熊本にある橙書店店主田尻久美子さんの新しい本「橙書店にて」(晶文社/古書1300円)は、著者の優しさが随所に表れていて、とても心地よい後味が残る一冊です。

熊本市内の路地裏にある橙書店。本屋と喫茶とギャラリーを一つにしたその店に寄り添うお客さんたちを、田尻さんはそっと見つめています。開店当時、全てが未経験で、勢いに任せて突き進む不安な日々を救ってくれたのが、工事をしてくれた棟梁の、「やっているうちにプロになる」という言葉でした。「やっているうちにプロになるから大丈夫。この言葉は、店をはじめたとき、お守りだった」。そして、店を営みながら文芸誌「アルテリ」を発行するまでに至りました。

知人の写真家が書架を見て、「相変わらず弱者の本ばかりおいてるね、そこがぶれないよね。」と呟いたそうです。

「私はそうだろうかと思いながら書架を眺め、意識したことはなかったけど確かに弱者だらけだな、と合点がいった。水俣病患者にハンセン病治療所入所者、戦争の無数の被害者、さまざまな理由で差別される人たち、寄る辺ない人……..よりどりみどりだ。耳をそばだてたくなるのはかそけき声で、それは人を圧しようとする大きな声よりも力強く魅力的だ。」

こういう店なので、いろんな思いの人たちが集まってきます。大雨で店が水浸しになった時、来店した人が後片付けに参加してくれたり、あるいは、熊本在住だった作家石牟礼道子さんが死去された時、彼女を知っている人も知らない人も集まってきます。

「悲しみにくれている。店が通夜会場のようだ。近しい気持ちの人と同じ空間にいたい、と思って来店されるのだろう。葬式というのは、本来そういうものかもしれない。死んだ人のためでなく、残された人たちのためにある。」

なぜこんなに人が来るのですかと尋ねられた時の、彼女の答えはこうです。「自分でもよくわからない。ありがたく巻き込まれているだけだ。」と。彼女の魅力が大きいのはいうまでもありません。ここで、朗読会を行なった村上春樹もそんな魅力に吸い寄せられた一人かもしれませんね。

「『もうすぐ満月だね』 そういうことを気にして暮らしている人が、私の周りにはわりといる、満月が近くなると、自然とそんな話をしているような人が。私もその口だ。」

“月友達”がいるなんて素敵ですね。ふと立ち止まって、月を見上げる。あ、満月、だけで嬉しくなる。田尻さん、私もその一人です。犬の散歩の時にいつもお月様を探しています。

 

予告

12月11日(水)から始まる知床在住の絵本作家あかしのぶこさんの絵本展に、知床のパン屋さん「メーメーベーカリー」からパンが届きます。シュトレンも含めて20個ほどのパンは、初日のみの販売になりますのでお見逃しなく。

出版ジャーナリスト石橋毅史が、ソウル、台北、那覇、日本で取材した本屋たち。その本屋が、実はそこに暮らす人々の自由を支えてきたことを伝える「本屋がアジアをつなぐ」(ころから/新刊1870円)は、アジアに生きる人々の今を伝える傑作ノンフィクションです。

韓国、台湾、そして香港の本屋には、社会的メッセージを発言するところが、数多く存在します。店主たちは、言論と表現の自由を守っている役割が与えられていることに自覚的です。

「韓国と台湾は、1980年代後半まで言論・表現の自由がなかった。政府が直轄する機関の検閲を受けずに本を出せるようになってから、まだ30年しか経っていない。」だからこそ、店主たちは敏感になると著者は言います。

とりわけ台湾の書店は、環境問題、人権侵害、先住民族への支援、性的マイノリティへの差別反対などに、直接的間接的に関与している書店が多いそうです。2015年、著者が訪れた台湾の小さな書店には、どこもこんな垂れ幕が下がっていました。

「反核 NomoreFukusima  不要再有下一福島」(不要再有下一福島は、もう一つの福島は必要ないの意味)

