賢治の絵本が2点入荷しました。

くもん出版が出している「宮沢賢治絵童話集」の第一巻(900円)は、ねずみが主人公の3編「ツェねずみ」「鳥箱先生とフウねずみ」「クンねずみ」と「どんぐりと山猫」が収録されています。ねずみ3編の絵を書いているのが、イラストレーターの飯野和好。クローズアップや、デフォルメされた映画的な構図で絵本の世界に引っぱりこまれます。そして「どんぐりと山猫」は司修が担当。こちらはハッとする色彩に溢れた絵で、主人公のやまねこって、こんなに女性っぽかったの?と原作を再読してしまいました。

もう一点は、「竜のはなし」(戸田デザイン研究室700円)。宮沢賢治のそんなタイトルの童話あったけ?と首を傾げましたが、これ、遺族の了解のもと、「手紙一」を改題したものです。内容的には、「よたかの星」、「グスコーブドリの伝記」に繋がる”自己犠牲”が主題になっています。戸田孝四郎の絵が、悲しくも美しい物語を見事に具象化しています。主人公の竜の変わり果てた姿が強い印象を残します。賢治自身が「このはなしはおとぎばなしではありません」と残しているところから、仏教的な説話を目指したのかもしれません。

賢治の傑作詩集「春と修羅」(日本図書センター2500円)の再発版も入荷しました。この詩集は、大正13年4月、東京の関根書店というところが発行元になっていますが、実質はほぼ私家版です。1000部発行の、当時のミニプレスみたいなものなので、この詩集のオリジナルなんて見ることは少ない本です。再発版もきちんと函に入っていて、オリジナル仕様に出来ています。

「四月の気層のひかりの底を唾し はぎしりゆききする おれはひとりの修羅なのだ」というカッコイイフレーズがよく引用されますが、なかなか理解できるものではありません。何度も読み返しました。長編詩「小岩井農場」で、賢治に散々引っぱり回されて、幻想の彼方と現実が交差する世界で立ち往生しましたが、それでも何度でもトライしたい詩集です。書き込み、線引きするなら、この再発版が便利です。

もう一点、金子民雄著「宮沢賢治と西域幻想」(中公 /絶版600円)をご紹介します。法華経を深く信仰していた賢治にとって多くの仏典が発見された西域は、永遠の憧れの場所でした。彼の作品や、詩に登場する西域を例示して、その意味を考察しています。タリム盆地からパミール、インド、ペルシア、さらに賢治は中近東までを視野に入れて、多くの物語を書いています。もちろん彼は、この地方を旅したことは全くありません。彼の心象に立上がってくるイメージをもとに描いていったのです。

 

★レティシア書房臨時休業のお知らせ 4月17日(月)18日(火)連休いたします。

池澤夏樹編集の日本文学全集の一冊で「宮沢賢治 中島敦」(河出書房新社1800円)を一冊にした本の紹介です。何故この二人?という疑問に編者はこう答えています。

「中島敦は宮沢賢治の十三年後に生まれ、その死の九年後に亡くなった。賢治は享年三十七歳、敦は享年三十三歳。若くして他界したことだけだなく、二人には共に遠くを見ていたという共通点があるように思う。自分というものの扱いに苦労したところも似ている。」

「共に遠くを見ていた」、「自分というものの扱いに苦労」した作家……..。

宮沢はまさにそんな作家だと思います。自分という存在に苦しみ、銀河の果てまで飛んでいってしまった。

死ぬ直前には、「そしてわたしはまもなく死ぬのだろう わたくしというのはいったい何だ 何べん考えなほし読みあさり さうともきかうも教えられても 結局まだはっきりしていない わたくしといふのは」

という「そしてわたしはまもなく死ぬだろう」(未完)の詩を残しています。「これで二時間 咽喉からの血はとまらない おもてはもう人もあるかず 樹などしづかに息してめぐむ春の夜」という詩を書きながら、己がいるべき遥か彼方に地へと向かっていたのでしょう。

中島は1941年、ミクロネシアに渡り、数ヶ月滞在しています。その時、彼が見た南洋の自然、風物、そこに暮らす人々を描いたのが、この全集に収録されている「環礁ーミクロネシア巡島記妙ー」です。

「寂しい島だ」という文章で始まるこの旅行記は、「薄く空一面を覆うた雲の下で、空気は水分に飽和して重く淀んでいる。暑い。全く、どう逃れようもなく暑い。」とその気候に辟易しながらも、歩き回る。デング熱が治りきらない状態で、眩暈と、息苦しさでガタガタになってくる。しかし、それでも作家は幻覚に近い美の中で陶酔してゆく。今なら飛行機でヒョイと飛んでいけるのだが、中島が渡航した時代は、当然船の旅。時間をかけて地に果てに行き着いたという感覚ではなかったでしょうか。自分を持て余していた男の放浪記として、私は読みました。

