開高健と言えば、60年代のベトナム戦争取材を通して描かれた「輝ける闇」「夏の闇」などの長編を読むのが王道なのかもわかりませんが、内容の濃さゆえ、ちょっと遠慮したくなります。

しかし、サントリー宣伝部在籍の体験をもとに書かれた短編「巨人と玩具」など初期作品は、スラスラと読めました。敗戦後の闇市を生き抜く青年を描いた「なまけもの」、ベトナム戦争を巡るエッセイや東京の街角をスケッチしたものを収録した「開高健初期作品集」(講談社文芸文庫/古書1400円)もお薦めです。

「巨人と玩具」は、1958年単行本として出版された後、直に増村保造がメガホンを取り、大映で映画化されました。原作を読む前に、私はこの映画を観ていて、成る程、宣伝業界の熾烈さとはこういうものなのかと教えてもらいました。物語は、大手菓子メーカーの新商品売り出しキャンペーンに、ズブに素人の女性が抜擢されるところから始まります。ライバル会社を出し抜く宣伝部員たちが疲弊し、焦燥してゆく姿が描かれる、いわば企業小説です。

映画版では、ヒロインを野添ひとみが天真爛漫で、奔放なスタイルで演じていましたが、原作は、もっと不気味に変身してゆく姿をリアルに描いていきます。

「デニムのズボンや破れかけたサンダルをぬぎすて、髪をオキシフルで染め、コーセットのたがの味をおぼえ」華やかな世界へと飛び出します。

「彼女は駅前広場から遠ざかり、満員電車の男の筋肉の固さを忘れた。ライトを浴び、レンズにしのびこみ、揮発性の抒情でたっぷり味付けしたワルツにのり、薄暗がりにひしめく女の瞳と体臭と拍手を呼吸した。彼女は舞台にでるとぎらぎら光る川のなかで笑い、熱い埃りを吸いこみ、無限の小さな渦を巻きつつ、会釈して、消えた。」

彼の宣伝マン時代の経験が色濃く反映されている小説です。売上げという数字に踊らされる男たちの疲労感を尻目に、ある日突然、スポット輝く舞台に引き上げられた女性が、さらなる欲望に取り憑かれてゆく姿が印象に残る作品でした。

 

 

 

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