安西水丸が亡くなった後、彼の著書が異様に値上がりして、なかなか入手が難しくなっていますが、ちょっと珍しい本を2冊入荷しました。

一冊めの「mysteric resutaurant」(架空社/古書2200円)は、正確に言えば、安西一人の本ではありません。多くのデザイナー、画家が集まって作った本の中に安西も参加しているという本です。

アルフベットのAからZまで、ひとり一文字づつ担当して、その文字から始まる食べ物を描いています。全作品とも、文字の下には、自分が描いた作品を捕捉するような俳句や詩が添えられています。

トップバッター「A」の安西は、「Apple」をチョイスして、「青りんご 浅き眠りを 眠りおり」という俳句とともに、青いリンゴを描いています。

他に、宇野亜喜良、スズキコージ、大橋歩、たむらしげる、田代卓、矢吹申彦などが参加しています。(Wの矢吹がgood!)

もう一冊は、「東京美女1」(モッツ出版/古書3100円)。こちらには、実は安西のイラストは一点もありません。写真家の小沢 忠恭が撮った、原田美枝子、森高千里、八代亜紀、沢口靖子、いしだあゆみなど、女性のポートレイト写真に安西が文章を書いているのです。

撮影している場所が東京の各地で、その風景と女優と安西のコラボ作品です。一番好きなのは、いしだあゆみ。勝鬨橋に佇む彼女を捉えた作品に、安西はこんな文章を添えています。

「いしだあゆみの立っている勝鬨橋は、昭和六年に架設に入り、昭和十五年六月に完成している。今は開いていないが、この橋は跳開橋で、時間がくると開き高いマストがそこを通れるようになっていた。三島由紀夫の『鏡子の家』はこの勝鬨橋を女性連れの三人の主人公が眺めるシーンからはじまっている。」安西の自筆の文字がステキです。

撮影されたのは平成10年。その時代の雰囲気がよく出ています。沢口靖子も若くて、可愛くて、下町によく似合っています。

2016年京都「えき美術館」の安西水丸展を観に行った時に、彼が「ガロ」に発表したコミックを、80年代に青林堂が「青の時代」というタイトルで単行本として出版した本が飾ってありました。確か、青い函入りの装丁だったと思います。

当然絶版で、取引きされている価格も高く、手が出せない一冊でした。それが今年4月に、新たに序文とインタビューを加えて復刊(新刊/1980円)されました。まさか、再発されるなんて思っていなかったので、驚きです。版元はCreviis。拍手!拍手!ですね。

娘の安西カオリさんが、「『青の時代』の舞台は、主に千葉県の房総半島の南部に位置する海辺の町です。病弱だった父は幼年期から中学校を卒業するまでをこの町で過ごしました。」と巻頭で書かれています。彼の私小説的コミックと呼べるかもしれません。少年期から青年期にかけて体験する、甘酸っぱいノスタルジーと孤独を見ることができます。

安西は、昭和17年に七人兄弟の末っ子として生まれました。七人中、兄が一人いるだけであとは全て姉という環境でした。幼くして父と死別し、母と姉たちに囲まれて成長していきます。安西の作品には男がほとんど登場しないことを、嵐山光三郎が解説で、「男の存在感は薄く、空気のように漂っているだけだ。」そして、「水丸が、母親と姉にかこまれて生活してきたことを考えれば、それは理解できるのだが、ときどき、女の感性で男を見ているシーンにぶつかり、はっとするときがある。」と書いています。

安西の作品には必ずといっていいほど、風景がポツンと描かれた見開きのページが登場します。悲しく孤独な少年の意志、そしてそれをそっと慰めてくれるような風景が、一つのページの中に入っています。「荒れた海辺」のラストカットは、海辺を疾走する少年の姿が黒いシルエットで描かれています。いじめた生徒への復讐を敢行した少年の屈折した感情と、大きな風景の対比がワンカットに込められています。

「水丸の風景へのかかわり方は、父を失った少年がもつ、したたかな意志だ。風景というやつは、孤独な少年にとって、残酷強暴でありながら心あたたく大きい父のようなものだ。」という嵐山の指摘は鋭いと思います。

安西ファン必携の一冊です。

 

