昨日に続いてご紹介します。島田潤一郎さんの新レーベル「岬書店」から出た新刊「本屋さんしか行きたいとこがない」(1100円)です。

巻頭で、「アンネの日記増補改訂版」を読んだ後、自分のような小出版社の役割をこう書いています。

「ぼくもまた、アンネのような小さな声を大切にしたいと思う。注意して聞かなければ聞き取れないような声にこそ、耳を澄ませ、そこから企画を立ち上げていきたいと思う。小さな出版社の役割とは、そういうものではないだろうか。」

書物を愛してやまない島田さんが、よく行った書店や思い出深い書店について語りながら、ご自身と本のつながりを綴っています。

「ぼくの頭のなかの八王子には、ほとんど本屋さんしかない。本屋さんと本屋さんをむすぶ線がそのまま町の輪郭になり、本屋さんへの道のりがそのまま町の印象となる。」

彼にとって、本屋さんが町の中心であり、いい本屋さんのある町が、いい町なのです。それは、もしかしたら本を愛する皆さんの共通認識じゃないでしょうか。私も、水無瀬の町の中心は「長谷川書店」だし、大和高田の真ん中は「とほん」だし、そんな風に町のイメージが出来上がっています。

長谷川書店については、本書でも取り上げられています。「新刊の棚も、マンガの棚も、なにがなんだかよくわからない棚も、みんな有機的に結びついている。それはただ単純に、一人の人間が棚を日々整え、自分がいつか読みたいなあと思った本を選書しているからだろう。本屋さんというより、自分の友人の家を初めて訪ねたときのよろこびに似ている。」

「自分がいつか読みたいなあと思った本を選書」というのは、きっと大正解です。そして、この本を読んで、あの人に伝えようという”Hand To Hand” 、手渡してゆくというのが本屋の原点だと思います。

「だれかからの言葉を切実に欲しているとき、本はそのひとの日々を救うだろう。それは、絶望から、希望へ、というような大げさな転換をもたらすものとしてではなく、文章と言葉を頼りに、少しづつ読者の生活を立て直すものとして、読者のそばにあり続けるだろう。」

だからこそ、島田さんは本を信じて、素敵な本を出して、注文書を持って全国を渡り歩いていけるのだろうと思います。

★HP内で紹介している本は全て通販可能です。まずは、メールinfo@book-laetitia.mond.jpまでご連絡ください。

 

 

夏葉社を営む島田潤一郎さんが起こした新レーベルの岬書店から、本に関する書籍が二冊発売されました。二冊共面白い!そこで、本日と明日の二回に分けてご紹介します。

まずは「ブックオフ大学ぶらぶら学部」(1430円)。多分こういうアプローチでブックオフ書店を論じたものは無かったと思います。「ブックオフ大学ぶらぶら学部」代表の島田さんが、書店主やライターなどに、ブックオフについて書いてもらいました。

ライターの武田砂鉄が「ブックオフにあり、新刊書店や目利きのいる古本屋には無い点とは何か。『本のことをよくわかっていない人が、これはたぶんこっちじゃないかと並べてみちゃった感じ』である」と、その特徴をピックアップしていますが、いっときのブックオフはそんな感じがありました。私もよくブックオフに仕入れに行きましたが、なんでこの本がこんな所に?しかもこの価格で出すかな?とニンマリしながら、買った時がありました。

さらに「新刊書店は体調が悪くても楽しめるけれど、ブックオフは体調が悪いと楽しめない」と書いていますが、正解ですね。膨大な量を納めた棚を見つめるには体力と集中力が必要なのです。

京都「ホホホ座」の山下店長も参加してます。4〜5時間ブックオフで楽しむことができる筋金入りの人です。「最近いちばんよかったのは、あれですよ。向田邦子のエッセイを岸田今日子が朗読しているCD。めちゃくちゃいいですよ。」

きっと、均一価格のCD棚で見つけたんでしょうね。私も500円コーナーはじっくりチェックしますが、280円コーナーまではとてもとても身が持ちません。

「ぼく、ブックオフがつぶれたらほんとに困るんですよ。あそこはとにかくほっといてくれるし、広いし、多様性があるし、生活と地続きな感じがあるし。居てて安心するんです。ぼくみたいな『オッサン』がいつまでもいてていい場所ですからね」

この意見には同感です。オッサンが100円文庫棚を真剣に見つめている様はなんかホッとさせてくれます。ところで、ブックオフ店内で携帯電話片手に本のバーコードを読み取っては、店内のカゴに本を山盛り入れている人物、ご存知でしょうか。いわゆる”せどらー”さんです。バーコードリーダーで価格を読み取り、ネット上の販売価格と比較して、安ければ買って、高く売るという商いをされている方々です。

「ブックオフで仕入れた本を、Anazonで売ることによって、差益を得る人種」と、便宜上ここでは、せどらーを定義しています。私もたまには仕入れにゆくので、その時はせどらーになるわけです。(Amazonでは売りませんが)本書では、このせどらーの生態と、日々の業務?についてかなり詳しい解説が付いています。いやぁ〜凄いですね。これで生活している人がいるんですから。せどりのハウツー本まであるんです。

