頭木弘樹編の「絶望図書館」(ちくま文庫/古書650円)は、実にユニークな短編小説の編集ものです。先ず、ページを開けると「絶望図書館ご利用案内」」があります。曰く、

「この図書館は『絶望的な物語』を集めてあるわけではありません。『絶望から立ち直るための物語』を集めているわけでもありません。絶望して、まだ当分、立ち直れそうもないとき、その長い「絶望の期間』をいかにして過ごすか?」

そういう状況の時に訪れて欲しい図書館という事なのだとか。三つの閲覧室が設置されていて、それぞれの絶望の状況にお薦めの作品が並んでいます。

第一閲覧室「人がこわい」の中で「人に受け入れてもらえない絶望に」という場合、三田村信行作、佐々木マキ絵の「おとうさんがいっぱい」が挙げられています。第二閲覧室「運命が受け入れられない」の「人生の選択肢が限られているという絶望」には、安部公房の「鞄」が、第三閲覧室「家族に耐えられない」の中の「居場所がどこにもないという絶望」には、手塚治虫「ブラックジャック」が、それぞれ用意されています。

これ、人生にいき詰まった時にどうするか、というよくあるノウハウ本でありませんし、従って解決にはなりません。様々な絶望的状況に陥った時、この物語はよく理解できるよね、というものを集めたものです。例えば、「起きてほしくないことが起きるのを止められない絶望に」という状況には、ウィリアム・アイリッシュの「瞳の奥の殺人」が用意されています。

身体の不自由な老婦人の目前で行われる、息子の嫁による殺人事件を扱ったサスペンスです。確かに、身体も動かせない、しゃべることもできないというハンディがあるのに、殺人を止めるのはほぼ不可能でしょう。でも、ここでこれだけは起こって欲しくない時に、それが起こるってことあります。

李清俊(イ・チョンジュン)の「虫の話」は、「恨みが晴らしようのない絶望に」陥った時にどうぞ、という一冊ですが、いやこれは、宗教と人間を扱った小説としてとても良くできています。息子を殺された母親を描いた本作品を、選んだ編者のセンスに拍手です。

さすがと唸ったのが、「離れても離れられない家族の絶望に」で推挙された、川端康成のわずか数ページの短編「心中」です。ぞっとする美しさに満ちあふれた作品で、ショートショートの才人、星新一が「これだけは書けない」と絶賛したという小品です。

と、まぁ様々な絶望が想定されていますが、おぉ〜こういう時にこれか、上手いなぁ〜、とムフフと頷きながらお読みいただくのがベストです。

因みに第一閲覧室の前に、こんな言葉が掲げてありました。

「本を読まないということは、そのひとが孤独でないという証拠である」

太宰治の言葉です。