京大総長で、京大霊長類学を代表する山極寿一さんの棚が、当店にはあります。専門的なものは扱っていませんが、「ゴリラの森に暮す』(NTT出版/古書1400円)、「ゴリラは戦わない」(中公新書/古書600円)といった専門のゴリラのことを平易に書いた本や、「父という余分なもの」(新潮文庫/古書550円)、「オトコの進化論」(ちくま新書/古書950円)の文化人類学から派生したものなど、様々な示唆に満ちています。

山極さんと、東大人類学を率先する尾本恵市さんとの対談「日本の人類学」(ちくま新書/古書650円)は、頭脳明晰な人たちの対談の面白さを堪能できます。

先ず、尾本さんが、東大では人類学者が低い扱いを受けていて、とてもじゃないが大学の総長なんかなれない、ましてや総長室にゴリラの写真が飾ってあるなんて、事務方が認めないと言う話から入り、お互いが人類学という学問に進んだことへと移ってゆきます。

山極さんがゴリラを専門にしたのは、先輩たちが皆チンパンジーの研究へと向かっていたので違うものをやりたいと思ったのだそうです。「チンパンジーは人間を超えている感じがしなかった。ゴリラを人間とちょっと違っていて、ある意味で人間を超えている感じがしたんです。」事実、ゴリラは抑制のきいた社会を作っていて、仲間同士の殺し合い、縄張り争いが無いらしい

また、あの大きなゴリラは、ペニスも睾丸も極めて小さいそうです。それに比較してチンパンジーは極めて大きい。彼等の社会は乱婚制だから、相手構わず交尾します。性行為の頻度では人間以上。さらに、射精まで平均6秒。だから。メスは妊娠するまで1000回以上交尾するとか。

こういった柔らかい話を交えながら、狩猟民族と農耕民族の社会へと話は進みます。「狩猟民族にとって自然と人間は平等で、支配、被支配の関係ではない」、一方の農耕民族は「自然を自分たちの手で整理し、人工的な食料環境につくりかえる。」その時から自然の頂点に立つのは人間であり、神に許された行為であった。神の貢ぎ物をする、というところから支配、被支配の考え方が生まれていきます。

極端に言えば、狩猟民族というのは私有を否定する文化であり、土地は私有せず、みんなで共同利用するものであったというのが、お二人の共通認識です。私たちは農耕文化を選択して、ここまで来たのですが、今一度振り返る時期かもわかりません。

アフリカの土人は暴力的だ!教育しなければ!と叫んで、植民地化したのは西洋文明です、しかし、文化人類学者たちが研究した結果、彼等は平和的で、素晴らしい文化を持っていることが判明しました。山極さんは「政治家はそれを認めていない。それが大きな問題なんですね。彼らはいまだに、西洋文明が世界の頂点にいると信じ込んでいる」と指摘しています。これからのあるべき人類の姿を考える一冊です。

 

★お知らせ★

  レティシア書房 第5回「女子の古本市」2/21(水)〜3/4(日)

京都・大阪・兵庫・滋賀・岐阜・東京などから、出展者が女性という古本市です。お買い得の面白い本を見つけにお越しくださいませ。


 

「都市と野生の思考」(インターナショナル新書400円)は、京都大学総長の山極寿一と、京都市立芸術大学学長の鷲田清一との対談集です。

二人の知識人が、様々なテーマで縦横無尽に語り合います。大学の存在意義、老いと成熟を学ぶ場としての京都、これからの家族の在り方、アートの起源、自由の根源、ファッションに隠された意味、食の変化がもたらすもの、教養とは何か、AI 時代の身体性まで語り尽くします。優れた知識人の話が、読者の知的好奇心を膨らますというのは、こういう本のことですね。私は1章づつ、電車の中で読みました。

ところで、東京生まれで生粋の京都人ではない山極先生は、京都をこう語っています。

「京都ではいまだに、衣食住にかかわるしきたりがきちんと保たれている。これが根っこを共有する意義でしょう。これは表に現れないからこそ大切なものだった。そんな根っこを日本の多くの地域は失ったんですね。」

