この台詞、別に男と女の痴情の縺れを描いた小説に出てくるのではなく、イラストレーター安西水丸のエッセイ「メロンが食べたい」(実業之日本社/初版/帯3200円)の中にありました。

ある日、見知らぬ女性に「わたしのこと嫌になったらそう言って下さい。」こう切り出された安西さん。さらに、講義をしている女子大の卒業パーティーで、やはり見知らぬ卒業生らしき女性から「いつお電話いただけます」と迫られ、「えっ」と答えた様子が、軽妙な文章とイラストで描かれています。

この本は97年から2年間に渡って「週刊小説」に連載された「描く書くしかじか」から抜粋された、肩のこらない60篇です。どれも、ムフフと笑えそうな作品と、安西の素敵なイラストが楽しめるエッセイ集です。本の構成は「こんな人、あんな人」、「これが好き、あれが好き」(苦手編)、「これが好き、あれが好き」(好き編)そして、「こんな旅、あんな旅」の四つに分かれています。「こんな旅、あんな旅」には京都も登場しますが、

「日本人はよほど京都が好きらしく、ちょっとした地方の城下町などでもすぐに小京都と呼びたがる。料理屋でも京風を自慢にしている店がある。ぼくは絶対入らない。」と辛辣です。

安西は懐石料理が大の苦手で、美味しい店は京都にないと言い切ります。「時々、御飯がヒョウタンの形にかためられていたり、ニンジンがモミジの形に切って出てきたりするとむかむかする。」とか。京都人としては残念なことです…….。

もう一点、安西の本で「a day in the lie」(風土社1600円)も同時入荷しました。こちらは2000年から14年間、雑誌「チルチンびと」に連載された傑作エッセイ67話とカラーイラスト、青山の事務所と鎌倉山のアトリエ、そして彼が集めた様々な物の撮りおろし写真が収録されています。小さい時の思い出、暮らしてきた家のこと、興味をもって集め出した器や、スノードームなど、ノスタルジックな世界が一杯です。文章も素敵ですが、居心地の良い空間を見せてくれるイラストに、惹きつけられます。安西の中に満ちていた幸せな時間が充満している本です。

初めて住んだマンションに、野球好きの青年がやって来ては、野球談義に花が咲きます。安西はへそ曲がりの東京人で中日ファン。青年は「中日を好きだなんていいですね」と喜びます。その青年こそ、今日のスポーツドキュメントの文体を作った山際淳司だったのです。そういう発見も方々で出会える素敵な一冊です。

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 

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個人的に、ゾンビもの、吸血鬼もの、そして半魚人もの映画は、大好物です。昨今、吸血鬼や半魚人は、絶滅危惧種でスクリーンでお目にかかることは滅多にありません。しかし、ゾンビものは手を変え品を変えて登場して、ファンを喜ばせてくれます。

先日、韓国映画「新感染ファイナル・エキスプレス」を観に行きました。傑作です。監督ヨン・サンホという人は、スピルバーグの「JAWS」、あるいは黒澤明「天国と地獄」辺りの映画文法を熱心に研究していたんではないかな、と思いました。

映画は、バイオ企業が垂れ流した薬に感染した人間がゾンビ化し、その一人が超特急に乗り込んで、一気にゾンビが増加。列車内が大パニックに陥るという(もちろん)荒唐無稽なお話ですが、監督が映画の技術を自分のもににしているので、バカバカしいなんて全く思うことなしに、一気にラストまで見せてくれます。ゾンビが登場するまでの伏線も巧みで、例えば主人公が勤務する投資会社が、問題のバイオ企業に絡んで来るというオチなんて、上手いですね。

主人公と娘が列車に乗り込み、娘が何気なくホームを見ていると、ホームにいた人物が襲われるます。えっ!と思った途端に、列車は発車。その間、僅か数十秒のカットですが、映画とはこれだ!と思う瞬間です。列車内で孤立した乗客達が、次々とゾンビ化していきます。あ、この人は襲われるな、きっとこいつは好きな女を守って死んでゆくな、こいつは他人を押しのけても生き残ろうとするな、と思った通りに進んでいくのですが、途中でその定石の展開がガタガタと崩れていきます。

え?え?え〜!この人もゾンビに?! まさか、まさか、この人までも!そんなぁ〜、という悲痛な思いのまま進行。非情な演出が冴え渡ります。さぁ、ここで泣いてくださいと言わんばかりのケレン味たっぷりの演出に、まんまとはまって泣いている人もいましたね。ハリウッド映画だったら、絶対こんな展開にはなりません。

