盛岡市在住の作家・俳人のくどうれいんを初めて知ったのは、ミニプレス「てくり26号」(まちの編集室/660円)でした。「文学の杜にて」という特集の案内役でした。この号の表紙になっている書店「BOOKNERD」が自費出版した「私を空腹にしないほうがいい」を経て、2020年九州の出版社書誌侃々房から出たエッセイ「うたうおばけ」(1540円)、左右社から歌集「水中で口笛」(1870円)と続き、読者を獲得していきました。

そして、2021年発行された「氷柱の声」(講談社/新刊1350円)で芥川賞候補になりました。連作短編小説のスタイルで、東日本大震災が起きた時、盛岡の高校生だった伊智花が主人公です。震災から10年の時の流れの中で、彼女がどう変化し、どんな生き方を選んでいったかが描かれています。

「うん。かえせ。わたしの十代をかえせ、って、思っちゃった。なんていうか、震災が起きてからずっと、人生がマイボールじゃないかんじっていうか。ずっといい子ぶってたんじゃないかと思っちゃったんです。福島出身で、震災が起きて、人のために働こうと思って医師を目指す女。美しい努力、なんですよね。たしかに。もともとかしこくていい子だからわたしはそういうのできちゃうし、無理もなかったんですけど。でも、これからずっと美しい努力の女として生きていくなんて、もしかしたらいちばん汚い生き方かもしれないって思って、思ったらもう、無理かも!って。だから退学したの」

これは、伊智花の友達で医学部に通うトーミの台詞です。震災を経験したから、こういう生き方が美談に祭り上げられて、彼女たちに重くのしかかってゆく。

震災直後から、メディアは多くの物語を垂れ流し続けてきました。震災の当事者であってもそうでなくても、何かをしなければという思いにとらわれていき、がんじがらめになってゆく若者たちの青春群像が時に痛ましく、時に切なく描かれていきます。

東京の大企業の就職した釜石出身の青年、松田は、会社を辞めて故郷に帰る決心を上司に伝えた時、こんな言葉を投げつけられます。

「震災でちやほやされてたか知らないけど、折角震災採用なのに辞めたら後悔するぞ。」

この時、彼は震災体験者=かわいそう=助けてあげよう=それが企業の社会貢献、という図式に気づきます。

伊智花自身、震災とどう向き合うのかわからないまま生きてきました。しかし、それぞれに思いを抱えた仲間と出会うことで、自分が納得する生き方を見つけていきます。

「いまはちゃんと人生がマイボールになっているから大丈夫。やれることをやれるようにやるしかない。『今やること』がないなら作るしかない。自分がいちばん納得するようにやるんだよ」と、医学部をさっさと辞めて海外に渡り、再び福島で働くトーミは言います。

曇り空の隙間から青空が見え出してきた時に感じるような気分を、味わうことができました。

 

⭐️北海道のネイチャーガイド安藤誠さんのトークショーを今年も開催します。

10月24日(日)19時スタート(2000円)要予約

 

 

 

「震災で消えた小さな命展」では、東日本大震災で犠牲になった動物達の絵(複製)を展示しています。

かけがえのない命を失くした飼主に、天国へ旅立った動物たちの話を聞き取り、100名近くのイラストレーター、絵本作家が協力して、動物たちの絵を描きました。今も次々と描かれた原画の展示は各地を回っているのですが、最終的に飼主さんの元へ贈られます。それで、その後原画の中からいくつか複製画が作られ、各地のボランティアの働きで巡回しているのです。

京都での巡回ボランティアをしていらっしゃる松永さんは、2013年「ひとまち交流館」で開催された原画展を観に行って、お手伝いされるようになったとのこと。今回、松永さんとのご縁で、本日より5日間だけですが(今週日曜まで)レティシア書房で開催出来る事になりました。