独裁政権下、監視の目を掻い潜って禁書扱いされていた本を売っていた露天商の本屋が沢山ありました。そこでは客を装った政府のスパイか、本当にその本を読みたい読者かを見極めながら本を売る、という極めて緊張した関係が続いていました。そういう人たちのおかげで、民主化されて表現の自由を獲得した今の台湾がある。その精神を小さな書店は持っているのです。

かつて台湾にあった銅羅湾書店を営んでいたリンロンチーという人物が登場します。中国政府を批判する書物を販売したために、拘束され、数ヶ月間尋問を受け、銅羅湾書店の顧客名簿を出すように要求されます。偽のPCを渡してその場を脱出したリンは、今でも「逃亡者」です。彼は、こんなことを語っています。

「本とお客を裏切ってはいけない。これだけはずっと思っていた。誰もが自由に考えを主張する権利があること、それを、自ら手渡してはいけないということを、私は本に教わった。本を買ってくれたお客さんのことも、絶対に売るわけにはいかなかった。私に勇気がなくても、それだけはしてはいけないことだった。」と。

しぶとい本屋が多い!ということを実感させてくれる一冊でした。では、日本の本屋はどうなのだ?

ということで、明日は、ヘイト本とそれを販売する本屋の状況に切り込んだ永江朗の「私は本屋が好きだった」をご紹介します。

今週は昨日の「新聞記者ドキュメンタリー」から硬派ブログの釣瓶打ちですよ〜。

 

「11の書店に聞く、お店のはじめ方・つづけ方」とサブタイトルの付いた田中佳祐著、武田信弥構成による「街灯りとしての本屋」(雷鳥社/古書1200円)は、書店紹介の本に載っている有名店はあまりなく、どの店も新鮮でした。

「『「街灯りとしての本屋」』は、本屋の歴史を語るものでもなく、未来の姿を描くものでもありません。小さな個人書店が増えているいまの時代に生成しつつある、本屋に魅せられた人々の物語を紹介するものです。」

という趣旨に沿って、様々な形態の書店と店主が紹介されています。仲良しの近所の家にお邪魔するような感じの絵本屋さん、南阿蘇鉄道の駅の待合室にある週末のみ開店する書店、子育てをしながら、シェアアトリエで絵本を専門に販売する書店等々、個性的なお店ばかり。店主の写真も魅力的です。

保護猫が店内を闊歩するCat’sMelow Bookstoreも登場します。店主の安村さんが書かれた「夢の猫本屋ができるまで」はこのブログでも紹介しました。

書店を経営しながら、本の制作から流通、販売まで一人でこなしているH.A.Bookstoreを営む松井佑輔さんは、日頃から素敵なミニプレスを出されています。出版だけでなく、面白そうなものを見つけては、取引先に紹介して流通させる業務もこなしています。ブログで紹介した「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する1」もここが卸元です。

「自分の住む街に本屋がなかったら、その人は一生本を買わないかもしれない。様々な本が並ぶ棚から、たった一冊の本と出会い、自分のお金で買うという体験を知らないままかもしれない。本屋に限らず、本棚があって本を売っている店が通学路にあれば、小学校六年間で一回くらい入るじゃないかな。そういう出会い、色々な本が一覧で見れて、それを買えるという状況がなくなったら、この世の本は死ぬと思っているんです。」松井さんの考える本屋の存在の意義です。ここに登場する店主たちの本への想いは様々です。しかし、本を死なせないために、それぞれ工夫しながら本屋を営んでいるのは間違いありません。

TAWARAMACHI BOOK STOREという新刊書店を経営する落合博店長は、小さくてもいいから、街の駄菓子屋みたいに個人のやっている本屋が街のあちこちにあったほうが街として面白いと語られていますが、その意見には賛成です。幸せなことに、レティシア書房の近辺には個性的な書店が数件あります。そんな書店を回遊したり、疲れたらカフェで一休みできるこの界隈は、素敵な街だと思います。

 