最後にぶらぶら学部代表の島田さんが、2000年代前半のブックオフの状況を「お金がなくて、時間だけがある文化系の若者たちはこぞってブックオフに足を運んだ。」と振り返っています。

「ブックオフはまるでセーフティネットのようだった。社会に行き場のない人たちが集い、カルチャーをなんとか摂取しようとしていつまでも粘る場所。」であり、105円出せば、なんらかの本をゲットでき、新しい文化、芸術を知ることができる場所であったのです。

最近のブックオフは粗視化され、すべての本がデータ化されたため、おっ!この本がこの価格!という驚きは無くなりました。でも、何時間いても文句も言われずに本に出会える場所であることは間違いありません。

本書の裏表紙に、ブックオフそっくりの価格表が付いています。ブックオフへの愛着一杯のシールです。

「『詩、読みますか?』と聞いて、まだ『ハイ』といわれたことがない。たいてい『本は好きなんだけど』とか、『小説は読むんだけど、』という具合に、あとは続くのです。」

大阿久佳乃「のどがかわいた」(岬書店/新刊1430円)はこんな風に始まります。詩のことを知ってもらいたくて、彼女は「詩ぃちゃん」というフリーペーパーを発行しました。私は、何人かの詩人を除いて、あんまり詩を読まないのですが、彼女が紹介している詩人やら、詩の楽しみを読んでいると、こういう読み方もあるんだと、視界が広がります。

著者の大阿久さんは、2000年三重県鈴鹿市の生まれで、このフリーペーパーは2017年、17歳の時に出しています。

「半年ぐらい学校に行っていなかったのだと思う。けれど、はっきりいつから行かなくなったかは覚えていないし、そういえば、学校に行っていた間のこともあまり覚えていない。」

結局、出席日数が足りず留年、そして退学。本書の第二章で、その息苦しかった時代のことを振り返っています。「もともと私には、十八歳まで時が止まっていて、十九歳から一気に死に向かっていくという、謎の思い込みがある」とまで書いています。

思春期にありがちな不安、苛立ち、孤独の告白といえば、そうかもしれません。ここにはそんな状態から、彼女を支えた言葉と共に、出口を求め、模索する一人の女性の偽らざる姿が描かれています。先の見えない閉塞感と息苦しさは、数十年前に”穏やかだった”十七歳を経験した私には、理解できないものが潜んでいます。

でも、これは、あくまで彼女の心を支えた読書案内です。フランシス・ジャムという詩人を紹介する件は、この詩人の言葉がどれだけ彼女の心に寄り添っていたのかがわかります。

「ここを読んでいると、自分が難しい顔ばかりして生きてきたと思い、これからもずっとそうなんだろうと、落胆したり、度が過ぎてちょっと面白くなくなってしまったりする。しまいには涙が出て、人生がなんなのかさっぱりわからなくなって、このやろう、と乱暴に、すがるようにジャムの詩をまた読み進めてしまう。」

とても素直な文章で、店にあるジャムの詩集を開いてみたくなります。

彼女の祖父母が京都市内に住んでいる関係で、よく来京しているそうす。そこで出会ったのが「古書善行堂」の店主山本さんでした。あぁ、いい店に出会ったなと思いました。ここで、彼女は多くの作家や本を山本さんから紹介してもらいます。書店にとって、読者の心持ちに沿った本を紹介できるほどの喜びはありません。そしてここから、岬書店の島田潤一郎さんに出会い、本書の発行へと繋がっていきました。しかるべき時に、しかるべき出会いがある、という事です。

お知らせ コロナウィルス感染拡大の緊急事態下、これ以上感染者を出さないために、営業日、時間を下記のようにさせていただきます。

営業日:毎週 火曜日、木曜日、土曜日 営業時間:13時〜17時

通販、メールでの在庫確認は常時できますので、ご利用ください。通常営業再開はHPにて告知いたします。(info@book-laetitia.mond.jp)


島田潤一郎さんは、ご存知のようにひとり出版社「夏葉社」の代表です。上質の本をコンスタントに発行されています。近著「古くてあたらしい仕事」(新潮社/新刊1980円)は、多くの人に読んで欲しい一冊で、生きる事、仕事をすることの本質が、ぎっしりと詰まっています。

大学卒業後就職した仕事に馴染めず、様々の会社を渡り歩き、自分の人生の方向を決められない日々が続きます。その時彼を支えたのは、当時ロッテ球団の監督だったバレンタインの、こんな言葉でした。

「人生でもっとも大切なのは、人から必要とされる事だ」

島田さんは、仕事とはそういうものだと思いつつづけてきました。誰かを支えたい。「仕事のスタートとは、そういう純粋なものである」というのが彼の哲学になっていきました。

「一冊の本が人生を救うというようなことはないのかもしれない。でも、僕にはきっと、なにかできることがある。僕にしかできないことがある。」

そんな思いを胸に秘めながら、出版社「夏葉社」を立ち上げ、自ら編集し、自社のことを理解してくれる全国の本屋さんを営業するという、仕事がスタートしていきます。彼の起こした出版社の優れたところは、彼自身の言葉で言えば、

