漫画界の巨人手塚治虫と言えば、「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」等々、子供たちのために明るく輝かしい未来を描きだした作家としての印象が強いです。しかしコミック好きにはよく知られているように、彼には、人間の暗部の底の底まで描ききった、いわば「黒手塚」の作品が存在します。その中でも、ここまで人間を追い詰めるのかと唸ったのが、傑作「ムウ/MW」(全2巻1000円)です。

とある小さな島で、不良グループの人質になった歌舞伎役者の息子、結城美知夫。大金をせしめようとした矢先、その島に隠されていた某国の毒ガスが漏れてしまい、美知夫とグループの一人を覗いて島の住民もすべて死んでしまいます。その後、グループの一員だった賀来は、自分の罪を改め神父の道を歩みます。一方、美知夫はエリート銀行マンとして、着々と出世街道を登っていきます。

実は二人は同性愛の関係にあり、賀来はその事に苦しめられます。しかし、美知夫に出会うと体を許してしまいます。手塚はこの二人の抱き合う所も描写していきます。その美知夫も恐ろしい野望があり、そのためならば殺人、レイプも平気で行っていきます。阻止しようとする賀来も、美知夫に逆らいきれず、地獄の底まで付き合わざるを得なくなっていきます

この本が発表されたのが1989年。同性愛への理解もまだまだなかった時代に、手塚はこの二人の性と生を中心にスケールの大きな物語を作り出しました。あえて、人間の底なしの地獄へと踏み込んだのです。物語の後半は、島に貯蔵されていた毒ガスをめぐる、松本清張ばりの社会派サスペンスへとなだれ込むのですが、物語の大きさ、起伏の巧みさなど、やはり手塚ならではの描写です。

そして、ぞっとするラストが待ち受けています。おそらく従来の手塚作品にはない、人間への不信に満ちた幕切れです。美知夫と愛犬の獣姦っぽいシーンまで入れたこの作品は、目を背けたくなる場面もあるのですが、それでもどんどん読みたくなるのは、作家の力量ですね。

“黒”い作品の代表格「奇子AYAKO」(全2巻1000円)も入荷しています。ぜひもう一つの手塚作品をお楽しみ下さい。

 

 

 

★吉田篤弘の新刊「京都で考えた」(1620円)が発売されます。

全国発売は10月20日ですが、京都地区先行販売が決まりました。また、ご予約された方には先着でサイン本をお渡しします。先行発売は10月12日(木)です。

 

 

Tagged with: