「この広い世界で、音を見つけたのはいつだったのだろう。この広い世界で音を見つけたのは誰だったのだろう。ぴんと張り伸ばされた弦を指で最初に弾いたのは誰?張り詰めた皮を撥で叩いたのは誰?草の茎に息を吹き込んで、空気を笑わせたのは誰?」

という中沢けいの「誰が見つけたの」という文章の前後に、有元利夫の作品が並んでいます。有元利夫は、1946年生まれ、39歳で亡くなった夭折の画家です。リコーダーを吹く女性を描いた「サラバンド」、紙風船のようなものが飛び交う中で、まるで指揮棒を振り上げたようなスタイルの女性を描いた「音楽の愉しみ」、赤い靴を履いて体操をしているような「夜の歌」など、有元の世界観を代表する作品を楽しめるのが「七つの音」(講談社/古書/絶版2400円)です。

中沢の文章が、そのまま有元の作品の説明になっているわけではありません。有元作品の世界に流れる音の存在が、中沢のフィルターを通して文章に仕上げられた本です。

この本のタイトル「七つの音」について、妻、有元容子は「絵のタイトルにもたくさんつけるほど、本人も音にすごくこだわりがあったから。と中沢の対談で語っています。確かに、「室内楽」「楽典」「音楽」「古曲」等、音楽をイメージさせるようなタイトルがありますが、それぞれの絵が、楽曲そのものを表現しているのではなく、一つ一つの音に込められた大切な何かを語っているように思えます。

私は「ささやかな時間」(写真右)という絵が印象に残りました。リコーダを構えた女性が赤いテーブルクロスの机の前に坐って、どこか遠くを見つめています。音が空中に溢れ出す前の、静かな一時。見ていると心が落ち着きます。

中沢は「「誰が見つけたの」の最後をこう結んでいます

「この広い世界で、魂に響く音を最初に発見したのはいつだったのだろう。それから今日まで、どれくらいの時が過ぎたのだろう。時が過ぎる間に、どれくらいたくさんの音が発見されたり、作られたしたのだろう。」

有元の絵の中から、あなたの魂に響く音を探してみてはいかがですか。

 

★レティシア書房「夏の一箱古本市」は、8月8日(水)〜19日(日)開催

ただ今ギャラリーで開催中「災害で消えた小さな命」(複製画)展の主宰者うささんが、代表をつとめる劇団Sol.星の花による「Voice in the Wind その声がきこえますか」が、京都府民ホールアルティ(上京区烏丸一条下る)で上演中。お問い合わせは劇団Sol.星の花京都公演実行委員会まで。7月10日(火)〜12日(木)

 


 

 


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日本画家、有元利夫(1946〜1985)の素描と日記を一緒にした「もうひとつの空」(新潮社2300円)が入ってきました。彼は、女神を思わせる人物像をモチーフとした作品で有名な画家です。日記は、創作に苦悩し、不安に苛まれ、模索してゆく姿が書かれていて、1976年から急逝する前年の84年までが収録されています。そして、伸びやかで親しみのある素描が、数多く収められています。

「犬がいる。来た時はガリガリだったが、今は少しふとった。一日中ねている。食べる権利とねる権利を主張している。」という文章で始まる横に、その愛犬の素描を何点か見ることができます。単純に愛くるしいという言葉では括れない、生き物の持つ切なさまで描かれていました。

静かで、重厚な油彩画とはまた違う魅力にあふれた、今にも動き出しそうな躍動感のあるヌードデッサンには、生きる力に満ちています。そして、79年1月2日に書かれた初心を表す日記にこう書かれています。

「大晦日に買ったウォータ−マンの美しい万年筆で書いている。ガムシャラにやってみる一年ではあると思う。1980年迄が、僕のガムシャラ年だと思う。ガムシャラながらも両目をしっかり開けて、見るべきものを見うしなうことなく、すすもう」という文書の横に描かれている手のデッサンは、有元の初心を失わないという表れでしょうか。

また、バロック音楽ファンの彼は、「朝はバロック」なんて文章を書いて、そのキザさかげんに驚き、こう書いています。

「これを文字にした時のこのキザさ、ハナもちならなさはどうでしょう。アラン・ドロンか、草刈正雄ならいざ知らず、ここには顔写真がないからいいものの、私の顔を知っている人なら、少なくとも吹き出すにちがいありません。」

つまらん事書いてしもたぁ〜と弁解する辺りが可愛いです。素朴だけれども、詩的な叙情性に溢れ、美しい音楽が何処からか聞こえてきそうな作品を作り続けてきた有元ですが、85年2月「羽が生えてきた」という言葉を残し、38歳でこの世を去りました。

彼は、妻で陶芸家の容子さんの寝顔の、こんな素敵な素描も残しています。

★臨時休業のお知らせ 3月15日(火)休業いたします

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