ディーゼル機関車に飛び乗ってやっと脱出した主人公たちにむかって何十人ものゾンビが走ってきます。機関車に乗り込もうとして引きづられてゆくシーンを俯瞰で撮るという、とんでもない映像美学まで楽しませるヨン・サンホという映画人は、第一線級の実力者です。

ラスト、主人公の娘が歌う「アロハ・オエ」に、私も(まんまとはまり)思わず泣いてしまいました。

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 

 

 

川上弘美が1993年に書いたデビュー作「神様」が「神様2011」(講談社650円)としてリミックスされました。そこには深い意味が隠されていました。

「神様」は、川上らしいというか、奇妙なテイストで永遠に残りそうな作品です。

「くまにさそわれて散歩に出る。河原に行くのである。」というふうに、フツーにくまと散歩する人が登場します。これって、ファンタジー?でも「三つ隣りの305号室に、つい最近越してきた。ちかごろの引越にしては珍しく、引越蕎麦を同じ階の住人にふるまい、葉書を十枚づつ渡してまわっていた」などという律儀なくまは、なかなかファンタジーには登場しません。                       

二人は、近くの川に出向き、彼はくまに川魚を取ってもらい、干物にしてもらいます。そして、楽しい一時を過ごしてアパートに戻ります。部屋の前で、親しい人と別れるときの故郷の習慣だとくまに言われて、抱擁します。それだけの話です。この小説が描いているのは、ただ一言、平和な時間です。

2011年のあの震災のあと、作家は「神様」を書き直しました。「くまにさそわれて散歩に出る。河原に行くのである。」で、やはり物語は始まります。しかし、「暑い季節にこうしてふつうの服を着て肌をだし、弁当まで持ってゆくのは、『あのこと』以来、初めてである」と震災後、原発事故で起きた放射能漏れに関する描写が、チラチラとでてきます。河原に遊びにきている男に、くまは放射能に強いからいいなぁ、などと言われても、

「そりゃ、人間よりは少しは被曝許容量は多いですけれど、いくらなんでもストロンチウムやプルトニウムに強いわけはありませんよね。」とさらりとかわします。そして、二人で河原で遊び、やはり抱擁して部屋に戻ります。ただ、オリジナル版と違うのは彼が、その日の総被曝量を計算して終わることです。

原発事故をことさら大きく取り上げている訳ではありません。

「静かな怒りが、あの原発事故以来、去りません。むろん、この怒りは、最終的には自分自身に向かってくる怒りです。今の日本をつくってきたのは、ほかならぬ自分でもあるのですから、この怒りをいだいたまま、それでもわたしたちはそれぞれの日常を、たんたんと生きてゆくし、意地でも『もうやになった』と、この生を放りだすことをしたくないのです。」

と、あとがきに書いています。メルトダウンが起こるまで何もして来なかったという後悔を抱え、たとえ、如何なる状況でも平和な時間は手放さないという思いが、満ちあふれています。

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

 

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 


                          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパイアクションシリーズ「ジェイソン・ボーン」は、大好きな映画です。TVで放映される度に何度でも観てしまいます。スタイリッシュな切れ味が最高。

だから、このシリーズの監督ダグ・リーマンが、イラク戦争に派兵されたアメリカ軍兵士を描いた新作「ザ・ウォール」は、きっと面白いに違いないろうと、勇んで劇場に駆けつました。

しかし、痛ぁ〜い!咽喉が猛烈に乾く!そして得体の知れない恐怖を持ったまま、冷えきった映画館で、冷えきった身体と心のまま帰路に着くという映画でした。お薦めしたいような、したくないような…….。

登場人物は二人の兵士と、最後まで顔を見せない敵側スナイパーの三人のみ。舞台は砂漠のど真ん中。「ジェイソン・ボーン」みたいなアクションは皆無です。

どこからか狙ってくるスナイパーに一人が撃たれ、残された一人は孤立無援の状態になります。スナイパーは抜群の射撃能力で、この兵士の膝の、しかも止血しにくい部分を撃ち抜き、さらに所持していた水筒を、無線のアンテナを、破壊します。彼は猛烈な乾きに襲われて、傷口もふさがらず、救援も呼べない状況で一人ぼっちにさらされます。それだけではありません。スナイパーは英語が堪能で、アメリカ軍の無線を持っていて、兵士と会話を始めます。「なんで、イラクに来たんだ」とじわり、じわり追い詰められていき、精神の崩壊寸前で気絶してしまって、ふと痛みを感じて目を覚めると、なんと烏が銃撃された膝を啄んでいるという、イタァ〜イ世界。