因みに店には昭和11年発行の「南島譚」(今日の問題社/初版2500円)もあります。全集収録の「悟淨出世」「梧淨歎異」も入っていて、古色蒼然とした一冊ですが、手に取ってみてください。

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子どもの本専門店「メリーゴーランド京都」店長、鈴木潤さんの「絵本といっしょに まっすぐまっすぐ」(アノニマスタジオ1620円)が発売されました。

鈴木さんとは、レティシア書房が店を始めた時からのお付き合いで、開店間もない頃に、店内でウクレレのライブもしていただきました。メリーゴーランド京都は、併設されているギャラリーも面白い展示が多く、いつも覗かせてもらっています。今回、発売された本は、彼女のブログを一冊にまとめたものです。最初から読んでいくのもいいですが、巻末に、この本で紹介された本の一覧が掲載されていますので、それを見ながら、興味ある本を探しながら、ページを捲るのも面白いかも。

例えば、モーリス・センダックの「うさぎさん てつだってほしいの」(冨士房600円)を見つけてページを開きます。

お母さんへのプレゼントの悩む女の子に、うさぎさんが適切なアドバイスを与えるという絵本です。本の紹介と、鈴木さんの思い出話がありました。小さい時、弟たちが母の日プレゼントに、八百屋できゅうりとお豆腐を選んだことを思いだして、こう書かれています。

「あの時は『はずかしい』と思ったのに、今は『誇らしい』と思います。」と。

あるいは、歯医者とそこへ治療にやってきたワニ君の抱腹絶倒のコメディー(私は歯医者の待合室で読んで、大笑いしました)を描いた五味太郎の「わにさんどきっ はいしゃさんどきっ」(偕成社400円)では、息子さんの口元から「こりこり こりこり」という不思議な音が聞えてきた、と書かれています。口の中には何もない?? そこで鈴木さんはもう一度、覗き込みます。

「あれあれ、上の歯ぐきから白いものが顔を出していたのです。『こりこり』の正体は歯ぎしりだったのです。」

おかあさんになられて、絵本の世界がまた一回り広がったような感じが素敵です。

そして、写真と詩をミックスした「子どもたちの遺言」(校成出版社800円)。谷川俊太郎が詩を書き、田渕章三が写真を撮った本です。赤ちゃんから青春真っただ中の若い人たちの横顔が次々と登場します。

「わたしは幸せです。でもわたしが幸せなだけでは、世界は良くならないと思うのです。違いますか?」と、図書館で本を読む少年が問いかけてきます。宮沢賢治が突きつけた永遠の課題を、この少年も背負っている、そんな風に見えてきます。この本の後書きに谷川は、「うまれたばかりの赤ん坊に遺言されるような危うい時代に私たちは生きている。そう感じているのは私だけだろうか」と書いていました。

おかあさんとして、鈴木さんが意識している今という時代の危機を感じました。

この街に、しっかりとした考えとセンスで本を選び、こどもたちに提供している本屋があることは、私にとって本当にありがたいことです。

「虔十公園林」をご存知でしょうか。実際にある公園ではありません。宮沢賢治の小説のタイトルです。

いつも子供たちからバカにされている少年虔十が、ある日、野原に杉の種を撒き、育てようとします。周りの人達は、あんな所に杉が育つわけないとバカ呼ばわりしますが、なんと、すくすくと育っていき、子供たちの遊び場へと変わっていきます。雨の日も、晴れの日も杉林を見回る虔十でしたが、あっけなくチフスで死んでしまいます。

彼が死んでから20年。彼の町は発展し、森も林も消えています。しかし、彼の名前を付けた「虔十公園」だけは、ここに住む人達が開発のためには売るまいと、守っていました。そして、多くの人達の憩いの場所となっていたのです。

「全く全くこの虔十公園の杉の黒い立派な緑 さわやかな匂い 夏の涼しい陰 月光色の芝生が これから何千人の人たちに 本当のさいわいが何だかを教えるか数えられませんでした そして林は虔十の居た時の通り 雨が降っては すき徹る冷たい雫をみじかい草にポタリポタリと落し お日様が輝いては 新しい綺麗な空気をさわやかに はき出すのでした」

