新年最初の読書は、マガジンハウスで、数々の雑誌の編集に携わってきた編集者岡本仁の「続々果てしのない本の話」(オークラ出版/古書1200円)でした。同社の「&Premium」に連載されていた読書エッセイ40編をまとめたもので、誠光社の堀部篤史さんと共作した「古本18哩」も収録してあるという本好きにはたまらん一冊なのです。ところが読みだした最初は、ケッ!アートに詳しい編集者が、クールに自分の好きな作家をエッセイ風に描いた東京人好みの本ね…….みたいな感じで、プリプリしながら読んでいました。(なら読むな!)

が、そういう扁壺なおじさんの気持ちを、ゆっくりと柔らかにしてくれて、結局最後まで一気に読みきりました。そのキッカケになったのが、こんな文章でした。

「幸せな結婚というのは『いま、ここ』がいちばん尊いと知るきっかけであると同時に、『いま、ここ』がいかに儚いものなのかを悟るきっかけでもあるのじゃないか。ミランダ・ジュライの『あなたが選んでくれるもの』で、彼女が自分の結婚について触れている部分を読んでいるうちにそんな気持ちになり、庄野潤三の『夕べの雲』を思い出した。」

ミランダ・ジュライ→庄野潤三へと流れてゆく文章が、チャーミングです。本書では、ひとりの作家、あるいは著作から、岡本が思い浮かべた作品が次々と果てしなく並べられていきます。もちろん、私の知らない作家や、アーテイストや写真家がどんどん登場してきますが、決して上から目線にならずに、ねえ、こんな面白い人いるよ、みたいな感覚なのです。程々にクールでベタベタせずに描かれているので、心地よく読めます。

岡田温司著「モランディとその時代」という美術の本から「この本は自分自身の考えと信じていることが、もしかしたらただの紋切り型になっていないかと疑ってみることの大事さを教えてくれる。見ているようで見ていない、聞いているようで聞いていない、考えているようで考えていないことが、自分のまわりにまだまだたくさんあるような気がしてきた。」

本の内容を紹介しつつ、最後に自分の言葉で、その本から受けた思想をきちんと伝えることは、なかなか出来ません。(ブログを書きながら日々痛感しています)

一方で、著者は、少年のような瑞々しい感性をひょいと出すことがあります。京都の細見美術館で見た「永遠の少年、ラルティーグ」展の感想をこんな文章で綴っています。

「いまこの瞬間の興奮と幸せを永遠のものにしたいという、ラルティーグの無邪気さが観る者を自然に笑顔にしてしまうような写真、涙が出そうになるほど素敵だった。」

なんだか写真展で、顔をクシャクシャにして楽しんでいる著者の姿が想像できます。

それにしても方々の美術館に出かけていますねぇ〜。本当に好きなんだ。

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九条大宮にオープンした「つるかめ書房」へ行ってきました。古い町家の外観はそのままに、内部を巧みにアレンジして、日本料理を出すレストラン、日本茶カフェ、バーを併設しています。レジが一箇所なので、好きな本を持って、カフェでお茶を飲み、まとめてお会計ができるようになっています。

場所は、九条大宮を下がってすぐのところに見えてくるのですが、看板がありません。条例で、こういう町家に商業的な看板は設置できないのだそうです。(写真左)さて、引き戸をガラガラと開けて、中庭を見ながらどんどん奥に行くと、その先に立派な書庫があります。全ての本が丁寧に、美しく並べられています。ちくま文庫、講談社文芸文庫がずらり、しかも安い!

壁面の書架を見てゆくと、星野道夫、石川直樹、石田千、吉田篤弘、庄野潤三などなど当店と似たラインナップ。趣のある古い書庫に、スッキリと並べられた本の数々。文学、エッセイ、暮らし、アートなどが明確な意志に基づいてセレクトされた棚の前で本を眺めていると、時折、吹いてくる風が舞い込み、リラックスしていつまでも居てしまいます。CDと本を何冊かセレクトして、昼食もいただくことにしました。お昼は2500円の和風ランチのコースのみ。音楽の鳴っていない空間、使い込まれた家具に囲まれての食事は、外の賑わいから離れて落ち着いたひと時でした。