「淡雪や下駄の音ゆく上七軒」

京都の方は、北野神社近くの花街上七軒のことはご存知ですよね。北野神社に向かう道すがらにお茶屋さんやら、和菓子屋さんが並んでいますが、祇園より静かな佇まい(夜の街の状況は知りませんが)です。その花街の初春を歌った一句、詠んだのは安西水丸です。

平山雄一監修・編集による「水丸さんのゴーシチゴ」(ピア/古書1200円)は、とびきり素敵な一冊です。

「僕は水丸さんと”ぴあ句会”で出会った。文字どおり”ぴあ”の社長の矢内廣さんが中心となって運営されている句会で、俳句の上手い下手もなく、時には先生と弟子の境もなく、全員ざっくばらんに意見を言い合う。笑いの絶えない句会」とあとがきにあります。

本書は安西の俳句と彼のイラストをマッチングさせたもので、安西ワールドをいっぱい楽しめます。

「ひとり来て麦の青さにむせており」

という一句には、麦畑を走り去るランニング姿の少年の後ろ姿の作品が添えられています。この本は、巻末に全俳句の読み方(ひらがな表記)と季語が書かれてます。本作品の季語は「青麦」で春の季語です。でも、絵からは初夏の雰囲気があります。太陽の眩しさが感じられるからでしょうか。

「仏壇の柿の静かに熟れゆきて」

これは、季語が「柿」で秋というのは、私にもすぐにわかります。

「掬う手に光こぼるる初湯かな」

季語は「初湯」で冬。この句には、安西作品によく登場するちょっと影のある女性が温泉に浸かっている作と、こちらもドンピシャです。2018年に本書は発行されているので、2014年に亡くなった彼の死後に編集されました。監修の平山は、句とイラストのマッチングに悩んだそうです。でも、安西水丸事務所の助けで、あんまり表に出てこなかった作品を使うことができたとかで、極上の仕上がりになりました。

「すべてのマッチングを終えた初冬の日、水丸さんのお墓詣りに行った。丸みを帯びた墓石に水をかけると、石の黒い表面に『水』の文字がフワリと浮かんだ。『ふふふ』という水丸さんの笑い声が聴こえたようだった。」安西と平山の信頼関係を感じる文章です。

「桜の下猫と寝ころぶ呑気かな」

今の季節にぴったりの一句です。

★お知らせ 4月13日(月)14日(火)連休いたします。

★コロナウイルス蔓延の状況によっては、次週以降、営業時間短縮・休業もあり得ます。変更情報はHPで告知いたしますので宜しくお願いいたします。

★4月28日〜5月10日に開催予定の「Setti Handmade」(バッグと雑貨)展は、中止になりました。楽しみにしていてくださったお客様、すでにDMをお配りした方々には、大変ご迷惑をおかけしますが、ご了承くださいませ。

 

と言っても、これ、この三人の本をまとめて一緒にした当店のコーナーのことです。この三人がお互いにコラボした本が何点かあったために思い切って並べてみました。

「踏切の前に並んだ葱坊主」は、和田誠が初めて作った俳句です。小学校に入るちょっと前六歳頃の作だそうです。和田と俳句を作る人たちとの楽しい交流を描いた「五・七・五交友録」(白水社/古書900円)は、俳句なんて興味ない人(私も含めて)に読んで欲しい本です。最初から読む必要はなく、パッと開けて、これ面白そう!という一句に出会ったら、そこには作った人と和田の交流が面白く書かれています。

「犬の目の語り続けし薄暑かな」

これは、銅版画家山本容子の作品で、彼女は和田の銅版画の師匠です。彼女の愛犬ルーカスが「暑おすなぁ〜、毛皮着てるようなもんやさかい、たまりまへんな〜」という様を描いた一句です。通読はしていないのですが、時間が空いた時に、パラパラ読んでいて、ちょっとずつ俳句に親しんでいます。

前から店に置いておきたかった和田の本も入荷しました「Book Covers in Wadaland 」( ARTES/古書2900円)。こちらは和田がブックカバーを担当した本を集めて、紹介した一冊です。玉木正之「京都祇園遁走曲」の祇園の街並みは、個人的に大好きなカバーです。(案外見つからない)

