「本の雑誌」に吉野が連載していた書評というか、本を紹介するコミック「お父さんは時代小説が大好き」「お母さんは『赤毛のアン』が大好き」「弟の家には本棚がない」「本を読む兄、読まぬ兄」「犬は本より電信柱が大好き」「神様は本を読まない」、悪魔が本とやってくる」「天使は本棚に住んでいる」全8冊のうち、「弟の家には本棚がない」(古書600円)、「本を読む兄、読まぬ兄」(古書600円)、「悪魔が本とやってくる」(800円)、「犬は本より電信柱が大好き」(古書800円)を入荷しました。

まずは「悪魔が本とやってくる」がオススメです。「シンデレラ」を読んでいる少女のそばに来た悪魔が、結婚したシンデレラと王子の将来についてこう囁きます。

「だって苦労知らずのバカ王子と苦労人の美少女だよ うまくいくわけないじゃん」「きっと浮気するね」と言い残して消えていきます。この最初の一編だけで、笑えてきますよね。このイントロにハマったら、本編もどんどんいきましょう。

本編の主人公は、ウエルッシュ・コーギー犬を一匹飼っている著者です。毎回、読んだ本についての読書体験がユーモアたっぷりに描かれています。幅広い本が紹介されています。カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」、穂村弘「君がいない夜のごはん」、アシモフ「コンプリート・ロボット」などなど、ジャンルクロスオーバーしていくところがミソです。阿佐田哲也「Aクラス麻雀」まで遡上に上がっているのですから。

そして、そこに紹介されている本を読みたくなるかと言えば、まぁそうでもないところが良いのです。本筋とは全く無関係なことばかりの章も沢山あります。本を肴にして、ほのぼのとした味わいのあるコミックが展開し、おっ、この本で、こうくるか??というヒネリを楽しんでください。

「本を読む兄、読まぬ兄」の「他人の本棚」という章で、堀江敏幸「雪沼とその周辺」、ポール・オースター「トゥルー・ストーリーズ」、ステーブン・ミルハウザー「マーティン・ドレスラーの夢」の3冊が登場します。いかにも、という本であることは、読書好きの貴方ならお分かりでしょう。主人公の独白はこうです。

「自分が人に見せるなら見栄を張ってミルハウザーとかオースターとか堀江さんとか並べちゃうかな でもそれじゃ芸が無いよな きれいすぎる わざと読んでもいないベストセラーでも入れるか んーあざとすぎる じゃあ誰も知らなそうな渋い本を」

その一方で、知らなかった事実をゲットしたりもできます。ベケットの戯曲「ゴドーを待ちながら」がアメリカで初上演された時のこと。あまりに退屈で、理解不能だと客がみんな帰ってしまったのですが、二人だけ最後まで観た客がいたのです。その二人とは、なんとウィリアム・サローヤンとテネシー・ウイリアムズだったそうです。

「必読!」とか「癒されます」と言った陳腐な推薦の言葉は全く登場しません。なんだか読書がさらに楽しみになる不思議な4冊です。それぞれの本のタイトルが意味深のようでもあり、そうでもないようでもあり…….。

 

哲学者、野矢茂樹の「そっとページをめくる」(岩波書店/古書1200円)は、個性的な書評本です。サブタイトルに「読むことと考えること」と書かれている通り、単に紹介する本の羅列には終わってはいません。前半は本の紹介、後半はよりディープな「読む」という体験を掘り下げていきます。

私がこの本に興味を持ったのは、最初に三谷尚澄の「哲学してもいいですか?」(ナカニシヤ出版/古書1900円)が取り上げられていたからでした。これは、文部省あたりが推し進める、すぐに社会に貢献できる技術研究重視と、文学部系学部不要論の現状へ異議申し立ての一冊です。高度な職業的技能が身につく学部は、いい学部というのがお役人の見解です。

「文部省は学生を鋳型にはめようとしている。そしてあなたの学部ではどんな鋳型を提供しているのか、と問うてくる。」と、野矢は書きます。しかし「哲学は鋳型そのものを考え直し、論じようとする。なじんだ考え方に新たな光を当て、他の考え方の可能性を探ろうとする。だから、哲学は学生を鋳型にはめる教育にはなりえないし、まさにそこにこそ、哲学教育の生命線がある。」と結んでいます。

