今年の短編小説集としてはイチオシの「サキの忘れ物」(新潮社/売切)を発表した津村紀久子が、2016年に出した「枕元の本棚」(実業之日本社/古書950円)を面白く読みました。

第一線級の作家の読書案内って、いかにもという内容が多いのですが、津村が選んだ本はちょっと違います。例えば、ナンシー・リカ・シフ著「世にも奇妙な商業案内」。これは、へぇーこんな職業があるんだ、ということをルポした本です。なんでも小川洋子が自身のエッセイで取上げていたのを読んで購入した本だとか。興味深い仕事としては「ゴルフボール・ダイバー」。これは、ウエットスーツを着込み、池に落ちたゴルフボールを拾い上げて再生会社に売るらしい。

「どの人も、とても自然な顔をしてその職業におさまっている。そこには、幸せそう、などというありきたりの物言いでは説明できない、矜持と満足が漂っているように見える。」

そして、最後をこう締めくくっています。

「昔は、ドモホルンリンクルのコラーゲンの抽出を見張る人、カウンターを持って通行人の人数を数える人などをやりたがったが、今は京都の六角堂で白鳥の世話をしている人になりたい。収入や名誉やありきたりな夢を脇に置くならば、職業とはこんなに豊かで、それはすなわち人間の生活の豊かさを意味しているのだと本書は教えてくれる。」

津村流の文学案内でもなければ、この本を読みなさい的な読書案内でもありません。彼女の人生の中で、折に触れ、心を動かし、生き方に影響を与えてきた本を並べて、彼女が何を考え、行動してきたかを綴っています。

石垣りん著「ユーモアの鎖国」の中の「事務員として働きつづけて」について、津村は「戦後も今も職場での女の人の立場はほとんど変わっていないように思われる。男女が同じ権利を持つ職場は、たぶん今もほんの一握りだ。でも石垣さんは『私は会社にとり入る心、会社が必要とする学問、栄達への努力をしないで働くことが可能でした』と、会社に魂まで売り渡さなくてもすむ働く女の人の自由も提示してくれる。制限されたり、月給が低かったり、立場が弱いこととも裏腹のこの自由は、わたしが会社員をやってきた中で強く感じたことだった。」と書いています。

作家の拠り所とする思想を背中から支えた本を集めた優れた読書案内です。

 

★発売決定!町田尚子さんのおなじみ猫のチャリティーカレンダーを、10月中旬より販売いたします。価格は550円(税込)です。今年のテーマは日本映画です。

ARK(アニマルレフュージ関西)の2021年度カレンダーを入荷しました。

・大きいサイズは1000円(撮影は児玉小枝さん)・卓上サイズは800円(ARKスタッフ撮影)

売り上げは全てARKに寄付します。ぜひ店頭で手に取ってください。

昨日より始まりました福井さとこ銅版画展は、仁木英之の小説「マギオ・ムジーク」の挿絵の原画展。では、どんな小説かなと思って読んでみました。

おぉ〜正統派ファンタジー小説!小学6年の翔馬が、ある日突然、異次元の世界へと迷い込み、そこで悩みながらも成長してゆくという王道の物語です。こういう物語にはお約束の、大きな龍や虎も登場します。けれども、翔馬と龍やモンスターの大バトルは、メインイベントではありません。

翔馬が迷い込んだ世界は、音楽に該当するムジークという魔法が絶大な力を持っています、都市を破壊するほどの力もあれば、世界を美しくする力も備えています。こちらの世界でピアノを弾いていた翔馬は、自分の持っているムジークの力強さに驚きながら、この力を巡って対立する二つの勢力の中で、自分が何をすべきなのかを探し求めていきます。

「旋律は奏でる者のこ……心だ。もし、めちゃくちゃな音しか出ないとしたら、それはお前の心が乱れているだけに過ぎない」

と言われるのですが、自らの力を制御できない。

「音がとまらない。翔馬はこわくなって楽器を放り投げようとした。だが、触手が数本のびて翔馬の体に絡みつく。その一本が腕のところから皮膚の中へ入ろうと口を開けたのを見て、翔馬は悲鳴を上げた。」

そういう世界で、翔馬は仲間を作り、より良き世界のために、そしてなんとか元の世界へ戻るために行動を開始します。ムジークのことを深く知るために、ムジーク使いを養成する学校に入ります。