戦場の恐怖を、ここまで描き込んだ映画は珍しいかもしれません。ハリウッドの資本家が泣いて喜ぶヒット作連発の監督が、もう殆ど低予算の、インディーズ映画みたいな作品を製作したことに驚きました。イラク戦争時、クリント・イーストウッドが「アメリカンスナイパー」で、戦場にいる恐怖を彼なりに描きましたが、ダグ・リーマンは、あれは甘い!と思ったのかもしれません。どこから撃たれるかわからない恐怖に晒されることのみを、映像化したのですから。

さて、映画は、救援にきたヘリに載せられて脱出となるところでクライマックスを迎えるはずだったのですが………。ゾクリとする悪寒を抱えたまま、なんの開放感もなく劇場を後にする始末。しかし、戦場に放り出されるとは、きっとこういう事なのです。

先程「お薦めしたいような、したくないような…….。」と書きましたが、戦争をしたがっているかの国や、この国のお偉いさんには、ぜひ見ていただきたいと思います。

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真左・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 

恒例になった、ペンション「ヒッコリーウインド」オーナーで、ネイチャーガイドの安藤誠さんの「安藤塾」を昨夜開催しました。安藤さんは、毎年10月の下旬に北海道鶴居村を出発して、依頼のあるところで、北海道のこと、自然とともに生きていくこと、などについて、講演をして回られます。レティシア書房では数えて5回目になりました。

彼が撮影した写真を観ながら、北海道の自然の魅力と、動物たちの生き方に驚かされました。

左の写真のこの虫、ご存知でしょうか。「トビケラ」という虫です。幼虫時代を水中で過ごし、水上で羽化します。とても小さな昆虫なのですが、トビケラにレンズを向けたのは、「彼のあまりにもかぼそく優美なさま、とくにオーロラのような羽のグラデーションと輝きを見つけることができたから。自然ガイドをしていて、自分自身が毎日いただいている発見と感動に、ただただ感謝」と言う理由です。この写真ではよくわかりませんが、画面を拡大した時に、羽の中にまさにオーロラを見出しました。

右の疾駆するウサギは、夏毛の「エゾユキウサギ」です。飼われているウサギとは全く違う逞しい足。疾走している姿はまるでカンガルーのようです。このウサギ、安藤さんがタンチョウの子育てを撮影していたときに遭遇した雄ウサギで、恋に夢中。撮影者の向こうにいる雌ウサギ目ざして、すぐそこに居る人間などお構いなしに、一直線に走って来たというわけです。安藤さんは、このウサギを前に、こう呟きました。

「北海道の自然界において弱者に位置する彼らが、毎日を必死で生きている様に、強い愛おしさを感じた。願わくは、この冬に真っ白になったエゾウサギに出会えたらと。」

プロ、アマを問わずアジア中のカメラマンが参加できる、アジアの自然にフォーカスをあてた写真コンテストNature’s Best Photography Asia2016で入賞したのが、サクラマスの飛翔(左写真)を捉えた一枚です。幻想的な滝の飛沫の中を飛翔する姿が感動的です。安藤さんは、この作品について「彼らは苦しく、困難な状況であっても決して諦めない。黙々と淡々と飛び続ける。このワイルドライフからのメッセージをどう受け取るかは、己の感性だけではなく自分自身の生き方次第なのかもしれない。」とフォトエッセイの中で書いています。(Nature’s Best Photography Asia2016は販売はしていませんが、店にありますので、ご覧になりたい方はどうぞ)

こんな風に、驚きの写真と楽しいトークで、「ヒッコリーウィンド」を訪れた人もそうでない人も、一緒になって和やかに夜は更けていきました。12〜3人で、狭い店内はいっぱいなのですが、この本屋のあたたかな雰囲気が好きだと言って下さるので、毎年旅の日程に入れてもらっています。トークの前後に、音楽好きの安藤さんは、CDの棚の前に座り込んで、「まいったな〜」と言いながらお気に入りのCDを手にしてニコニコ顔。私自身は、この顔見たさにさらにがんばって、CDコーナーを充実させているようなところがあるように思います。

