今も人気のイラストレーター、安西水丸の本が2点入荷しました。

一つ目は「スノードーム」(キネマ旬報社/初版2400円)。1889年のパリ万博に登場したスノードームは、ヨーロッパで人気を集め、その後アメリカに渡ります。安西は、スノードームのイラストを数多く手掛けてきました。本書は、常盤新平、秋本康、泉麻人、沢野ひとし、淀川長治、糸井重里、湯本香樹美などの著名人が、スノードームについての思い出を語り、そこに安西がイラストを付けた作品集です。映画評論家の淀川長治は、初めてNYでひとり暮らしを始めた時、その孤独感に押しつぶされないように、百貨店で「雪ダルマ」のガラス玉を買って帰りました。

「私はことあるごと、手で振ってガラスのなかの雪を降らした。いつも雪あらしの中でサンタはニッコリ笑っている。私と同じ孤独。ガラス玉の中だけの世界。そこにたった一人」

彼はこのガラス玉の中のサンタと仲良くなり、旅の終わりまで大事に持ち続けます。「外国の店、私にはアメリカの店、ニューヨークの夜の星の日に、ベッドの中でそっと握ったガラス玉の雪。私、ことし八十七歳が目のまえなのに、まだこのようにコドモ!」とその楽しかった思い出を書いています。

この本を編集した、百瀬博教と安西の対談が二本掲載されています。世界のスノードームの話から、映画の話まで読んでいてこちらが楽しくなる対談です。

もう一点は、「シネマストリート」(キネマ旬報社/初版2400円)です。こちらは雑誌「キネマ旬報」に1986年から89年に渡って連載されたシネマエッセイ集です。イラストレーター和田誠のシリーズ「お楽しみはこれからだ」と並ぶ、映画愛に満ちた一冊です。日本が第二次世界大戦で敗北した数日後、安西の父親が南の島で戦死した事がわかります。「ぼくは写真でしか知らない父の顔が、小津安二郎監督の一連の映画に出演している笠智衆さんに似ていることを、姉から言われて気がついた。そう言えば顔かたち、体つきまでよく似ている。」と書き記しています。きっと、小津作品の笠智衆を見る度に、安西は切ないものがこみ上げてきたと思います。

昔の映画をDVDソフト等で見る時に、側に置いておきたい一冊です。ちなみに、村上春樹との対談「私の嫌いなもの、怖いもの」で、安西は「犬が苦手」と語っています。犬だけじゃなく、どうも動物全般が苦手みたいとはちょっと意外でした。

 

「国吉康雄/ベン・シャーン展」は、1981年東京で行われた展覧会です。国吉は1889年岡山生まれで、1906年アメリカに渡ります。ベン・シャーンは1898年リトアニア生まれで、1906年、移民としてアメリカに渡りました。そして画家として一時代を築いていきます。同時代を生きた二人の展覧会は、きっと魅力的だったことでしょう。

国吉は、酒場やカフェにいる女性を描いたものがよく知られています。大戦の影を帯びた暗く深い眼差しが印象的。一方、ベン・シャーンは、どこにでもいるような庶民の生活の一場面を描いた「サンデーピクチャー」と呼ばれるものがあります。私が最初に魅了されたのもそのシリーズでした。労働者の男たちの背中に垣間見える生活の悲哀が伝わってきます。もちろん、この図録(1400円)にも収録されています。社会の弱者への眼差しは、やがて失業者、ストライキに明け暮れる労働者へ寄り添う、社会派画家としての道につながります。第二次世界大戦勃発と同時に、戦時情報局に意向に沿ったポスターを制作しますが、やがて戦争の愚かしさと虚しさに気づき、画風はさらに変化していきます。

そんなベン・シャーンの画の変遷を楽しませてくれるのが「現代美術第一巻/ベン・シャーン」(講談社2800円)です。戦後、彼は多くのレコードジャケットのデザインも担当していますが、音楽をテーマにした作品もたくさん描いています。1955年制作の「ジャズ」、翌年の「ホエン・ザ・セインツ」なんか、そのままレコードジャケットになりそうです。

その後、ビキニ環礁でおきた水爆実験で被曝した第五福竜丸の乗組員に強い関心をいだき、取材を敢行し、悲惨な兵器の姿を伝えようと「ラッキードラゴン」というタイトルで11点の作品を発表しています。その最初の作品「我々は何が起こったのか知らなかった」で、突然の被曝を表現していますが、この画集で初めて知りました。

なお、この画集には、野見山暁治が「同時代人ベン・シャーン」というタイトルでエッセイを書いています。瓦礫の中で、縄梯子にぶら下がって遊んでいる子供たちを描いた「解放」という作品に「戦争のあとの空しさというものを、ぼくはこの絵をとおして眺めた」と書いています。

