写真家奥山淳志は、以前「庭とエスキース」(みすず書房 /売切)をブログで紹介しました。北海道の山奥に住む老庭師を何年にもわたり取材し、その暮らしを明晰な文章で紹介した本でした。

奥山の新刊「動物たちの家」(みすず書房/新刊3080円)は、幼少の頃から犬や、鳥などの動物と暮らしてきた彼の動物記とでも言うべきものです。300ページ余りの本でしたが、私は一気に読んでしまいました。犬や猫と暮らし、彼らの死に立ち会った人にはぜひ読んでほしいのですが、そうではない人にも読んで欲しい一冊です。

さくらという名の犬が逝ってしまった時のことをこう書いています。

「さくらが最後の体力を使い、息を吐き、少しだけ深く長く息を吸い、そのまま自らの身体に文字通り、息を引き取ったとき、何が起こったのだろうか。心臓がぴたりと止まる瞬間とかろうじてであっても動いている状態のあわいにあるもの。何がこの筋肉からなる臓器を動かし、何が止めるのだろうか。そこにこそ生命の秘密があるのだろうか。この秘密はたとえば魂と呼ばれるもので説明がつくのだろうか。決して大げさなことを言っているわけではない。誰もが大切に持っている胸を満たす感情をここでは魂と呼んでいるつもりだ。だから、魂を語るとき、人間もそれ以外の動物ももはや区別がない。」

著者は多くの動物との出会い別れを通して、動物にとっての、そして人間にとっての生と死について深く思索します。でも、これは哲学書ではなく、あくまでも動物記です。だから、とても読みやすい。哲学的命題のような”生と死”について、彼は動物たちを通して学んでゆくのです。

「確かに犬は犬だ。人間ではない。でも、犬を犬としか見ない感覚で本当に犬のことを理解できるだろうか。たとえば、空から降ってきた雪をただの凍った水分として見るか。あるいは、その雪の中に奇跡にも思える結晶を見つけ出し、この世で最も美しい姿をしていることに気づくことができるかどうか。もし、気づくことができたら、降り積もって白いだけだと思っていた雪が頭に広がる空や渡っていく風との関わりのなかで様々な表情を持って生まれてくることを知るだろう。犬についてもその心の奥を覗き込むことで、僕たちが人間の世界に留まっているだけでは知ることができない美しく愛おしい心の在り処を見つけることができるはずだ。」

何度か辛くて本を閉じそうになったこともありました。それでも読み続けたのは、著者自身も犬たちに救われ、読者も同じように彼らに救われるからです。彼らへの深い想いと愛情、そして優しさが溢れているからこそ、本書は凡庸な癒し系動物記にならなかったのです。

ずっと、心に残る本になるだろうなぁ……..。