「いまを生きる作家の本は、既存のたくさんの出版社がつくっている。それならば、ぼくはかつて出版され、絶版になっている本を、もう一度自分の手で出してみたかった。 数十年前の作家と編集者が魂を削ってつくった本に、もう一度あらたな息吹を吹き込んでみたかった。魂のリサイクル。」

読者の顔を思い浮かべ、それを置いてくれる書店員のことを考えて作る本、著者はそれを「親密で、私信のような本。仕事もまた同じ。一対一でしか伝えられないことがある。」と表現しています。合理性、効率で考えるのではない仕事。「今日、誰のために、なにをするのか。 仕事の出発点は、いつもそこだ。」という考えが、くり返し、本書には登場します。

本書で、一箇所だけ当店の名前が登場します(P138)。「大量生産、大量消費以前のやり方を現代に蘇らせることによって、自分の仕事の場所を保持しているように見える」書店の一つとして、名前を挙げていただきました。

「それはいってみれば、大きな声でなく、小さな声を尊重する店のあり方だ、『みんながそういっている』というのではなく、『あのひとはこういっている』という本の並べ方」と。よくぞ、言ってくれました!島田さん。ありがとうございました。

彼が編集した「ガケ書房の頃」の中に、著者の山下賢二さんが、こんなことを書いています。

「本屋は勝者のための空間ではなく、敗者のための空間なんじゃないかと思っている。誰でも敗者になった時には、町の本屋へ駆け込んだらいい」と。

そして、しんどい時、憂鬱な時、本屋が支えになるのは、「強い者の味方ではなく、弱者の側に立って、ぼくの心を励まし、こんな生き方もあるよ、と粘り強く教えてくれたからだ。」という島田さんの言葉を、私もその通りだと思いますし、当店もそういう本屋でありたいと仕事をしています。

この本は大手出版社の新潮社から出ていますので、大きい書店にはあると思います。当店でなくても、お近くの書店で見つけて、ぜひお読みください。

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壁掛けタイプ1000円 机上タイプ800円です。売上は、全てARKにお渡しいたします。当施設に保護されている動物たちのために使われます。

 

夏葉社の代表島田潤一郎さんが、「90年代の若者たち」(岬出版/1404円)を発行しました。

「一九九五年の冬に、日本大学商学部の文芸研究会というサークルに入部した。大学一年生で、まだ十九歳のころ。焦燥感と向上心があった。文学が好き、というひとたちから、なにかを学びたかった。」

という書き出しでわかる通り、これは島田さんの大学時代、そしてその後、やりたい事を見つけるまでの人生の彷徨です。読み終わって、これサリンジャーの世界だなと思いました。サリンジャーが描くのは、極端に言えば何をしていいのかわからない青年が、ブツブツ呟きながら、トボトボ歩く世界です。この本の中で、島田青年は未来のことが見えてこず、作家になりたいという思いだけが先行し、虚しい日々を送っています。

「ぼくが青春時代を送った90年代は、音楽の時代だった。もっといえば、CDの時代だった。アナログからデジタルに移行した時代。通信カラオケの普及によって、みながカラオケボックスへと通った時代。若者たちはみな、驚くぐらいにCDを買った。」

そんな時代、彼も浴びるほどの音楽漬けの生活を送ります。小沢健二、スピッツ、サニーディ・サービス等々、世代的に差がある私には縁遠いミュージシャンですが、「カラオケでよくうたったのは、小沢健二の『愛し愛されて生きるのさ』。それだけがただ僕らを、悩める時にも、未来の世界へ連れてゆく、と。九十五年も、九十六年も、九十七年も、九十八年も、大声でうたった。」という気持ちは、よくわかります。私だって、ジャズ喫茶にこもり、ロックイベントに通っていましたし。

島田青年は、就職活動に全敗しあてのない日々を送るのですが、音楽に常に支えられていました。九十年代を「ぼくにとって、重たい時代だったのである。バブルを知らないうちにバブルが弾け、楽しみに見ていたトレンディドラマの空気も、どんどん重たくなっていった。」と括っています。

1999年、彼は家を出て安アパートで一人暮らしを始めます。大量の本とCDを持ち込み、作家になるべく、ワープロに向かう日々が始まります。しかし、そう簡単に道は開きません。アルバイトに明け暮れる毎日、かけない文章、青春の出口でもがく日々が描かれます。早くに死に別れた友人への思い、仕事に価値を見出せない毎日、そして心を病んでいきました。

その後、彼が夏葉社を立ち上げるまでのことは、「あしたから出版社」(晶文社/古書950円)をお読みください。「90年代の若者たち」の最後の方で彼はこんなことを書いています。

「本というのは、人間に強さをもたらしたり、ポジティブな価値を与えるというより、人間の弱い部分を支え、暗部を抱擁するようなものだと思う。だから、ぼくたちは本が好きなのだし、本を信頼していたし、それを友だちのように思っていた。それは本だけでなく、音楽もそうだった。」

同感です。

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