京都大丸で開催中の「堀内誠一 絵の世界」展にいきました。

私たち世代には、マガジンハウス社の雑誌「an・an」「POPEYE」「 BRUTUS」「Olive」等のロゴデザインで馴染みのグラフィックデザイナーですが、絵本作家として素晴らしい作品がたくさんあります。今回の展覧会では、それら多くの絵本の原画を見ることができます。

堀内は1932年東京生まれ。小学一年生の時に私家版の雑誌を作り始めた早熟の子供でした。家計を助けるために14歳で伊勢丹百貨店に入社、デザインの仕事を始めます。その一方で68年には澁澤龍彦と季刊誌「血と薔薇」の編集を手がけました。

1958年に結婚し、その年に初の絵本「くろうまブランキー」(福音館/古書650円)を発行しました。その後、同社の「こどものとも」シリーズを中心に作品を数多く残しました。「ぐるんぱのようちえん」「どうぶつしんぶん」など、読まれた方も多いと思います。洗練された色と形、考え抜かれた構成、同じ人が作ったとは思えないような多様な手法。どれを見ても、原画は印刷物とは違い、こんなにダイナミックだったの!こんなに美しい色だったんだ!と、感動しました。

会場で、釘付けになったのは「こすずめのぼうけん」の原画でした。細部まで描きこまれた鳥の姿、空を飛ぶこすずめや風景や植物など、いくら見ていても飽きてきませんでした。完成した絵本とは違う絵画の魅力に圧倒されます!

私が行ったのは、平日でしかも雨降りだったので、割と閑散としていました。おかげでゆっくり時間をかけて鑑賞することが出来ました。とても幸せな気分になった展覧会でした。(24日まで開催)

なお、堀内は1987年、54歳の若さでこの世を去りました。

 

堀内誠一。1932年東京生まれ、伊勢丹宣伝部入社後、「平凡パンチ」等のファッションページの監修を務め、「アンアン」創刊時のアートデイレクターを担当した後、絵本作家へと表現の場を移します。87年に54歳の若さで亡くなりました。彼が残した28人のクラシック界の作曲家の肖像画とエッセイに、谷川が32編の詩(書き下ろしも含みます)を組み合わせた「音楽の肖像」(小学館/古書2300円)は、とても素敵な本です、

この二人は「マザーグースの歌」でもコンビを組んでいて、名コンビの再来となりました。

「法学にいや気がさして音楽家を志したシューマンが、終日、同志と新しい音楽を論じ合った「コーヒーの木』と呼ばれるカフェ」で、シューマンが音楽談義にふけっているイラストが書かれていて、谷川が「音楽」というタイトルの詩を付けています。

「穏やかに頷いて アンダンテが終わる 二つの和音はつかの間の訪問者 意味の届かない遠方から来て またそこへ帰って行く 幻のように細い糸の端で 蜘蛛が風に揺れている それを見つめているうちに フィナーレが始まる 最後の静けさを先取りして 考えていたことすべてが 時の洞穴に吸いこまれ 人はなすすべもなく生きている せせらぎのような清らかさに今 世界を愛して」

「せせらぎのような清らかさに今 世界を愛して」とは、詩人でしか表現できない言葉ですね。

あぁ、いい言葉だなぁ〜と感心したのが、「音楽 それは裏切ることのできぬもので あらゆる星の法則を含んでいる

それは火星人を 人間に変えることすら可能だというのに」

これ、ベートーベンの所に書いてあるのです。お〜「第九」は火星人を人間に変える力を持っているのか!疾風怒濤の壮大なシンフォニーなら、さもありなんと納得しました。

大学時代だったと思います。小さなホールで、当時ソビエト連邦に属していたグルジア共和国の映画「ピロスマニ」を観ました。他にいっぱい面白い映画があったのに、何故これを観たのかは覚えていませんが、静謐な佇まいに感動しました。

 

