京都MOVIXで上映中のシネマ歌舞伎「女殺油地獄」を観てきました。シネマ歌舞伎は、上演中の歌舞伎の舞台にカメラを複数持ち込み、映画的テクニックを駆使して、普通なら観ることのできない角度から役者の演技にズームしています。

「女殺油地獄」は、元は近松門左衛門の人形浄瑠璃です。大阪天満の油屋河内屋徳兵衛の義理の息子与兵衛は、地道に働きもせず、店の有り金を持ち出しては遊女に入れ上げる、どうしようも無い放蕩者。困り果てた親は、泣く泣く与兵衛を勘当するのですが、親の気持ちを察することはありません。膨れ上がる借金にどうしようもなくなった与兵衛は、同じ町内の油屋豊島屋の女房お吉に無心をするのですが、固く拒否されて切れてしまい、ついにお吉を惨殺して金を奪う、という大バカ息子です。でも、この与兵衛がとても魅力的なのです。

ラスト、与兵衛とお吉が油塗れになりながらの修羅場シーンが用意されていますが、それまでに様々な小ネタが仕込んであって、与兵衛という人間に引き寄せられていく仕掛けになっています。男前の与兵衛に、ちょっと惹かれているお吉との関係、勘当はしたものの彼を捨てきれず何かと世話を焼く両親の親心などを巧みに混ぜ込みながら、悲劇へと突っ走ります。

役者の力量が問われる舞台で、与兵衛には松本幸四郎、お吉には市川猿之助という旬の二人です。カメラは、ある時はクローズアップになったり、ある時は役者に背後から、そっと覗き見するような視線で見つめたり、さらには、舞台上方から、惨殺の現場を俯瞰したりと変幻自在に観せていきます。

何とかお金を貸して欲しいと懇願の気持ちだけだったのが、お吉にはっきり拒絶された途端、 与兵衛の目つきに殺意がムラムラと出てくる様を、カメラがアップで捉える瞬間は、「魔がさす」ということを見事に浮き彫りにしていました。歌舞伎なんか見たことない人にも、本作はオススメです。

 

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観世会館に「黒塚」を見に行きました。安達ヶ原の鬼伝説がもとになっている曲で、以前、先代の市川猿之助で歌舞伎を観て、その美しさと幻想的な舞台、そしてラスト、ロックミュージカル並みの外連味たっぷりの演技と音楽に圧倒されたので、オリジナルを前から観たいと思っていました。

巡礼の旅に出た熊野那智の山伏とその一行は、安達ヶ原で、老婆の住む粗末な小屋に一夜の宿を借りることになります。前半は老婆が自らの苦しい身の上を嘆きながら、糸を繰ります。夜も更けてきて、老婆は「留守中、決して私の寝所を覗かないでください」と頼み、山伏たちのために薪を取りに出かけます。

しかし、この老婆に不信感を覚えた山伏に仕える下男が、密かに寝所を覗くと、そこには大量の死体が積み上げられていたのです。下男の知らせで山伏は、この老婆が鬼だったことを知り、追いかけてきた鬼女に変身した老婆と対峙することになります。山伏は珠数を擦って鬼女の怒りを静めてゆくというお話です。

静かに去ってゆく老婆が、ふと立ち止まり「寝所を見ないで」と山伏に言うところが、おお〜怖わ〜です。ハリウッドのオカルト映画の比ではありません。そして、舞台に設えられた庵を山伏が覗くと、死体の山!、といっても舞台には死体なんぞありません。あるように見せるのが能の面白さ。なんだ、これ!と騒ぐ山伏の不安に同調するように、お囃子の音が一気に緊張感を高めていきます。あの「ジョーズ」で鮫が出る時に鳴る音楽みたいです。

ついに、鬼との対決。パワー全開のお囃子のサウンドと、一糸乱れぬ謡いが、興奮度をアップさせます。追い詰めた鬼が逆襲に転じた時、山伏はなんとマイケル・ジャクソンばりにムーン・ウォーカーで、後ろ向きに舞台を駆け抜けます。さらに、山伏たちが体をくねらせて鬼に立ちむかう場面、えっ?こんなダンサブルな場面って、能にあったの?と驚ろきました。もう、ストリートダンスそこのけの迫力でした。こんなかっこいい音楽と舞台を、室町時代に作っていたんですね。

能にしろ、歌舞伎にしろ、どうしようもなく眠たくなる場面があります。その時は、迷わず寝ることです。きっと、起きろ!ここやで!と舞台が呼んでくれます。そこだけ観てればいいのです。その内に、だんだん起きている時間が長くなってくるものです。この舞台でも、老婆の身の上が語られる場面は寝てしまいました。

 

♫トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再びやってきます。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。 朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。

                     075−212−1772(レティシア書房)


 

         

ゴールデンウィーク明けの二日間、店を連休しました。そして、只者ではない二人の表現者の芸を楽しんできました。

月曜日、久々に大阪松竹座の「五月歌舞伎」へ。お目当ては市川猿之助の「金幣猿島郡(きんのざいさるしまだいり)」。2時間半ぐらいのエンタメ。入場料いただいたら、その分、きっちりと楽んでかえってもらいます!という、気合い十分なお芝居です。男と女の嫉妬が、どす黒い怪物を生み出し、大活劇に至るという歌舞伎ならではの荒唐無稽な物語。能の名作「道成寺」までひっかけるスピンオフ的展開で満員の観客を引っ張ります。ワイヤーつけて3Fまで舞い上がる宙乗り(奈落からワーッと真っ直ぐに天井近くまで引き上げられる迫力!)はあるわ、ひっきりなしに三つの仮面を付け替えて踊る舞踊はあるわ、もうなんでもござれ。長唄、常磐津も怒濤の如く、迫ってきます。

凄い!と思ったのは、隣の席の女性が、役者の見得に合わせて首を振られているのです。いや〜、タテノリのライブ感覚。独自のスピード感で、劇場全体をドライブさせて、観客をノセルなんて、ロックのライブですね。先代猿之助が、この手のケレンたっぷりの舞台を復活させた時、批判も多々あったように聞いていますが、もうそんな言葉は寄せ付けません。照明や炎の演出も、おそらくスーパー歌舞伎などを経て技術力が上がり、ダイナミック。

次の日は、京都国立博物館で開催されている「海北友松(かいほうゆうしょう)」展に出かけました。開場30分前に着いたのですが、100人以上の列。海北友松は安土桃山から江戸時代初期にかけて活躍した絵師で、雲の間から飛来する竜の絵が有名らしいのですが、私は全く知りませんでした。

先ず、「放馬図屏風」という野生の馬を描いた作品に足が止まりました。野生のくせにちょっと太り過ぎだろうと言いたくなる馬の、真ん中の一頭の前足がかっこいいのです。大地を踏ん張っている感じ、その後ろ姿のポーズの良さにしばし見入りました。

そして、雲の間からこちらを睨みつける二頭の竜。展示室は、照明を落とした空間。きっと当時の人たちはこんな暗い空間で、蝋燭の灯りを頼りに眺めていたのでしょうね。画面から漂う妖気に震え、そして大自然への畏怖の念を感じ取ったことでしょう。

これらの竜は、その異形をもって、お前たちは万物の長にあらず、その一部に過ぎぬわ!何もかもコントロールできるなんて大間違いと、暗闇の向こうから喝!と、現代人の姿を一笑するするような凄味がありました。

 

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