「文士」という言葉がふさわしい作家の愛用品を集めた一冊の写文集を入荷しました。文・矢島裕紀彦、写真・高橋昌嗣による「文士の逸品」(文藝春秋/古書1000円)です。

「『文士はかすみを食って生きるべし』という名言がある。なるほど文士の逸品には豪華絢爛たるものはない。がらくた(?)ばかり、されど逸品なのである」とは、本書の帯に書かれた半藤一利の言葉です。確かに、いかにも高価なものは登場しませんね。エリート会社員から一転して、貧困の俳人として生きた尾崎放哉のインク壺なんて、どこにでも転がっていそうな壺なのですが、こう書かれています。

「放哉は独居無言、句作三昧で生きながら、夥しい数の手紙を書き送っていた。孤独を希求しつつも、真冬の深更、火鉢の埋み火に思わず手をかざすように、友の情愛に縋らずにはおれなかった。横たえた壜の口から、そんな放哉の生の痕跡がこぼれ落ちて見えた。」

こんな文章を読みながら壜を見てみると、寒さに震えながら手紙を書く放哉の姿が立ち上ってきます。写真と文章が見事にコラボして、文士たちの生の姿が浮き上がります。「反骨とははにかみの人生哲学」をモットーにした山口瞳の帽子では、「真面目な性格の現れか、気楽な散歩でもての指先までをピント伸ばして歩いていたという作家の姿が、帽子の向こうに浮かんでくる」。その姿が蘇ってきます。

幸田露伴の煙管とか、池波正太郎の万年筆とか、遠藤周作のマリア像、宮沢賢治のチェロ、いかにもこの作家らしいものが並んでいる反面、谷崎潤一郎のめちゃくちゃ派手な長襦袢や、檀一雄の貝の化石などなんだか笑えてくるものもあります。

古びて黄ばんだオルガンは、寺田寅彦が愛用したものです。「寅彦が理学博士の学位を得たテーマは、尺八の音響学的研究。中学時代から尺八を吹き、長じては蓄音機に凝る音楽マニア」だったそうです。知りませんでしたが、今なら、中古レコード店でレコードを漁る姿を見かけたかもしれませんね。

私が一番、驚いたのは小林多喜二のデスマスクです。プロレタリア文学の旗手だった小林は、警察に目をつけられて拷問の末に惨殺されます。葬儀まで妨害する警察の隙をついて、仲間たちが作ったデスマスクです。深夜、塗った石膏を生乾きの状態ではがしたため、マスクの一部が裂けてしまいました。

「狂気の時代に抵抗し無念の死を遂げた作家の魂が、苦闘と崇高の色を宿すそのマスクに、確かに刻まれていた。」という文章で結んでいます。このデスマスク、小樽市の小樽文学館が所蔵していて見ることができるのだそうです。

 

大阪の動物保護団体ARKの来年度カレンダー発売中です。

壁掛けタイプ1000円 机上タイプ800円です。売上は、全てARKにお渡しいたします。当施設に保護されている動物たちのために使われます。

 

 

 

読みやすい。これが第一印象です。

FMラジオ番組「Panasonic Melodious Library」で、小川洋子が話したことを、書籍用に再構成されたものだけに読みやすい、というのもありますが、彼女の言葉が的確で、しかも深い印象を与えるので、物語の世界へするするっと誘ってくれます。「シャーロック・ホームズの冒険」とか、「トム・ソーヤの冒険」とか、あまりにもスタンダード過ぎて読書案内に載らないものも読ませてくれます。(PHP文庫300円)

その一方で、なかなか書評集にも見受けない、さすが小川洋子のセンスだ!という本も紹介されています。例えば南アフリカの作家クッツェーの「鉄の時代」。この小説は、ガンを宣告されたケープタウン在住の白人女性カレンが、アメリカにいる娘にあてた遺書めいた手紙で進行していきます。カレンとお手伝いの黒人女性、そしてカレンの庭先に住みついた黒人ホームレスのファーカイルの、三人のやり取りを通して、「アパルトヘイトがごく普通の人生にどんな傷を残したのか、カレンとファーカイルの人生を通して、ほんのわずかですが感じることができます」と評価しています。なお、「鉄の時代」は河出書房世界文学全集の一冊として在庫しています。(1900円)

他にも、「アポリネール詩集」、「死者の奢り」(大江健三郎)、「骸骨ビルの庭」(宮本輝)、「トロッコ」(芥川龍之介)等の渋い作品や、「細雪」、「金閣寺」、「赤いろうそくと人魚」等の有名な小説も挟み込まれています。

その渋いラインナップから、もう一冊。大正時代に活躍した「自由律俳句」の俳人「尾崎放哉全句集」について、小川はこう書いています。

「尾崎放哉の最も有名な句のひとつは、『咳をしても一人』でしょう。五七五の十七文字よりさらに短い、九文字です。その圧倒的な短さの中に、彼の人生のすべてが凝縮されているようです。定型からはみ出しているからこそ余計に、そこに込められた孤独が際立っています。」

際立った孤独という意味では、彼女が紹介している「一日物云はず蝶の影さす」も高いクォリティーを持っています。

尾崎に関しては、西川勝著「『一人』のうらに」(サウダージブックス2160円)という傑作ノンフィクションがお薦めです。(店頭にある本は表紙がリバーシブル仕様です)