正月休みの間に、心にグッとくる本に何冊か出会えました。本日ご紹介するのは、音楽家で文筆家の寺尾紗穂「天使日記」(スタンドブックス/新刊2420円著者サイン入り)です。
前作のエッセイ「彗星の孤独」(スタンドブックス/新刊2090円)を読んだ時から、世の中を丁寧に、しっかり見つめる人だなと思って注目していました。また、朝日新聞書評で硬派の書籍を紹介していて、愛読していました。
「私たちの社会は、できないこともできるようになることを是としてきた。ことに日本人は努力という言葉が好きだ。精神論が好きだ。できないことができないままなのは、本人の努力不足とみなされがちだ。けれど、できないことはできないままでいい、という考え方がこれからますます求められていくだろう。私には発達障害の子供たちがこの社会に増えつつあることが、何かのメッセージのようにも思える。それは、これまでの社会や教育が是としてきたものから、もっと大きく緩やかな理想へと価値転換を促す。排除され、異端とされてきたものたちが、もはや声なきマイノリティではなくなってゆく社会。」
長々と引用してしまいましたが、平等とか、共生とかいう言葉が一人歩きしがちな今、彼女の言葉は地に足がついていると思います。本書を読んでいて、グッと後ろから支えられている感覚が最後までありました。でも、本書は決して声高に社会時評を論じた本ではありません。日々の生活の中で、音楽家として曲をつくる合間に感じたこと、違和感などが素直な気持ちで綴られています。
第二章「天使日記」はこんな書き出しで始まります。「もうあの日から一年が過ぎた。二〇一七年四月五日。二重の意味でこの日は忘れられない日だ。加川良さんが死んだ日。そして、長女のきぬが天使に出会った日だ。まさか良さんが天使になったわけではあるまいが、良さんを迎えにきた天使が、たまたまきぬと出会ったのかもしれない。」
ここから彼女の子供たちと、天使との”交流”を母親の目を通して描いていきます。もちろん、彼女には天使は見えません。この章を読み始めた時、え?これ事実?それともフィクション?と居心地の悪さを感じたのですが、世の中には目に見えない存在がいるということを信じている私には、そうだよね、天使だってやって来るよね、と思い直しました。
「人が今あるもの、手でつかめるものしか信じられなければ、愛がいったい何であるかも捉えることはできないし、世界をより良く変えていくこともできない。自分には聞こえていない声があり、見えていない世界があるかもしれないと振り返ること、まっさらな心で自然に向き合い、人に向き合うこと。現代を生きる私たちがそれを忘れ、何かに流されるように生きているのだとしたら、立ち止まりたいと思う。」
彼女のアルバム「北へ向かう」(2700円)も取り扱っています。こちらも是非聴いてほしいと思いました。