「願いをかなえるために学ぶ。それは君の世界でも変わらないはずだ」

という先生の言葉は、学ぶことの本質を言い当てた言葉ですね。音楽をムジークという魔術に置き換えて物語は進んでいきます。そして、音楽の力をこんな風に表現しています。

「音楽は人を傷つけたり悲しませたりするかもしれないけれど、こうして何かをこわすために、だれかをひざまずかせるためにあるんじゃない。悲しみの向こうへ行くためのものだ」

確か坂本龍一だったと記憶しているのですが、音楽は人を救わない、けれども人に寄り添うことができると言っていました。寄り添って悲しみの向こうに連れて行ってくれる、なんて素晴らしいことでしょうか!

音楽とずうーっと付き合ってきた私には、とても心に染みる物語でした。

なお限定ですが、現在店内で販売している本は、仁木英之さんと福井さとこさんのサインが入っています。お早めに!

 

ARK(アニマルレフュージ関西)の2021年度カレンダーを入荷しました。

・大きいサイズは1000円(撮影は児玉小枝さん)

・卓上サイズは800円(ARKスタッフ撮影)

今年はコロナの影響で撮影ができるか懸念していました。毎年カレンダー発売に合わせて写真展を開催してきたのですが、春の段階で、どうなるかわからないとキャンセルの連絡が入ったので販売できて嬉しいです。売り上げは全てARKに寄付しますので、ぜひ店頭で手に取ってください。

毎年8月15日の敗戦記念日には、原民喜の「夏の花」を読みます。原爆で命を奪われた妻の墓参りに行くところから物語が始まります。原爆投下の日、「私は廁にいたため一命を拾った。」ここから広島の地獄絵が書かれていきます。この本と共に、岡本喜八監督の映画「日本の一番長い日」を観たりします。ポツダム宣言受諾から玉音放送までの間に、権力者の中で何が起こったのかをリアルに描いた傑作です。最近リメイクされてましたが、重厚感ではオリジナルに敵いませんでした。

さて、今年は少し違う本と映画に出会いました。映画は、堀川弘通監督「軍閥」(1970)です。海軍と陸軍の権力闘争で、日本が戦争の深みにはまってゆく様が描かれています。印象に残ったのは、一人の特攻隊員と、毎日新聞社の記者との会話です。出撃したものの敵艦を見失い帰ってきて、再び特攻命令を待つという立場の彼が、やってきた新聞記者を激しく詰ります。メディアが戦争を賛美し、東條英機を祭り上げたのだと。記者が、負けていることを国民に知らせて早く終結させるべきだというのに対して「勝てる戦争なら、やってもいいのか」と詰め寄るのです。この問いかけは衝撃的でした。勝とうが、負けようが戦争の全否定を特攻隊員が口にするのですから。

今回読んだ本は、濱田研吾著「俳優と戦争と活字と」(ちくま文庫/古書700円)です。これは労作です!よくこれだけの資料を集めたものです。著者は、京都造形芸術大学を卒業して、映画、放送、鉄道など多彩なジャンルで執筆活動をしています。

「昭和に活躍した俳優が好きで、そうした人たちが書いたり、語ったものを高校時代から蒐めてきた。映画・演劇・放送関係の本や雑誌、俳優が書いた(語った)本、プログラムや広告の類いまでいろいろである。」おそらくそれらの膨大な資料(巻末に参考・引用文献の一覧が載ってますが、おそろしい量です)から、俳優たちが戦争について、疎開について、原爆について、そして玉音放送について語ったものを拾い上げたのが本書です。

多くの演劇人、俳優たちが、自分たちが経験した戦争を語っています。最初に紹介した「日本の一番長い日」のパンフレットで、8月15日に何をしていたのいか、その時の気分はどうだったのかを出演俳優たちに問うアンケートの回答が載っています。

例えば、当時八歳だった加山雄三は「小学校二年生の時だった。家に憲兵がいて、あの放送をきいて泣いていたのを覚えている」と回答しています。笠智衆は41歳。「玉音にタダ涙。カンカンでりの青空が空しかった」と答えています。

悲惨な戦闘を繰り広げた中国戦線、大陸からの引き揚げ、シベリア抑留など多くの俳優たちが経験した戦争の姿が迫ってくる一冊です。

 

