ギャラリーは本日より、かじかわゆりさんの日本画展が始まりました。「ある程度のかたちを保って。」と名付けられた作品展です。具体的な形あるものと、形のないものの間を行き来するような絵画が並んでいます。
彼方を見つめて佇む女性を描いた作品は、鉛筆の線を残しながら岩絵の具で着彩されています。生きている人なのか、幻なのか、昨日林の中で出会った人なのか、遠い昔の思い出の中の人なのか、わからないけれどその姿に見入ってしまいました。鉛筆の線の動きが魅力的です。
すこし黄味がかった抽象的な作品は、布地に染めたように柔らかい。偶然現れた形のように揺らいでいます。そういえば、かじかわさんの作品はすべて、ひそやかな動きを感じます。形があったものがふわりと流れて、香りだけが残ったような……。風に舞う葉っぱにサッと射し込んだ鮮やかな桃色は、もしかしたらさっきまで咲いていた花が姿を変えたものかもしれません。
かじかわさんは京都市立芸術大学大学院を卒業して、仕事をしながら日本画を描き続けています。白地に少ない色数で描かれた世界はとても新鮮です。静かで軽やかな日本画が、本屋の空気にとても馴染んで素敵な展覧会になりました。ぜひお立ち寄りくださいませ。(女房)
*「ある程度のかたちを保って。」かじかわゆり個展は、4月20日(水)〜5月1日(日)
13:00〜19:00(最終日18:00まで)月火定休
1992年フランスに生まれ、多摩美術大学を卒業後した堀江栞と、始めて出会ったのは多和田葉子著「献灯使」の表紙でした。飛べない鳥ハシビロコウを真正面から捉えた絵に、な、なんだ!これは??と驚き、慄いた記憶があります。その次に出会ったのは、平松洋子著「父のビスコ」の表紙でした。変わった画風だなぁと思っていたところ、「堀江栞 声よりも近い位置」(小学館/新刊3300円)という初の画集が出ました。
彼女が引き寄せられるのは「傷つけられ、痛みを負い、哀しさや辛さを抱えた存在」。それは動物であったり、石や人形であったりします。やがて、その対象が人間へと広がります。本作には、デビューから最新作まで90点を収録しています。
神奈川県立近代美術館館長の水沢勉氏も、やはり「献灯使」の表紙の絵に驚いた一人で、本画集の中で、「ハシビロコウを真正面から、周囲の情景をいっさい描き込まずに、まるで撮影スタジオにその鳥がいるかのように描いている。そして、その大きな嘴が、出版されたばかりの本を手にしたとき、まるでもう一つの不気味な顔を表した、凸凹状態のひどく傷んだ仮面のようにみえて」と表現しています。
やはりハシビロコウの顔のアップを描いた「おまえに話つづけた」も、こちらの心の中を射抜くようなハシビロコウの強靭な視線にたじろぎながらも、見入ってしまいました。
人物に表現対象を広げた堀江が見つめた顔の表情、視線の訴える先には、人の持つ儚さと無常感が漂っているようにも見受けられます。
日曜美術館の司会を務める作家の小野正嗣は、本書の中で堀江の描く人物を力強く肯定的に表現します。
「堀江栞の描く人物たちをーだからかれらとともにある僕たちをもー包み込み、待ち構えているのは暗く冷たく恐ろしいものであるかもしれない。しかし気づいたはずだ。絵に描かれている者たちのまなざしに怯えはない。迷いもない。それがどこまでも深く揺るぎないのは、かれらが描き手を心から信じているからだ。たとえ周りの人間や社会や歴史が裏切ったとしても、この描き手だけは、自分たちを決して裏切ることなく、自分たちが『ここに在ること』を肯定し続けてくれる。そう確信しているからだ。それは僕たちの確信でもある。」
ぜひ、実物を拝見したい画家です。
日本画家さわらぎさわさんの個展「絵から飛び出た楽しい仲間たち」が始まりました。レティシア書房では、2018年の秋以来2回目の個展になります。
さわらぎさんの絵は、可愛らしい動物や少女がテーマですが、日本画のせいでしょうか、独特の深い奥行きがあります。「ナルニア物語」にインスパイアされて描いた絵には、ライオンの思慮深い眼差しがこちらに向けられていて、壮大な物語に思いを馳せました。
「絵から飛び出た仲間たち」というタイトル通り、描かれた絵からそれぞれ可愛いキャラクターが、フェルトの人形になり絵とともに並んでいます。フェルトを手掛けるようになってからそれほど年月が経っていないはずですが、絵から飛び出してきたシマウマや牛やウサギや少女など、みんな楽しそうに踊ったり歌ったりしています。作家が心から楽しんで作っておられるのが伝わってきて、表現方法が変わってもセンスの良さが光ります。
今回、描かれた絵や立体をもとに小さな絵本に仕立てて500円で販売されていますので、こちらも手にとってご覧くださいませ。
日に日に秋が深まってまいりました。やわらかで美しい日本画に親しんでいただければ幸いです。(女房)
★さわらぎさわ「絵から飛び出た楽しい仲間たち」展は、11月4日(水)〜15日(日)まで 月火定休日 13:00〜19:00
日本画家さわらぎさわさんの、柔らかな日差しのような絵が、小さな本屋の壁に並びました。しっとりと秋の落ち着いた雰囲気が漂います。
「スカンクの旅」(写真上)「夜空を見上げて」という作品の前で、物語が広がりそうで楽しいとお話ししていたら、実は絵本を作るつもりだったということでした。どんな世界に連れて行ってもらえるのか、続きを見てみたいものです。日本画の絵具で描かれた絵は、可愛いモチーフを扱っていても奥行きがあります。もしかしたら、この絵の深さは印刷では上手くでないかもしれません。完成した絵本も見たいけど、原画の素晴らしさを味わっていただいたいと思います。ゆっくりほっこりした時間が過ぎていきます。
子どもを囲んで、きりん、シマウマ、ゾウ、の顔がある「ZOO」(写真左)、子どもと花が揺れている「pure pure pure」など、さらりと描かれた作品にも、優しくふく風を感じます。
今回は、立体作品も4体飾られました。ゾウに乗った少年・鳥を抱いた少女・馬に乗ってかける少女・広げた両手にうりぼうを乗せた少女。子どもたちを、見ているだけで幸せな気持ちになります。遊んで作られた分だけ、作家の優しくてちょっとヤンチャな本音が強くでているのではないかと思いました。
我々が、本屋の片側の壁をギャラリースペースにしたのは、本を読もうかなと店に来られた方が、ホンモノの絵(もちろん版画や立体もふくめて)に出会って楽しんでもらえたらいいな〜と思ったからでした。キラリとした日本画独特の輝きは、本当に素敵です。気軽に覗いてみて下さい。(女房)
★さわらぎさわ「愛と子どもの世界」展は11月6日(火)〜18日(日)