昨日(10月27日土曜日)は、北海道のネイチャーガイド安藤誠さんのトークショーの日。毎年この時期に釧路から、いつものように大きなバンに一杯荷物を積んでご来店…..と、思っていたら、午後4時頃、爆音を響かせた派手なバイクが店の前に止まるではありませんか。バイクで北海道を発って、各地で講演しているという噂は聞いていましたが、オイオイ、ホンマに来た!バイクにはてんで興味がない私には、性能とかスゴさなど全くわかりませんが、さあこの写真をご覧下さい。

午後7時ちょうど。トークショーの安藤節は、いつもにもまして快調に始まりました。

「アラスカには二種類の人間しかいないと言われています。一つはチーチャコ、もう一つはサワドゥ。前者の意味は、アラスカ生活1、2年でギブアップして逃げる、いわば根性なし。後者は、アラスカ在住10年以上の、ホンモノ」。毎年オーロラツアーを率いて訪れるアラスカの話から、30年ぶりに買ったバイクのこと、そして北海道、アラスカの自然の話へと移っていきました。

可愛らしいキタキツネや、円満夫婦のエゾフクロウ、そして、昨年のトークに登場した知床の兄妹クマが独立し、妹クマがお母さんになった写真などが映し出され、大自然に生きる彼らの豊かな表情に、参加者から、歓声やら溜め息が上がりました。どの動物達も素敵でしたが、アラスカで撮影されたエリマキ雷鳥の求愛の姿が、特に印象に残りました。

欲望に取りつかれた奴、権力の溺れた奴など腐敗した輩がインチキ政治を行っている今の時代の危うさを憂い、しかし、私たちはそんな輩に騙されないようにするために、インチキもヤラセもない自然をしっかり見つめることが大事なことだと力説されました。

後半は、ミャンマーに行った時に撮影した写真をもとに、この国の人々の姿や、市場の風景、漁師さんの日常などの話へ。生活水準は日本の100年前かもしれないが、スマホのおかげで最新情報は獲得しています。生活も日常もすべてネット社会に組み込まれてしまった我が国とは違い、自然は保たれ、昔ながらのゆっくりとしたペースの生活で、最新情報にアクセスして、新しい知識を吸収しているミャンマーが、これからどんな人間を輩出してゆくのか興味あるところです。

そして、アメリカスミソニアン博物館主宰のネイチャーズベストフォトグラファー動画部門グランプリを受賞した、安藤さんの動画を鑑賞して、今年の会は終了。ぜひ冬の北海道へ行きたい!!と、参加者全員が思った事でしょう。(特に私)ごく内輪で遅い晩ごはんを食べ、クマ男は爆音を響かせ次の地へと向かいました。

 

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生物学者の福岡伸一が、たしか、カリフォルニア州サンタモニカにあった古書店のことを「週刊文春」の連載で書いていたなぁ〜というおぼろげな記憶で、その文春の連載記事をまとめた「変わらないために変わり続ける』(文藝春秋/古書950円)をパラパラめくっていると、ありました、ありました。

十数年前、彼が海岸沿いの商店街のプロムナードと呼ばれる歩行者天国をぶらぶらしていた時のことです。

「このプロムナードの端っこの方に、木の扉の、間口は狭いが奥深い、なかなかシックな感じの古本屋さんを見つけた。当事は9/11の直後。至る所に星条旗が掲げられ、アメリカ中で愛国心が盛り上がっていた。ところが店頭の一番目立つショーウィンドには反体制で知られるノーム・チョムスキーの著作 ”9−11:Was There  an Alternative”(邦訳『9・11−アメリカに報復する資格はない!』)が飾ってあった。ああ、アメリカにもこんな本屋さんがあるんだ、かっこいいと思った。」

その本屋が今もあるのか、いやあって欲しいと念じつつ、福岡はこの街を再訪します。その場所にはありませんでした。しかし、違う場所にアート系に特化した古書店を発見!どこか、一本筋が通った雰囲気を感じて、店員に訊ねると、あの古本屋だったのです。「ポスト9/11の荒波を乗り越えて、立派に進化を遂げていたのだ。」と歓びを文章にしています。

著者は、研究修行時代在籍したNYロックフェラー大学に、客員教授として滞在することになります。そして、この巨大都市の生活、アート、文化の断面を、好奇心一杯に観察したのがこの本です。