小学校で読んだりする偉人伝。聖徳太子やら織田信長、そして伊藤博文辺りがポピュラーなところですが、女性が少ない。無いなら作ろうということで、韓国の出版社ボムアラムが作ったのが「夢を描く女性たち イラスト偉人伝」(タバブックス1870円)です。

国も時代もバラバラ、活動分野も様々な、女性たちが登場しますが、さすが韓国の出版社だけに、母国の方が多く入っています。そして、その女性たちが頭を上げて、前を見つめて放った真っ直ぐな言葉が、韓国の素敵な絵描きたちによるイラストと共に書き込まれています。

「刀を向けると怯えると思ったのか? 私たちは死ぬ覚悟でここに来ているのだ」

と勇ましい言葉を残しているのは、ブ・チュンファ。彼女は海女です。日本占領時代、海女たちが収穫した海産物を、彼女たちの管理者が搾取し、安い賃金で働かせていました。それに抗議したデモを実施。阻止しようとして刀を抜いた日本軍人に向かって放った言葉がこれです。

「女性の私に祖国などない。女性としての私は祖国がほしくもない。女性としての私の祖国は、全世界だ。」

とは、ヴァージニア・ウルフです。貧困と差別の渦中で苦しんでいたイギリス女性たちの苦しみを描き、彼女たちの解放を求めた作家です。20世紀初頭の作家にも関わらず、現代でも多くの女性たちに支持されているのは、ちっとも状況が変わっていないという事なのでしょうか。

頭から順番に読まなくても、パラパラとめくって、好きなイラストと言葉をみつけたら、読んでみる、という気楽な本です。

このひとを収録しているのか!と嬉しくなったのがいました。一人は動物学者のジェーン・グドール。ちょっと前にブログで紹介した、星野道夫の「アフリカ旅日記」に登場します。彼女はこう言っています。

「あなたがすることが変化をつくる。あなたはどんな変化をつくりたいのか決めなければならない。」

もう一人は、グレタ・トゥーンベリ。10代にして、世界の政治家を相手に気候変動問題を問いかけた環境運動家です。

「私たちは未来がほしくて、ストライキをしているのです。」

この世界をこれから生きていく若者たちの悲痛な意志が込められています。

日本版追補として日本からは三人、作家の石牟礼道子、女子運動家の田中美津、評論家の山川菊栄と、数人が追加収録されています。グレタ・トゥーンベリもその一人でした。追補分のイラストを描いているのは日本人女性です。

「彼はファーストネームを平成(ひとなり)という。この国が平成に改元された日に生まれたいう安易な命名なのだが、結果的にその名前は彼の人生に大きく貢献することになった。彼は『平成くん』と呼ばれることで、まるで『平成』という時代を象徴する人物のようにメディアから扱われ始めた」

というのは、古市憲寿著「平成くん、さようなら」(文藝春秋/古書900円)の滑り出しです。平成くんは、原発で働く若者たちの聞き取りをした地味な卒業論文が、2011年という年だったことでメディアの目に止まり、出版されて一躍注目された若者。その若者と同棲している彼女の日常を描いた小説です。

ある日、平成くんは「安楽死を考えている」と彼女に伝えます。え?何故安楽死?という彼女の疑問を巡る物語です。

「僕はもう、終わった人間だと思うんだ」

と彼がそう思ったのは何故なのかをなかなか理解できずに、不安と焦燥が繰り返しやってきます。

「すべての人は例外なく死ぬ。その時期が ちょっと早まることに大騒ぎしないでよ」と平成くんはマイペースです。この小説に悲壮感はありません。

「平成くんの今日の予定は?」 「15時から新潮社で打ち合わせがあって、その後は木下さんとの会食だよ」と、深刻な問題があるとは思えないいたってフツーのカップルの会話で進んでいきます。

悩んだ彼女は、平成くんの友達に相談するのですが、「僕自身、死ぬことの何が悪いのか全くわからないのです。それに平成が死んでも、彼が残した本当の対話はいつまでもできるし」などと言いだす始末。