 

★ 11月5日(土)は店内イベントのために18時にて閉店いたします。ご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお  願いします。

現在、当ギャラリーで写真展開催中の、動物レスキュー組織「アニマルレフージュ関西(ARK)」の来年度カレンダーが入荷しました。毎年、販売していますが、なんとか今回の写真展に間に合いました。今日から12月まで当店でお取り扱いしておりますので、よろしくお願いします。

壁掛けタイプ(1000円)と、卓上タイプ(800円)の二種類があります。顔を寄せ合った子いぬの写真なんか、もう可愛い!!と、抱きしめたくなりますが、彼らは決して幸せな境遇にいたわけではなく、それぞれの事情を抱え、ARKにたどりつきました。今でこそ、ARKという保護施設で、安心した生活を送り、また新しい家族に迎えられた犬や猫もいますが、過去には、遺棄されたり、暴力を受けたりしています。

ARK代表、エリザベス・オリバーさんの「動物と分かちあう人生」(1944円)、「スイート・ホーム物語」(1836円)、「日本の犬猫は幸せか」(734円)を読むと、ヨーロッパに比べて動物保護意識の低い日本の現状、災害時のペットの安全対策、あるいは安楽死の現状をつぶさに知ることができます。(以上3冊の本の販売は写真展最終の18日まで)

動物にとって優しくない国は、やはり人にとっても優しくない国ではないでしょうか。

 

さて、本日オープンしたMUJIBOOKS(イオンモール京都/無印良品)の「オススメ本の紹介」コーナーに参加させていただくことになりました。これは、何人かが、それぞれセレクトした本を数冊選び、コメントとともに店内で展示販売してもらうという企画です。テーマは何でも良かったのですが、「共生」ということを考えるという意味合いで、以下の文を添えて熊に関する本を選びました。こんな本です。

「ぼく生きたかったよ」 すずきまりこ かりん舎
「ブルーベア」 リン・スクーラー 集英社
「熊になった少年」 池澤夏樹 スイッチ・パブリッシング
「終りのない旅星野道夫インタビュー」 湯川豊 スイッチ・パブリッシング
「なめとこ山の熊 あべ 弘士 三起商行

いつから、熊は人間の敵になってしまったのでしょうか。クマモンは可愛いけど、本物は人を襲うから怖いと考えますか?本来、熊は山の奥で彼らの生活を全うしていたはず。それが、人間の住む近くまで出てきたのは何故でしょう。そんな事も含めて、人間にとっても、熊にとっても住みやすい世界のありようを考える本です。」

 

私たちも、犬も猫も、熊も、この星に共にへばりついて生きていることを、頭の隅に置いておきたいものです。

 

★毎年恒例になりました『ネイチャーガイド安藤誠さんの自然トーク「安藤塾」』は、10月28日(金)7時30分より開催が決定しました。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

★★カナダ在住で、ドールシープを撮影されている写真家、上村知弘さんの写真展を11月1日(火)〜13日(日)まで開催します。5日(土)夜に、上村さんによるスライドショーを予定しております。(要・予約 同じくレティシア書房までお願いします)

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「夏の一箱古本市」終了後、数日間お休みをいただき、北海道へと向いました。

台風が北海道に上陸して被害も伝わる中、当日はまたもや台風が関東方面に…..。飛行機は定刻通り飛んだものの、釧路はやはり雨でした。

出迎えてくれた鶴居村の宿ヒッコリーウインドオーナー、安藤誠さんは、ネイチャーガイドでありプロカメラマン。握手するなり「今から、知床に向かうよ。」って、この雨の中を??

数時間のドライブで着いた所は、鱒が遡上する「さくらの滝」。恐ろしい水量の川を、果敢にアタックする姿を見て、ワクワク!その後、神秘的なコバルトブルー色の「神の子池」に向かいました。摩周湖からの地下水が湧き出ている山の奥にある池で、摩周湖(カムイトー=神の湖)の伏流水からできているという言い伝えからそう呼ばれています。周囲220m、水深5mの小さな池で、 水が澄んでいるので底までくっきりと見えます。

 

翌日は快晴。お約束のカヌーツアー・・・・しかし、河に行かず、山の中へ。安藤さんと、ネイチャーガイド研修生ケンちゃんが、30キロのカヌーを担いで、森の奥へと向かいます。立て看板には「ヒグマ出没注意」。道なき道を抜けて到着したのは阿寒国立公園内「ひょうたん沼」。

