小山田浩子の短篇集「庭」(新潮社/古書1400円)は、日々の生活の隙間からふっと顔をだす、ちょっと悪寒の走るような不思議な世界が一杯。読み出したら、この濃厚な文体に絡みとられてしまうやばい小説ですが、小説に限って云えば、もう今年はお腹いっぱい、という気分です。

小山田は2014年「穴」(新潮社/古書600円)で芥川賞を受賞した広島出身の作家です。夫の実家へ引っ越すことになった妻の、田舎での奇妙な体験を描いています。得体の知れない出来事、不思議な人物に獣。実体があるのかないのか…..。明確な答えのないまま物語は終わります。

今回読んだ「庭」も、一歩間違えば、オカルト小説になりかねない瀬戸際で極めて高い文学性を保っています。

「ウシガエルはうちの近所にはいないが、少し離れたところに川にはいて、夜、自転車で通りかかると襲われるという噂を聞いたことがあった。ウシガエルが牛のような鳴き声で鳴いている川のそばを、ライトをつけた自転車で通りかかるとその声がやむ、と、川の方からどたっと濡れた塊が飛んで来て、顔に張りつく。自転車ごと転んで地面に倒れると、同じような塊が川からどたどたぞろぞろ集まってきて、その人の顔をぺろぺろ舐めて食べてしまうのだという。」

「緑菓子」という一編の中の文章は、怪奇小説みたいなグロテスク感一杯ですが、そういう手合いのお話ではありません。写真家で作家の大竹昭子は「目の前の出来事や対象を見つめるうちに、異次元に引き込まれていく。極度の集中力をもって見るゆえに、ごくふつうの日常のなかに異界が出現してしまうのだ。」と書評を書いています。

何の変化もない日常の暮らしの中で、ひそかに生きている草花、植物そして虫たち。その日常の風景が、不条理に変わる瞬間を捉えた世界……..残念ながら、私にはこの短編集をうまく表現する言葉が見つかりません。

しかし、細密画のような描写、言葉の洪水、改行がほとんどなく永々に続きそうな文体にはまり込むと、逃げ出せなくなります。その快感をぜひ味わってください。

★お知らせ 6月4日(月)5日(火)連休いたします

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