様々なジャンルの本に手を出していると、刺激が強かったり、文体の濃さで疲れることがあります。そんな時には幸田文の本。内容がどうのこうの言うよりは、真っ当な日本語の美しさにホッとするのです。

とりわけ、昭和34年「婦人公論」に連載されたものをまとめた「動物のぞき」(新潮社/古書1050円)は、ユーモアに富んでいて、彼女とゆるりと動物園めぐりをしている気分になります。

「動物園の門を入って第一に私の前に現れた動物を、みなさんはいったい何だと思うだろう。おそらく意外だと思う。私にも意外だった。それは猫だった。ふとって大きいきじ虎の猫だった。観覧用ではない。檻にも金網にも入れてない、ただのにゃごだった。」

もう、これだけでなんだか楽しくなってきます。「猿人類」「きりん」「象」「河馬と犀」「熊」「爬虫類」「仕込まれた動物」「狐と狸」「猛禽類」「猛獣」について書かれていて、どの章にも土門拳の写真が付いています。ゴリラの写真など、さすが土門拳!表情が素晴らしい

思わず笑ったのが、「私はわにの寝そべっている姿を見ると、少女のときの晴れ着の感覚をおもいだす。」というワニについての件です。幼少の頃、どこかへ行く時、「二枚重ねの着物に、厚板の帯をでこでこと矢の字に背負わされた。」ことを思い出し、こう続けます。

「からだが一本の棒みたいに、まるで不自由にしゃちこばったものだが、わにのじいっとしているのを見ると、よそいきのいい着物のかなしさと具合悪さをおもいだすのである。暑くて硬いものを着せられれば、遊ぶこともできないし、それでいて人に『まぁ、きれいだこと』と云われる嬉しさと、てれくささがある。」

ワニを優しく見つめる著者の姿が見えてきます。ペリカンが逃げ出した時のエピソードも面白い。飼われていた鳥は一気に飛び去ることなく、少しづつ逃げ去る習性を踏まえて、

「すぐには飛び立てず、助走路を駆けて舞いあがったのであり、斜に滑空してから、風に乗って上昇したのだろうし、高い空の空気を吸ってからは、本当に一トはばたきごとに、もりもりと、野生だったときの元気を取り戻して勇んだのだろう。」とその様子を描写しています。

「もりもりと」と言う言葉に、ぐんぐん飛び去ってゆくペリカンの姿を想像します。「猛禽類」に登場するお話ですが、「この話は春の出来事やら、夏の出来事やらききもらしたが、初秋の夜、きけばいかにもひたひたと懐かしく、名残り深くおもったので、添えて記すのである。」と、最後の余韻がいいのです。

緊急事態宣言解除で、動物園にも行けるようになりました。たまには動物たちを見つめるのもオツな時間の使い方ではないでしょうか。

 

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