読んでいる本の著者のお会いするなんて、なかなか叶わないことが実現しました。

先日、出版社のミシマ社設立11周年記念パーティーの席上で、同出版社から「あわいの力」(1836円)を出されていた安田登さんにお目にかかることができたのです。

安田さんは、ワキ方能楽師です。ワキ方というのは、簡単に云えば、主役(シテ方)を補佐したり、物語の進行をする道案内を行う立場です。じゃ、この本は能楽の本?いえ、全く違います。

著者は、現代を「心の時代」と捉えています。心を厳密に定義してゆくと、膨大な時間を要しますので、著者は「自己意識」ぐらいに思って下さい、と言います。主体的に意志決定したり、自我をぐいぐいと押し出すことを覚えた人類は、やがて得体の知れない「心」に振り回されます。古代から孔子、釈迦、イエス等が心との付き合い方を巡って悪戦苦闘してきましたが、その答えが出ていません。

著者は「心」という文字が出る以前、人類はどうしていたのか。「『文字』以前の人間は、身体の感覚に従って生きていました。それが『文字』を使い始めたことで、脳で思考することが増え、人間がいわば『脳化』していった。それによって『心』が肥大化し、『心』がもたらす副作用がどんどんどんどん大きくなっていきます」

自殺、精神疾患の急速な増加はその副作用ではないか、というのが著者のスタンスです。え?じゃ、癒し系の本なのこれ?それも違います。

ここから、能楽師としての経験を踏まえて、「心の時代」の次を生きる「あわいの力」について、実証的に、知的に論じられていきます。ちなみに、「あわい」というのは、あいだのこと。自己と他者、異界と現実界、時間と空間、あっちとこっち。能楽におけるワキは、両者をつなぐ象徴的な存在だということです。

個人的なことですが、小鼓を習い始めて数年、能の舞台も何度も見ましたが、もう〜めちゃくちゃ眠たくなる時があります。実際寝てる人もよくお見かけしますが……。

著者は「それでいいのです。能は『そういうもの』であるからです。そういうもの?はい、そういうものなのです。つまり目の前で流れている時間とは別の時間に生きていることになる。まさに、『あわい』の世界に身をおくことになるわけです。」

この先は、能楽の世界へ入り、日本の芸能から日本語の持つ動的で、身体的な特質へと向います。ここら辺りのお話が好きな方にはたまらん知的興奮をお約束します。

さらに著者は、もう一つの専門でもある古代文字の世界へと読者を誘い、文字のなかった時代、人々はどう心と向き合ったのかまで話が広がります。

昨日、このブログで伊坂幸太郎の小説をご紹介した時、物語が「もう飛び跳ねまくりです」と書きましたが、こちらの本も宗教、古代文字、文学、古典、歴史と方々に飛んでいきます。成る程、成る程と頷きながら、「あわいの力」という抽象的表現の意味するところを学んでいきます。日本文化って、こんなに深く、面白いものなのだったんですね、安田さん。

一つ、いい文章に出逢いました。

「学びというのは、役に立たなければ立たないほど面白い」

 

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