この二人の部屋にはミライという名前の老猫が同居していました。その猫が末期症状になった時、彼は動物病院で安楽死をさせます。しかし、その場に立ち会えなかった彼女は「ミライは喋れないでしょ。本当はもっと生きたかったかも知れないじゃない」と罵るのですが、その後、「じやあ平成くんは、自分で死にたがっているのだから、いつ死ぬのも自由ということなのか。自分の発した言葉で頭がこんがらがりそうになる。」というジレンマに陥るのです。

小説はどう終わるのか、興味津々でしたが、成る程こうするか!と唸るエンディングでした。そこには、様々な情報機器に囲まれて生きている私たちの時代における死が、見事に描かれていました。

著者の古市憲寿は社会学者で、「絶望の国の幸福な若者たち」、「保育園義務教育化」といった現代日本を考察した本を出しています。そして、小説第一作の本作は、芥川賞候補になりました。

お知らせ 

6月より、営業日・時間を下記のようにさせていただきます。

月曜、火曜定休 水曜日から日曜日まで 13時〜19時に変更いたします。また、ギャラリーの企画展は6月下旬からのスタートを予定しています。度々の変更でご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお願いします。

通販、メールでの在庫確認は常時できますので、ご利用ください。(info@book-laetitia.mond.jp)


 

コーリー・スタンパー著「ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険」(左右社/新刊2970円)は、300数十ページある分厚い本です。

アメリカで最も歴史ある辞書出版社メリアム・ウェブスター社の編纂者による英語の奥深さを教えてくれる一冊です。そして、本好きのオタク心をときめかせてくれます。

著者は「わたしは大して文学的素養のない、ブルーカラー家庭に長子として生まれた、本が大好きな子どもだった。」らしいです。しかし、幼少の時から言葉が大好きで絵本だけでは飽き足らず、カタログまで読み漁っていました。「言葉に食らいつく」ような恐るべき子どもだったそうです。

それが成長して、「彼らは言葉のオタクであり、その人生の大半を、辞書の語釈を執筆したり編集したりことや、副詞について真剣に考えることに費やし、ゆっくりと、容赦なく視力を奪われていく。それが、辞書編纂者だ。」という業界に入っていきます。そして、忍耐力と好奇心のみがエネルギーとなる仕事に従事します。その日々の業務がつぶさに語られます。

辞書の話といえば、三浦しおんの「舟を編む」が有名ですが、あれは日本語辞書の世界。こちらは英語という言葉の海です。英語が現在使用されている形で、一言一言分析し、分類する。それを365日休みなく繰り返すという、究極の地味仕事です。本書は、一つの単語が様々な意味に変化し、多様性を持ちながら進化してゆくことを、多くの例文を挙げて解説しています。これは英語の参考書ではありません。英語研究者の本でもありません。池澤夏樹が「辞書の側から見た英語がこんなにおもしろいとは!言語は子どもである。行儀よくと願って育ててもどんどんワイルドになってゆく。」と推薦の言葉を書いています。

「なにかを読むことが好きなだけじゃなく、読み出したら止まらないこのわたしがーバスに乗れば広告を読み、次にポケットに突っ込んだレシートを読み、最後は他人の肩越しにその人が読んでいるものを読んでしまわずにはいられないこのわたしがー読むことでお給料をもらえるなんて。この仕事はやばい、もう最高」とその喜びを語っていますが、もうオタク丸出しですね。

ところで、皆さんは英語がいつから世界の公用語になっかご存知ですか。本書によれば「15世紀半ばに至るまで、英語が意想伝達や公文書に用いられうる、恒久的な言語だと思っていいる人なんていないのも同然だった。」のが史実です。しかし、1547年、ヘンリー5世が突如として英語を公的な書状に使い始めて以来、それまで言語の王位にあったラテン語、フランス語を駆逐してしまったのです。このように学校では教えてくれない英語の歴史をを知ることができます。

例えば、今フツーに使用している”tweet”(ツイート)という言葉は、20数年前には、「鳥の嘴からこぼれるもの」という意味でしかなかったのです。こういう事実を知ると、言葉って面白い!という思いが湧き上がってきます。

 

お知らせ 

6月より、営業日・時間を下記のようにさせていただきます。

月曜、火曜定休 水曜日から日曜日まで 13時〜19時に変更いたします。また、ギャラリーの企画展は6月下旬からのスタートを予定しています。度々の変更でご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお願いします。

