これだけ、小川洋子の小説が揃ったのは珍しいかもしれません。元々の在庫と一緒に数えてみたら19冊。大型新刊書店よりも充実しています。私自身小川洋子が大好きなので、その半分ぐらいを既に読んでいます。

出産を控えた姉に毒入りジャムを食べさせる妹の、心理と生理の揺らぎを描いて芥川賞を受賞した「妊娠カレンダー」(文春文庫/古書300円)、老人の背中、足の裏を舐め回す少女のエロスを描く「ホテル・アイリス」(幻冬舎文庫/古書300円)など、この作家の持っている冷たい狂気のようなものが満ちた、初期作品を読んでもらいたいと思います。現実と悪夢の境目で揺れ動く不思議な世界を描いた短編集「まぶた」(新潮社/古書300円)もいいです。

と言いながら、やはり推薦するのは、ブログでも紹介した「いつも彼らはどこかに」(新潮文庫/古書300円)と「ことり」(朝日新聞社文庫/古書300円)。優しく切なく、そして温もりのある豊かな物語世界がここにはあります。

そして、この本も文庫になっていたんですね。赤坂真理の「東京プリズン」(河出書房/古書500円)です。アメリカの高校に留学したマリが、ひょんなことからディベートで「天皇の戦争責任」について弁明することになることから、日本の戦後をめぐる物語へと発展してゆく骨太の物語。帯の通り、「16歳の少女がたった一人で挑んだ現代の『東京裁判』を描く」物語です。

ちょっと珍しいのが、武井武雄の童話集「お噺の卵」(講談社文庫/古書800円)です。日本ではあまり見かけないナンセンス童話「お噺の卵」「ペスト博士の夢」「ラムラム王」の3作品すべてを収録した文庫です。著者による繊細なイラストも収録されているのでお楽しみ下さい。

昭和の文士を撮影してきた写真家、林忠彦が撮影した作家を集めた写真文集「文士の時代」(中公文庫/古書950円)は、日本文学好きなら、持っておいて欲しい一冊です。彼の作品ではバーカウンターの椅子に腰掛けている太宰治が有名ですが、織田作之助 、坂口安吾、谷崎潤一郎、三島由紀夫など大御所がズラリと登場します。この時代の作家にとって、タバコは欠かせないアイテムだったみたいで、くわえタバコ姿もきまっています。若き日の五木寛之は、流石に洒落てます。和服姿の文人も多く、やっぱかっこいいのは、吉行淳之介でした。面白いなぁ〜と思ったのは、深沢七郎です。和服でギターを爪弾いているのです。日劇ミュージックホールのギター奏者だったということを初めて知りました。全105人の作家たちの素顔を見ているだけでも楽しい一冊です。

★まことに勝手ながら7月1日(月)〜2日(火)連休いたします。よろしくお願いいたします。(レティシア書房)

♫トーク&ライブのお知らせ  

7月13日(土)18時30分より 『澤口たまみ(語り)石澤由男(ベース)ライブ』

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが再びやってきます。澤口たまみがさんが岩手のイントネーションで賢治作品を朗読。ベーシスト石澤由男が伴奏を添えます。 朗読作品は、岩手の自然を見つめ、野原や林からおはなしを貰ってきたという「鹿おどりのはじまり」他を予定。

●18時受付開始  18時30分より (2000円)ご予約ください。

                     075−212−1772(レティシア書房)

 

読書の秋に、文庫が入荷しました。

参考書で有名な旺文社は、以前文庫も出版していました。写真は夏目漱石の「明暗」。現在出版されている文庫は一冊にまとめられていますが、昭和43年発行のこの文庫は、上下2で、各巻末に詳細な作品論、作家論、年譜が付属していて、いかにも学習参考書の老舗出版社らしい作りです(1000円)。同時に、ウェルズの「タイム・マシン」(500円)、ポーの「黒猫」(300円)、O・ヘンリーの「短編集」(200円)も入りました。文学全集盛りの頃の、挿絵や詳しい解説など、その時代の香りが一杯です。

ちょっと珍しいのは、「クマのプーさん」でお馴染みのA・A・ミルン唯一の推理小説で、トリック崩しの名作「赤い館の秘密」(500円)。劇作家としてスタートしたものの、鳴かず飛ばず。1921年発表のこの長編推理小説の成功を足がかりにして、表舞台へと登場してきました。こちらも、旺文社文庫です。

え、こんな作家がこんな本書いていたの!?というのが一冊ありました。名エッセイスト山田稔の翻訳で知られるフランス文学者、ロジェ・グルニエが、C・チャップリンの映画「ライムライト」を小説化した「ライムライト」(早川文庫500円)で、映画とそのシナリオから小説にしたものです。後年、グルニエは「マジックパレス」で1930年代の映画界を背景にした小説を書いていますから、その先駆的作品なのかもしれません。

