1992年フランスに生まれ、多摩美術大学を卒業後した堀江栞と、始めて出会ったのは多和田葉子著「献灯使」の表紙でした。飛べない鳥ハシビロコウを真正面から捉えた絵に、な、なんだ!これは??と驚き、慄いた記憶があります。その次に出会ったのは、平松洋子著「父のビスコ」の表紙でした。変わった画風だなぁと思っていたところ、「堀江栞 声よりも近い位置」(小学館/新刊3300円)という初の画集が出ました。

彼女が引き寄せられるのは「傷つけられ、痛みを負い、哀しさや辛さを抱えた存在」。それは動物であったり、石や人形であったりします。やがて、その対象が人間へと広がります。本作には、デビューから最新作まで90点を収録しています。

神奈川県立近代美術館館長の水沢勉氏も、やはり「献灯使」の表紙の絵に驚いた一人で、本画集の中で、「ハシビロコウを真正面から、周囲の情景をいっさい描き込まずに、まるで撮影スタジオにその鳥がいるかのように描いている。そして、その大きな嘴が、出版されたばかりの本を手にしたとき、まるでもう一つの不気味な顔を表した、凸凹状態のひどく傷んだ仮面のようにみえて」と表現しています。

やはりハシビロコウの顔のアップを描いた「おまえに話つづけた」も、こちらの心の中を射抜くようなハシビロコウの強靭な視線にたじろぎながらも、見入ってしまいました。

人物に表現対象を広げた堀江が見つめた顔の表情、視線の訴える先には、人の持つ儚さと無常感が漂っているようにも見受けられます。

日曜美術館の司会を務める作家の小野正嗣は、本書の中で堀江の描く人物を力強く肯定的に表現します。

「堀江栞の描く人物たちをーだからかれらとともにある僕たちをもー包み込み、待ち構えているのは暗く冷たく恐ろしいものであるかもしれない。しかし気づいたはずだ。絵に描かれている者たちのまなざしに怯えはない。迷いもない。それがどこまでも深く揺るぎないのは、かれらが描き手を心から信じているからだ。たとえ周りの人間や社会や歴史が裏切ったとしても、この描き手だけは、自分たちを決して裏切ることなく、自分たちが『ここに在ること』を肯定し続けてくれる。そう確信しているからだ。それは僕たちの確信でもある。」

ぜひ、実物を拝見したい画家です。