一般の書籍流通ルートに乗らなくても、良書を出している出版社の本を、オープン時から置いて来ました。ミシマ社、夏葉社、土曜社、ビレッジプレス等々、いつもいい本を届けてくれます。

一方、小さいながら志のある本を作っている、出版社ともおつきあいの窓口を広げてきました。先日、左京区図書館で装丁家の矢萩多聞さんと、本についてのトークショーに参加させていただいた時、我が国の出版社の大半が数人で経営している実態をお話ししました。

ナナクロ社は、九州にある宅老所「よりあい」の悲喜こもごもの日々を描いた鹿子裕文著『へろへろ』(1620円)以来のお付き合いです。その後、谷川俊太郎『幸せについて』(1080円)『バウムクーヘン』(1404円)、熊本県にある「橙書店」店主田尻久子著『猫はしっぽでしゃべる』、東京の新刊書店「Title」辻山良雄著『ことばの生まれる景色』(2484円)、そしてコミック「ニューヨークで考え中」でブレイクした近藤聡乃著『不思議というには地味な話』(1404円)など、本好きには120%満足できる傑作です。書籍に携わる人たちの魂をすくい上げた作品ばかりで、もちろん私の本棚にも並んでいます。

屋久島に住み思索を続けた、山尾三省の著作を出している野草社とも取引を始めました。『火を焚きなさい』(1944円)を初めてとして、『新版狭い道 家族と仕事を愛すること』(2376円)、『新版 野の道』(2160円)も山尾の傑作でしょう。今回入荷したものでは、野上ふさ子著『アイヌ語の贈り物』(1944円)がオススメです。

当店で、トークショーをしてもらった澤口たまみさんの『宮沢賢治愛のうた』(1944円)を出している夕書房も、まだ数冊しか出していませんが、いい本ばかりです。がんばって欲しいと思います。

先程紹介した、橙書店の田尻久子さんの新作『みぎわに立って』(3月20日発売2052円)は、女性一人でやっている里山社という出版社が出します。これからどんどん仕入れていきます。

私は書店をチェックする時、このような志のある出版社をどういう風に扱っているかを見ます。全く置いていない大型書店もあれば、チェーン店でもきちんと平台に並べているところもあります。ロクでもないヘイト記事満載の書籍をどかーんと並べている書店が多い中、いい本を何とか読者に届けようとしている店を見ると、ホッとします。因みに新刊書店に勤務していた頃、この手合いの雑誌を一冊だけ出して、あとは全て返本してワーストの売り上げを記録しました。当時の商品部の皆さん御免なさい……。

 

⭐️「ことばの生まれる景色」で挿画を担当したnakabanさんの原画展を、ナナロク社主催で7月3日(水)〜14日(日)に当書房で開きます。同時にご近所の書店でも、nakabanさんの作品展の企画も進行中です。乞うご期待を!

 

屋久島に住み、島の森と海と共に生きた詩人山尾三省は、2000年秋、手術不可能な末期ガンの宣告を受けます。余命数ヶ月と言われましたが、自宅に戻り、自然療法をベースにして生き続けます。詳しいことは、彼の著書「南の光のなかで」(野草社/古書1400円)の「善い日」をお読みください。

2001年、彼はこの世を去ります。

「自分で建てた寝室の布団の上で迎えた静かな死でした。この本(注:「南の光のなかで」)に書いてある通り、この世での生死を見つめ続け、権力や冨におもねず、ただ素朴に生きて、この世界へ還っていくという願いを貫いて、逝きました。」

あとがきにある妻の春美さんの言葉です。この本の版元、野草社から三省の詩を集めた「火を焚きなさい」(古書/1400円)が出ています。

「この世でいちばん大切なものは 静かさ である 山に囲まれた小さな畑で 腰がきりきり痛くなるほど鍬を打ち ときどきその腰を 緑濃い山に向けてぐうんと伸ばす 山の上には 小さな雲が三つ ゆっくりと流れている この世でいちばん大切なものは 静かさ である」

これは「静かさについて」とう作品の最初の部分です。屋久島の恵みと共に生きた三省らしい詩です。「静かさ」という言葉は、「一日暮らし」という作品にも顔を出します。

「海に言って 海の久遠を眺め お弁当を 食べる 少しの貝と 少しのノリを採り 薪にする流木を拾い集めて 一日を暮らす 山に行って 山の静かさにひたり お弁当を 食べる ツワブキの新芽と 少しのヨモギ 薪にする枯木を拾い集めて一日を暮らす 一生を暮らす のではない ただ一日一日 一日一日と 暮らしてゆくのだ」

かつて宮沢賢治が「雨ニモマケズ」で語った質素に生きる思想を思い出します。野に生き、家族とともに生きた詩人の言葉は、私たちが、本来あるべき自分の姿を見つめ直すきっかけになるのではないでしょうか。

息子が島を出て、東京に行く時に送った「食パンの歌」。大都会では、食パンなどありふれた食べ物で、粗末に扱ったり、或はカビを生やしたりしてしまうことがあるだろう。でもその時は、「父親である私の思想が死に面している時であり、ひとつの真理が 死に面している時である」という言葉を詩の中に残しています。たかが食パンひとつで、と思うかもしれませんが、食パンからさらに美味しいパンへ、そしてさらに高級なものへとお金さえあれば買えることを戒め、こう言い切ります。

「私の考えは 人間は お金を稼ぐために生きてはいけないという理想を 命からがらで考えもし 実行することだった」

私はそんなに熱心なファンではありませんが、折に触れ彼の言葉を目にしてきました。「火を焚きなさい」は、良い作品ばかり集められているので、三省を知るには、絶好の入門書です。