吸血鬼なら、この本というのが入荷しました。種村季弘編集による「ドラキュラ・ドラキュラ」(薔薇十字社・初版2800円)です。編者いわく

「数年前薔薇十字社から『吸血鬼幻想』と題するエッセイを公けにして以来、私は折りがあれば、血の糸につながれた真珠のように純白な吸血鬼の歯牙にも譬えられるような吸血鬼小説のミニチュアール・アンソロジーを編んでみようと考えていた。」

その本がこれです。15人の作家の短篇が収録されています。なんせ、編者が異端文学、魔術や錬金術、果ては神秘思想の研究者だけあって、選ばれている作品は彼の審美眼に叶ったものばかりがセレクトされています。その中に、空想科学小説の第一人者、ジュールヌ・ベルヌの作品が入っていました。ベルヌは、ほぼ全部、小学校の時に全集で読み、「海底二万哩」は。数回も愛読した作家でしたが、吸血鬼が登場する話は記憶にありません。読んでみると、長編「カルパチアの城」の一部を採録したものでした。しかも、ここには吸血鬼が血を吸うシーンなんてありません。何故ここに?

「メスメリスム(催眠術)は古来吸血鬼伝説の不可欠の要素である。また吸血鬼信仰の本場カルパチア地方に取材した一事からしても、作者が吸血鬼小説のユニークな変種を作ろうとしている意図は疑いを容れない」

と収録した理由を明らかにしています。催眠術が古来吸血鬼伝説には不可欠というのが、正しいのかどうかは浅学の私に解りませんが、種村季弘らしいセレクトですね。

性的エクスタシーと、背徳と、反キリスト的立場が混じりあって、深い闇の中で苦悩する彼には、独特の美が立ち上ってきて、それは魅力的な存在です。まぁ中には、ロマン・ポランスキーの映画「吸血鬼」の主人公みたいに、処女ではない女の血を吸ったために、のたうち回るという諧謔に満ちた人物もいますが、この本をきっかけに、ヨーロッパ幻想文学の一翼を担う吸血鬼文学の魅力に踏み込むのも面白いかも。

店内には、本家本元のブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」(創元推理文庫600円)もあります。全500ページにも及ぶ大長編。後半、ペンシルバニアから、血を求めてロンドンに出てくるのですが、霧深い夜のロンドンって、まさに絶好の舞台です。ドイツの奇才ヴェルナー・ヘルツウォーク監督の「ノスフェラトゥ」は、最もこの原作に近い美意識で作られた傑作だと思いますが、主演のイザベラ・アジャーニがもう綺麗で、ドラキュラじゃなくても噛みつきたくなりますよ、きっと。

 

 

 

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秋恒例の、智恩寺での古書市。初日朝から行きました。お、前にはKさんご夫婦が、、私の後ろにはCさんが。遠くに見えるは善行堂さんか?

さて、各ブースを回り出して最初に目に止まったのが、二冊の吸血関連の本でした。一冊は角川選書「ドラキュラ伝説」、そしてもう一冊は種村季弘の「吸血鬼幻想」(河出文庫/初版)でした。吸血鬼かぁ〜。美女の首筋に食らいつくなんて、なんて幸せな男なんだろう〜とお寺の境内で、一時淫らな幻想にふけっておりました。淫らな幻想の原点は78年発表のヴェルナー・ヘルツォーク監督の「ノスフェラトゥ」。犠牲になるイザベル・アジャーニのドレスの肩の辺りで白い肌を露出していて、その肩を覆い隠すようにドラキュラ伯がマントで抱きしめる。羨ましい…….。

レイモンド・T・マクナリー&ラドゥ・フロレスク「ドラキュラ伝説」はトランシルヴァニアに15世紀実在したドラキュラ伯爵と、やはりこの地方に伝わる吸血鬼伝説、そして19世紀末にブラム・ストーカーが、巧みにこの二つを結びつけて、作り出した文学史上のドラキュラ伯爵を産み出すまでを追っかけた労作です。キリスト教が、反キリストの土着信仰打破のための宣伝、情報操作のためのドラキュラ伝説という単純なものではなく、恐ろしく複雑な要因が絡み合って産まれた吸血鬼=ドラキュラが一人歩きするまでが丹念に描かれています。

いっぽう、種村季弘の本は、「吸血鬼詩アンソロジー」、「吸血鬼の画廊」、「吸血鬼の眼、吸血鬼の言語」等この作家らしい、いかにもの章が並び、最後には吸血鬼文献、吸血映画一覧まで載っています。詩のアンソロジーでは、ノヴァーリスやハイネの詩の一部が抜粋されています。決して読みやすい文章ではありませんが、数多く挿入されている絵画、映画等の写真が悪魔的で、淫乱な情緒を盛り上げてくれます。髑髏姿の人物に抱きかかえられているハンス・B・グリーンの裸婦像「死と乙女」、エルンストの「慈善週間」などが、ざらついた紙面で後ろめたい欲情に火をつけます。お寺の古書市でいけないことですね。お部屋で、蠟燭の火だけを明かりにして、一人深夜にお読み頂くにはとても素敵な二冊です。

ところで吸血鬼映画って海外のものと思っていたら、日本にもいました。あの岸田森が演じていました。映画のタイトルは忘れましたが、何故か、ショートカットの女性ばかりを襲っていました。

 

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