安西水丸と村上春樹が組んだ「村上朝日堂」シリーズもまとめて単行本で入荷しました。春樹は和田とも組んで、音楽関係で素敵な作品を出していますが、安西と組んだ作品では、安西の世界を巧みに自分の文章の中にはめ込んでいます。個人的に春樹&安西コンビのベストと言えば「中国行きのスロウ・ボート」の装幀でしょうね。すっきりしたデザインとブルーが目に飛び込んできます。春樹最初の短編集で、以前ブログにも書きましたが、中でも「午後の最後の芝生」は、最も好きな春樹作品です。

 

この三人が共同で出した本は、ないはずです。せめて書架の中で一緒にしたいと思い、コーナーを作りました。眺めているだけで、なんだかワクワクするのです。

予告

12月11日(水)から始まる知床在住の絵本作家あかしのぶこさんの絵本展に、知床のパン屋さん「メーメーベーカリー」からパンが届きます。シュトレンも含めて20個ほどのパンは、初日のみの販売になりますのでお見逃しなく。

 

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古本屋巡りの好きな方なら、いつも楽しみにされている「本と本屋とわたしの話」最新15号(250円)が入りました。数十ページの薄い冊子ですが、本好きには応えられない内容です。

神戸六甲にあった「宇仁菅書店」に通いつめた戸田勝久さんが、この店の思い出を書いた「消えた古書店2ー神戸宇仁菅書店」。店内はグレングールドの「バッハのゴールドベルグ」が始終流れて、「店の中は宇宙で、書物が星座を描くように分類の枠を超え、『宇仁菅センス』に依って、『星』が丁寧に配置されていた。客は謎解きをするようにあちこちに散りばめられた星を巡って本を買い、また棚に並んだ本を見ながら宇仁菅さんが仕込んだ連想ゲームに引き込まれて行った。」

これは、本屋のあるべき姿でしょう。個性的な小さな書店は、日々、ああだこうだと考えながら棚を作っているものです。ここではおそらくお得意様だけだと思いますが、美味しい珈琲が楽しめたらしい。しかし2012年、店主が亡くなり閉店されたのだそうです。

「このように濃密に通う古書店と出会う事は無いだろう。私の人生の後半に良い店と出会えて幸せな『書店人生』だと思える六十五歳のこの春だ」と書かれています。

南房総市千倉発の「0470」(無料)の最新50号は、安西水丸の特集です!幼い頃、この地に住んでいた安西の足跡を辿っていきます。そういえば93年に出版された「荒れた海辺」は、安西の幼少の思い出が詰まった名著で、この本に登場する様々な場所が写真入りで紹介されています。

「昇(安西水丸の本名は渡辺昇)とは同級生で小学校、中学校と一緒でした。昇は小さな頃にお母さんと千倉へ引っ越してきたんです。」とは幼馴染みの山本初治さん。彼が安西の少年時代を語ります。これは、レアな企画ですね。また、「水丸さんを感じる」というページでは、南房総で彼の作品世界を感じる場所が写真と文章で取り上げらてれいます。南房千倉大橋には、安西のタイル画がはめ込まれていて、ファンなら一度は行ってみたい場所です。フリーペーパーなので、お早めにどうぞ(後10部程です)

 

 

 

最後に個展の情報です。詩とクロッキーとマンガをセットにした作品集「中庭」、「痙攣」(各324円)を出している古井フラさんが、奈良大和郡山(京都から近鉄で1時間)にある素敵な古書店「とほん」で、5月10日から29日まで「トリミング展クロッキーと詩」展をされます。古井さんのクロッキーは、上手いなぁ〜と思っていて、いつか当店でも個展をお願いしようかと思っていました。GWが終わった後の奈良なら散策にも最適です。

 

2007 年に創刊された小冊子『mürren(ミューレン)』は、 「街と山のあいだ」をコンセプトに、独自の視点で山と自然に関する内容をさまざまに企画したミニプレスです。

「創刊 13年目、25号を数える本年 2019 年は、小冊子と は別に、叢書『MURREN BOOKS』シリーズを創刊いたします。 著者のもつ多様な自然観に触れていただくことで、いつしか 読者の方の人生に山と自然の世界が広がっている本シリーズ がそんなきっかけになればと考えております。」そして、その創刊第 1巻は、イラストレーター安西水丸さんの低山歩き の イラストエッセイ集 「てくてく青空登山」が届きました。(1296円)

「味わい深いイラストと、飄々とした穏やかな文章 で知られる安西水丸さんは、多彩な分野に通じ、数多くの作品 を生み出し、交友も広く多くの人に親しまれましたが、一方で ひ と り 静 か に て く て く と 、小 さ な 山 歩 き を 好 む 方 で も あ り ま し た 。 本書は、生前安西さんが各雑誌や小冊子にかかれた、山歩 きに 関 するイラストとエッセイをまとめたもので す。 幼少期に遊んだ裏山を訪ね、戦国武将を慕って城跡に上り、 雨に降られ雷に追われ、山頂でお手製のおむすびをほおばり、 帰 り 道 にド ン グ リ を 拾 って は ポ ケ ット に 入 れ る 水 丸 さ ん 。 没後早 5年が経ちますが、水丸さんは今もなお生き生きと、 私たちに山登りの楽しさを語りかけてくれます。」

本書の宣伝文句をそのまま掲載しました。各地をてくてく歩かれたという安西さんですが、その中に、京都鞍馬山が載っています。夏の暑い一日、彼は鞍馬山から貴船に出るハイキングコースを歩きます。

「本殿金堂までは今まで何度か来たことはあるが、ここから奥の院に出て貴船に下るコースは、歩いたことがなかった。おそらく京都に住んでいる人でもあまり歩いていないだろう」

いえいえ、安西さん、京都人も歩いてますよ。私も何度か歩きました。「マムシ注意」の看板にはドキリとしますが。この山は牛若丸が少年時代過ごした場所だけあって、様々な牛若伝説に満ちています。安西さんは、面白いことを言います。

「ぼくはこの牛若を昔から怒れる若者と考えてきた。つまり、今の時代であるなら、家庭愛に恵まれない暴走族であり、ロックンローラーと見ていいだろう。」

騎馬軍団を率いて疾走する姿は、バイクを暴走させる若者に置き換えられるというイメージなんですね。そんなことを考えながら、杉の木が地面を這い廻っている木の根道を通り、貴船へと向かいます。貴船の川床でビールを飲む著者を描いたイラストが可愛らしい。

この本には1990年「新刊展望」という小冊子に載せた「登山少年だった頃」から、2012年雑誌「BE-PAL」に収録されたインタビュー「山に登って 話をしよう」まで全15本が集められています。中には、初出年不明のものや、どこに出したか不明のものまであります。今や、読めないもののオンパレード。ファンならずとも持っておきたい一冊です。

これからの叢書『MURREN BOOKS』シリーズ、期待度大です。なお最新号「mürren24号ー葉で包む」は、あと数部のみとなりました。お早めにどうぞ。

「70パーセントの青空」は、1988年秋から1989年春にかけて、「月刊カドカワ」に連載されたものに加筆修正した安西水丸の長編小説デビュー作です。

「一九六四年十月、東京は第十八回オリンピックでわきたっていた。昨日、マラソンで、エチオピアのアベベ・ビキラが優勝した。」

主人公は美大を卒業して、大手広告代理店の下請け会社に入社した若い男です。彼が広告代理業界で、様々な人達と出会い変化してゆく姿を追いかけていきます。ここには等身大の著者がいます。物語では、主人公は二人の女性と出会います。割烹で働く古風なヤエ子と、同じ広告代理店で働く現代的な文里です。9ページにヤエ子の、68ページに文里のイラストが挿入されていますが、その絵が二人の女性の内面まで語っています。

「時雨がいった。プラタナスの色づいた紀尾井坂を上がり、上智大学の土手に出た。土手下のグラウンドの土が雨でコーヒー色になっている。身体が冷えて感じたのは雨に濡れたせいではなかった。時雨のいったあと、つめたい風が吹きはじめた。」

都会小説には、なくてはならない上手い情景描写です。かといって、ただスケッチとおざなりの恋愛事件だけで作り上げられた小説ではありません。苦々しい青春の一時を切り取った物語です。

「ぼくは射精した。ヤエ子の腰あたりから、精液は内股をつたって流れた。ぼくはヤエ子の背にかぶさるようにして立っていた。吐く息で、ヤエ子のうなじのほつれ毛がゆれた。」

生々しい性描写を交えながら、空虚さに引きずられる日々が続いていきます。小さな広告代理店に入社したはずが、親会社に出向することになり、実力派のデザイナーたちに揉まれながら、彼は日に日に実績を積み上げていきます。輝ける日々の始まりのはずなんですが、満たされないまま、きらびやかな広告業界の中で立往生してしまいます。