日本の新刊業界や出版業界と同じく、台湾も読書離れで出版不況に陥っています。しかし一方、個人経営の町の本屋さんが、活発に営業しています。そんな個性あふれる書店主四十三人に迫ったノンフィクション「書店本事 台湾店主四十三のストーリー」(THOUSASNDS OF BOOKS/新刊2808円)をご紹介します。

本の構成はこんな感じです。

第一章「時間長河、歴久不衰」ー老舗の書店。

第二章「在一日又一日的閲読時光中、理想堆積成形」ー経験を積んだ書店。

第三章「記録這段夢想初起飛的歳月」ー新しいタイプの書店

第四章「我們的閲読、不是書」ー蔵書豊富な書店以外の店

の四章に分かれています。著者のグイ・イーチンは、全ての本屋を巡り、店主から話を聞いて書店の個性を伝えてくれます。第三章の新しい書店には、日本と同じようにカフェを併設している店も紹介あります。変わり種は、「時光二手書店」という店で、本の収集に慣れようと古紙回収所に向かう途中、捨てられた犬を発見し保護して以来、店に一時的に野良犬を保護し、新しい飼い主を探す本屋さんです。店主のクー・シウニンは、店の宝物は何?と問われて、

「2匹の猫です。猫はカウンターの上にじっと座ってくれるので、店の宝っぽいです。犬はあちこちうろうろして、店の中でじっとしていてはくれません。」

所変われば、店も変わるのですね。この書店は、取り扱いジャンルが、文学・歴史・哲学・生活・芸術と多義に渡っています。全部読んだわけではないのですが(400ページの大著)、どの書店の店主も面白く、ユニークな方たちばかりです。自ら、身勝手な書店と言う「新手書店」店主ジョン・ユーテインは、経営上の問題を聞かれて、「収支バランスが取れないこと」と即答したり、店の宝物ときかれて「サルです。申年生まれなので、店にサルの小さなぬいぐるみをたくさん飾っています」と答えています。

台湾に行く、行かないに関わらず、隣国の書店事情を覗き見るにはうってつけの一冊だと思います。

 

 

 

 

九条大宮にオープンした「つるかめ書房」へ行ってきました。古い町家の外観はそのままに、内部を巧みにアレンジして、日本料理を出すレストラン、日本茶カフェ、バーを併設しています。レジが一箇所なので、好きな本を持って、カフェでお茶を飲み、まとめてお会計ができるようになっています。

場所は、九条大宮を下がってすぐのところに見えてくるのですが、看板がありません。条例で、こういう町家に商業的な看板は設置できないのだそうです。(写真左)さて、引き戸をガラガラと開けて、中庭を見ながらどんどん奥に行くと、その先に立派な書庫があります。全ての本が丁寧に、美しく並べられています。ちくま文庫、講談社文芸文庫がずらり、しかも安い!

壁面の書架を見てゆくと、星野道夫、石川直樹、石田千、吉田篤弘、庄野潤三などなど当店と似たラインナップ。趣のある古い書庫に、スッキリと並べられた本の数々。文学、エッセイ、暮らし、アートなどが明確な意志に基づいてセレクトされた棚の前で本を眺めていると、時折、吹いてくる風が舞い込み、リラックスしていつまでも居てしまいます。CDと本を何冊かセレクトして、昼食もいただくことにしました。お昼は2500円の和風ランチのコースのみ。音楽の鳴っていない空間、使い込まれた家具に囲まれての食事は、外の賑わいから離れて落ち着いたひと時でした。

ところで、今週末25日(土)26日(日)の二日間、この書庫の二階で古本市が開催されます。当店も参加します。同時開催で陶器市もされるそうなので、ぜひのぞいてみてください。

フリーペーパー入荷ご案内

●海外文学ファン必需の「BOOKMARK」の最新14号が入荷しました。巻頭エッセイはあさのあつこ。特集は「against」、「ノー」と言うことです。

●「ハンケイ500m」49号は、烏丸六条が特集です。烏丸七条と五条という幹線道路の真ん中にある小さな通りですが、実は私の通っていた小学校がこの近くでした。懐かしい…..。

