作家というのは、こんな思考をするのかと感心した一節。

「あたまを雲の上にだし」で始まる「富士の山」の後半の歌詞「四方の山を見下ろして」に違和感を持ち、

「富士山は、別に他の山を見下ろしているわけではない、ただそこにあるだけだろう、と思えてならなかったのです。そんなふうな擬人化は、富士山の無理やりな矮小化に思え、山を、自然を冒涜しているように感じていたのでした。」

と、語るのは、当店でも人気作家の梨木香歩です。師岡カリーマ・エルサムニーという文筆家と彼女の往復書簡集「私たちの星で」(岩波書店1100円)に登場します。師岡は、日本人の父とエジプト人の母の間に生まれたイスラム系日本人です。彼女が世界で感じたイスラムのことに、梨木が対応するスタイルの書簡集です。

二人は世界情勢やら、人種差別のことを語っているのではなく、日常の些細な事、日々の暮らしの中から浮き上がってきた事などを、ぜひ聴いてくださいみたいな、嬉しそうな感覚で話し合います。もちろん、妙なナショナリズムが徘徊する、今のこの国へは厳しい視線をお持ちですが、肩は全く凝りません。

書簡を読みながら、梨木が異文化に対する態度を書いていた「春になったら苺を摘みに」にあった文章「理解はできないが受け入れる。ということを、観念上だけのものにしない、ということ」を思いだしました。

この書簡の中でも、「違う文化を拒絶せず黙って受け入れた経験を、たくさん持てば持つほど、ひとの『寛容』はどんどん鍛え抜かれていき、そのことがきっと、私たちを『同じ』家族にする、という観測は、あまりにもナイーブな楽観主義でしょうか」と書いています。

20通の書簡を読んで、多くの異なった文化で構成されている世界を見る目に柔軟さが増せばいいと思いました。

さて、件の「富士の山」をどうせ、擬人化するなら、こうだと変えてきました。

「あたまを雲の 上に出し 四方の山を 見守りて かみなりさまは 下で鳴る 富士は日本晴れの山」

彼女、大声でこれを歌っていたみたいです。なるほど、こっちの方がスケール大きいですね。

 

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