スタンリー・キューブリックの映画「シャイニング」は、主人公の小説家が狂気じみた表情でひたすらタイプライターを打つシーンが有名ですが、著者は同じタイプライターをノミの市で見つけ、ホクホク顏で買って帰ったというような話も沢山あり、肩のこらない読物になっています。

ほぼすべてNYの話ですが、京都が登場するものがあります。「今出川通から猪熊通という小さな路地を少し奥に入った古い木造の町家の二階」に下宿していた学生時代。「猪熊通今出川上ル」だけで郵便物が届くことに衝撃を受けたそうですが、NYもそうらしい。そこには、”いけず”って言葉もあるんだろうか….。詳しくは第7章「タイルの街と目地の街」をお読み下さい。

★釧路ヒッコリーハウスオーナー安藤誠の「ネイチャートーク」が決定しました。10/27日(土)19時スタートです。

参加費は2000円です(要予約)

 

 

 

2015年3月のブログで、「野生のクマの写真で、星野道夫を越えてゆくのは、なかなか出現しないだろうと思っていましたが、やはりさらに前に向かう者っているんですね。」と動物写真家、前川貴行を紹介しました。その時魅かれた作品について以下のように書きました。

「星野とは違うアプローチで、野生に切り込む写真家の鋭い視線に魅了されました。それは、彼の「道を拓いた一枚」と題して紹介された写真で、2002年秋、南アラスカで撮影された、サーモンを口にくわえたブラックベアーを捉えた作品です。

血の滴るサーモンを頬張るブラックベアーの表情。目には狩猟する者としての深い悲しみさえ感じます。」

2016年に発行された写真集「クマと旅する」(Keystage21/古書1900円)では、星野とは違う、前川の世界観で撮影された各地の野性のクマたちが登場します。

おとぼけ顔の子どもと鼻を膨らまして周囲の情報を収集する親クマ、川下から歩いてくる堂々たる風格のグリズリー、知床の奥地のテッパンベツ川で、遡上してくるサケやマスを待ち構えるエゾヒグマを捉えた作品などがそれです。

この作品集で、前川は、井上奈奈のイラストも組み込んで文章を書いています。

「一億五千万キロの宇宙空間を飛び越えてきた太陽光が、緻密に密集した半透明の毛をするりと通り抜け、紫外線で日焼けした真っ黒い肌に、熱とエネルギーを伝えはじめた。瞳から射し込む光は、闇夜に凍りついた魂をゆっくりと溶かし、今日生きることをうながす」

これは、極北に生きるホッキョクグマが目覚めた時の様子を描いています。この文章に添えられている井上の挿絵「風の匂いを嗅ぐシロクマ」の表情が素敵です。

作品集の最後二枚の写真。一枚は、日没とともに森へ帰る親子のグリズリー。夕陽に輝き、クマの背中の輪郭が美しい。彼らが歩く傍の湖は静寂そのものです。今日も一杯食べたね、というような親子の会話が聞こえてきそうです。もう一枚は、満月が登った夜、湖で頭だけを出しているグリズリー。ああ、いい湯だなぁ〜みたいに、一息ついた様子を捉えています。どちらもクマへの深い愛情なくしてはシャッターを押せない作品です。

 

 

 

 

 

 ★釧路ヒッコリーハウスオーナー安藤誠の「ネイチャートーク」が決定しました。10月27日(土)19時スタートです。参加費は2000円です(要予約)

『「ユタカ」とは金を持っていることを言うのではない。「考え方がユタカ」なこと」

だと言い切るのは、高知で活躍するデザイナー、梅原真です。生まれた故郷に拠点をおいて、「一次産業×デザイン=風景」という独自の方程式のもとで、様々な作品を世に送り出しています。例えば、かつおを藁で焼く「一本釣り・藁焼きたたき」、荒れ果てた栗の山から「しまんと地栗」等々。「土地の力を引き出すデザイン」で2016年度毎日デザイン賞・特別賞を受賞しました。

ユニークな活動を続ける梅原真の考えている事、やろうとしている事を、彼がデザインした作品と共に紹介したのが、「おいしいデ」(羽鳥出版/新刊3024円)です。

「今までは、『農薬使わずにできるわけない』という固定観念があった。大量生産、大量収穫を教えられ、疑わなかった。」荒れ放題になった四万十流域の栗山。中国産の安い栗が市場を席巻し、誰も栗を作らなくなり、荒れていきました。そこで、原田は、化学肥料と農薬を使わずに栗を作ることに挑戦し、少づつケミカルフリーの栗農家が増えていきます。