という文章で終わります。賢治がこの小品を書いたのは1934年。住民が、自分たちの周囲の自然を守るというナショナルトラスト運動を予感させる貴重な作品だと思います。

この作品を、ますむらひろしが漫画化した「ますむらひろし版宮沢賢治童話集」が入荷しました。2014年に新聞掲載されたものを書籍化したもので、「オッペルと象」も同時収録されています。26cm×19cmの大型の判型で表紙の絵も、印刷も装丁も素敵な出来上がりです。「やまなし」「ひかりの素足」を収録したものも同時に入荷しました。版元は子供服でお馴染みのミキハウス。丁寧な作りには、賢治への深い愛情が感じられます。(どちらも1400円)

「猫マンガのますむら」らしく、登場するのはすべて猫。「ひかりの素足」は元々辛いお話ですが、猫で描かれると、猫好き、動物好きには涙無しでは読めないかもしれません。

同社はあべ弘士による「なめとこ山の熊」(売切)、荒井良二「オツベルと象」(売切)など、やはり隅々まで手を抜かない作りで賢治の絵本シリーズを刊行中です。どれも目が離せません。

宮沢賢治の「雨にも負けず」という詩は、皆様ご存知だと思います。

この詩には不幸な過去がありました。戦時中の「欲しがりません、勝つまでは」の世論に同調するように、この質素な暮らしこそ、お国の勝利に繋がるという解釈をされてしまったそうです。バカな(あるいは狡猾な)政治家、軍人が跋扈すると、こうなるんですね。

写真は、2014年に発行されたアーサー・ビナードの英語翻訳による「雨ニモマケズーRain Won’t」(今人舎1500円)。ちょっと表現が古くさいと感じていたこの詩が、そうか、こんなに素晴らしいものだったのか!!と、わかります。

「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」が英訳ではこうです.

“Rain won’t stop me    Wind won’t stop me”

「私」が「雨に負けない」のではなく、「雨」は「私を止めない」になっています。つまり、自然が主語になっています。その後に続く「雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ」も

“Sweltering summer heat will only raise my determination”.

翻訳すれば「夏のうだるような暑さは,私の決意を確たるものにするに過ぎない」です。

もちろん、大自然の脅威に負けない私の意志は、きっちりと表現されています。けれど、悪戦苦闘する私の存在なんぞ、自然の前では小さなものなのです。だからこそ、雨や風、そして夏の暑さが主語になっているのです。

賢治は、この詩で、人知の及ばない自然と共生するには、我欲を捨て、進歩を望まず、ほんの少しの自然からの贈りものを大切にいただきながら暮らすことだと明言しています。

最後の詩句「サウイフモノニワタシハナリタイ」は英訳で、こう表現されています

“All this is my goal-the person I want to become”

どうです、ど真ん中剛速球で、気持ちいいですね。

そう、この英訳、音読するととても気持ちいいのです。朝一番に大きな声で読んでみてはいかがですか。

絵は、「頭山」で世界的に注目されたアニメ作家、山村浩二が、日本の自然の美しさを描いています。風の匂いや、夜の冷気を感じる絵を楽しみながら、ぜひ音読してください。

 

 

 

 

WOWWOWで放映された大島弓子原作のドラマ「グーグーだって猫である」を楽しみました。

映画は小泉今日子主演でしたが、今回は宮沢りえ。TV版も映画も監督は犬童一心ですが、連続ドラマと映画ではアプローチが全く違っていて、それぞれ面白かったです。猫と生きるマンガ家の、ストーリーのあるような、ないような日常を描いたドラマ版の方が、より原作に近い気がします。ラスト、主人公が、納得した表情で夜の公園を歩んで行くところは、こんな歩き方、大島の漫画で見た気がします。

同じ原作で主役を演じた、二人のアイドル出身の女優さんの表情が、どちらもとてもチャーミングでした。映画版ラストの小泉は、フィナーレに相応しい笑顔でしたね。

この二人に薬師丸ひろ子を加えた三人は、熾烈な芸能界を生き抜き、修羅場をたぶん幾つも乗り越え、歳と共に新しい魅力を見せてくれています。いや〜この年齢の重ね方はお見事です。

ドラマ版の音楽は、高田漣(高田渡の息子さん)、映画版は細野晴臣。これまたどちらも、脱力系の素敵な音楽でした。

残念ながら「グーグーだって猫である」の原作本は在庫してませんが、漫画といえば、ちょっと面白い「ガロ」が入荷しました。1995年9月号(1000円)です。特集は「宮澤賢治の世界」です。