最後は、抱腹絶倒の一冊。赤瀬川原平、ねじめ正一、南伸坊の対談「こいつらが日本語をダメにした」(筑摩文庫350円)。例えば「どんぶり勘定」という言葉をめぐる対談と写真を見たら吹出します。どんぶりに目一杯の硬貨を入れた写真。その下のキャプションには500円硬貨なら何枚、100円硬貨なら何枚と書いてあります。みんな、ひまか?と言いたくなりますが、お三方はいたってマジメです。あるいは、『「足留めを食う」って言葉があるけど足留めというものはどういうもんですか。やっぱり食べられるもんでしょうかね。』って、そりゃないでしょ。

文庫も探して頂くと、面白いものが見つかります。

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書店員は、新刊、古書問わず筑摩書房刊行の「ちくま文庫」が好きです。昔、文庫担当だった時などずら〜っと並べて自己満足に浸っていました。でも、文庫にしては1000円以上するのもざらにあり、思っていた程売れませんでした。今でも大型新刊書店の文庫棚を見ると、「ちくま文庫」は、やはり別扱いです。「岩波文庫」の横あたりというのが定位置です。もちろん、文庫なんで、元々ハードカバーの本があったものが多いのですが、その文庫化のセンスが、他の追随を許しません。

古書なら比較的安く買えます。私もせっせと集め、せっせと読みました。小川洋子「沈黙博物館」(350円)、橋本治「S&Gグレイテスト・ヒッツ+1」(300円)など小説にも良い作品がありますが、ここの文庫の真髄はノンフィクションでしょう。

近代ナリコ編集、文庫オリジナルの「女性のエッセイアンソロジーFOR LADIES BY LADIES」(600円)は、安井かずみ、鈴木いずみ、桐島洋子、向田邦子、岡崎京子、矢川澄子等29人のエッセイを集めたアンソロジー。先ず、この人選がいいし、目次が凝っています。各著者の顔写真とエッセイのタイトルがすっきりとレイアウトされていて、写真を見て、気に入った表情の女性の項目を読んでいくのも楽しい。よくライブを聴きにいった安田南の硬派な文章も好きでしたが、へぇ〜この人こんな文章書くんだと思ったのが「小森のおばちゃま」こと映画評論家小森和子。

「いまでも目を閉じると、その光景がはっきりとまぶたに浮かぶ。…………まだ空には明るさの残る夕暮れ、その中にけむるグリーンの光。それは夢のように美しいけれど、同時にたまらなく淋しさを感じさせる色だった……。」

これ、彼女の3歳のころの記憶らしい。そして、語られる彼女の生い立ち。なんか幸田文の本を読んでいるみたいでした。で、彼女のエッセイのタイトルが「小さな恋のメロディー」。定年間近の50代後半男性諸氏が、高校時代に映画館で号泣した(私です)、あの名作映画のタイトル!気に入りました。

どのエッセイも、個性的です。こういう文庫から、お好きな作家を見つけてゆくのもありですね。『「男はくさいくさい」といつも言っていた』という文章を書いた平野レミの「ド・レミ前奏曲」はもう抱腹絶倒です。しかし、まぁ、なんてものを握ってたん?彼女は!!

本の最後に出版社からのこんな文章が載っていました

「今回収録作品の執筆者のうち、安田南さんとご連絡がとれませんでした。ご本人もしくはご存知の方のご一報をお待ちしております。」

本が出たのが2003年。その6年後の2009年病で彼女はこの世を去りました。

 

 

 

 

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小学校時代の私は「Tちゃん、Tちゃん」と、同級生女子の愛玩動物として甘美な日々でした。それが、中学、高校と男子校に行ってしまったばっかりに、男、男、男。これは、もう青春残酷物語というか、暗澹たる青春というか、二度と戻りたくない6年間です。その、暗〜い毎日、面白くない時間を忘れさせてくれたのが創元推理文庫でした。アガサ・クリスティー、エラリー・クイン、クロフツ等の本格推理、チャンドラー、ハメットらのハードボイルドものを乱読しました。

先日、その創元推理文庫が入ってきました。もちろん、私が愛読していた時の作家は見当たりません。でも、読んでみたいな〜と思わせる作品ばかりでした。ジョン・ソール「殉教者聖ペテロの会」(400円)。牧師が体験する淫らな会??。そして始まる女性徒の相次ぐ自殺、モダンホラーの始まりです。この作家は、あと一冊「風がふくとき」(200円)というサイコスリラーも置いています。こちらは、<水子>のお話。

刑事ものでは、R・D・ウィングフィールド「クリスマスのフロスト」(200円)が、仕事中毒にして、下品極まりないフロスト警部のハチャメチャな活躍を描く一冊。創元といえば、SFですが、「ブレードランナー」のフィリップ・K・ディックの「火星のタイムスリップ」(500円)もあります。

他にもいろんな文庫が格安で入ってきました。ギュンター・グラスの「ブリキの太鼓」(全3巻/500円)とか、早川版の「華麗なるギャッビー」(表紙が美しかったロバート・レッドフォード)200円とか、脈絡なく並んでおりますので連休の読書タイムにぜひ。

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