もう一点、2011年から12年に全国を巡回した「ベン・シャーン クロスメディア・アーティスト」展の公式カタログ(2000円)として美術出版社が出したものがあります。私もこの展覧会を観て、彼の多彩な活動を知りました。このカタログは資料満載でファンの人なら必須の一冊です。彼が手掛けたレコードジャケットも収録されています。シャーン好きの安西水丸、和田誠へのインタビューも掲載されています。

村上春樹の本の装幀を担当したイラストレーター、佐々木マキ、大橋歩、和田誠、安西水丸の作品を集めた文庫本サイズの「村上春樹とイラストレーター」(新刊書・ナナロク社1944円)が入荷しました。

「ここに取り上げるイラストレーションは、単に文章や物語を後から追いかけて説明しているものではなく、絵そのものが物語るひとつの世界を有しながら、文章と分ちがたく響き合ってひとつのイメージをつくりあげていることがわかります」

と、書かれていますが、ほんとに絵と文章がセッションしている感じです。私が、最も春樹を真剣に読んでいた頃の「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」などの佐々木マキが担当した挿画は、全く新しい感性で、春樹の文章と共に、ロマンチックで、センチメンタルで、しかもアイロニーに満ちた世界へと連れて行ってくれました。

そして和田誠。「ポートレイト・イン・ジャズ」を初めて読んだ、いや眺めた時、この作家の心にジャズの香りが一杯染み込んでいるのがわかりました。和田は、春樹の文章を引用してこう書いています。

「そもそも、音楽を聴くというのは文章を書くにもいいことなんですよ。要素は大体同じですから。リズム、ハーモニー、トーン。にプラスしてインプロヴィゼーション。(中略)いい音楽を聴くように、文章を書けばいいんだという発想。これが僕の基本だったの。」

この頃は、小説こそ追っかけなくなりましたが、春樹の音楽本だけは、すぐに買ってしまいます。

最後に登場するのは、安西水丸です。春樹の「中国行きのスロウボート」の表紙で安西が描いたブルーの青さに魅かれて買ってしまったことを思いだしました。巻末には安西と和田の対談も掲載されていて、二人が春樹の魅力を語ってくれます。

資料として「村上春樹とイラストレーター略年譜」が載っています。見ていると、79年、「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞して単行本が発売された年に、自らが経営するジャズ・バー「ピーターキャット」で、春樹と安西は出会ってます。長い付き合いの始まりは、この場所だったのですね。

 

 

 

と言っても、もちろん当店ではありません。

京都駅伊勢丹デパートの「えき美術館」で、7月10日まで開催です。少しならまだ、店内に割引券ご用意しておりますので、ご利用下さい。

数ヶ月まえ、安西水丸の本を集めて、このブログでご紹介しましたが、今回新たに数冊入荷しました。

安西が初めて女性誌に連載した短篇をまとめた「空を見る」(PHP/絶版2200円)は、あとがきにあるように「若い女性たちの人生の隙間風のような愛を拾って書いています」。ちょいセンチメンタルで、アンニュイで、村上春樹的スパイスやらもブレンドした短篇集です。もちろん、安西のイラストも各短篇に付いています。「片方だけのペニー」に登場するこの女性(右写真)が、最も印象的で本短篇集の主人公的な存在です。

初の長編小説「70パーセントの青空」(角川書店/絶版・初版2300円)も入荷しました。話は、1964年開催の東京オリンピックからスタートします。著者が美術系大学を卒業したのが65年。学生から社会人になり、めまぐるしく動く社会の中で、速度を上げて去ってゆく20代の日々の、自伝的青春小説ですね。

「どこか知らない国に、自分の若い日の時間が持ちたいって」と、主人公はニューヨークへと旅立ちます。ラストが秀逸で、ここで本のタイトルの「70パーセント」の意味が説明されます。彼がアメリカへ旅立った10年後、私もアメリカへ行きましたが、私には「70パーセント」どころか、「50パーセント」以下でした。貴方にとって、20代後半の日々、頭上の青空は何パーセントだったんでしょうか?

70年初め、安西がニューヨークでの生活を終え帰途につく時、憧れの雑誌「太陽」で仕事をしてみたいと思っていました。それから、20年後、希望がかなって「太陽」に短編小説の連載を始めました。それが、「十五歳のボート」(平凡社/絶版・初版2200円)です。少年から、少し上にステップアップする男の子のナイーブさと、快活さと、ペシミスティックな感性を丸ごと詰め込んだ作品集です。サリンジャーの小説に登場しそうな男の子ですね。個人的には「とうもろこし畑を走る」がお薦めです。水平線の彼方にちらっと登場する鯨が象徴するものを考えてしまいました。イラストも満載です。