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武田百合子といえば「富士日記」が思い浮かびますが、私はこの本の良さがいまいち分かりませんでした。文庫なら上中下3巻という量で、結局パラパラとつまみ食いみたいな読み方で終わってしまいました。

が、久々に手に取った「日日雑記」(中央公論社/1050円)を、面白く感じました。

「玉(うちの飼猫)は今朝八時までに、日光浴をし水を飲んで牛乳を飲んで『北海しぐれ(カニアシの名前)』を食べ、毛玉を吐いてゲロも吐いて、うんことおしっこをした。あっという間に、そのうちにすることを全部してしまった。玉は十八歳、ヒトの年齢でいったら九十歳である。若い。えらい。すごいと思う。」

何気ない文章なのですが、あっという間に、猫の一日を簡潔な言葉で書いているところがいいですね。因みに、この文章、音読するとさらに良い。「ヒトの年齢でいったら九十歳である。」まで一気に喋り、「若い。えらい。すごいと思う。」を上がり調子で発声してみてください。

難しい言葉や、美辞麗句は全くなく、適度なユーモアと洒落っ気が、読者をニンマリさせるところがこの作家の真骨頂なのかもしれません。彼女が偶然見つけたポルノ映画館の宣伝ポスターには、「老人福祉週間。証明書をお見せください。半額」と書かれていました。その宣伝文句から、彼女はこんなことを想像します。

「辛うじて残っているポルノ映画館。ゆらゆらと老人が自転車を漕いで一人やってきて、自転車を立てかけ、汚れた厚ぼったい黒いカーテンをまくって吸い込まれて行く。」

なんか映画のワンカットみたいにリアルな情景ですね。そういえば、大阪環状線に乗っていた時、ラブホテルの看板に「全館バリアフリー」と言う大きな看板を見つけた時、大笑いしたことを思い出しました。彼女ならどんな情景を描写をしたでしょうか。

おいおい、そんな風に考えるか?という発想が随所にあるのも、この本の楽しさです。水族館にある爬虫類を集めた場所で、大型の毒ヘビのボアとアナコンダを比較して、こんなとんでもないことを言います。

「ボアは丁度あくびをしたところだった。隣のアナコンダに比べると、ずんと顔立ちもよく可愛らしかった、飼うならこれだ。」

「飼うならこれだ」で締めくくるか?と突っ込みたいところですが、ちょっと人を食ったところや、クールで投げやりな視線が魅力的です。

「夕方まで、だらだらと雨が降った。少し裁縫をし、少し本を読み、電話がかかってきて、ちょっと喧嘩した。夜になると、ざんざん雨が降った。レコードを出してきてかけた」

本書に収められたエッセイは、当時ハイブロウだった女性誌「マリ・クレール」に連載されていたものです。今の作家でも書きそうなことを、彼女はすでに80年代後半にすでに書いていたんですね。

お知らせ 

緊急事態宣言は解除されましたが、暫くの間、営業日・時間を下記のようにさせていただきます。

営業日:毎週 火曜日、木曜日、土曜日、日曜日  営業時間:13時〜18時

通販、メールでの在庫確認は常時できますので、ご利用ください。通常営業再開はHPにて告知いたします。(info@book-laetitia.mond.jp)


「飲み屋ってのは、ハゲたらダメなんだよ。コーヒー屋のオヤジはハゲればハゲるほど、コーヒーがうまくなる。味に濃さが出る。でも飲み屋のオヤジがハゲると酒がまずくなる。これ、ほんとだから!オレが長いことやって来れたのは、ハゲなかったからだよ」

なんて言ってるのは、東京下北沢で40年続くロックバー「イート・ア・ピーチ」のオーナー中居克博さんです。彼は1974年にこの店を始めました。凄いですね、40年も同じ場所で、ロックバーを営んているなんて!

