廣木隆一監督作品「彼女の人生は間違いじゃない」を観ました。

舞台は福島県いわき市。母を津波でさらわれ、稼業の農業が放射能汚染で出来なくなり、仮設住宅に住む父と娘が主役です。

娘は市役所に勤務する傍ら、週末は東京で風俗嬢をやっています。父は、保証金でパチンコ狂い。もう、のっけから辛い状況を見ることになります。廣木隆一監督の映画って、リアリステイックな描写が多く、しかも画面が静謐。出口の見えないこの二人の人生を凝視することになります。

何故、娘は東京で風俗嬢をやっているのかについての説明は、最後までありません。私たちは、彼女は何を目的に生きているのかという疑問を持ちながら、ドラマの進行を見つめるだけ。生き地獄と言えば、そういう世界かもしれません。

映画がどういう風に収束してゆくのかと不安に覚えながらも、目を離すことはできません。このまま、震災と原発で人生を狂わされた家族の物語だけでは、見る価値があるのかと思われるのですが、廣木隆一は、見事なエンディングを用意しています。もちろん、それは、明日からはがんばります、なんていう安物のTVドラマみたいなものではありません。父親、娘にそれぞれ起こる出来事を通して、僅かですが一歩前に向います。ラスト、娘は小さな犬を家に迎えます。この犬が、これからも希望になるのかはわかりません。けれども、ここからしか人生は始まらないのです。

映画の最初で、いやいや寝室から起き出した娘が、ラスト、朝食のために米を研ぐ姿をカメラが追いかけます。でも、そこには最初のイヤイヤ感はありません。私たちは、少しほっとして席を立つことになります。

震災の後、多くの表現者がそれぞれの思いを作品として発表してきました。文学、音楽、映画、舞台と様々なジヤンルで、語られました。私にとっては、園子温監督作品「ヒミズ」と「希望の国」は、忘れがたい優れた作品でした。震災の悲惨さや、原発の恐ろしさだけを描いただけでは説得力がありません。表現者の思想が深く問われるのだと思います。この作品も、そんな一本でした。

「撮りたかったのは、現在の日常です。何かが欠落したまま、決して満たされることのない日々の暮らしを撮影することで福島だけでなく、今の日本が抱えている矛盾を描きたいと思いました。」

と監督は語っています。娘を演じた瀧内公美、父親を演じた光石研、風俗嬢のマネージャーを演じた高良健吾、生まれ故郷の町で、もがきながら生きる男を演じた柄本時生達の優れた演技力で、監督の意図を見事に映像化した映画です。