2016年、首都圏のデパートから、フードコレクションへの依頼が飛び込みます。ケミカルフリーの価値を「地」という文字に象徴させるために、「しまんと栗」から「しまんと地栗」にデザインをリニューアルし、さらに◯印の中に、「地」の文字を入れこみます。結果、高級感を助長するような浮ついた感じがなく、生産者の誠実さ、商品の安心感が消費者へ伝わっていきます。原田は「その商品が『誠実に見えているか」というのは大きなポイントであり、誠実さというのはおいしさとイコールに近い。」と語っています。大量生産ラインから生み出される商品には、見つけられない誠実さです。

「昔は暮らしのために経済があった時代で、ちゃぶ台が暮らしの中心にあった。ところがいまは先に経済があるから、未来を語るのではなく経済を語っている。日本の姿を誰も語らないじゃないですか」

本当に価値あるものを探し、支援し、デザインの力で世間に広げてゆく。効率最優先のフード業界に挑戦してゆく原田を、糸井重里は「梅原真というおっさんは、なんでもやりよるデ」と帯に書いています。どことなく、関西の馬力あるおっさんの仕事ぶりを読んでいる気分になってきました。お薦めです。

 

★レティシア書房「夏の一箱古本市」は、8月8日(水)〜19日(日)開催

★★ネイチャーガイド安藤誠氏の「安藤塾」は10月27日(土)に決まりました。参加ご希望の方は電話、メールにてご連  絡下さい

 

日本各地の素敵な村を紹介する新聞「日本で最も美しい村連合」(450円)の最新号は、北海道の鶴居村。毎年当店でのネイチャートークでお馴染み「ヒッコリーウィンド」オーナー安藤誠さんの牙城です。ページを捲ってみると、やはり大きく掲載されていました。

鶴居村は、北海道道東。阿寒湖と釧路湿原の間に広がる人口2500人程の小さな村です。村の名前通りにタンチョウと人々が共生しています。この地にロッジ「ヒッコリーウインド」をオープンして20年。安藤さんは「鶴居村は、鶴が居る村ではなく、正確には『鶴が選んだ村』。自分の住む村を大切に思い、誇りを持つことにリスペクトできているかが重要です。」と村への愛情を語っています。田舎に暮らす子どもたちの意識を変えることが重要であり、「いったん、外に出てもいいから、また戻ってきたくなる村にする。大事なのはタレントやオリンピック選手ではなく魅力ある村民を輩出すること」が、村を良くしてゆくのだとも。

ほかにも魅力的な人が住んでいます。小説「大草原の小さな家」に憧れて、ゲストハウス「ハートンツリー」を営む服部さんご夫婦。創業100年を迎えた老舗ホテルのオーナー和田さんは、宿泊客を連れてネイチャーガイドを行い、必ずタンチョウが見えるスポッットまで連れてゆくそうです。

鶴居村周辺の大きな地図には、この地に棲息している動物達が紹介されています。キタキツネ、エゾシカ、エゾユキウサギ、エゾヒグマ、オジロワシ等々。私は、ここで日本最大の猛禽類オオワシを見ました。もう堂々たる姿。夏のご旅行のプランにぜひ加えて下さい。

一方、高知発のフリーペーパー「とさぶし」最新号も入荷しています。「地域の名のつく種」として、各地で、種を採り、植え、収穫してきた作物が紹介されています。それらの作物が収穫されている地域の名前を冠にした野菜ばかりです。田村かぶ、大豊在来きゅうり、中追大根、潮江菜、日南のぼたなす、下知ねぎ、大道の昔高菜、本川じゃがいも等々が、生産者の方々の顔とともに掲載されています。どこで生産されているかの地図もあります。

昨夜、北海道のネイチャーガイド&ペンション「ヒッコリーウインド」のオーナー安藤誠さんをお迎えしました。毎年、秋には釧路を出発して、札幌、東京、大阪など依頼のある所で、北海道の自然や魅力について、伝道師のように講演されています。当店でのネイチャートークは、今回で6回目。つまりレティシア書房開店以来、毎年開いています。お会いする度、私とは大好きな音楽談義で盛り上がります。安藤さんは写真家としても活躍されているので、美しい写真を見ながら、クマとの超接近遭遇の驚きの話など、14人のお客様(小さな店は満杯です)とともに時間を経つのを忘れて聴き入りました。

彼の来店に合わせてというわけではないのですが、北海道関連の、特にアイヌ民族関連の本で面白そうなものが入荷しました。岡和田昇&マーク・ウインチエスター編集による「アイヌ民族否定論に抗する」(河出書房新社1500円)、杉山四郎「武四郎碑に刻まれたアイヌ民族」(中西出版1200円)です。

前者は、2014年、札幌市議会議員、金子やすゆきの「アイヌ民族なんて、いまはもういないですよね。せいぜいアイヌ系日本人が良いところですが、利権を行使しまくっている」というネット上での発言が引き金になって、アイヌ差別発言の嵐が吹いていることへの異議申し立てを、香山リカ、池澤夏樹、寮美千子、当店でも個展をしていただいた版画家、結城幸司さんなどが、それぞれの立場で意見を述べたものを編集したものです。

北海道出身の精神科医、香山リカは、この発言の後、エキサイトするヘイトスピーチには、アイヌと申告する人へのDNA鑑定の義務付けを主張した輩がいることに愕然としました。これって、かつてナチスドイツがやったような民族の選別へと繋がる危険があると指摘しています。在日韓国人、沖縄、そしてアイヌと、私たちは知らず知らずのうちに、恐ろしい立場に立っていることを示唆する一冊です。

後者の「武四郎碑に刻まれたアイヌ民族」は、江戸末期から明治にかけて、当時蝦夷地と呼ばれていた北海道をアイヌの道案内人と共に何度も探検し、地図を作成し、北海道という名称を付けた松浦武四郎と、アイヌの歴史を克明に調査した報告書です。この地には、30もの武四郎碑がありますが、一人にこれ程多くの碑があることは驚くべきものです。筆者は丹念にこれらの碑を調査していきます。その中から浮かび上がる武四郎とアイヌの関係は……。因みに、彼はアイヌ民族への搾取を温存する政府の開拓使を批判して、官僚の職を辞めています。

さて、昨日入荷した帯広発の雑誌「スロウ」最新号(税込905円)では「ちいさな絵本のお店」と題して、「絵本屋カフェ南風」を営む出町南さんと、札幌の絵本専門店「花さき山」の道端友子さんが紹介されています。道端さんは、京都旅行で、当店に立ち寄っていただいたというご縁があります。道端さんがその時持っておられた絵本「ぼく、生きたかったよ」を初めて見て原画展の運びになったことを、改めて思いだしました。

読んでいる本の著者のお会いするなんて、なかなか叶わないことが実現しました。

先日、出版社のミシマ社設立11周年記念パーティーの席上で、同出版社から「あわいの力」(1836円)を出されていた安田登さんにお目にかかることができたのです。

安田さんは、ワキ方能楽師です。ワキ方というのは、簡単に云えば、主役(シテ方)を補佐したり、物語の進行をする道案内を行う立場です。じゃ、この本は能楽の本?いえ、全く違います。

著者は、現代を「心の時代」と捉えています。心を厳密に定義してゆくと、膨大な時間を要しますので、著者は「自己意識」ぐらいに思って下さい、と言います。主体的に意志決定したり、自我をぐいぐいと押し出すことを覚えた人類は、やがて得体の知れない「心」に振り回されます。古代から孔子、釈迦、イエス等が心との付き合い方を巡って悪戦苦闘してきましたが、その答えが出ていません。

著者は「心」という文字が出る以前、人類はどうしていたのか。「『文字』以前の人間は、身体の感覚に従って生きていました。それが『文字』を使い始めたことで、脳で思考することが増え、人間がいわば『脳化』していった。それによって『心』が肥大化し、『心』がもたらす副作用がどんどんどんどん大きくなっていきます」

自殺、精神疾患の急速な増加はその副作用ではないか、というのが著者のスタンスです。え?じゃ、癒し系の本なのこれ?それも違います。

ここから、能楽師としての経験を踏まえて、「心の時代」の次を生きる「あわいの力」について、実証的に、知的に論じられていきます。ちなみに、「あわい」というのは、あいだのこと。自己と他者、異界と現実界、時間と空間、あっちとこっち。能楽におけるワキは、両者をつなぐ象徴的な存在だということです。

