夏の一箱古本市も、残すところ三日となりました。出店して頂いている箱を、毎日楽しみに覗き込みながら、取り上げてきた本たち。

さて、別に骨太の物語があるわけでもなく、或は社会への鋭い視線に満ちた文章があるわけではないのに、思わず引き込まれる文章を書く作家として、私の一押しは、京都在住の山田稔さんです。

最新の「天野さんの傘」(編集工房ノア1600円)も、堪能させてもらいました。書名になった詩人の天野忠からもらった傘をめぐる微笑ましいエッセイには、亡くなった詩人への思いが溢れています。

その天野忠のことを書いた傑作、「北園町九十三番地」(編集工房ノア900円)が出品されています。

「何時でも閑な、自由な身に私をしてくれたのは天野さんだ、と私は思っている。その天野さんがもういない。そのさびしさを、閑な身に日々感じる。」

そのつらい時間を乗り越えるために、作家は過去への旅を開始する。そんな一冊です。二冊とも、京都市内のフツーの場所が沢山登場して親しみを覚えます。

この作家のエッセイを読んだ後、気持ちの良い風に誘われて、静かに青空をみているだけで幸せな気分にさせてくれるのが、デビューした頃の松浦弥太郎の「くちぶえサンドイッチ」(DAI-X出版500円)です。昨今は、人生の達人みたいなポジションの立場からの文章が多く、全く読んでいませんが、この本は素敵です。生きることへの限り無い優しさに溢れた名作だと思います。

今では絶対に出版されないようなエッセイ集がありました。野坂昭如編集の「けむりの居場所」(幻戯書房750円)です。野坂の序に「煙草は人生の句読点」と書かれていますが、これ、愛煙家によるタバコエッセイという、今や極めてマイナーになった人達の短い話がズラリ掲載されています。開高健、藤沢周平、田中小実昌、古井由吉といった文学者。市川昆、鈴木清順、三国連太郎、高峰秀子等の映画人と各ジャンルから、趣味のいい文章を書く人を集めたアンソロジーです。もちろん、編者の野坂のものも最後に掲載されています。

 

 

★レティシア書房一箱古本市は、23日(日)までです。

尚24日(月)〜27(木)まで休業いたします。