こんな名物オヤジたち11人の人生観、音楽への思い、店への愛着を描いたのが、和田静香「東京ロックバー」(シンコーミュージック/古書650円)です。

中居さんの話を続けます。彼が、店を継いだのはなんと19歳。前のオーナーが体を壊したため、やってみるかと言われて、うんと言ったのが始まりでした。いきなり大学生に店を譲る人も、譲られて拒否しなかった方も、なんだか凄い。筆者は「70年代ってお店を開くことが今よりもずっと堅苦しいものじゃなく、しかもロックが学生のものだったから学生がロック喫茶をやるのはそんなに奇をてらったことでもなかったようだ。」と書いています。

日本最古のジャズ喫茶は横浜にある「ちぐさ」。昭和8年開店です。私も行ったことがあります。で、最古のロックバーとなると1972年開店の「フルハウス」だろうということで、千葉県の稲毛にあるお店に筆者は向かいます。オープンした頃、日本中を震撼させた連合赤軍による「あさま山荘事件」を、持ち込んだTV で客と一緒に店で観ていたと語る高山真一さんは66歳。彼は電電公社(現NTT)に務めるサラリーマンでした。それが、どうして東京でもない千葉の片隅に店を開いたのか、面白いエピソード満載。そして今の心境をこう語っています。

「飲みすぎたからいつ脳こうそくになってもおかしくはない。一応は丈夫だけど、血液はドロドロだよ。この年になるとね。健康を一番考える。」

間食なし。納豆と魚焼いた朝ごはんを8時に食べ、自分で畑をやり、野菜を作る。まるで健康雑誌に登場しそうな人物です。でも、自分の店についてこんなことも言ってます。

「勉強してますよ、そうしないと若い子にバカにされちゃうし、ここが老人ホームみたいになるのはイヤなんでね。」

同感です。私も店を開けるとき、若い人に支持されない店には絶対したくないし、上から目線で語るジジイになりたくない、と思っていました。

昨年、当店で個展を開いてもらった九州の造形作家9cueさんと、彼女が是非行きたかったという市内のロックバーにご一緒しました。あぁ〜、この雰囲気、懐かしい!何十年もロックを聴いてて良かったとつくづく思いました。

“No music No life”ですね。

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緊急事態宣言は解除されましたが、暫くの間、営業日・時間を下記のようにさせていただきます。

営業日:毎週 火曜日、木曜日、土曜日、日曜日 営業時間:13時〜18時

通販、メールでの在庫確認は常時できますので、ご利用ください。通常営業再開はHPにて告知いたします。(info@book-laetitia.mond.jp)


 

 

 

 

アラスカをメインのフィールドにしていた星野道夫が、一冊だけアフリカに出向いた時の体験を本にしたものが、「アフリカ旅日記」(メディアファクトリー/古書1100円)です。何故、アフリカタンザニアに出向いたのか。それは、チンパンジー研究の世界的権威のジェーン・グドールに会うためでした。彼女はタンザニアのゴンベ国立公園で、チンパンジーの研究・保護活動をしていました。

アフリカへ向かう機内で、星野はこう書いています。

「どれだけ多くの国に出かけても、地球を何周しようと、それだけでは私たちは世界の広さを感じることはできない。いやそれどころか、さまざまな土地を訪れ、速く動けば動くほど、かつて無限の広がりを持っていた世界が有限なものになってゆく。誰かと出会い、その人間を好きになった時、風景は初めて広がりと深さを持つのかもしれない。」

アフリカとアラスカの違いがあるとはいえ、生まれた場所を離れ、新しい土地で生きてゆくことの思いは同じだったはず。彼女を通してアフリカを知る、というのが旅のテーマです。

離陸に失敗した時のことを想定して、乗客全員を後部座席に移動させてから、なんとか離陸するという、とんでもない空の旅を経験して、彼はゴンベに到着します。ゲストハウスに案内された時、必ずドアを閉めること。そうしないとヒヒの襲撃、ヘビの侵入を許してしまう、などと都会人なら逃げ出したくなるような状況なのですが、星野は意に介していません。こうして、彼のゴンベの森紀行が始まります。

グドールと共に森に入り、ここで暮らすチンパンジーを観察し、アフリカの大自然を楽しみながら、自分がアラスカに魅了されていったことを語っています。彼が撮った写真も沢山収録されていて、そちらも楽しめます。

一方で、星野は、農耕・漁業で暮らすゴンベの人々の慎ましい日々にも視線を向けます。そして、道無き道の果てに広がる原野に生きるアラスカ先住民のことを思い出します。

「村の暮らしは急速に変わっていても、彼らを包み込む自然は太古の昔と何も変わっていない。つまり、もし明日から遠い昔に暮らしに戻ろうとすれば、何もかもが用意されているのだ。彼らはピラミッドも神殿も建てはしなかったが、自然を変えなかった。狩猟民が持つ自然観は、私たちが失ってきたひとつの力である。」

