2002年、作家の辺見じゅんが設立した出版社、幻戯書房は、日本文学を愛する人にとっては、渋いけれども、愛すべき本を出版しています。串田孫一、久世光彦、常盤新平、野坂昭如、小島信夫、北園克衛等々、放っとけない作家の本を刊行しています。

今回、その中でも人気の高い二人の作家の作品が入荷しました。一点は、上林暁「ツェッペリン飛行船と黙想」(2800円)です。これは、新たに発見された、上林の初期から晩年に至る未発表原稿を含む、上林全集未収録125編を一冊にまとめ上げた作品です。

本のタイトル「ツェッペリン飛行船と黙想」は、昭和4年、世界一周の旅の途中に日本に立ち寄った巨大な飛行船ツェッペリン号の偉容にインスパイアされて書かれた詩です。上林と言えば、私小説の第一人者ですが、この詩を目にすると、えっ?と思いたくなるような自由な詩です。或は、しょっちゅう使用する赤電話を「あの赤い色がまたいい。目立って、可愛い」なんてチャーミングな表現をしている事にもへぇ〜と、上林への興味がさらに湧いてきます。

もう一人は木山捷平です。岡山出身の詩人であり、小説家、特に短編小説に優れたものを多く書いた小説家です。二冊出版されていて、一冊は「暢気な電報」(2800円)、もう一冊は「行列の尻っ尾」(2800円)です。前者は戦後、様々な雑誌に発表した短篇で、単行本としても、全集にも収録されなかったものばかりです。後者は、未刊行の随筆89編を集めたものです。個人的には、木山は随筆の名手だと思っています。特に、お酒にからむ話は面白い。「酒のめば楽し」というエッセイでは、お酒の飲めない昭和天皇を茶化しまくっています。大酒飲みの天皇という設定で、べろべろの天皇が、時の総理大臣東条英機と架空の対談をするのですが、抱腹絶倒です。

或は、還暦を目前にして、もうここまで来れば、儲けもの。後の人生はオマケみたいなものと考え、

「人生なんてそんなにおもしろいところでもなかったというのが私の六十年の実感だが、行きの汽車で見なかったところが相当沢山あるので、帰りの汽車では勲章を胸にぶらさげて、ゆっくり見物することにしよう。」

と締めくくっています。

さらに、同社は2012年、小林信彦50周年記念出版×幻戯書房10周年企画として小林信彦の「四重奏カルテット」(1400円)も出版しました。60年代、翻訳推理小説雑誌が盛り上がった頃を背景とした中編小説を集めた傑作です。 

 

★ライブ決定 世田谷ピンポンズ「COMEBACK FOLK」

        5月25日(水)19時30分  1500円(予約受付中)

岡山出身の小説家で、「耳学問」等でファンの多い木山捷平の紀行文学「日本の旅あちこち」(永田書房・初版3000円)が、今回、講談社文芸文庫から「新編 日本の旅あちこち」というタイトルで文庫化されました。

木山が訪れた北海道、東北、上毛・武蔵、甲斐、伊豆・三河、大和・紀伊、三陽、そして九州の各地を描いた紀行文学の優れた一冊です。まるでNHKの旅のドキュメントを読んでいるかのような的確な表現は、作家と一緒にその街を歩きまわっている錯覚に陥ります。今どき、こんな書き方をする人はないだろうと思うのは、その土地の人と交わした問答をそのまま、載せている部分です。

例えば、北海道の美国町の役場の人との問答はこんな感じ。

「私。シャコタンというのはもともとアイヌ語なのでしょうか。

係長。アイヌ語です。シャコは夏、コタンには部落とか村とかいう意味があります」

なんて具合に話が進みます。

木山が、この紀行文を書き出したのは昭和30年代後半。彼は晩年に差し掛かっていました。大げさな文章や、華美な表現は全くありませんが、暮れ行く街の淋しさ、穏やかな温泉の暮しなどが綴られて、列島改造で国土も人もズタズタにされてしまう前の、この国の美しかった断面を見ることができます。

ハードカバー版の表紙をめくると、トレンチコートに傘を持った、ニコニコ顔の作家自身のイラストが載っています。きっと、こんな楽しそうな雰囲気で日本全国を旅してたのでしょうね。

文庫本の解説を岡崎武志さんが書いています。

「元版の単行本は今や希少で、古書通販サイト『日本の古本屋』でも二冊しかヒットしない。古書価は五千円と八千円とけっこうな値段。」

でも、当店では3000円です。(カバー一部破損しています)ただし、文庫化された方には未収録の旅の随筆も収録されているので、お買い得かもしれません。

 

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