●「SELFBUILD BOOKLIST」これ、「セルフビルドにまつわる連続トーク3『本から広がるセルフビルドの世界』」と題して、誠光社の堀部篤史さんが講師をした時に、製作されたブックレットです。彼が選んだセルフビルドに纏わる本がセレクトされ、解説も書いています。

 

 

★イベントのお知らせ

6月5日(水)より「世界ひとめぐり旅路録」展をされる小幡明さんが、14日(金)19時半より、FMひらかたパーソナリティー久保有美さんと一緒に「小幡明の旅の話アレコレ」と題したトークショーを当店にて開催します。(参加費1000円/要予約)

 

イザベル・コイシェ監督「マイ・ブックショップ」は、本好き、本屋好き、書店業に従事している者ならば、観てほしい映画です。

舞台は1959年、イギリス東部の小さな海辺の町。戦争未亡人のフローレンスは、夫との夢だった書店をこの地に開くことを決意し、放置されていた古い家を買取り、店を開きます。しかし、地元の金持ちで、慈善団体活動をしているガマート夫人は、この場所に芸術センターを建てるとしていて、いい顔をしない。本屋作りに走り出すフローレンスと、それを阻止しようとするガマート夫人の画策。

古い家に、書架が入り、本が並んで、本屋に命が吹き込まれてゆく様子が描かれていきます。そして、小学校に通うクリスティーンのお手伝いでオープンします。この少女がまた、読書が嫌いで、算数と地理が好きな不思議な子なのですが、ラストでとても重要な役柄になりますので、注意して観てくださいね。

町には、古い邸宅に引きこもる読書好きの孤独な老人ブランディッシュがいます。彼の佇まい、ファッション、気骨は、初老に入ろうとする者にとってお手本なので、御同輩の皆様、ここもしっかりとご覧いただきたいのですが、彼は、早速面白そうな本を送ってくれと注文を出します。フローレンスが選んだのがユニーク。レイ・ブラッドベリのSFの古典「華氏451度」でした。ブランディッシュは、この作家が気に入り、次から次へと読破していきます。書店員として、これほどの幸せはありません。さらに彼女は、悩んだ末に、当時スキャンダルな内容で話題になっていたナバコフの「ロリータ」を、これは売るべき本だと250冊仕入れて、店頭にズラリと並べます。私は持っていたコーヒーカップを落としそうになりました。いや、こんな決断なかなか出来ませんよ。売りたい本を、覚悟して売るという本屋の原点です。

 

順調に見えた書店経営も、イケズなガマート夫人の、巧妙な政治的画策で廃業に追い込まれていきます。この作品、ラストのラストに至るまで、大げさな描写を一切廃して、書店と町の住人を見つめていきます。だから、追い出される場面も極めて静かです。荷物をまとめて船に乗った彼女を見送るのは、クリスティーンのみ。読書嫌いの彼女の腕には、フローレンスがこれだけは読んでね、と渡したリチャード・ヒューズの「ジャマイカの烈風」が抱かれています。あなたの本への想いは受け取ったというクリスティーンの瞳を見るだけで、泣けます。

映画の公式サイトのコメント欄を見ていると、川本三郎や上野千鶴子らの著名人に混じって、書店員、店主のコメントが載っていました。HMVBooksの店長を務める花田菜々子さんが「ラスト最高、私が彼女でもそうする。書店員の執念は凄まじいのだ。なめてかからない方がいい」と。「書店員の執念」という言葉は、どうかなとは思いますが、気持ちはよくわかります。旧態依然とした業界の疲弊、未来の見えない新刊書店の現状で仕事をする書店員に、クリスティーンの瞳が気合を入れたのかもしれません。