そして、この本を「あなたの代わりに考えて、上から目線で決めつけたりはしない。一歩ずつ、読者とともに、次考えようとする」と評価しています。こういう本がきちんと取り上げられています。そして、何よりも注目すべきは、著者の「そっとページをめくる」の書評を自ら書いているのです。自分の本の書評なんて前代未聞ですが、面白い。

後半では、宮沢賢治の「土神ときつね」を取り上げ、「相貌分析」という読み方を提案してくれます。まず、賢治の作品の原文が載っています。「女の樺の木」と仲の良い「きつね」に嫉妬した「土神」が、「きつね」を何度も打ち付けて殺してしまうお話です。

「その泪は雨のように狐に降り狐はいよいよ首をぐんにゃりしてうすら笑ったやうになって死んでいたのです。」

という不可思議な文章で幕を閉じるファンタジーです。この物語を、野矢は「相貌分析」という手法で読み解いていきます。私も賢治のこの物語を読んだ時、本当に「土神」は嫉妬に狂っただけの愚かな人物だったのか、「きつね」はウソのない、気のいい人物なのか、様々な疑問を持ったのですが、この手法で分析されると、成る程なぁ〜と納得しました、

帯に「本を味わう指南書」と書かれています。時には、こんな本で、頭の中のギアチェンジされてはどうでしょうか。

1979年兵庫県生まれ、同志社大学文学部英文科卒業の作家松田青子は、劇団「ヨーロッパ企画」にスタッフ、俳優として参加します。恵文社一乗寺店でアルバイトをしていたときに、作家の福永信と知り合い、ブログに発表していた文章を福永に注目されて、同人誌に寄稿して、作家活動へ入っていきます。私は読んでいませんが、2013年発表の「スタッキング可能」で一躍注目されました。

彼女の小説に初めて接したのは、文芸雑誌に記載されていた短編で、タイトルも中身も忘れましたが、オフビートな、あるいは不思議な文体と物語の進行が心に焼き付きました。その後の超短編集「ワイルドフラワーの見えない一年」(河出書房新社/古書950円)は、これ小説??みたいなオンパレード。でも、面白いのです。

「You Are Not What You Eat」。横文字のタイトルなのですが、これ、主人公がひたすら吐きまくるだけのお話。「吐きはじめたのは、朝の四時頃のことだった。」で始まります。「わたしはさっさとつるつると光る白い便器に屈み込む。案の上、体の真ん中あたりからすぐに込みあげてくるものがある。はいはいとわたしは口を開けた。」

「はいはいとわたしは口を開けた。」なんてなかなか書けません。ここから、ひたすら吐くことを観察していき、「M&M」チョコレートらしきものが口から出てきます。「わたしはM&Mを食べた覚えがなかった」と主人公が不思議に思うあたりから、どんどん話が逸脱していきます。食事の前には読まない方がいいかもしれませんが、引き込まれますよ。

彼女の読書体験と映画体験を綴った「読めよ、さらば憂いなし」(河出書房新社/古書1350円)は、「痛快」な一冊です。訳知り顔のオヤジの書評集なんぞは読まなくてもいいですが、これは面白い。ワハハ、と笑ったり、そうだそうだと相づち打ってください。雑誌「フィガロ」で、「現代の女性にエールを送る3冊」として推薦しているのが、「ヒロインズ」、「説教したがる男たち」、「マリーアントワネットの日記」(これ吉川トリコのコミックです)ですから、この書評集で取り上げている本も推して知るべしです。

ちなみに彼女のペンネームですが、本人が松田聖子にあこがれていて、読者が「まつだ せいこ」と読み間違えたら面白いと考えたためと、Wikipediaに出ていました。

 

 ♫トーク&ライブ決定 7月13日(土)澤口たまみ(かたり)石澤由男(ベース)

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが決定。ゆったり、そして豊かな時間の流れた前回同様、今回も期待度大です。賢治の言葉とウッドベースの響きが心地よく胸に伝わってくること間違いなしです。

2005年〜2014年、読売新聞に連載されていた書評をまとめた「小泉今日子/書評集」(中央公論新社/古書900円)は、彼女のセンスの良さが溢れています。

書評デビューは、「女による女のためのR-18文学賞」受賞の「ねむりひめ」を収録した吉川トリコの「しゃぼん」というセレクトで、お〜さすが、キョンキョンです。その次が女優沢村貞子のマネージャーだった山崎洋子が書いた「沢村貞子という人」へとジャンプします。

