1931年、大牟田に生まれた奈良原は、早稲田大学大学院で美術史を専攻し、池田満寿夫らが結成した「実存者」に参加します。その後、長崎の軍艦島に生きる人々の生活に強い興味を持ち、取材した結果を初個展「人間の土地」で披露。写真家としての道を進みはじめます。

私は、2014年、東京写真美術館の佐藤時啓の写真展に行った時、同美術館の所蔵展で初めて奈良原の写真を見ました。その時の印象をブログで書いていました。

「同館では所蔵品の企画展「スピリチュアル・ワールド」を同時開催中で、そちらにも回りましたが、その中に禅寺を撮影した奈良原一高という写真家の作品と出会いました。凛とした僧の姿にぐっときました。」

そこから奈良原の写真集や展覧会をチェックし始めました。15年には「王国 沈黙の嵐・壁の中」を、16年にはエッセイ&写真集「太陽の肖像」を入手しました。このたび、クレヴィス社から「奈良原一高のスペイン約束の旅」(新刊/2750円)が発売されました。これは、世田谷美術館で開催された「奈良原一高のスペイン約束の旅」の公式図録として発売されたものです。

奈良原は1962年から65年までヨーロッパを回る旅に出ます。特に楽しみにしていたのがスペイン各地への旅でした。本を開けると、1964年スペインマラガで恵子夫人が撮った奈良原のポートレイトが飛び込んできます。スタイリッシュに決めたファッション、野心満々の目の輝き。憧れの土地でやったるでぇ〜と気合十分な表情です。

熱気と暑さに、写真家自身も沸点に達したかと思えるほど強い印象を残すものがあるかと思えば、その暑さと喧騒の中、街角をふらふらと彷徨い歩き、白昼の幻想的な街角や人物を捉えた作品もあります。モノクロの力強さ。熱狂と静寂。私に写真の持つ力を教えてくれた作家の写真集です。

本書後半には、彼が森英恵(衣装)、藤井三雄(デザイン)と組んだファッショナブルな「富士紡績」のカレンダー作品、69〜70年にかけて写真を担当した「婦人公論」の表紙も収録されています。特に66年のカレンダーは、クールでスタイリッシュ!欲しいなぁ〜。

 

 

画家、堀内 康司(1932〜2011)をご存知でしょうか。

私は知りませんでした。ある古本市で「堀内康司の残したもの」(求龍堂2500円)という本に出会い、鋭利で、クールで、孤独感を張りつめたような画風に思わず足を止めました。1950年代に町のあちこちに建つ煙突を描いた一連の作品の、ひんやりとした感覚に惹きつけられました。

この画家を調べてみると、画家としての活動は極めて短かったのですが、池田満寿夫を世に送り出した人物だったのです。堀内は、10代の頃、草間彌生らとグループ展に参加して、その実力を認められ始めました。50年代後半には、それまで住んでいた松本を離れ、東京に拠点を移します。そしてイラストレーター&エッセイストの真鍋博等と反画壇グループ「実存者」を結成、新しい芸術表現に向かうのですが、20代後半から画家としての活動を休止してしまいます。その後、競馬新聞の記者として一サラリーマン人生を送ることになり、絵筆を折り、若手が世に出る手助けに従事しました。

この作品集には、10代の頃の緩やかなフォルムのスケッチから、「都会は冷酷な半面にまだ一歩深い冷ややかさを備えていました」という彼の言葉を象徴するような無機質な町の表情を捉えた一連の作品、彼が愛した花街、フランス座の踊り子を描いた作品、そして死の冷徹な臭いを撒き散らす静物画まで網羅されています。生きているという感情を排除して、虚無感漂う作風をどうやって身につけたのか、或は何故に若くしてキャンバスに向かうことを止めたのか、その謎を探るためにこの作品集はあるのかもしれません。

昨年ブログで紹介した写真家、奈良原一高が、堀内 についてこの本の中で書いています。

「堀内 康司は僕と同じように軍需工場の廃墟の絵を描いていたので、彼は僕を自分が知っている様々な場所に連れていった。僕たちは玉の井の赤線地帯を訪れ、浅草のロック座の踊り子たちと話し込んだ。」

確かに、廃墟を描いた作品群には奈良原の写真に相通じるものがあるようです。

高度成長時代に入った頃、画家としての活動にピリオドを打ち、画家から、競馬新聞の記者への転身。競馬を描いた作品と共に、写真が何点か掲載されています。「府中ダートコース直線1962」は傑作と呼べる一枚です。直線コースの向こうから迫ってくる馬達のスピード感が見事に表現されています。映画のワンカットみたいです。