しかし、映画はここで終わりではないのです。ここから、後は劇場で。本を、本屋を愛している貴方なら、溢れ出る涙に遭遇することになります。名作です。

「村上春樹を読んだことがないのではなく、『名前を知らなかった』と言うのにはさすがに驚いた。どんな暮らしをしていたら三十歳を超えるまで村上春樹の名を知らずにいられるかと興味が湧いた」

フツーの青年の話なら、あ、そういう人もいるのね、というですが、これ、阪急京都線水無瀬駅の前にある長谷川書店水無瀬駅前店長、長谷川稔さんのエピソードです。この書店は、とても個性的で、面白いお店なのです。私の大好きな本屋さんです。

本というものに親しんでこなかった長谷川さんが、32歳で、家業の本屋さんになりました。最初に「人にとって読書をする喜びとはなにか?」と考え、彼は本を読み出します。そして出会ったのが、村上春樹著「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」でした。

「書かれた文章や言葉の一つひとつに、書かれなければならなかった必然性があるのだということ。文章とは、ただ言葉を並べているだけでなく、その背景や行間も含めて伝えている表現なのだということ。それらを初めて知り、衝撃を受けたという。なぜ人は本を読むのか 少しだけ分かった瞬間だった。」

石橋毅史著「本屋な日々青春編」(1944円)には、全国各地の本屋さんや、夏葉社のような独立系出版社など、販売不振に喘ぐ本の業界で、店主たちの考える書店の、出版のあるべき姿を模索する人達が沢山登場してきます。そして、第一章「伝える本屋」の最初に登場するのが、長谷川書店です。読書経験の乏しい書店員に、魅力的な書架が出来るのか?という著者の疑問を解消すべく、長谷川さんと話を続けます。

長谷川さんは「本屋は楽しい」、でもそれは「地域の人たちと本屋としてどこまで交われるか、とうことですね。このあたりは、本屋はウチしかないから、しょうもない棚をやったら申し訳ないというのもあるし。」と答えています。その熱意が、様々な試行錯誤を呼び起こし、狭い書店内の方々で、未知との本との出会いを作ってくれます。

著者の石橋は、本屋を選び取った若者達の姿を求めて、全国を旅していきます。安易に持ち上げたりせず、現実を見つめ、批判精神を忘れずに、でも本屋の未来を見つめる人達の姿を見つめています。今後、「風雲編」「激闘編」「番外編」と続刊が出るみたいです。こちらも期待しています。

 

★連休のお知らせ 7月2日(月)3日(火)

 

 

レティシア書房は、すっかりミシマ社に乗っ取られた様相を呈しています。店のウィンドウ(写真左)にも、入口付近(写真右)にも、ほら、ミシマ社さんが…….。「本のおみくじ」(写真右下)なんていうのもあって、ご来店の客様にはけっこう好評ですし、ミシマ社オリジナル手ぬぐいは、このキャンペーン中に3冊以上ミシマ社の新刊をご購入の方にプレゼントしております。

「ミシマ社と京都の本屋さん展」は、壁一杯に貼り出された京都市内の本屋さんの地図が、ペチャクチャおしゃべりをずーっと続けているような賑やかさ。なんせ自転車で15分くらいしか離れていないので、ひとつずつ本屋さんのイラストが増えていくという状態ですが中日を過ぎても、一向に完成の目処は立たない感じで、たぶんこのまま最終日になだれ込みそうです。最終日にちゃんとこの展示を下ろす事ができるのか、目下の心配はそこです。次の展覧会の準備がひかえてるので、ミシマ社さん、お願いしますね。

ミシマ社の本については、店長が、「店長日誌」でも度々取り上げてきました。この展覧会の初日のブログ(4月11日)にも紹介しています。私はサイン本の棚に並んでいる「毛のない生活」(山口ミルコ著・1500円+税)を、久しぶりにめくりました。この本を初めて手に取った時、私は親しい友人の癌の闘病に付き添っていました。彼女の底知れない不安を、すぐ側で見ていた毎日がよみがえります。山口さんが病気を受け入れ、生きる道を模索し、友人と繋がりながら、バリバリ進むだけの生活から、足下を見つめ新しく生まれ変わろうとしている姿が、健気でまぶしかった。社会に、人生に取り残されそうな不安など、胸をしめつけられそうになったこともあったでしょうが、本にまとめあげられた力に、改めて敬服しました。あの時、一所懸命前向きに頑張っていた友人が、ふと「もとの体に戻れない」と涙ぐんだ時、私は力になれていたのだろうか、と、彼女を切なく思いだしました。