そして、「どこか知らない国に、自分の若い日の時間が持ちたい」という思いに目覚め、会社を辞め、ニューヨークに向かうことを決心します。ラストは新天地に向かう飛行機の中です。

「空は青かった。さわやかな秋の午後の青空だった。この青は、100%の青ではないな。ぼくの仕事の時に使うカラー・チャートをおもった。何パーセントの青だろう。しばらく考えた。

70パーセントの青だと思った。70パーセントの青空。それは完全な青になにかが不足している。今までの自分にそれを重ねた。70パーセントの青空。それはぼく自身だったかもしれない。」

安西自身の青春の記録はこうして幕を閉じます。(2300円/古書・絶版・初版・帯付き)眩しい青空が心に残るエンディングです。

 

 

 

★イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。ご予約受付中(1500円)

障害のある人達の「はたらく」をテーマにした季刊誌「コトノネ」主催の「ことばを授かる」展が本日より始まりました。

様々なシーンで、障害者たちの生きる姿からみえてきた素敵な言葉が、店内に展示されています。

例えば、とある幼稚園での出来事。そこは健常者と障害者が共に過ごす幼稚園ですが、そこで子供たちがドミノを並べていた時のこと。自閉症の子どもが、並べたドミノを倒していったのです。やめてね、と言っても、並べば倒し、また並べては…..その時、健常者の子どもがドミノを二列作り始めたのです。そして、こう自閉症の子どもに言います

「こっちは倒していいよ」

この場面を見守っていた先生は「あの子たちは、配慮の仕方が本当に自然なんです。大人のわたしたちにはない発想が出てくる。困ったときにも、何かやってあげる、という感じではなく、すっと手が出る。」と驚かれていました。それを受けて、「コトノネ」編集部は、「それぞれの違いが、新しい出来事をつくり、それが新しい知恵を生み出していくのだろう。子どもの環境は、子どもにゆだねよ。」と結んでいます。

21号の熊谷晋一郎さんのインタビュー記事は、「津久井やまゆり園」の衝撃的な事件について考えさせられるものでした。その中で熊谷さんがおっしゃっていた「生きるとは、依存すること。自立とは、自分で何でも出来ることじゃなく、依存先をたくさん持つこと。」という言葉が印象的でした。障害者も健常者もいない。みんながとても生きづらい世の中なのだと、つくづく思いました。

この雑誌は障害者福祉のために専門誌ではありません。障害という”個性”を持った人達の、ユニークな生き方、働き方を通して、これからの私たちの生き方を見つめてゆく雑誌です。ファッション雑誌のようにデザインされた表紙もさることながら、小川洋子、大友良英、坂口恭平、石川直樹、山田太一らのインタビューゲスト陣にも注目です。最近では、賢くもなく、強くもない弱いロボットを作り出した岡田美智男さんのインタビューは、180度ものの見方が変わる秀逸なインタビューでした。(22号)

または、

「レコパスタ、おひとつですね」という展示にある『レコパスタ』って?

この意味を知ったら、そうか、言葉ってこんなに楽しいもんか、と思えます。店内には創刊号(非売品)から最新24号まで「コトノネ」バックナンバーと一緒に、成る程!と納得する言葉の数々がお待ちしています。この展示を機に、「コトノネ」という雑誌のことを知って頂ければ、と思います。

先般我が国の首相が、働き方を変えると薄っぺらい自説をぺらぺらと国会で話ていましたが、地に足が着いた働き方をこの雑誌を読んで学んでいただきたいものです。

季刊『コトノネ』「ことばを授かる」展は1月23日(火)〜2月4日(日)まで 月曜日定休

 

 

 

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「房総カフェ」を出版している暮ラシカルデザイン編集室が「房総コーヒー」(1350円)を出しました。巻頭に、幼い時に南房総に暮らした安西水丸の文章が載っています。

「一流のものを見て育つことはもちろん大切だが、ぼくに関していえば小児喘息の悪化で、3歳から数年南房総のほとんど文化のない土地で暮らしている。」

文化的に不毛だと嘆きながらも、「ぼくは海が好きでよく海辺を歩いた。太平洋の波が押し寄せていた。太陽は水平線から昇り、背に陽を浴びると波は透けて見えた。ぼくは一流のものを感じた。ダ・ヴィンチにもミケランジェロにもない一流の姿だった。」

