「夏の古本市」も後半に入りました。暑い中、遠方からもお越しいただきありがとうございます。多くの本が旅立っていきましたが、まだまだ面白い本があります。

天本英世という役者をご存知ですか。東宝の映画に数多く出演していた怪優です。戦争映画、怪奇映画、SFものなどジャンルを問わず、ワンカットでも強烈な存在感がありました。彼は、またスペインの詩人ロルカを深く愛する人で、「スペイン巡礼」というエッセイを出していますが、それから2年後に出された「スペイン回想」(テルミネス出品/500円)は、彼のスペイン文化、人々への愛情が込められた一冊です。私は天本のファンだったので、彼が登場する映画があれば熱心に見ていました。「スペイン巡礼」も以前に読んでいましたが、この国への深い思い、フラメンコへの限りない情熱等が蘇ります。ロルカの詩をスペイン語、日本語両方で朗読できる稀有な役者です。

当店でも人気の作家山尾悠子は、シュールレアリスム芸術に強い影響を受け、詩的な文体で幻想的な異次元ワールドを作り出し、最後にはその世界を崩壊させるという作品を送り出してきました。「夢の棲む街/遠近法」(古書柳出品/三一書房2500円)は、あんまり目にしない一冊です。私は文庫版で読みましたが、表題作の「夢の棲む街」は難解な作品でした。「<腸詰宇宙>(とその世界の住人は呼んでいる)は、基底と頂上の存在しない円筒型の塔の内部に存在している。」で始まる「遠近法」のイメージが、無限大に拡散してゆく世界に頭の中がクラクラしつつ、山尾的なSF世界を楽みました。長野まゆみファンは必読です。 

集英社創業85年企画として出された全20巻「戦争と文学」。第9巻「さまざまなな8・15」(半月舎出品/集英社2000円)は、このお盆休みに読んでおきたいアンソロジーです。敗戦が確定した8月15日を境に日本は大きく変わっていきます。敗戦の衝撃、今まで信じていたものが崩壊してゆく様を様々な作家が描いています。中野重治、島尾敏雄、林芙美子、井伏鱒二、太宰治、茨木のり子など、多彩な作家の作品が選ばれています。同封されている月報では、安野光雅の「絵という旗印のために」というインタビューが収録。太平洋戦争開戦時、15歳だった著者の戦争体験を読むことができます。敗戦記念日には、この本ですよ。

できることなら全20巻読破していきたいと思える程に魅力的ラインナップです。

★「夏の古本市」は18日(日)まで開催しています。(最終日は18時まで)

勝手ながら、19日(月)〜23日(金)まで休業いたします。

 

 

昨日は、そう言えば敗戦記念日でした。TVの報道を見ていたら、戦没者への天皇の言葉には、先の大戦への加害者としての反省が通低音として存在するのに、この国の首相には、加害者としての意識まるでないノーテンキさでした。

今回の古本市にも、戦争を考えるユニークな本が出品されています。五十嵐太郎著「戦争と建築」(800円/出品 古書柳)です。ルネサンス時代の要塞都市のデザインに始まり、震災と空襲を受けて変貌した東京、昨今の街頭監視カメラに象徴される防犯システム、そして9・11以降、大都市を標的にされるテロと戦争の中で、建築がどう変貌してゆくかを論じた一冊です。

震災と戦災にあった東京では、バラックで作られた小屋、住宅が数多く見られました。これらは建築家の評価は低くても、経済的で機能的な建物で、1990年代増加した段ボールハウスはそんなバラック同様、廃棄されたものをリサイクルして作られたものとして興味深い。「サバイバルのための東京リサイクル」論の最後では、メディアのゴミ屋敷報道を、病理現象としてのゴミ屋敷論として反社会性を糾弾していることについて、こう警告しています。

「現代の繁栄に酔いしれ、廃墟の記憶や醜い現実から目をそらすために、『健全な』市民社会はバラック的なるものに敵意を抱くのだろうか。メディアはゴミ屋敷の浄化をエンターテイメント番組に仕立てあげる」

さて話変わって、天本英世という人をご存知でしょうか。SF、戦争、犯罪等々東宝映画に片っ端から出演し、その怪演ぶりで観客を驚かせた俳優です。私は、岡本喜八監督「日本の一番長い日」で、天皇の玉音放送阻止を叫ぶ軍人の狂信的行動や、映画「マタンゴ」の、顔がぐちゃぐちゃになった化け物が特に印象に残っています。しかし一方で、彼はロルカの詩を日本語とスペイン語で朗読できる唯一の俳優であり、スペイン文化、とりわけフラメンコに造詣の深い人でした。また、スペインの民族音楽のレコードのコレクターでもありました。

1980年「スペイン巡礼」が話の特集社から発売され、これが大ヒットになります。その後、この本を補遺する目的で書かれたのが「スペイン回想」(500円/出品 テルミヌス)です。「『スペイン巡礼』では書ききれない事どもも又多過ぎた。従って『スペイン巡礼』を補うという意味での、今度はエッセイとも言うべき二冊目の本」という位置づけで執筆した、と書いています。スペイン中を歩き回った彼の、この国への愛情あふれる旅の本です。

 

もう一点、角川文庫版の小林信彦「冬の神話」(1800円/出品 楽無駄書店)をご紹介します。これ、表紙の絵が金子國義なんですね。なので値段が高い!昭和12年集団疎開をさせられた60人程の小学生。疎開先で彼らが経験する飢え、暴力、背信、リンチといった暴力の連鎖。生存することにのみあけくれる壮絶な日々。疎開派世代の小林だからこそ、悪夢のような体験を描ける傑作です。戦争を郷愁なんかで描けるか、という作家の思いがこもっています。

 

 

 

★古書市は19日(日)まで。月曜定休。なお最終日は18時で閉店します。

★夏休みのお知らせ  8月20日(月)〜24日(金)休業いたします。