主宰者の絵本作家うささんは、震災後、東北へボランティアに行き、そこで多くの人の命とともに、想像を絶する数の動物が命を落としたことを知ります。飼主さんたちの心の傷は癒えることがありません。何故、彼らは命を落とすことになったのか、動物の命は尊重されているのか。「見過ごされる命、声なき声を、展覧会を通して伝えたいと思います。」という主宰者の声を聞いて頂ければと思います。そして、震災から6年経った今も、動物の命の救われ方が変わっていないことを、この展示を機会に知って頂ければと思います。うささんが描かれた「ぼくは海になった」という絵本は、流されて亡くなったお母さんと犬のチョビのお話ですが、犬を飼っている身には涙なくしては読めませんでした。(絵本「ぼくは海になった」展示中販売しております。1400円)

池田あきこはじめ、絵本作家・イラストレーターの方々が、震災で亡くなった犬、ネコ、鳥、牛などの在りし日の姿を描き、絵には、それぞれのエピソードも書かれています。中には、飼主からの手紙も展示してあります。

「避難所ではペット受け入れ不可だからと、避難できるのに避難せず、自宅に残った人、ペットを連れて避難所に向かったが、一緒に入室を断られたために、自宅に戻った人・・・・その人たちは、ペットと共に亡くなっています。姿かたちが違ってもその命を思う人にとっては、大切な家族です。ペットの命を助けることは、人の命を助けることにつながるのです。」

ペットだけでなく、畜産業者の牛の話もあります。生き残った牛が、子牛を産みますが、警戒区内で交通事故に遭い、亡くなってしまうという辛い体験談です。

「避難時に一緒に連れてくるものは、その人にとっては大切な存在であり、共に助かりたいから連れてくるのです。初めから救える命、救えない命と、命の線引きから決めるのではなく、命は全て救うもの、そこから考えていただきたいと切に願います。」

ペットを飼っている方も、そうでない方も、ぜひご覧ください。(女房)

◉7月9日(日)まで開催です。(会期中無休。最終日18時まで)

うささんの絵本・ポストカード・クリアファイルなど販売しております。

●展示した直後、京都新聞の取材を受けました。(写真左)

これ、石川梵の著書「フリスビー犬、被災地をゆく」(飛鳥新社950円)の最初の文章です。

石川さんは、辺境の民を見つめた作品で知られているフォトジャーナリストで、当店でも「鯨人」(集英社新書400円)、「時の海、人の大地」(売切中・近日再入荷)等が人気です。彼が、愛犬十兵衛を連れて東日本大震災の被災地を回った記録が「フリスビー犬、被災地をゆく」。なんで、犬を連れて?と思いの方もおありでしょう。最初から、彼も連れていったワケではありません。

震災直後から現地に入り、実情をカメラに収めてきました。(その時の記録写真「THE DAY AFTER」も近日入荷します。)取材から帰宅して、久々に、十兵衛と三度の飯より好きなフリスピーで遊んでいるうちに、ふと思います。

「苦難の日々が続く被災地。ひょっとしたら、犬にしかできないことが、あるかもしれない」と。

そして東北へ再取材に旅立つ朝、十兵衛を連れていきます。投げられたフリスビーをジャンプして取る犬に、被災地の子どもたちは大喜び。震災以後、ふさぎ込んでいた老人が、ふと投げたフリスビーを、楽しそうに取る十兵衛を見て、笑います。セラピードッグの誕生です。

各地で愛嬌を振りまき、みんなに笑顔を与える十兵衛。でも、この本はそんな心洗われる写真ばかりではありません。横転した機関車の前に佇む十兵衛のぞっとするような写真や、廃墟と化した海岸線を歩く十兵衛を捉えた痛々しいものも収録されています。どん底に落ちた人々に、犬一匹できることはたかがしれています。しかし、無垢な十兵衛の与える喜びは計り知れないものがあるのかもしれません。

素敵な写真があります。気仙沼港で、朝もやの中、湾を見つめる凛とした十兵衛を捉えた作品です。できることをやる、という石川さんの決意を十兵衛が表現しているかのようです。

後半、映画監督の山田洋次さんが登場します。瓦礫にたなびく黄色いハンカチ。そして十兵衛。この辺りに登場する写真は、文章がなくても力を発揮して、見るものに迫ってきます。「時の海、人の大地」で、文明からはるか離れた大地や、大海原で生きる人びとの力強い表情を捉えた石川さんの真骨頂を見る思いです。