ところで、今週末25日(土)26日(日)の二日間、この書庫の二階で古本市が開催されます。当店も参加します。同時開催で陶器市もされるそうなので、ぜひのぞいてみてください。

フリーペーパー入荷ご案内

●海外文学ファン必需の「BOOKMARK」の最新14号が入荷しました。巻頭エッセイはあさのあつこ。特集は「against」、「ノー」と言うことです。

●「ハンケイ500m」49号は、烏丸六条が特集です。烏丸七条と五条という幹線道路の真ん中にある小さな通りですが、実は私の通っていた小学校がこの近くでした。懐かしい…..。

●「SELFBUILD BOOKLIST」これ、「セルフビルドにまつわる連続トーク3『本から広がるセルフビルドの世界』」と題して、誠光社の堀部篤史さんが講師をした時に、製作されたブックレットです。彼が選んだセルフビルドに纏わる本がセレクトされ、解説も書いています。

 

 

★イベントのお知らせ

6月5日(水)より「世界ひとめぐり旅路録」展をされる小幡明さんが、14日(金)19時半より、FMひらかたパーソナリティー久保有美さんと一緒に「小幡明の旅の話アレコレ」と題したトークショーを当店にて開催します。(参加費1000円/要予約)

 

ミシマ社の雑誌「ちゃぶ台」の最新号(1620円)の特集は「教育×地元」です。この中に、誠光社の店主、堀部篤史さんが「地元的なるもの」を巡ってのインタビュー記事が載っていました。同業者として、成る程とか、共感するところが多々ありましたのでご紹介します。

彼は地元をこう定義しています。

「コミュニティという意味での『地元』は、町内やご近所のことではなく、同じような姿勢、規模で、同じような嗜好品や文化的なものを扱うお店やそのお客さんになるんです。」そして「通ううちに、だんだんとだけど、つきあいが深まってゆく。ぼくが言及している『地元的なるもの』は、エリアのみによるかつてからの『地元』よりはもうちょっと擬似的な共同体なのかもしれませんね。」

私についていえば、新刊書店の店長だったときと大きく異なるのは、同業古書店や、個性的書店の方々とのお付き合いや、交流が深まり、そのお店のお客様とも親交が出来た事です。そんな事は、ただただ忙しいだけの新刊書店時代には全くありませんでした。

「地域も属性も無関係に、同じスタートラインに立って何を買うかによって差異をつくる、ヨコのつながりでなくて、経験の長さや深さによる時間軸の積み重ねの中で、いわばコミュニティに属する人どうしがタテのつながりも重視しておたがいを認識するところからはじまるゆるやかな『地元』」

こういうコミュニティを彼は「物語的」なものと呼んでいます。

ミニプレスの編集者、ギャラリーで個展をしていただいた作家の皆さん、そして私が選んだ本を、これ、これやがな〜と嬉しそうに書架から抜かれたお客様達と、同じ時間軸を共用してゆくことで、物語的なものが形成されるのかもしれません。そういう意味では、お店って小さな物語が沢山ぶら下がった木なのかもしれません。

堀部さんは「物語的」なコミュニティと対立するものとして、「消費的」な場を上げています。「ブランド品だから」「雑誌が推薦しているから」という、時間軸が介在しない場や関係性のことです。

「要するに記号を選択して消費することによって自分の属性とする行為です。そこには『こういう状況の自分にとって』とか『何故それに至ったか』というストーリーがありません。話を単純にすることで考えることを放棄しちゃっているのと同じ」

カズオイシグロがノーベル文学賞を獲得した時、ただ日系であるというアイデンティティのみに執着し、号外まで出すわ、大幅増刷をする場面をニュースで見ましたが、それで本を買った人のどれ程が最後まで読むのだろうと、疑問符がつきました。そこには、どうして彼の小説を読もという気分に至ったかという「物語」が欠如している気がします。当店にあった彼の小説も完売しましたが、その方々には、ちゃんとカズオ作品に至る読書時間がありました。

まだまだ堀部さんのインタビューは続きますが、多くの方に読んでもらいたいと思います。

この本を出したミシマ社×誠光社×古書&レコードの100000アローントコの三者共同による「かもがわご近所マップ」(500円)が入荷しました。吉田篤弘、いしいしんじのコラムも載っていますよ!