ますむらひろしが「空飛ぶ賢治には、空で逢おう」でこんなこと言ってます

「60年代の終り、マリファナを吸って森で怠けていた者たちの書くミニコミ誌の中に、『宮沢賢治』に対する共感の言葉があるのを見た。朝から『飛んでいる』者は、賢治の童話のあちこちに『飛ぶ賢治』を感じた」

なんか、時代を感じる文章ですね。漫画としては、森雅之「星めぐりの歌」や、やまだ紫の「フランドン農学校の豚」、あるいは人気イラストレーターだった矢吹申彦が四コマで「賢治ずいぶん」を書いています。

驚くべきは筑摩書房版「新校本・宮沢賢治全集」の編集者へのインタビューが掲載されていたことです。この全集、一冊に本文篇と校異編が入っている密度の濃いものでした。私も何巻かは購入しましたが、なんせ高額商品だったので途中挫折しました。その全集に携わった編集者のひたむきな熱意の溢れるインタビューでした。

 宮澤賢治については、もう数えきれない程の本が出ています。しかし、このシリーズは知りませんでした。全5巻の「宮沢賢治漫画館」(潮出版社/昭和60年初版発行)です。今回、第2巻のみ(950円)入手しました。漫画化では、ますむらひろしの一連のシリーズは有名ですが、これは多くの漫画家が賢治の作品を一つずつ描いています。参加している作家は、こんな面々です

「菜の花畑のむこうとこちら」の樹村みどり、大長編「石の花」の坂口尚、ご存知スズキ・コージ、「まんだら屋の良太」の畑中純、「ほえろポポ」の村野美、そして、当店でも人気の「しんきらり」のやまだ紫。

確か、このシリーズは、やまだ紫の作品集を調べている時に見つけたのですが、彼女が取り上げたのは、地味で、シビアな「フランドン農学校の豚」という屠殺される豚のお話です。おそらく、この作品がコミックされたのは初めてではないでしょうか?独特の繊細な線で滑稽で哀しい世界が展開されます。原作の最後は、

「とにかく豚はすぐあとで からだを八つに分解されて 厩舎のうしろに積みあげられた 雪の中に一晩漬けられた 月はだまって過ぎてゆく 夜はいよいよ冴えたのだ」というものです。

やまだ紫も冷え冷えとした三日月のコマで締めくくっています。

彼女の作品「性悪猫」(小学館1200円)も入荷しました。その一篇「さくらに風」の猫の独白は、極めて文学的です。

「たいていのやさしさは あとで寒いもの わたしなればにげてしまうよ たといひとときなれど 日向はぬくいもの ぬくいところがいいよ お日様をにらみつけるなど 誰しもできまいもの」

 

さて、賢治の漫画の絵の面白さでは、やはりスズキ・コージが抜きん出ていますが、「風の人・宮沢賢治を求めて」というエッセイと一緒に独特のタッチの木版画作品で彼のファンタジーワールドを表現した畑中純も忘れがたいものがあります。

 

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漫画家ますむらひろしの描いた宮沢賢治関連のコミックは、当店では人気で、まとめてにマーケットに出ることもなく、見つける度に仕入れて出すと、直ぐに売れてしまいます。

彼の人気は、「銀河鉄道の夜」の世界を猫に置き換えて映像化したアニメ「銀河鉄道の夜」のヒットも大きいと思います。音楽は細野晴臣が担当、無国籍音楽の典型みたいな心地よきサウンドでした。

ますむらと賢治コンビは、大判コミック、ハードカバー、文庫と多く出ています。今回、ハードカバー版の「ますむらひろし宮沢賢治選集」の第2集と第3集が入りました。

第2集は「銀河鉄道の夜」。これには初期形「ブルカニロ博士編」というのがあります。親友カンパネルラを亡くして悲しみにくれるジョバンニの前に登場する、愁を帯びた眼を持つ、知性と優しさを兼ね備えた猫は、原作を越えた造形です。多分、彼なら平和に生きて行ける共同体の設計やら、新しい時代のあるべき姿も教えてくれそうです。「科学も信仰も同じだ」それが人間全体の幸せになるならば、と大胆な考えの持ち主だった賢治の分身みたいですね。「銀河鉄道の夜 最終形」も収録されていて、その微妙な違いも楽しめます。個人的には初期形の方が好きです。


 

「ブルカニロ博士編」の最後にこんな台詞があります。

「何かいろいろのものが 一ぺんにジョバンニの胸に集まって 何とも言えずかなしいような新しいような気がするのでした」

賢治は、人生を、日々悲しいような、日々新しいようなものと捉えていたのかもしれません。

 