へえ、そうなの?と思わないこともないんですが……..。

山極寿一は、ご存知のように霊長類の研究者として、研究発表、執筆など様々な活動をされています。その中の一冊「ゴリラの森に暮す」(NTT出版/絶版1400円)はお薦め。アフリカのザイールで野生のゴリラを追い求めてジャングルを駆け巡った日々を中心に書かれた本ですが、文章が平易で、専門用語が少ないので誰でもスルリと読めます。第一章の「原生林の世界」だけでもお読み下さい。ジャングルで道に迷い野宿をしたその夜、すぐ側に何頭ものゴリラたちが集まっていた時のことなど、小説みたいに面白く読めます。

山極寿一が原生林を歩きはじめたのは、数十年前。日本でサルを観察するために、各地で餌付けが始まり、成果は大いにあったみたいです(京都なら嵐山のサルが有名)。しかし、その一方、これで本当に野生に生きるサルの生態が解るのだろうか、と、人間からエサをもらうために道路沿いにズラ〜ッと並んで待ち続ける彼らを見て、疑問に思い始めます。それで日本各地を巡り、最後に屋久島に行き着きました。

屋久島に棲息するサルたちの生態を追って、彼らの社会を描いたのが「サルと歩いた屋久島」(山と渓谷社1200円)です。当時、大学院生だった著者は、各地で餌付けされて、やけに人間に親しいサルたちに違和感を抱いていました。ところが、屋久島のサルたちは、まるで人間なんて存在しないかのように振る舞っていました。そんな野生のサルに引込まれてゆく姿が描かれたネイチャーエッセイです。

笑い顔が素敵な著者の研究の原点を読むような二冊のサル本です。

 

 

 

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 

 

定期的に刊行されている雑誌で、個人的に気になるものがあります。

「Coyote/コヨーテ」(スイッチパブリッシング)、「MONKEY」(スイッチパブリッシング)、「考える人」(新潮社)、「Kotoba」(集英社)等々です。どの雑誌も200ページ以上のボリューム満点で、びっしりと活字で埋まっています。読破はなかなかです。

「考える人 2015年冬号」(600円)の特集は「山極寿一さんと考える家族ってなんだ?」というテーマで、山極先生のロングインタビューが掲載されています。ゴリラ研究の第一人者で、現京大総長が、人にはどうして家族が必要だったのかを語ります。この中に150人という数字が登場しますが、これが面白い。ぜひ、お読み下さい。

翻訳家の柴田元幸責任編集が売りの「MONKEY」は、海外小説好きにはたまらん一冊ですが、海外の小説に縁遠い方でも、特集次第では結構楽しめます。

例えば2014年夏秋号は「こわい絵本」(600円)という特集です。いくつかの作品が載っていますが、ブライアン・エヴンソンの「本と女の子」は、「こわい」というよりは、「悲しい」お話です。柴田さんと穂村弘の「怖い絵本はよい絵本」という対談で、二人が「こわい絵本」をどんどん紹介していて、この特集を参考に集めてみるのも、楽しいかもしれません。

2015年夏秋号の「音楽の聞こえる話」(600円)は、音楽にまつわる小説がメインですが、音楽そのものを描いたものではありません。この特集では、海外の作家だけでなく、柴崎友香、小川洋子、松田青子らの作品も登場します。どれも、短篇ならではの魅力に溢れた作品ばかりです。松田の「天使と電子」の奇妙なタッチも、読む者をきっちりと作家の世界に引っ張ってゆく小川の「少年少女」も、ともに素敵な小品ですが、柴崎の「バックグラウンドミュージック」に引き込まれました。

ラストで、ヒロインの弟が、昨日と今日の自分の違いについて、むかし中学時代の先生から、聞いたことを語ります。

「昨日より確実に一日死ぬ日が近づいたってことや。棺桶に入る日が一日近くなったんや。」

弟の話を聴きながら、遠くをみつめる姉。この小品、もっとストーリーを膨らまして映画にしても面白かもしれません。

 

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