たしかに、東京の背後にありますが、この本に登場するカフェの写真と店主の珈琲への拘りを読んでいると、自分たちの生きてきた土地への思いや、そこでお店を営み、お客様に一瞬の幸せを提供する喜びが見えます。ゆっくりと寄せては返す太平洋の波の如く、地に足のついた珈琲文化が育っています。

この本は、情報誌によくあるお店紹介的なものではありません。珈琲を通して、店主の生き方や世界観が、発行責任者であり、ライターでもある沼尻瓦司の文章で綴られている読みものなのです。

「自分の今この瞬間の精神に向き合える自由。理念や思想、価値観から解き放たれた時、感性が研ぎ澄まされ、心地良い緊張が身体をすくっと貫く。そう、それは遥か遠くの地へ旅に出た時の感覚と似ている。思考が許容量を越えて溢れ出さんとした時、旅先のコーヒーに、どれだけ救われてきたことだろう」

自家焙煎珈琲とパンの店「KUSA」探訪記などは、沢木耕太郎のトラベルノンフィクションを読んでいるような気分です。

大都会のトレンドに引っぱり回されない、自分たちにジャストフィットした暮らしを続ける人達の日々を、文章と写真で描いた素敵な一冊です。

安西さん、この地が文化的不毛だなんてことありませんよ。こんなにグレードの高い文化が育っているじゃありませんか。

 

●暮ラシカルデザイン編集室が出している「房総カフェ」は、3号と4号のみ在庫あります。

 

●レティシア書房のお知らせ●

 年始年末 12月29日(金)〜1月4日(木)休業いたします。


 

 

この台詞、別に男と女の痴情の縺れを描いた小説に出てくるのではなく、イラストレーター安西水丸のエッセイ「メロンが食べたい」(実業之日本社/初版/帯3200円)の中にありました。

ある日、見知らぬ女性に「わたしのこと嫌になったらそう言って下さい。」こう切り出された安西さん。さらに、講義をしている女子大の卒業パーティーで、やはり見知らぬ卒業生らしき女性から「いつお電話いただけます」と迫られ、「えっ」と答えた様子が、軽妙な文章とイラストで描かれています。

この本は97年から2年間に渡って「週刊小説」に連載された「描く書くしかじか」から抜粋された、肩のこらない60篇です。どれも、ムフフと笑えそうな作品と、安西の素敵なイラストが楽しめるエッセイ集です。本の構成は「こんな人、あんな人」、「これが好き、あれが好き」(苦手編)、「これが好き、あれが好き」(好き編)そして、「こんな旅、あんな旅」の四つに分かれています。「こんな旅、あんな旅」には京都も登場しますが、

「日本人はよほど京都が好きらしく、ちょっとした地方の城下町などでもすぐに小京都と呼びたがる。料理屋でも京風を自慢にしている店がある。ぼくは絶対入らない。」と辛辣です。

安西は懐石料理が大の苦手で、美味しい店は京都にないと言い切ります。「時々、御飯がヒョウタンの形にかためられていたり、ニンジンがモミジの形に切って出てきたりするとむかむかする。」とか。京都人としては残念なことです…….。

もう一点、安西の本で「a day in the lie」(風土社1600円)も同時入荷しました。こちらは2000年から14年間、雑誌「チルチンびと」に連載された傑作エッセイ67話とカラーイラスト、青山の事務所と鎌倉山のアトリエ、そして彼が集めた様々な物の撮りおろし写真が収録されています。小さい時の思い出、暮らしてきた家のこと、興味をもって集め出した器や、スノードームなど、ノスタルジックな世界が一杯です。文章も素敵ですが、居心地の良い空間を見せてくれるイラストに、惹きつけられます。安西の中に満ちていた幸せな時間が充満している本です。

初めて住んだマンションに、野球好きの青年がやって来ては、野球談義に花が咲きます。安西はへそ曲がりの東京人で中日ファン。青年は「中日を好きだなんていいですね」と喜びます。その青年こそ、今日のスポーツドキュメントの文体を作った山際淳司だったのです。そういう発見も方々で出会える素敵な一冊です。

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 

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