は、傑作の一つに入ると思います。撮ったのは垂水建吾。写真に寄り添うような文章を書いたのは、池澤夏樹です。池澤は、「なぜ、沖縄の人々の顔に惹かれるのか。彼らが正しい暮らしをしているからだと思う。」と書きます。正しい暮らし…..この時代に、なんて新鮮な響きでしょうか。どんな運命も受け入れ、或は断固拒否し、差別をせずに、おたがいに手を貸しあう社会を作ってゆく。池澤の言うように「そういう自信があるからこそ、この本に見るとおり、沖縄人の顔はなんともやさしいのだ。」

もう一冊、池澤夏樹の本でお薦めが「世界文学を読みほどく」(500円/本は人生のおやつです)です。サブタイトルに「スタンダールからピンチョンまで」とあり、いわば世界文学の歴史なんですが、読みやすい!それもそのはず、これは2003年9月に行われた京都大学文学部夏期特殊講義の講義録なのです。七日間、午前と午後に分けて、計14回の講義がされました。講義で語られたのは、19世紀と20世紀の欧米の長編小説十編です。アカデミックな文学専門家が書き下ろしたら、少なくとも私はきっと寝てしまうところですが、池澤の話し方が巧みなので、フムフムと作品世界に入っていけます。個人的な事ですが、大学の基礎ゼミでメルヴィルの「白鯨」をやったときは、少しも前に進みませんでした。しかし池澤は、ポストモダンの小説として、明確に説いていきます。初めて、この本を読んだ時、こんなゼミに出ていれば、基礎ゼミも優だったかも、などと思ったものです。

さて、もう一冊は赤坂憲雄著「岡本太郎の見た日本」(1100円/出品 半月舎)です。民俗学者の著者が、岡本太郎の民俗学的仕事として有名な縄文土器へのアプローチ、そして東北、沖縄へと一気に広がった岡本独自の日本文化再発見のプロセスを論じた一冊です。

「戦後のある日、私は、心身がひっくりかえるような発見をしたのだ。偶然、上野の博物館に行った。考古学の資料だけ展示してある一隅に何ともいえない、不思議なモノがあった。ものずごい、こちらに迫ってくる強烈な表情だ。」と縄文土器との出会いを自伝に書いているとおり、岡本はこの土器との出会いから、猛烈な勢いで日本文化とは何かというテーマにのめり込んでいきますが、その様子が書かれています。岡本は、フランス在留時にパリ大学で民俗学を学んでいたのですから、半端ではありません。「太郎はつねにあたらしい」は、この本の最後を飾る言葉ですが、その通りの人物だったことが理解できます。

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結城信一(1916〜1984)という作家は、何かと読んでいます。静謐感のある世界が好きなんです。今回、一冊だけレアな作品集が出品されていました。「小品集 夜明けのランプ」(2500円/出品 古書柳)です。

「杉林をつつみこんだ深い夜の霧が、かすかな葉ずれの音をまじへながら、ゆるやかに流れつづけている。おもむろに流動するその濃い霧の色まで、まぼろしのやうに見えてくる。広い杉林の山肌を埋めつくした紅葉の重なりが、凍みつく寒気に凝縮してゆく音も聞こえてくる。……..私はパンを焼き、果物の缶詰をあけ、珈琲を飲み、ささやかな遅い夕食を食べたばかりで、黄色いランプの下にいる」

「夜明けのランプ」の書出しですが、澄み切った空気が支配しています。起承転結のある物語が進んでゆくわけではありません。けれど、不思議と心がおちついていきます。

こちらも貴重な本が出ています。クリストファー・ミルン著「クマのプーさんと魔法の森」(4000円初版/出品 はやね堂)です。著者自身が「はじめの方の数章で、私は、ミルン家の家庭生活(プーの本を生み出す原因となり、また逆に、プーの本から触発されることもあった家庭生活)を描こうとしました。」と書いているように、クリストファー・ロビン・ミルン自身の手による彼の幼年期時代の自伝です。プーの裏話や、父への愛憎が書かれています。中程に、幼少期のクリストファーが、ぬいぐるみのプーさんと一緒に、木に登っている写真が挿入されています。こういう二人の日々の小さな冒険がプーさんの愛すべき物語を生み出していったのでしょうね。もちろん、翻訳は石井桃子さんです。

これも絶版になっていました。小沢信男「本の立ち話」(900円/出品 とほん)です。小沢の書評、解説、随想をまとめたものです。小沢の本は「東京骨灰紀行」しか読んでいないのですが、味のある文章が好きです。チャキチャキの江戸っ子の風情もいい感じです。「敗戦から六十年、あのどさくさのさなかから生まれた赤ん坊たちが、今年そろって還暦になる。いやはやおめでとう!当事病気がちの中学生だった私も、無慮七十八歳。こんなに死なずにいるとは嘘のようだ。」とは、武井武雄「戦中氣画表」「戦後気儘画帳」についての書評の出だしです。お堅い書評集とは一味も二味もちがいます。

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日本画家秋野 不矩は、京都市立芸大で教鞭をとっていた1961年、初めてインドに行きます。その後何度も渡印した彼女が、現地で見たインドの人々と、自然をスケッチと文章でまとめたのが「画文集バウルの歌」(800円/出品 古書柳)。簡潔ながら、詩的な文章が心に染み込んできます。そして、各ページに添えらたスケッチが、繊細で、力強く、魅入ってしまいます。第二章「スケッチブック」では、1977年の彼女の現地で描いたスケッチブックがそのまま収録されています。第三章「1982」は、82年9月末からのインド滞在時の日記と、ユーモアたっぷりのスケッチを楽しむことができます。今回の古本市には、秋野 不矩が絵を描いた、「こどものとも」シリーズの一冊「ちいさなたいこ」(300円/出品 トンカ書店)も出ています。

 

京都つながりで言えば、杉本秀太郎の本が二冊出品されています。「京都夢幻記」(500円/出品 らむだ書店)は、よく見かける本ですが、「西窓のあかり」(2000円/出品 らむだ書店)はあまりお目にかからない一冊です。京都における雅びについての考察の中で、夏目漱石の「京に着ける夕」という短編が取り上げられています。下鴨神社境内の、糺の森近くの宿に泊った時のことが描かれています。杉本は、この短編から雅びとは何かを導き出します。杉本の本を集めている方には、手に取っていただきたい一冊です。

海外長編小説では、ぜひにでも読んで欲しいものが出ていました。アンソニー・ドーア作「すべての見えない光」(1000円/出品 ヴィオラ書房)です。戦時下のフランス。目の見えない少女マリー=ロールと若きナチスドイツの兵士ヴェルナーの出会いを描いた作品です。藤井光の翻訳が、この二人の運命の変転を余すところなく描いていきます。藤井の「ドーアの作品に欠かすことのできない、人間に対する細やかまなざしは『すべての見えない光』のひとつひとつのエピソードを忘れがたいものとしている。マリー=ロールとヴェルナーの心の脆さ、強さ、迷い、成長、そして決断を、ドーアの繊細な筆致はていねいに刻みこんでいく」という言葉通り、物語に魅了されます。

 

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