第3集は「風の又三郎」、「雪渡り」、「十石の金剛石」他が収録されています。「十石の金剛石」は、殆ど植物が主役の物語ですが、原作で読んだ時よりも深く心に染み込んできました。ラストのいばらを外す猫の王子の姿は忘れられません。

「風の又三郎」ですが、大判のコミック(朝日ソノラマ)もあります。ますむららしい猫キャラの動かし方を楽しむなら、こちらをお薦めいたします。このシリーズは全六巻発売されていますが、なんとか揃えていきたいものです。

 

★ 勝手ながら6月30日(月)7月1日(火)と連休させていただきます 。よろしくお願いいたします。

 

 

 

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元旭山動物園飼育係、現絵本作家のあべ弘士さんが、なんと21mのヨットで北極海へ出かけました。ホッキョクグマを求めて3000キロの旅の始まりです。その旅をスケッチと文章で綴ったのが「こんちき号北極探検記」(1400円)です。

こんちき号のクルーは日本人8名と外国人クルー3名の11名で、一路ノルウェーを目指します。到着して、先ず買い込んだのがお酒。買える量に制限があるため、大丈夫かと不安になる。他に、もっと心配することあるだろうに、と笑ってしまいます。そして、著者の誕生日に目出たく、北極へ向かって出航。(ここでも笑ってしまう事件あり)

その後、航海の間、ひたすらスケッチを続けていきます。シロクマのデッサン、上手いなぁ〜と見ほれてしまいました。いや、さすが絵本作家の第一人者。どの絵にも飄々とした味わいと、クスクス笑えるユーモアが絶妙で、ドンドン読んでしまいます。そして、北緯80度を超えます。悪天候の中、みんなゲロゲロ状態ですが、作家はスケッチブックを離しません。極地探検の本は沢山出ていますが、これ程、ユーモアとホイホイ気分と、酒の話に満ちたものはないでしょうね。なんせ、後書きにもこう書かれているぐらいですから。

「いまは静かに旅のあれこれを心の中で熟成させ、香り豊かな日本酒に醸し」

本にも出てくる、スコッチの名酒「フェイマス・グラウス」でもちびちび飲みながらゆっくり楽しみたい一冊です。

彼の絵本も何点か集めました。表紙がかっこいい宮沢賢治の「なめとこ山の熊」(1850円)はお薦めです。ラスト、死んだ主人公の狩人を見送る熊たちの場面、狩人の周りに集まる熊を大きく描く絵本が多いのですが、ここでは、遥か山の彼方から見ているようなロングショットで描かれています。澄み切った悲しみが見事に表現された絵だと思います。

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WOWWOWで放映していた三谷幸喜脚本・監督の「大空港2013」には、十分に笑わせてもらいました。この作品、ワンカット、ワンシーンで90分撮り上げている実験映画です。ワンカット、ワンシーン。つまり、カメラが回り出したら、一回も止まらずにラストまで行くという、スタッフにもキャストにも失敗できないプレッシャーがかかる作品です。

飛行場の待合室を舞台に、地上客室乗務員と、ある家族のドタバタを一気に見せます。役者が実にうまくて、(竹内結子・香川照之など)「ワンカット、ワンシーンですよ」なんてわざわざ言わなくても、楽しめます。

なぜ、こんな実験映画を作るのか。それは、その場で登場人物と一緒に右往左往するスリルが味わえるからです。かつて、ヒッチコックが、一室で起こる殺人の謎解きを描く「ロープ」という映画で挑戦しました。近年では、ロシアのエルミタージュ美術館を舞台にしたA・ソクーロフ作品「エルミタージュ幻想」が、90分ワンカット、ワンシーンでした。(これは疲れました)

「ワンカット、ワンシーン」で、脳裏を過るのは宮沢賢治です。彼がこんな映画的手法を知っていたわけはないと思いますが、読んでいると、これって、ワンカット、ワンシーンだよな、と思ってしまうような作品に出くわします。「注文の多い料理店」などは、ワナにはまった人間達が、奥へ奥へと向かう様をこの手法で描いていますし、「やまなし」も水中から見上げる蟹の視線が途切れる事なく描かれています。また、長編詩「小岩井農場」は、主人公が駅を降りてから、どんどん牧場を歩く様子を心象風景を織り込みながら、最後まで読者を引っぱり回します。(だから、この詩の通読は、やはり疲れます)

写真の詩集は、ソノシート付きで北大路欣也が「雨ニモマケズ」を朗読しています。(角川書店800円)

作り手の力量が問われますが、またこんな手法で作ったものは、きっと観てしまいそうです。

 

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