個人的なことですが、小鼓を習い始めて数年、能の舞台も何度も見ましたが、もう〜めちゃくちゃ眠たくなる時があります。実際寝てる人もよくお見かけしますが……。

著者は「それでいいのです。能は『そういうもの』であるからです。そういうもの?はい、そういうものなのです。つまり目の前で流れている時間とは別の時間に生きていることになる。まさに、『あわい』の世界に身をおくことになるわけです。」

この先は、能楽の世界へ入り、日本の芸能から日本語の持つ動的で、身体的な特質へと向います。ここら辺りのお話が好きな方にはたまらん知的興奮をお約束します。

さらに著者は、もう一つの専門でもある古代文字の世界へと読者を誘い、文字のなかった時代、人々はどう心と向き合ったのかまで話が広がります。

昨日、このブログで伊坂幸太郎の小説をご紹介した時、物語が「もう飛び跳ねまくりです」と書きましたが、こちらの本も宗教、古代文字、文学、古典、歴史と方々に飛んでいきます。成る程、成る程と頷きながら、「あわいの力」という抽象的表現の意味するところを学んでいきます。日本文化って、こんなに深く、面白いものなのだったんですね、安田さん。

一つ、いい文章に出逢いました。

「学びというのは、役に立たなければ立たないほど面白い」

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真左・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。数名で満席ですのでお早めに(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

伊坂幸太郎の「a night  ホワイトラビット」(新潮社1000円)は、驚く程面白い小説でした。内容というより、その語り口と小説の構成が飛び抜けて上手い!伊坂は元々好きな作家なので、ちょいちょい新作を読んでいるのですが、これはとびきり面白い。

ある家の家族を人質にした立てこもり事件が発生。現場に向かう警察のスペシャルチーム。フツーのサスペンス小説なら、ここから犯人側と警察の息詰るやり取りを重ね合わせてエンディングへ持ってゆくのでしょうが、伊坂はそんなルーティンな作りはしません。本の帯に「展開が思わぬ方向へ飛び跳ねる可能性があります。足下を照らす懐中電灯をお忘れなく」と書かれていますが、もう飛び跳ねまくりです。

サスペンスが盛り上がりそうになると、では読者のみなさんには、少し前に某のその日の行動を見ていただこうと現場から連れ出します。え?事件は???などお構いなしに四方八方へと広がっていきます。昨今の映画によくあるリワインドムービー(一気に現在から過去へ戻り、また現在に戻る)手法や、多くの人物をバラバラと投げ出し、それぞれのエピソードをつなぎながら、大きな物語を作ってゆく方法、あるいはC・イーストウッド監督作品「ジャージー・ボーイズ」で、急に登場人物が画面の観客に向かって語り出すといった演出などが、巧みに取り入れてあります。

しかし、その拡散する話がバラバラになることなく、読者を離さず、しっかりラストまで連れてゆく技は、さすがです。ユーモア、ドタバタギャグのセンスも豊かで、この小説でも方々で笑わせてくれます。一番くすぐられるのは、登場人物の大半が、なぜか「レ・ミゼラブル」を読んでいて、その蘊蓄が語られたり、オリオン座の雑学的知識が小説の小技として使用されたりする部分です。大体、タイトルの「a night  ホワイトラビット」は、海外ならルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」、日本なら「因幡の白兎」を連想させるもので、後者はチラッと登場してきます。本好きをクスリとさせる辺りも用意周到です。

私はこの本と、谷崎潤一郎の紀行エッセイ「吉野葛」、能楽師の安田登「あわいの力」、池澤夏樹「文学全集を編む」、吉田篤弘「京都で考えた」を同時進行で読むという、てんでばらばら、支離滅裂な読書時間を過ごしていましたが、それぞれの語り口を大いに楽しみました。古典も当代人気作家も、分け隔てなく読むのが最も楽しいと確信しています。

なお、読書中の「吉野葛」他も、順次ブログでご紹介していきますのでおつき合い下さい。

 

 

 

 

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真左・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。数名で満席ですのでお早めに(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 

この台詞、別に男と女の痴情の縺れを描いた小説に出てくるのではなく、イラストレーター安西水丸のエッセイ「メロンが食べたい」(実業之日本社/初版/帯3200円)の中にありました。

ある日、見知らぬ女性に「わたしのこと嫌になったらそう言って下さい。」こう切り出された安西さん。さらに、講義をしている女子大の卒業パーティーで、やはり見知らぬ卒業生らしき女性から「いつお電話いただけます」と迫られ、「えっ」と答えた様子が、軽妙な文章とイラストで描かれています。