そして、「何故だか太宰治の『人間失格』を思い出してしまった。」で始まるのが白岩玄「野ブタ。をプロデュース」です。「この小説には注意が必要だ。」と書いています。

「楽しい青春小説のようだが、その楽しさ自体が着ぐるみショーで、閉じた夢の中にみんなが憧れる人気者の深い孤独が隠されている。油断していると案外残酷な結末に胸がぎゅっと締め付けられる。人生は過酷なのだ。」

三崎亜記「となり町戦争」では「戦争の怖さは、人間から感情を奪ってしまうことでもあるのだろう。この本を読んで初めて、自分の身の丈で戦争のおそろしさを考えることが出来たような気がする。」

ここで取り上げられているのは、アカデミックな文芸評論には掲載されない、一般的な作品ばかりですが、キョンキョンは、読書を通じて、ものの見事に自分を語っていきます。短い書評ながら、彼女の考え方、生き方が伝わってきます。

「生まれて初めて教科書や参考書以外の本にラインマーカーを引きまくった。私の未来。新しい世界、新しい生き方への受験勉強をしているみたいで楽しかった。」

これ、上野千鶴子と湯山玲子の「快楽上等」の書評の最後の文章です。

現在開催中の「ミシマ社と京都の本屋さん」に出品されている益田ミリさんの「ほしいものはなんですか?」もこの書評集で取り上げらています。

デビュー当時(このシングル発売当時?)、レコード業界のお祭りで一度お会いしたことがありますが、好奇心一杯の瞳が印象的でした。

読書を通して、彼女が思ったこと、考えたことが語られる傑作書評、いや彼女の世界観を発信した本だと思いました。

 

「ミシマ社と京都の本屋さん」展は明日まで!!壁一杯に貼り出した京都の本屋さんマッ プも完成間近ですよ。

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書評と呼ばれる本は、もう数えきれないくらい出版されていますが、どんどんページをめくりたくなる本に出会うのは難しいものです。映画評論もそうですが、ストーリーの追っかけだけに終始したり、技法の解説に明け暮れる、あるいは重箱の隅をつついた様な知識の羅列的書評集は、退屈してきますね。

最初に、この書評集は信頼できるなぁ〜と思ったのは、池澤夏樹の「読書癖」(みすず書房)です。91年に第一集が出され、99年には第四集が刊行されました。長ったらしい批評ではなく、簡潔な文章で様々な本が論じられています。書評というよりはエッセイです。え、これだけ??という禁欲的態度が、逆に読んでみようかと思わせます。(店頭に、第一集と二集があります。各900円)

作家が書いた書評は、その道のプロだけあって巧みですが、俳優の山崎努の「柔らかな犀の角」(文藝春秋900円)は、この名優の、ちょっとシニカルな語り口に乗せられる本です。山崎は、暫く前に取り上げた池澤夏樹責任編集の「世界文学全集」にも目をつけていて、全巻予約。ここでは、やはり「オン・ザ・ロード」を取り上げています。そして、作家、池澤の資質をこう言います。

「池澤の表現には隠し立てがない。このように、読んでいないものは読んでいないとはっきり言ってしまう。わからないものはわからない。わかったつもりで間違ったと気づいたときは、間違ってたな、ごめん、と訂正する。」

山崎書評も直球ストレート勝負で、明瞭です。映画デビューの黒澤明の「天国と地獄」の犯人役に始まって、最近の「クライマーズ・ハイ」の独裁的新聞社主まで変幻自在な演技を楽しんできたのと同様に楽しめる書評集です。(しかし、忙しいのに、よくこれだけ読んでますね)

最近の作家では、桜庭一樹の書評集がお薦めです。くだけた言い回しで、乱読につぐ乱読の読書生活を語ります。「本のおかわりもう一冊」(東京創元社950円)に、こんなフレーズがありました

「映画評だと、沢木耕太郎と四方田犬彦がやっぱり好きだな…….。だいぶんエモーショナルで、ちょっとだけ偏屈で、風の向くままで、それでいてけっして騙されない。男の子のこういうところにはあこがれのきもちが永遠にあるなぁ」

いや、同感です。桜庭の小説は、ちょっと濃すぎて敬遠していましたが、書評集は面白いですね。文庫版「少年になり、本を買うのだ」(創元ライブラリー450円)もあります。笑えて、成る程と納得し、読んでみようと本屋に行く気分にさせます。本年度、モスクワ映画祭でグランプリ受賞した映画「私の男」の原作。ちょっと、読んでみようかな。

 

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