絵本作家、堀川理万子の新作「海のアトリエ」(偕成社/新刊1540円)は、うだるような暑い今、涼しい部屋で読んでほしいと思う一冊です。

「わたしは、おばあちゃんの部屋が好き、なんだか、いごこちがいいんだ。」と、いつもおばあちゃんの部屋に入り浸っている「わたし」。部屋の壁に「ぱっちりひらいた目が、まっすぐこっちを向いている女の子」の絵が飾ってありました。

だれこの子?

実は、「わたし」と同じくらいの時のおばあちゃんでした。

「その絵を描いてくれた人のこと、話してあげようか」

おばあちゃんの、ちょっぴり辛く、そして楽しく、懐かしい時代の物語が始まります。おばあちゃんは、かつては登校拒否の子供だったのです。そんな彼女を見かねた、海のそばに住んでいる絵描きさんが、一人で遊びにおいでと誘ってくれました。絵描きさんはお母さんの友達でした。

海の見えるアトリエで、ゆっくりした時間が流れていきます。手作りの晩御飯を食べた後は、読書タイム。このワンカットが素敵です。あぁ、こんな場所で本を読んでみたいと思いました。

それから、絵描きさんと二人だけの暮らしが始まります。「朝の浜辺は、とても静かだった」というダイアローグ通り、静かで美しい浜辺が広がり、パチャパチャと泳ぐ音だけが聞こえて来そうです。

それから彼女は、絵描きさんと一緒に絵を描き始めます。自由に心のままに絵を描いたり、近くの美術館に連れて行ってもらったり、お料理を作ったりと楽しい日は流れていきます。最後の日、二人は浜辺で沖を眺めました。このシーン、本当に海の風を感じる素敵な場面です。

おばあちゃんのお話は終わりました。そんな絵描きさんに会ってみたかったな、という「わたし」におばあちゃんはこう言います。

「そうね、でも、あなたはこれから、あなたのだいじな人にであうのよ。このことをずっとおぼえていたいって。そんな日が、きっとあなたをまっているわ」

著者は、子供の頃、近所の女性画家から絵を習っていました。画家は一人アトリエで暮らしていたそうです。

「わたしにとってはじめての、子どもを子どもあつかいしない『おとな』でした」とあとがきで書かれています。

浜辺の香り、涼しい風、そして静かに過ぎ行く時間が、程よくブレンドされた傑作絵本です。

蛇足ながら、6月に東京の書店「title」で原画展やってたみたいです。行きたかったなあ…..。

mikihouseが出している宮沢賢治絵本シリーズは、とても素敵なセレクトです。スズキコージ「注文の多い料理店」、黒井健「水仙月の四日」、田島征三「どんぐりと山猫」、あべ弘士「なめとこ山の熊」など、数え上げたら限りがありません。今回ご紹介する「氷河鼠の毛皮」(古書/1100円)は、賢治の小説の中でも、それほど有名な物語ではないかもしれません。

「十二月の二十六日の夜八時ベーリング行の列車に乗ってイーハトヴを発った人たちが、どんな眼にあったのか、きっとどなたも知りたいでしょう。これはそのおはなしです。」

猛吹雪の中、出発した列車にはひとくせもふたくせもありそうな男たちが乗車していました。「毛皮を一杯に着込んで、二人前の席をとり、アラスカ金の大きな指輪をはめ、十連発のぴかぴかする素敵な鉄砲を持っていかにも元気そう」な紳士が登場します。おいおい、列車内に銃器持ち込んでいいの?と思うのですが、物語は進みます。賢治の登場人物の描写力が冴えています。

「痩せた赤ひげの人が北極狐のようにきょとんとすまして腰を掛け、こちらの斜かいの窓のそばにはかたい帆布の上着を着て愉快そうに自分にだけ聞こえるような微かな口笛を吹いている若い船乗りらしい男が乗っていました。」

この二人の人物が後半の物語の主人公です。かなりサスペンスに満ちた展開になっていくので、ここではこれ以上書きません。読んでのお楽しみ。

で、この物語の絵を担当しているのが堀川理万子さんです。寒い駅で、たき火にあたって列車の出発を待つ男たちの背中を描いたページに魅かれました。吹雪の寒さとたき火の暖かさが見事に表現されています。次に、毛皮を一杯に着込んだ紳士を、ローアングル気味でやや誇張し、どうもこの人物が良からぬ奴らしいと読者に思わせます。そして、今度は俯瞰気味に列車内を捉え、痩せた赤ひげの人の人を目立たないように描き、前方にはかたい帆布の上着を着た若者を描いています。

彼の着ているコートの色が黄色なんですが、この色がラスト近くで強烈な印象を残すことになります。「俄に窓のとこに居た俯瞰の上着の青年がまるで天井にぶつかる位のろしのように飛びあがりました」という場面で、カメラを下に置いて、その上を飛び越えてゆくような黄色いコートがダイナミックに翻ります。映画的な作風だと感心しました。賢治作品にしては、最後にスパイまで登場する荒唐無稽さもあるのですが、この不思議な物語を躍動感ある構図で描いています

 

先日、堀川理万子さんに偶然お会いする機会を得ました。メリーゴーランド京都店のギャラリーで個展をされていたのです。(左の写真はその時展示されていた作品です)その会場におられたので、いろいろとお話を伺い楽しい一時を過ごさせてもらいました。堀川さん、ありがとうございました。

 

★10月27日(土)の安藤誠トークショーは満席になりました。お申し込みありがとうございました。狭い店内のため、締め切らせていただきます。