辺り一帯を支配する静寂。滑るように湖面を移動するカヌーのパドルの音だけが聞えます。東山魁夷の作品のような森の風景。大きな自然に抱かれている心地よさとはこんな情景のことなのだと思いました。

安藤さんはまたギターリストでもあり、音楽好き仲間として、会えば話が盛り上がる関係で、その夜はヒッコリーウインドに、ギタリストの藤本裕治さんが駆けつけ、突然のライブ。素敵なブルースで夜が更けていきました。

翌日は、釧路の西北、白糠町で義弟がやっている茶路めん羊牧場で、牧場が運営するレストラ「クオーレ」に行き、羊肉を使った料理を楽しみました。「クオーレ」は昨秋開店し、地元の若いシェフが、美味しい料理を出すという評判をもらっていて、今回の旅の目的の一つでした。メインディッシュの「仔羊のロースト 季節の野菜添え」(写真右)は絶品。暮れてゆく牧場風景を遠くに見ながら数日のバカンスは終了となりました。

 

★なお、毎年当店で開催している安藤誠「安藤塾」は10月末を予定しています。正式な日時が決まりましたら、お知らせします。今年もまた美しい写真と共に、楽しい話が聞けると思いますよ。

きらめく野生の一瞬を切り取った、安藤誠写真展「Ordinary Miracle」本日より開幕です。

このブログでも何度も紹介していますが、安藤さんは北海道在住のネイチャーガイドで、カメラマン。レティシア書房では、毎年秋に一日だけ、講演会をしてもらっています。安藤さんのお話は、自然に対する畏敬と親愛があふれていて、講演を聴いたお客様の中から何人かは、必ずと言っていいほど北海道へ旅立たれます。

彼の写真「Kimn Kamui」(左)を初めて観た時、この熊の目線の物悲しさに心打たれました。

害獣として「俺たちは、何故殺されなければならないのか」 そんな台詞が聞こえてきそうでした。その後、何度か、この作品に接しているうちに、いやそれだけじゃないと思えるようになりました。今、この視線が伝えてくるのは、すべてを包み込む優しさです。あらゆる感情の爆発をす〜っと回避させるようなとでも言えばいいのでしょうか。いつも、そばにいて見守ってくれるような存在に思えます。

同じように、「Fox Dream」というキタキツネの眼差しを捉えた作品にも、やはり同じような優しさを感じることができます。この作品は、北海道の病院の待合室に飾られているそうです。患者を励まし、癒す効果があるのかもしれません。

一方、サクラマスの遡上の一瞬を捉えた「Never Give Up」は、生きる力すべてを振り絞って川を上がる姿が見事に表現されています。安藤さんはこう書いています。

「写真には、凛とした彼等の清楚な美しさ。己の使命を果たすべく遡上を続ける果敢さ。そんなエネルギーを切り取り、封じ込めたいと思った。」

タイトルに相応しい作品です。そんな力強い作品の一方で、素敵な夢を見ているに違いない子狐の横顔を捉えた「Dreaming Fox」や、新緑の北の大地で、あくびするエゾフクロウの微笑ましい姿を捉えた「Treasure Smile」など、フフフと笑えてきそうなユーモラスな作品や、幻想的な風景の中に佇むタンチョウを捉えた「Soft Silence」「Blue Crane River」などシンと冷えた情景の中の美しさを見つめた作品もあります。

お時間があれば、素敵な北国の仲間に会いに来て下さい。

「安藤誠写真展」は15日まで 

 CD付きミニ写真集も販売中です。

 

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北海道のネイチャーガイドで写真家の安藤誠さんの、トークショーを10月23日夜に開催しました。

狭い店内に、多くの方にお集り頂きありがとうございました。

当日朝、静岡県焼津から「今から京都へ向かいます」と連絡があり、夕刻無事到着。今年で4回目になりますが、常連さん、初参加の方など我々を含めて、18名が、スライドを使った安藤節に酔いました。

北海道の大自然に生きる動物達の写真をメインにして、自然大系の微妙なバランス関係の事、「危険な動物」というレッテルをマスコミによって貼られた野生の熊のこと、毎年アラスカで見るオーロラツアーの事など、興味深いお話でした。