 

 

★2月8日(水)〜19日(日)レティシア書房恒例「女子の古本市」を開催いたします。

東京、岐阜、神戸、大阪、滋賀、京都から20数店の女性店主がセレクトしたステキな本が、所狭しと並びます。ご来店お待ちしています。

 

 

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今、作品展があれば是非行きたい写真家、奈良原一高の初のエッセイ集+代表写真45点を収録した「文集 太陽の肖像」(白水社2500円)は、深い味わいのあるズッシリとした重さ(総ページ380)があります。

1931年、福岡に生まれた奈良原は、55年、池田満寿夫等と共に新鋭画家のグループ「実存者」に参加。56年「人間の土地」のタイトルで個展を開催、写真家としての道を歩み始めます。

この本は、ヨーロッパ、アメリカ滞在時代を中心に、世界と自分をみつめたエッセイが、写真家らしいクールな文体で描かれています。とりわけ面白かったのは、70年代初頭アメリカで行われた巨大なロックコンサートに行く旅を描いた部分です。まるで、あの時代の「ドラッグ&ピース」的なアメリカンニューシネマを観ている気分になってきます。

「写真は未来から突然にやって来る。僕の場合は、いつもそうだった。僕は空中にひょいと手を伸ばしてつかみとる・・・・・すると写真がひとりでに僕の手の中で姿を現す。」

彼はそう感じながら、ヨーロッパの街角を、闘牛を、NYのビビッドな姿を、そして日本を捉えてきました。

私は、初めて、男性修道士の写真に目を奪われて以来、彼の作品をたくさん観てきましたが、文章も素晴らしい。

「初夏には、僕が好んで歩く横町や路地は夏草が生い茂っています。そして、秋ともなるとそこからは虫の声がいっせいに聞えてきます。ああ、俺は東京にいるんだなあ……としみじみと耳を傾けるのはその時です。パリやニューヨークでは虫の声を街中で聞いたことはありません。東京では都市の中に田舎があります。いや、村が都市へと進化した名残りがあちこちに残されていると言ったほうがいいでしょう。東京の郷愁ともいえそうな優しさに出会うのもそのような渾然とした場所なのです」また違った東京への視線の詰まった文章です。

残念ながら、彼の写真集は高くて、中々入手できませんが、一点だけありました。「現代日本写真集」という大判のシリーズの中に「近くて遥かな旅」というタイトルで彼の作品集があります。このお相撲さんの写真凄くありませんか?この大型本、900円です。

 

 

 

★お知らせ

明日19日(土)開催の「天神さんで一箱古本市」は会場が変更になりました。長岡天神から開田自治会館に変更になりました。最寄り駅は阪急長岡天神とJR長岡京です。詳しくはこのアドレスにアクセスして下さい

 

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奈良原一高の写真集「王国ー沈黙の薗・壁の中ー」(朝日ソノラマ写真選書・初版・著者サイン入り)を、入手しました。

奈良原は1931年、福岡生まれの写真家です。67年発表の『ヨーロッパ・静止した時間』で、日本写真批評家協会作家賞他を受賞して以来、数々の賞を受賞しています。

その中でも、この「王国」は撮影対象の特異さで注目された作品です。作品の前半は北海道のカソリック修道院で修行する僧を撮影した「沈黙の薗」、後半は和歌山の婦人刑務所の受刑者を集めた「壁の中」です。

いわば、日常世界から遠く離れた世界の中に生きる人びとの一瞬を捉えた作品集です。不思議な静寂に満ちた作品が並んでいます。「黙々と生きる」とは、こういうことなのかもしれません。厳格に定められた通りの日々を捉えた写真の一方で、野良仕事に向かう僧侶の前で、草を食べている羊を収めた作品には、温もりも溢れています。

後半の女子刑務所の中を撮影した作品群は、受刑者の悲しみとか、怒り、憎しみといった複雑に絡み合う感情を排して、やはり不思議な静謐感に溢れています。刑務所内でパーマをかけている受刑者の作品には、どこかユーモアさえ漂っています。撮影はどちらも1958年に行われていますので、古びた世界ではありますが、強靭な力を保持しています。作者は、こう書いています

「事実は観念をとびこえる肉体を持っている。そのような僕にとって、うつし出された写真の世界そのものは、遂には外にある現実と内にある心の領域とが出会ってひとつとなった光景のようにさえ思えたのだ。」

カメラという現実を映し出すものが、見事に作者の心象風景を描いた傑作です。この本は、1971年に中央公論社から出た「王国」を再編集した改訂版ですが、貴重です。お値段は8000円です。

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