「人声天語」、これ「天声人語」の間違いではありません。書評、エッセイで多くの著書を残した坪内祐三が、2003年から続いた「文藝春秋」の長寿連載のエッセイで、2015年〜2020年間の中からチョイスしたものが「最後の人声天語」(文春新書/古書500円)です。

著者は、ご存知のように本についての著作を数多く残しています。本書でも、本について書かれたものが多いのですが、それ以外にも愛して止まなかった洋楽、名画座、大相撲、古い佇まいを残す街並みなどについて、コラムとしてまとめたものが入っています。中には、あれ?これ今書いたの?と錯覚してしまう文章もあります。例えば、2016年10月号に載った「この夏ひとつの時代が終わった」です。

2015年が戦後70年の節目で話題になりましたが、2016年、天皇の生前退位が決まり、戦後71年目で平成が終わったのです。さらに平成を駆け抜けたスマップの解散、リオオリンピックでメダルの数が前回より増えたとマスコミが大騒ぎするなか、著者はこう締めくくります。

「そして、次はいよいよ東京だ。だが果たして四年後、新しい時代にオリンピックが開かれるのだろうか。私はリアリティを持ってその姿を想像することが出来ない。」

6年前の文章ですから、もちろんコロナなんて存在していません。コロナがなくてもオリンピックなど時代遅れではなかったのか。偶然とは言え今の状況を予言してるようで驚きます。

また2017年12月号では、「私は殆ど棄権をしたことがない」と必ず選挙には出向くことから始まって、「昔は面白い泡沫候補がいて、主にそういう人に入れた。アントニオ猪木が党首をつとめたスポーツ平和党に一票を投じ、友人たちから選挙を馬鹿にしていると批判されたが、同党は最後の最後で比例区をとり私の一票は超有力票となったこともある。」

そして「私は池田勇人以降の総理大臣を知っているが、その中で安倍晋三は最悪だと思う。いや、もう一人いた。麻生太郎。何しろその二人が今の内閣のツートップなのだから。だが自民党以上に嫌いなのが希望の党だ(安倍晋三よりもずっと小池百合子の方が嫌い)」これには思わず、いいね!と言いたくなりました。

肩の凝らない読み物として、どこから読んでも面白い一冊です。中野翠が各コラムに書いているイラストも楽しい。