私たちは、人間だけが、食とは関係なく他の生物を殺す。動物は、ただ食べるためにだけ補食すると思っていますが、そうではありません。例えば、シャチのグループは、クジラを追いかけ殺害することがあります。一つには、狩りの訓練のためですが、ここにはもう一つ大きな意味があって、クジラが増えすぎて、主食するオキアミの量が極端に減らないようにするためだ、というのです。別にシャチにそんな意識があるのではなく、太古の昔から、そうやってバランスを保ってきたのです。聞けば聞く程、自然大系の深さに驚きます。

さて、数多い安藤さんの作品の中で、昨夜一番受けた写真は、これ(下)。

ルンルン気分で、上がってきたアカリスの目の前には、なんと大きなアメリカワシミミズク。リスはやばい!と思ったに違いないのですが、ずーっとここに泊っていたミミズクの方は満腹だったみたい(何しろ補食関係です)で、命拾いしたアカリスでした。カメラを構えていた安藤さんも、おもわず吹出したそうです。

自然の中ににこそ学ぶべきことが沢山ある、という思いで一杯になった夜でした。

この作品の入った作品集「Ordinary People」最新号(CD付き2200円)は、11月3日から始まる彼の写真展で販売します。写真展では、北の大地に生きる動物達の力強い姿を楽しむことができます。

安藤誠写真展は11月3日(火)〜15日(日)

 月曜定休日 12時〜20時  レティシア書房にて

 

 

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野生のクマの写真で、星野道夫を越えてゆくのは、なかなか出現しないだろうと思っていましたが、やはりさらに前に向かう者っているんですね。

雑誌「ライフスケープvol.1」(ブテッィク社1100円)で特集を組まれている前川貴行の作品を観た時、星野とは違うアプローチで、野生に切り込む写真家の鋭い視線に魅了されました。それは、彼の「道を拓いた一枚」と題して紹介された写真で、2002年秋、南アラスカで撮影された、サーモンを口にくわえたブラックベアーを捉えた作品です。

血の滴るサーモンを頬張るブラックベアーの表情。目には狩猟する者としての深い悲しみさえ感じさせてくれます。

もう一点、クマではありませんが、2012年ウガンダで撮影されたマウンテンゴリラを正面から捉えた作品。ジャングルの神に相応しい威厳と洞察力、そして優しさを漂わせた一枚です。出来うるならば、彼の前に座って長きにわたる森の話を聞かせてもらいたいものです。

彼は動物写真家として歩み出した頃、鬱蒼とした獣道で、ばったり一頭のシカに出会います。その時の気持ちをこう書いています

「宇宙人にでもばったり遭遇したような、動物が動物を越えた何物かであることをその瞳に感じた。そしてシカと僕は同じ大地に立ち、今を生きる命としてあくまで対等な一個と一個であった。」

彼の作品に登場する動物達の特徴は、彼等の目を捉えていることでしょう。星野が、すべての外界の情報を取り込む彼等の鼻に着目していたように、前川は視線にすべてを注ぎます。お互い、対等な存在として見つめあっているように。

彼の作品集は何点か出ていますが、ひとつだけ古書で見つけました。「Bear Worldクマたちの世界」(菁菁社3200円)です。北海道で撮影されたヒグマの親子の仔グマが、「うん、何か用?」とでも言いたげな視線は傑作です。

 

 

ところで、当店のクマがらみの企画をご紹介いたします。

●11月3日(火)〜15日(日) 安藤誠写真展 北海道在住のネイチャーフォトグラファーの写真展。

2014年「ネイチャーズフォトグラフィージャパン」で鳥部門凖グランプリ、動物部門入賞されました。その記念すべき写真展です。安藤さんのクマを捉えた写真も、同じく「ネイチャーズフォトグラフィージャパン」の動物部門で入賞されています。今回の写真展にもクマが登場するかは、お楽しみです。

 

●2016年5月24日(火)〜6月5日(日)すずきまいこ作品展。

札幌在住の鈴木麻衣子さんの絵本「ぼく生きたかったよ」(かりん舎)の原画展。これは戦時中に、動物園から逃げると危険との理由で殺処分にされたクマの話です。因みに京都市動物園もクマ、ライオン等14匹を処分しています。

決して明るいお話ではありませんが、戦争好きの首相にも、この絵本をぜひお読みいただきたいものです。

なお、こちらの絵本は近日販売を開始します。