なんと屋久島に出版社を作って、雑誌を発行した人物がいます。国本真治さん。タイトルは「SAUNTER」。

「屋久島に出版社を作って、雑誌『サウンターマガジン』を創刊することになった。このご時世に田舎で紙の雑誌を……とも言われたけど、東京でもアフリカのサバンナも瞬時に同じ情報が手に入るこの時代だからこそ、日本の離島発であることにたいして意味はないし、完全なインディペンデントである僕らは広く浅くも望んでいない、好きな世界観を持つ人たちと繋がりコミュニティを形成したいのみだ。」

という力強い宣言文の通り、屋久島にとどまらず世界各地で自然と大地と共に生きる人たちを、美しい写真と共に紹介しています。現在3号まで出版されていて、養老孟司、石川直樹、宮沢和史、アン・サリー等が原稿を寄せています。そして特筆すべき点は写真の素晴らしさです。

1号の屋久島の素晴らしさ、古きよきチベット文化が色濃く残るインド北西部のラダックの人々、2号では写真家中村力也が、癌の闘病生活を経た妻と共に行った世界一周の旅の写真、3号の井上明による「音と祈りの南インド」と題した写真などを、じっくりと眺めているとそれぞれの土地の表情、そこに生きる人々の物語を読み取ることができます。

個人的には、「音と祈りの南インド」に登場するインドの写真に強く惹かれました。かの国の湿度、匂い、音楽が間近まで迫ってくるようでした。ニューヨークやパリ、ロンドンあるいは東京だけが世界ではないという確信をもたらせてくれる雑誌だと思います。

屋久島に住み、島の森と海と共に生きた詩人山尾三省は、2000年秋、手術不可能な末期ガンの宣告を受けます。余命数ヶ月と言われましたが、自宅に戻り、自然療法をベースにして生き続けます。詳しいことは、彼の著書「南の光のなかで」(野草社/古書1400円)の「善い日」をお読みください。

2001年、彼はこの世を去ります。

「自分で建てた寝室の布団の上で迎えた静かな死でした。この本(注:「南の光のなかで」)に書いてある通り、この世での生死を見つめ続け、権力や冨におもねず、ただ素朴に生きて、この世界へ還っていくという願いを貫いて、逝きました。」

あとがきにある妻の春美さんの言葉です。この本の版元、野草社から三省の詩を集めた「火を焚きなさい」(古書/1400円)が出ています。

「この世でいちばん大切なものは 静かさ である 山に囲まれた小さな畑で 腰がきりきり痛くなるほど鍬を打ち ときどきその腰を 緑濃い山に向けてぐうんと伸ばす 山の上には 小さな雲が三つ ゆっくりと流れている この世でいちばん大切なものは 静かさ である」

これは「静かさについて」とう作品の最初の部分です。屋久島の恵みと共に生きた三省らしい詩です。「静かさ」という言葉は、「一日暮らし」という作品にも顔を出します。

「海に言って 海の久遠を眺め お弁当を 食べる 少しの貝と 少しのノリを採り 薪にする流木を拾い集めて 一日を暮らす 山に行って 山の静かさにひたり お弁当を 食べる ツワブキの新芽と 少しのヨモギ 薪にする枯木を拾い集めて一日を暮らす 一生を暮らす のではない ただ一日一日 一日一日と 暮らしてゆくのだ」

かつて宮沢賢治が「雨ニモマケズ」で語った質素に生きる思想を思い出します。野に生き、家族とともに生きた詩人の言葉は、私たちが、本来あるべき自分の姿を見つめ直すきっかけになるのではないでしょうか。

息子が島を出て、東京に行く時に送った「食パンの歌」。大都会では、食パンなどありふれた食べ物で、粗末に扱ったり、或はカビを生やしたりしてしまうことがあるだろう。でもその時は、「父親である私の思想が死に面している時であり、ひとつの真理が 死に面している時である」という言葉を詩の中に残しています。たかが食パンひとつで、と思うかもしれませんが、食パンからさらに美味しいパンへ、そしてさらに高級なものへとお金さえあれば買えることを戒め、こう言い切ります。

「私の考えは 人間は お金を稼ぐために生きてはいけないという理想を 命からがらで考えもし 実行することだった」

私はそんなに熱心なファンではありませんが、折に触れ彼の言葉を目にしてきました。「火を焚きなさい」は、良い作品ばかり集められているので、三省を知るには、絶好の入門書です。

 

屋久島発のミニプレス「屋久島ヒトメクリ」が到着しました。これで、店内のミニプレスは、北は知床、南は屋久島まで更に広がりました。

「屋久島」と聞くだけで、旅心が騒ぎますが、このミニプレスを読んでいると、店番なんかやっている場合ではないという、誠に困った気分になります。現在14号まで発行されていて、今回はバックナンバーも含めて11号から入荷しました。ページをめくると。写真家山下大明さんの、お〜屋久島だぁ!という写真が出迎えてくれます。ちなみに14号は虹の写真です。

「本坊酒造株式会社」「素泊まり民宿あらき」「丸高水産」「屋久島パイン」等々、地元のお店の宣伝にも目が行きますが、連載記事が、面白いの一言です。盛口満さんの「ゲッチョの屋久島日記」というこの島の身近な自然を取り上げたエッセイは、13号でコケを取り上げていて、こう締めくくられています。

「光を求めて上に伸びるだけが生き方ではない。立たない生き方というものがそこにある」

14号の屋久島日記は「ハワイは虹の島と呼ばれる」で始まる、テントウ虫の話です。文章もいいですが、添えられている彼の絵も魅力的です。魅力的と言えば、「手仕事めぐり」も素敵です。この島の若き職人の作品紹介ページですが、これが毎号楽しいですね。屋久島へ旅行する時には、ぜひ求めたいものばかりです。

他にも「シカ肉食うべし」、「屋久杉を初めて見た西洋人ーウィルソンの生涯」、「ヤクGEO 屋久島ジオグラフィック」等々、面白い企画がズラリと並んでいます。店に出すのを忘れて読みふけりました。

連載ではないですが、ヤクシカを追いかけるために活躍する「屋久島犬保存協会」設立の話と屋久島犬Tシャツ発売の広告とか、屋久島永田お宿組合設立のニュースとか、島ならではの記事も満載。

そして、音楽好きには、いい趣味やなぁ〜と読ませてもらったのが「私と日々と音楽と」です。紹介されているCDは、この島で聴くに相応しいものばかりです。書かれているのは屋久島生まれの緒方麗さん。リバーサイドカフェ「散歩亭」キッチン担当と書かれています。いやぁ、この店にもぜひ行ってみたいです。

屋久島気分を満喫する「屋久島ヒトメクリ」は500円です。豊かな島、屋久島を再認識させてくれます。13号の表紙を見ただけで、飛行場直行ですね。

ところで、屋久島には古本屋さんとか、中古CDショップなんてあるんでしょうか?あれば、やはり行ってみたいものです。