平松洋子著「肉とすっぽん」(文藝春秋/古書1200円)は、日本全国で美味しい肉を提供している畜産家の人々を中心に、彼らの仕事ぶりを達者な筆で読ませる一冊です。

「日本各地の魅力的なひとびとを訪ねながら、さまざまな動物とその肉について、見て、聞いて、食べて、自分の手でつかんだ言葉がふたつある。肉にも『旬がある。』 うまい肉は『つくられる』」

そんな旬の肉を求めて、彼女が日本中を飛び回ります。トップに登場するは、北海道白糠町「茶路めん羊牧場」の羊です。当店でも、この牧場の姿を伝える企画展を2015年の未年にしました。牧場オーナー武藤浩史さんの試行錯誤と努力を見て、平松は「私がモンゴルで見聞した遊牧民と羊との関係、つまり人間が羊を生かし、羊が人間を生かす関係をまっとうするものだ。大量生産や経済効率を追ってきた日本の農業のあり方とは正反対をゆく道を、あえて彼は選んだ」と彼の生き方を書いています。(この牧場のラム肉は絶品です。)

次に登場するは、島根県美郷町。「やっぱり牡丹の華に喩えたくなる。密度の濃い脂の白、鮮烈な肉の赤。気負けすると、肉がわらわらと身を起こして咆哮し始めるような気配が猪の肉にはある」と書いています。ここでは、畑を荒らす猪の被害に業を煮やした農民たちが、狩猟免許を取得し駆除に乗り出し、さらに、この肉を貴重な資源として利用することにしました。肉の販売だけでなく、クラフト製品も作り出しています。猪を巡って、町興しに成功した歴史が描かれています。

山梨と埼玉との県境に近い奥秩父の山中で、鹿を狩る服部さんが第3章です。「狩猟体験を重ねて動物を深く知るにつれ、人間のいのちと同等の重さを持っていると気づいていきました。では、自分と動物との境界線がなくなっているのに、なぜ人間には一方的に殺すことが許されるのか。今日までずっと自問自答を繰り返してきたけれど、その答えは出ていません。」とは彼の言葉です。解体されてゆく鹿の写真が載っています。

こんな風に鳩、鴨、牛、馬、すっぽん、そして鯨と、日本で食べられる肉をめぐる旅が続いていきます。美味しい肉が生まれる現場を丹念に取材したノンフィクションです。