「友人と12時に恵比寿駅の恵比寿さんの前で待ち合わせ。おしゃれな本を作ってくれるところがあるので、そこを紹介したいと言ってくれたので、行くことにした。奥さんと一緒に恵比寿をぶらぶら、途中道端に矢車草が咲いていたのでそこでパシャ。矢車草大好き!」

誰の日記の一節かわかりますか?

実は、人形作家四谷シモンの日記です。よくある、町歩き雑誌のライターの文章と思われたか、それともシモンらしいなぁ〜と納得されたでしょうか。「四谷シモン人形日記」(平凡社/古書1200円)の中からの抜粋です。本を開けると、エロチックで、感情があるようなないような人形作品が並んでいます。「機械仕掛けの人形1」というシモンらしい作品の次から、彼の日記が始まります。

「昨日浅草で、どじょう鍋を食べてドロドロになっちゃうかと思ったら、二次会もなく、皆さっさと帰ってしまったので、ドロドロ状態から逃げ出すことになったので、今日はスッキリ」

など、どうということのない文章が続きます。これが、退屈するどころか、何故か気持ちよくなってくるから不思議です。

かと思うと、目玉握りしめて制作に励む姿が登場します。

「ほれ〜天の恵み雨が降っている。今日はこの雨のおかげで、一日幸福な気持ちでいられる。」なんて文章に出会うと、彼の作り出す少女や少年の、どこか彼方を見つめているフワーッとした表情につながります。この本には、付録として描き下ろしポストカードが付いています。

ところで、「四谷シモン全編」(学研/古書1400円)という本の中に、「今年からNHKの大河ドラマに出演しています」という。えっ〜ほんまかいなぁ?という文章にぶつかりました。そういえば、四谷シモンは、唐十郎の赤テントで役者でしたね。

兵庫県の大谷記念美術館で行われている「四谷シモン展」に、おそるおそる(?)行ってまいりました。

入り口すぐに、紅いドレスの美少女がお出迎えです。

四谷シモンは、人形作家で、元俳優です。65年、澁澤龍彦が雑誌に紹介していたハンス・ベルメールの球体関節人形を見て、全く新しい人形制作へと向かいます。その後、金子国義、唐十郎、寺山修司、そして澁澤等の蒼々たる人々との様々な交流を通じて、作品を発表します。

今回も、金子国義のデザインに登場しそうな美少女もの、私的には赤のドレスの少女の唇にそそられてしまいました。或は、ほぼ等身大の下着姿の女性が足を広げて寝ている作品には、このまま交わってもいいかなどという不埒な感情さえ抱いてしまいます。

淫らで、美しく、それでいてもの悲しく迫ってくる人形達。

ハンス・ベルメールや、シモンの作品に影響された押井守の長編アニメ「イノセンス」では、人形と人間の差異、あるいは人間と人造人間と人形の捻れた関係性に言及した優れた作品ですが、セックスの機能を搭載したセクサロイドが登場します。その人造人間が自らの肌を引きちぎった時に露出する機械と配線。そっくり同じものがシモンの作品にもありました。感情のない金髪の少年の内蔵むき出しの作品は、もちろんこの少年は人間の顔と内蔵を見せつけるのですが、映画に相通じるものがあります。

この展覧会で、一番のお気に入りは、ポスターにもなっている(店にも貼ってあります)横たわる少女です。ガラスの表面に映る、もう一つの顔。それは、鏡の中から見つめる自分を象徴するような存在です。自分を縛り続け、誘惑する自己。何の感情もないはずの人形ですが、しばらく見ていると、心の底から私たちが本質的に持っている哀しみがわき上がってきます。

「イノセンス」ラストで、ヒロインが倒れるシーンもこれと一緒の構図でした。人間という存在を根本的に規定するものは何か?という問いかけを人形達は発信しているのかもしれません。

近日中にシモン関連の本も数冊入る予定ですのでご覧下さい。 

 

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