坪内祐三著「新書百冊」(新潮新書/古書400円)は、知の宝庫ともいうべき新書のジャングルに分け入り、向学心に燃えていた若き日の著者が出会った新書100冊をセレクトして紹介した本です。

「自らの意志で新書本を読みはじめた頃」、「新書がどんどん好きになっていった予備校時代」、「新書で読んだ読書ガイドと読書法と書斎の話」、「講談社現代新書のアメリカ文化物は充実していた」、「やがて来るニューアカ・ブームを前に」、「作家の書いた新書本とお勧めの伝記物」、「新書で近代日本の文化研究をする」の7章に分かれています。著者がその本に巡り合った、その時の環境なども書き込まれていて、肩のこらない新書案内に仕上がっています。

例えば、高校時代にTVドラマで城山三郎原作の「落日燃ゆ」を見て、ひどく感銘を受け、原作を読み、物語の舞台となった東京裁判に興味をもち、中公新書「東京裁判」に出会います。「『落日燃ゆ」を読んだ私は物語として感銘を受けた。しかし、小嶋襄の『東京裁判』によって私は、物語ではなく、一つの歴史、つまり史実を知った。」

なんて幸せな本との出会いなんだろう、とこの一節を読んで思いました。また、1977年、岩波新書の黄版(表紙が黄色のもの)発行がスタートした時の気分をこう書いています。

「黄版が出たその五月の、十九歳の私の新鮮な気持ちを今でも忘れない。心地良い五月の陽差しの中、私は、早足で靖国通りと白山通りの交差点の角にある信山社(岩波ブックセンター)に向かう。」

そして、千円で三冊買える低価格の本をコンスタントに読んでいけば、「ただのつまらないサラリーマンにはならないだろう」と、豊かな将来へ広がるような希望を、当時の新書は持っていたと回想しています。

この本の中で、最も共感を持ったのは「講談社現代新書のアメリカ文化物は充実していた」です。坂下昇「アメリカン・スピリット」は、アメリカ文学、映画、音楽を理解するのに欠かせない周辺知識の宝庫でした。ここで紹介されている講談社現代新書はほぼ、大学時代に私も読んでいました。岩波新書に比べて、スマートなデザインと色合いも、お気に入りでした。

面白かったのは「作家の書いた新書本とお勧めの伝記物」です。安岡章太郎「アメリカ感情旅行」、大岡昇平「コルシカ紀行」など傑作が並んでいます。ここで紹介されている開高健の「声の狩人」という本は、初めて知りました。読んでみたいと思います。

本書の欠点を言えば、発行されたのが2003年なので、本の情報が古いことですが、逆に本書片手に古書店を回るのに最適な一冊かもしれません。

 

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