現在読んでいるのは「お世話され上手」(釈徹宗著・1600円+税)。ここでは、お年寄りの暮らしにとっては、何を置いてもバリアフリーが必要というわけではない、ということなどが書かれていていちいち頷きました。面白いと思ったのは釈さんの「巻き込まれキャンペーン」という一人ムーブメント。このキャンペーン中は、後先を考えずに流れに身を任せる、ともかく誘われたら、興味がなくても乗ってみるというもの。どちらかというと巻き込まれ型の私など、そうこうしているうちに気がついたら古本屋の女房。けれどそのおかげで、面白い展示のお手伝いなどできるわけです。私一人の経験なんてしれているので、誰かの力を借りてこれからも自分の枠を広げていくつもりです。

「ナンバ式!元気生活」という本をみつけ(レティシア書房もミシマ社のすべての本を置いているわけではないので)店番の合間に立ち読みしていたら、お客様が買っていかれたので慌てて追加発注ということもありました。そんなこんなで、賑やかなミシマ社展ですが、いつもとは違う活気が漲っております。きっとミシマ社さんのみなさんの熱気が、小さな本屋を少し若返らせてくれたのでしょう。有り難いことです。と、いうわけで、ミシマ社の未完成地図など見に、お出掛け下さい。立ち読みしていただいて結構です。(女房)

「ミシマ社と京都の本屋さん」展は、4月22日まで。(月曜定休日)12時〜20時

「2001年宇宙の旅」等の映画監督、スタンリー・キューブリックの名前を付けた「ブックスキューブリック」という本屋さんが、福岡にあります。2001年オープンということで、キューブリックの名前を拝借されたそうです。この店を立ち上げて15年になる大井実さんの「ローカルブックストアである 福岡ブックスキューブリック」(晶文社1728円)が入荷しました。

本屋を開業したいと思っている人は、(つい最近まで)古本屋というのがセオリーでした。でも、大井さんは「『地域に根ざす町の書店』という理想のイメージがあり、雑誌がしっかり揃っている店をやりたかったので、取次との契約は避けて通れないとの結論に達した。」

これが、難題なんですね。特殊な流通組織で本が流れるこの業界で「取次」と呼ばれる問屋との契約は個人レベルでは極めて高いハードルです。そこを突破して、開業へと向かう姿勢には頭が下がります。

同志社大学卒業後、一旦は就職されますが、本屋をやるという気持ちに向き合って、あるべき本屋の姿を目ざして走り出します。店を始めることを、こう言っています。

「常々、商売というものは、町に名刺を出して生きているようなものだと感じている。もしくは、町に店の旗を立てると言っていいかもしれない。」

そして、「地道に仕事をしていれば世間に認めてもらえるという意味では、精神衛生上とてもいいのだ。お店を通じて社会と繋がっているという安心感は何ものにも代えがたい。」

と書かれていますが、それは私も感じます。店で、ギャラリーの作家さん、ミニプレスの作り手、そして本好きの方々などと接している安心感は、確かに、会社勤めでは絶対にあり得ません。

「ブックスキューブリック」は、独自の店作りから始まって、トークイベント、ブックフェス等の企画を通して、町づくりに関わっていきます。だから、この本は、本屋開業ノウハウブックではなく、自分の生き方と思いをお店に託して、町と共に生きていく方法の一端を教えてくれる本です。

大井さんも開業時には、大型書店ばっかりの新刊書店業界で、町の小さな本屋では太刀打ちできないという「一般論」で反対されたと思います。でも、自分の頭でしっかりと考え、どうすればいいかと試行錯誤していった結果が、今日の「ブックスキューブリック」を作っていったのでしょうね。