さてその映画の主人公で、不遇のまま世を去った画家ニコ・ピロスマニの画集「ニコ・ピロスマニ」(文遊社5000円)が入荷しました。

ニコ・ピロスマニは、19世紀末から20世紀初頭、国内を放浪しながら絵を描き続けました。荒野に生きる動物であったり、ささやかな食卓を囲む農民達の夕餉の様子を素朴に描いています。あまりにもプリミティブゆえに、幼稚だと評価され、極貧の中で死去します。

プリミティブと言われれば、そうとしか表現できないのかもしれませんが、これほどに、日々を質素に生きる人の佇まい描き続け画家もいないのではないでしょうか。「薪売りの少年」や「乳搾りをする女」の日々の労働への眼差し、収穫を祝う男たちの、今まさに始まらんとする野外での宴席を描いた「収穫祭」、大鹿、クマ等々の野生の生き物達のポートレイトに満ちあふれた画家の深い愛、その無垢な魂に触れてしまうと、先程までいらついていた感情が、消えていくような不思議な世界です。

絵本作家の、堀内誠一は「”村の祭”とか、”ビールが来た”とかいう主題の、人間とその生活、動物、自然一切を愛しくなでた絵の無欲な自由、暗い中の温かさを、僕もグルジアという名前と共に記憶するだろう。」と書いています。

「無欲な自由」これは、ピロスマニの資質を言い当てた言葉ですね。

居酒屋でパンとワインのために絵を書き、町から町へ彷徨い、草原をゆきかい、ロシア革命の翌年、誰にも看取られずに56歳の生涯を閉じたピロスマニの作品が、今、世界的に評価されているのは、雑音と情報に取り囲まれて出口を見失った私たちに、ほれ、こっちこっちと手を差し伸べてくれているからかもしれません。

 

この画集に寄稿しているのは、スズキコージ、山口昌男、池内紀、小栗康平、あがた森魚、四方田犬彦、そして堀内誠一等々という顔ぶれです。彼らの文章を読みながら、作品を眺めてみると、また新たな発見があります。

 

 

先週に続いて、たくさん入荷した絵本をご紹介する第二回目です。

文章を岸田衿子、松竹いね子、谷川俊太郎が分担し、堀内誠一が絵を書いた「どうぶつしんぶん」(2004年福音館書店発行1500円)は、作りが面白い一冊です。本を開くと、大型封筒に入った「どうぶつしんぶん」春号、夏号、秋号、冬号の4部入っています。それぞれの季節に相応しいトップ記事、ハンプシャー夫人の料理教室、連載記事、「ゆきおとこかいけんき」みたいなスクープ記事と、盛り沢山の内容になっています。三人が書いている文章は達者だし、堀内の色使いもカラフルで楽しくなってくる一冊です。

子ども向け絵本の装幀なのですが、ユニークな絵が印象的な「こねこポックとなんでもはかせ」(1977年偕成社発行2000円)。絵を書いているのは赤坂三好。版画を中心にして、絵本、さし絵など幅広く活動した画家です。鮮やかな色彩感覚、ロボット猫の造形のユニークさ、そして現代のコミックにも通じるキャラクターのアクションの斬新さ等々、大人も楽しい(内容は子ども向けですが)一冊です。

「よるのきらいヒルディリド」(1975年発行冨山房・初版2000円)もお薦めです。ラテンアメリカ文学の翻訳等で知られるチエリ・デユラン・ライアンが考案した、夜のきらいなおばあさんが、自分の周りから夜を追い出そうとするシュールな物語を、アメリカを代表する絵本作家アーノルド・ローベルが、白黒の線画と変幻自在な空間の処理を施した絵で表現した小粋な絵本です。まるで、画集をめくっているみたいです。

気に入ったのが、いわむらかずおの「月夜の子うさぎ」(1996年発行クレヨンハウス800円)です。作家の絵が極めて映画的躍動感に満ちているのです。ローアングルで捉えた飛び跳ねるうさぎ、猛然と走り出す犬など、そのまま映画になりそうなダイナミックな構図です。走り去るうさぎを背後から捉えたところなどは、トップスピードに加速するうさぎのエネルギーを見事に描いています。映画好きにもお薦めの一冊かな。