ビジネス書の一つのジャンルに、働き方の本というのがあります。時間の効果的使い方やら、体調管理の仕方まで様々な本が溢れていました。そういう本にヘキエキしていた私が、なんと店内に「働くことを考える本」というコーナーを作ってしまいました。

こんな本が並んでいます。

堀部篤史著「街を変える小さな店」(1400円)、 辻信一編著「GNHもうひとつの<豊かさ>へ、10人の提案』(800円)、 早川義夫著「ぼくは本屋のおやじさん」(800円)、 久松達央著「小さくて強い農業をつくる」(1300円)、 渡辺格「田舎のパン屋が見つけた『腐る経済』」(1400円)、 森健著「勤めないという生き方」(1200円)、 矢萩多聞著「偶然の装丁家」(1300円)、 島田潤一郎著「あしたから出版社」(1450円)。

そして西村佳哲の「自分をいかして生きる」(950円)、「ひとの居場所をつくる」(1600円)、「いま、地方で生きるということ」(1200円)。「自分の仕事をつくる」(チクマ文庫450円)

等々です。

これらは、方向性は違っても、幸せに暮らすことを考える本です。ありもしない贅沢で豊かな生活のなんかさっさとゴミ箱に捨てて、社会にも、環境にも迷惑をかけずに、好きなことやってノホホンと生きていくために、どうゆう働き方がいいのかを示唆した書物です。

レティシア書房を開店して、この春で4年目に入ります。その中で、地味だけれど、自分に出来る事を理解して、仲間を増やし、楽しいことをシェアする考え方で働いている人やお店を開いている人たちに多く出会いました。もう、上だけを向いて突っ走るのではなく、穏やかに生きて行くことをチョイスする人が増えたのかもしれません。

誰もが、すぐにこんな生き方が出来るわけではありません。けれども、かくありたいという気持ちを、そんな人生の選択が間違いではないことを、教えてくれるラインナップです。出たばかりの新刊も多いので、中古でもあまり安くはありませんが、すべてお薦めの本です。

色々な生き方を選べるのは、選択肢の多い大都会だからと思っていたところ、そうでないことが分かりました。焼津から京都に来る度、いつも立ち寄ってくださるお客様から「『静岡』本のある場所』という本を頂きました。この中に掲載されている書店も、多分、好きな本に囲まれていれば幸せ、と感じられるところばかりです。

もしかしたら、全国で広がっているのかもしれませんね。善きことです。

 

岡山から電車で数時間、中国山地の中程にある勝山で営業する「パン屋タルマーリー」店主、渡辺格さんの「田舎のパン屋が見つけた『腐る経済』」(講談社900円)は刺激的な一冊です。「経営理念は利潤を出さない」なんて堂々と書いてある本なんか、ビジネス書の書き手からみたら白々しく思うでしょうね。

店主はこう書います。

「看板メニューは『和食パン』。古民家に棲みつく天然の菌でつくる『酒種』を使って醗酵させる。お値段は350円という高価格。週に3日は休み、毎年一ヶ月の長期休暇をとる。店の経営理念は『利潤』を出さないこと。(略)パンづくりの相棒である『菌』たちの声に耳を澄ましていたら、気がつけば、不思議なパン屋になっていた」

こんな文章読むと、どうせ金持ちのぼんぼんが自然食に目覚めて、作ったお店じゃないの、と思われるかもしれませんが、いや全く違います。しゃにむに経済成長に突っ走る総理にこそ、お読みいただきたい本です。

店主の生い立ち、パン屋を始めるまでの修行時代、千葉で開店した店を、岡山に移した意味等が、丁寧に、簡潔に書かれています。そしてこの店を立ち上げるまで彼を導いたのは、なんとマルクスです。「資本論」を読破して、ここに至ったのでした。成る程、「資本論」ってこういう事なんだ、とほんの少し理解できました。

「『利潤』を出さないということは、誰からも搾取をしない、誰も傷つけないということ。従業員からも、生産者からも、自然からも、買い手からも搾取をしない。そのために必要なおカネを必要なところに必要なだけ正しく使う。そして、「商品」を「正しく高く」売る。この搾取なき経営のかたちこそ、おカネが増殖しない『腐る経済』をつくっていくのだ」

従来の価値観を引っくり返すことが革命だとしたら、このパン屋さんはそれを起こしたのかもしれません。