美術展で作品を堪能された後は、彼の文章もお楽しみください。

2014年に亡くなった、イラストレーターの安西水丸の素敵な本が数冊まとめて入荷しました。

和田誠と組んだ2冊組の「パートナーズ」(文藝春秋・絶版1850円)は、楽しさ一杯です。一冊は「ことわざバトル」で、古今東西のことわざについて、二人のエッセイとイラストがついています。両者のタッチの違いも発見できます。まず右ページと左ページ二人のイラストがそれぞれ描かれて、これがどんな諺かを思い浮かべて次をめくると、エッセイが綴られています。それがまた面白い。「所かわれば品変わる」で、安西が京都で「おおきに」と言われて、それが「ありがとう」の意味だったことに驚き、その後何度来京しても、このイントネーションが身に付かなかった小話など、フムフムと読んでしまいます。もう一冊は「ライバルともだち」です。「ホームズ×ルパン」に始まる、世界のライバルを並べて、二人がイラストを描き、ウンチクを傾けるという内容です。こちらも二人の巧みなタッチが楽しめます。「ウィリアム・テル×息子」なんて、えっ?何それ?なんていうのもあります。こういうのを「軽妙洒脱」と呼ぶのでしょうね。

安西のイラストも大好きなのですが、彼の旅日記もそれ以上に愛読してきました。

「時間と時間の間にもしも透き間があるとしたら、夏の祭りの思い出は、時間の透き間でゆれている。ぼくは陽の落ちた雪原をひた走る奥羽本線の窓辺に肩をよせ、ひと昔に過ぎ去った夏祭りのことを思いだしていた。」

憧れと感傷が、旅へと押し出してくれる「エンピツ絵描きの一人旅」(新潮社・絶版1400円)は、短い小説を読んでいるような、味わいのある旅日記です。もちろん、彼が旅先で見た風景のイラストも掲載されています。日常の風景から、うわっ!と見知らぬ土地の旅情が展開するような、なんというか極めて映像的な旅日記です。

もう一冊、旅ものですが、「スケッチブックの一人旅」(JTB・絶版1750円)にはカラーのイラストも載っています。これがいいんです。日本の風景ってこれだよな、という思いが湧いてきます。

「雨の季節に旅に出るのが好きだ」という安西は、「雨期になると、ぼくはきまって南房総の旅に誘われる」そうです。雨にけむる野島崎灯台を描いたイラストが、切ない旅情を余すところなく描いていてお薦めです。

さて、もう一冊。こちらは桂文珍のエッセイ「文珍でえっせー」(潮出版・絶版800円)です。文珍師匠のエッセイに、安西が全ページカラーで作品を描いています。これは、見応えありです。

師匠曰く「昔、それほど効率性を追求しない時代、働くことは気持ちよく生きるためだったようです。気持ちよく楽しく働きたいものです」

気持ちよく、楽しく、そんな言葉のエッセンスに触れるようなイラスト満載です。

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先週のNHK「日曜美術館」の特集は、安西水丸さんでした。そして、今日が丁度ご命日(1942年7月22日〜2014年3月19日)です。

イラストレーター、漫画家、作家等々、様々なジャンルで活躍した人でしたが、とりわけ、村上春樹と組んだ作品群はどれもいい味を出しています。

「村上朝日堂超短篇小説 夜のくもざる」(平凡社1300円)は、僅か数ページの村上作品に、洒落たタッチの作品が書かれていて、何度眺めても飽きてきません。「スパナ」という村上の短篇は、すぐにモーテルに引っぱりこむ男に、スパナで一撃を与える女性を描いた、怖いお話で、彼女「世の中には鎖骨を砕かれても当然ってやつもいるのよ」なんて平気で口にします。そして、その横に安西はスパナを付けた人形を描いています。いや、ユーモア抜群です。

或は、「ランゲルハンス島の午後」(新潮文庫350円)の「ウォークマンのためのレクイエム」に登場する村上愛用のウォークマンを描いた作品からは、素敵な音楽が飛び出してきそうです。(ウォークマン、って今や死語ですね)

安西は一時、雑誌「ガロ」に漫画も発表していました。残念ながら店には今ありませんが、TVで見た時に、つげ義春風の作風でした。

「あの人、アンソニー・パーキンスに似てる」

なんて台詞が随所に登場する70年代ニューヨークに暮らす若い日本人カップルを描いた都会派小説「手のひらのトークン」(新潮文庫・初版/絶版750円)は、あの時代のアメリカンカルチャーを浴びた世代には眩しい輝きを放ってくれます。

そして、彼の最後のエッセーとなった「ちいさな城下町」(文劇春秋1350円)は、全国の小さな城下町を巡った一冊です。有名な寺社仏閣があるわけでもなく、老舗のお店が並んでいるわけでもない小さな城下町をブラブラ歩きながら、その町の歴史をひも解いていきます。

「飯田城の形跡は今全くない。それでも町名を楽しみ、基盤状の通りを歩くだけで城下町の風情を感じることができる。この町は小さな史跡も大切にしている。そこかしこに立つ標識がそれを物語る。城下町の誇りが感じられた。」

なんて、文章に出くわすと、旅に行ってみたくなりません?

同じく旅行気分満喫の「エンピツ絵描きの一人旅」(新潮社・絶版950円)は表紙デザインがとても素敵です。

●安西水丸の本を集めた小さなコーナー作りました。パラパラめくって楽しんでください

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