都筑響一著「だれも買わない本はだれかが買わなきゃならないんだ」の、こんな一節を書き記されています。

「大人になったら、周囲の大人の話にいかに耳をふさぐかの訓練が必要になってくる」

最近、ユニークな新刊書店が登場してきましたが、その火付け役ともなった「ブックスキューブリックは、九州に行かれたら寄っていただきたいお店です。

 

 

 

「洛中から守口(大阪府)は遠おすなぁ〜」と、いけずな京都人なら言いそう、とは大げさですが、京阪電鉄で、三条から1時間ほどかかりました。

なんで、守口まで行ったかと言うと、数ヶ月前にオープンした「たられば書店」のオーナー山本さんとお近づきになるためです。ちょうど「たられば書店」のギャラリーで開催されている小幡明×たられば書店「世界のかけらと守口雑貨」も見たかったので。

小幡明さんは、当ブログでも紹介しましたが、彼女が旅した世界の色んな町を

イラストで描いて、小冊子にまとめた「世界のかけら」(各330円)の作者です。当店でも扱っていますが、売切続出。再度バックナンバーを揃えて販売する予定でしたので、せっかくの個展に行かねばと守口の駅前に降り立ちました。

特急の停車しない守口は、ご他聞にもれず、商店街にあまり活気がありませんでした。駅前の横町に佇む「たられば書店」は古い二階建ての民家をそのまま書店にした感じで、一階の奥には、かつてここに住んでいたご家族の台所が残っていました。

急な階段を登って2階に上がると、冬の日ざしが眩しい明るい部屋。窓際の部屋は、子どもの遊び場として解放されていて、さながら児童図書館みたいです。お手製の小さなすべり台も備えてあります。きっと、午後は、子どもたちの歓声でにぎやかなことでしょう。

その反対側に小幡明さんの小冊子とポスターが並んでいました。雰囲気に妙に溶け込んでいる面白い展示です。彼女の作品を前に、山本さんが珈琲を入れてくれました。お店を始める前は何をされていたんですか?とお聞きしたら、「主夫」ですとキッパリ。子どもが大きくなったので、子育てから解放されて店を開かれたとの事でした。

1階の書店は、もう「ザ・古本屋」。買い取った本や、在庫が所狭しと並んでいます。さらに、その間にちくま文庫の新刊や、ミニプレスも顔を覗かせています。ここに座り込んで、のんびりと本を探していたら、あっと言う間に日が暮れそうな、居心地のいい本屋さんです。本には値段が付いていません。店主とお客さんがワイワイ言いながら、ま、こんなもんでしょうね、と決めていくみたいです。と言っても大阪っぽい「にいちゃん、もっとべんきょうしてやぁ〜!」みたいなノリではなく、もっとゆる〜い感じみたい。

珍しいものを発見しました。村上春樹原作の映画「ノルウェイの森」の10インチレコードサイズのパンフレットです。

レコードよろしく、ジャケットを取ると、「Norwegian Wood」とセンターに書かれたレコードが撮影されたパンフレットが登場します。きちんと配給元「東宝」のマークも入っています。

こんな店が、この町のあちこちに出来て、活性化するのが夢ですねという話などをしながら、店を後にしました。最初、活気がないと思われた(着いた時間が早すぎたか)商店街をよく見ると、素敵なカフェや、面白そうな店があるのがわかりました。特急は停車しませんが、若い世代が、盛り上げて新しい魅力が発信できたらいいですね。

当店の夏の古本市(8月)に、出店のお誘いをしてきました。楽しみです。

★2月8日(水)〜19日(日)レティシア書房恒例「女子の古本市」を開催いたします。

東京、岐阜、神戸、大阪、滋賀、京都から20数店の女性店主がセレクトしたステキな本が、所狭しと並びます。ご来店お待ちしています。

 

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