「狩猟民の自然観の喪失」は、星野がしばしば書いていたことです。

お知らせ コロナウィルス感染拡大の緊急事態下、これ以上感染者を出さないために、4月23日(木)より当面休業中です。予定しておりましたギャラリーの個展もしばらくの間お休みいたします。この「店長日誌」は毎日更新していきますので、読んでいただけたら嬉しいです。ご希望の本があれば、お取り置き、または通販も対応させていただきます。(メールにてご連絡ください。)

★★ 9日(土)午後1時より5時ぐらいまで開けています。ご用があれば声をかけてください。(次週からは、開店する日を増やす予定です)

京都に本拠地を置く出版社、ミシマ社の社長三島邦弘さんが本を出しました。タイトルは「パルプ・ノンフィクション」(河出書房・新刊1980円)です。何やら、タランティーノ監督の映画「パルプフィクション」に似たタイトル。あの映画みたいに血飛沫とび散る、業界粛清の本かとビクッとしましたが、そうではありません。

三島さんが出版社を立ち上げ、旧態依然とした書籍業界の常識に挑み、販路を開拓し、会社をどうまとめていったかを描いた、いわば社長一代記なのです。成功者にありがちな、説教臭さはなく、ちょっと失礼して社長の頭の中覗かせてもらいまっせ、へぇ〜こんな事、考えたはったんや、そら大変どしたなぁ〜と、ご本人とお話したくなる本です。

ミシマ社さんとレティシア書房は、開店の頃からのおつきあいです。一冊一冊に、作家と出版社の思いのこもった本を出されてきました。だから当店では、新刊だけではなく既刊本もできる限り置いています。2018年4月「ミシマ社と京都の本屋さん展」の時は社員総出で、当店のギャラリーの壁面を巨大な京都書店地図とミシマ社の本のポップで埋め尽くしてもらいました。

「会社を作る直前のことだ。2006年のある日、寝ていたら突然、やってきた。『出版社をつくりなさい』、天からの声のようなものが聞こえた。」

え?ホンマかいな?そんな風に脱線しながら彼の物語は始まっていきます。脱線しまくるところもあって、はよ進まんかい、と言いたくなったりするのですが、これもまた社長の個性です。

現在日本に流通している本は、出版社が直接書店に届けるものではありません。取次という問屋を経由して、そこから書店の規模、売上に基づいて分配されていきます。ところが、このシステムが今や疲弊し、何ら有効性を持っていない状況にあるのに、改善されていません。その弊害を取り除き、書店の利益を上げる流通形態をミシマ社は作り上げ、会社の方針と出版物に協賛する書店を増やしていきました。

その後、連べ打ちに新しい企画を立ち上げ、現在に至っています。

「中途半端な仕事をしたり、形式的にだけ仕事をするようなことは、この小舟の会社では不要です。本気で、一冊を作り、届ける。これをまっすぐ気持ち良くできる人たちとだけ、これからも働きたい。」とは社長が、部下に放った言葉です。そういう姿勢で作った本をあなたは誠実に売ってくれるんでしょうね、とこちらに言われている気がします。

ミシマ社の本はどれも大事です。だからこそ「ミシマ社」というコーナーを作り、できる限り(狭い店ですが)の在庫を持たせています。作家、出版社、書店そして読者が同一線上に並んでいる。新刊書店時代には、ほとんど感じなかった気分をミシマ社は与えてくれ続けています。一人の青年が立ち上げた出版社の壮大な実験と検証、そして反省の記録として、本好きの人にはぜひお読みいただきたいと思います。

お知らせ コロナウィルス感染拡大の緊急事態下、これ以上感染者を出さないために、4月23日(木)より当面休業中です。予定しておりましたギャラリーの個展もしばらくの間お休みいたします。この「店長日誌」は毎日更新していきますので、読んでいただけたら嬉しいです。ご希望の本があれば、お取り置き、または通販も対応させていただきます。(メールにてご連絡ください。)

★★ 5月7日(木)、9日(土)午後2時より4時ぐらいまで開けています。ご用があれば声をかけてください。(次週からは、開店する日を増やす予定です)