この本は97年から2年間に渡って「週刊小説」に連載された「描く書くしかじか」から抜粋された、肩のこらない60篇です。どれも、ムフフと笑えそうな作品と、安西の素敵なイラストが楽しめるエッセイ集です。本の構成は「こんな人、あんな人」、「これが好き、あれが好き」(苦手編)、「これが好き、あれが好き」(好き編)そして、「こんな旅、あんな旅」の四つに分かれています。「こんな旅、あんな旅」には京都も登場しますが、

「日本人はよほど京都が好きらしく、ちょっとした地方の城下町などでもすぐに小京都と呼びたがる。料理屋でも京風を自慢にしている店がある。ぼくは絶対入らない。」と辛辣です。

安西は懐石料理が大の苦手で、美味しい店は京都にないと言い切ります。「時々、御飯がヒョウタンの形にかためられていたり、ニンジンがモミジの形に切って出てきたりするとむかむかする。」とか。京都人としては残念なことです…….。

もう一点、安西の本で「a day in the lie」(風土社1600円)も同時入荷しました。こちらは2000年から14年間、雑誌「チルチンびと」に連載された傑作エッセイ67話とカラーイラスト、青山の事務所と鎌倉山のアトリエ、そして彼が集めた様々な物の撮りおろし写真が収録されています。小さい時の思い出、暮らしてきた家のこと、興味をもって集め出した器や、スノードームなど、ノスタルジックな世界が一杯です。文章も素敵ですが、居心地の良い空間を見せてくれるイラストに、惹きつけられます。安西の中に満ちていた幸せな時間が充満している本です。

初めて住んだマンションに、野球好きの青年がやって来ては、野球談義に花が咲きます。安西はへそ曲がりの東京人で中日ファン。青年は「中日を好きだなんていいですね」と喜びます。その青年こそ、今日のスポーツドキュメントの文体を作った山際淳司だったのです。そういう発見も方々で出会える素敵な一冊です。

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 

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個人的に、ゾンビもの、吸血鬼もの、そして半魚人もの映画は、大好物です。昨今、吸血鬼や半魚人は、絶滅危惧種でスクリーンでお目にかかることは滅多にありません。しかし、ゾンビものは手を変え品を変えて登場して、ファンを喜ばせてくれます。

先日、韓国映画「新感染ファイナル・エキスプレス」を観に行きました。傑作です。監督ヨン・サンホという人は、スピルバーグの「JAWS」、あるいは黒澤明「天国と地獄」辺りの映画文法を熱心に研究していたんではないかな、と思いました。

映画は、バイオ企業が垂れ流した薬に感染した人間がゾンビ化し、その一人が超特急に乗り込んで、一気にゾンビが増加。列車内が大パニックに陥るという(もちろん)荒唐無稽なお話ですが、監督が映画の技術を自分のもににしているので、バカバカしいなんて全く思うことなしに、一気にラストまで見せてくれます。ゾンビが登場するまでの伏線も巧みで、例えば主人公が勤務する投資会社が、問題のバイオ企業に絡んで来るというオチなんて、上手いですね。

主人公と娘が列車に乗り込み、娘が何気なくホームを見ていると、ホームにいた人物が襲われるます。えっ!と思った途端に、列車は発車。その間、僅か数十秒のカットですが、映画とはこれだ!と思う瞬間です。列車内で孤立した乗客達が、次々とゾンビ化していきます。あ、この人は襲われるな、きっとこいつは好きな女を守って死んでゆくな、こいつは他人を押しのけても生き残ろうとするな、と思った通りに進んでいくのですが、途中でその定石の展開がガタガタと崩れていきます。

え?え?え〜!この人もゾンビに?! まさか、まさか、この人までも!そんなぁ〜、という悲痛な思いのまま進行。非情な演出が冴え渡ります。さぁ、ここで泣いてくださいと言わんばかりのケレン味たっぷりの演出に、まんまとはまって泣いている人もいましたね。ハリウッド映画だったら、絶対こんな展開にはなりません。

ディーゼル機関車に飛び乗ってやっと脱出した主人公たちにむかって何十人ものゾンビが走ってきます。機関車に乗り込もうとして引きづられてゆくシーンを俯瞰で撮るという、とんでもない映像美学まで楽しませるヨン・サンホという映画人は、第一線級の実力者です。

ラスト、主人公の娘が歌う「アロハ・オエ」に、私も(まんまとはまり)思わず泣いてしまいました。

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします)